ひのめ奮闘記(その31(A))
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 7/10)
ブウウウン・・・・キッ・・・
黒塗りの高級車が『三世院総合病院』の入り口前に止まったのは2014年4月16日・・・
夜の帳が下りた午後8時のことだった。
ガチャ・・・
運転手だと思われる男が後部座席のおそらく取っ手と思われる位置にあるボタンを押すと、
そのドアがゆっくりとスライドしながら開いていく。
スタッ
ゆっくりとアスファルトを踏む細い足、気品感じられるブレザーの制服、強い眼光を放つツリ目、
そして・・・夜風になびく・・・縦ロールのかかった金髪をかき上げあげたのは・・・次期三世院家当主三世院京華だった。
このとき中学三年生、14歳となった京華は4、5人の従者を連れながら無表情のまま入り口の自動ドアをくぐった。
■
最上階にある特別治療室・・・その入り口はいかにも剛健な黒スーツに身を包んだ男が二人。
おそらくボディーガードだろう・・・なぜならこの治療室にいるのは三世院家において超VIPの人物なのだから。
「あ、京華」
その声に京華は歩みを止めると後ろにいた従者達も軍隊のようにピタリとその場に立ち尽くした。
京華はゆっくりと声をかけた人物、こちらも同じブレザーを着こなした橘かすみのほうに首を動かす。
「あら・・・もう来てたの、かすみ」
「まね、でも京華を差し置いて先に入るわけにもいかなから・・・
こうして待合ロビーで寂しくコーヒーすすってるのよ」
かすみがやれやれと言った表情で手を振る仕草を見せると京華は少しだけクスリと笑い、
2、3言従者に話しかけ人払いをし物腰静かにかすみの横に腰をかけた。
「飲む?」
「結構よ」
京華は差し出された飲みかけの缶コーヒーを断るとスっと立ち上がり自動販売機にキャッシュカードを入れ、
スポーツ飲料のボタンを押した。カシュッという音をたてフタを開けると余程喉が渇いてたのだろう、
缶を傾けグっと一気に飲み干した。
「もしかして緊張してんの?」
「・・・・・・・別に」
缶をカランとゴミ箱に投げ入れると再びかすみの隣に座る京華。
二人の間にしばし沈黙が訪れる・・・・・・・、その沈黙を破ったのはかすみだった。
「7年ぶり・・・・になるのかな?京華と京介様と会うのは」
「京介・・・『様』・・・・ねぇ」
「これでも仕える身分だからね・・・一応」
かすみの皮肉めいた言葉に京華はクスクスと笑う。
こんな自然の笑みを京華が見せるのはもはや和江とかすみくらいしかいない・・・
「7年・・・寝たきりで目覚めたから呼び出し・・・相変わらず変わらないものですわね・・・あの人も」
「京華・・・」
「今さら介護でもしてもらいたのかしら」
「・・・・・・・」
かすみは京華の皮肉に笑うことが出来なかった。
そう、このフロアの特別治療室にいるのはかつて日本史上最強と謳われ財界のTOPにも立ち、
政界にすら大きな影響を持った男・・・・三世院京介が眠っている・・いや、眠っていたというべきか。
7年前のあの事件のとき後頭部を強打した京介は外傷は完治したもののその後昏々と眠り続けた。
すぐにこの病院に入院となったがどんな治療も効果がなくそのまま7年間一度も目を覚ますことはなかったのだ。
それが意識が戻ったということで駆けつけた京華、かすみは付き添いのようなものだが。
「・・・・・・・7年間・・・一度も見舞いに来なかったのは・・・なぜだか分かるかしら」
「・・・・・・・・・・・京介様が嫌い・・・・だから?」
「それも当たりかもしれないわね・・・・・
・・・・もし寝たきりのところを見たら・・・・・・・・・、人工呼吸器を外しそうですわ」
その言葉にかすみは息が詰まった。
けして冗談ではないことが京華の目の色で分かったから・・・。
でも・・・本当の・・・本当の理由もかすみには分かっていた・・・それは
「京介様を見ると・・・フラウおば・・」
「さぁ、そろそろ行きますわよ!」
自分で聞いておきながら京華はかすみの回答を遮るように立ち上がった。
しかし、かすみは何も言わずに京華に続き立ち上がるとその背に心で呟いた。
(本当は・・・・・・フラウおばさんの死を思い出しちゃうから・・・だよね)
かすみの小さな囁き・・・・それは誰にも聞こえることはなかった。
■
京華は治療室の入り口の『開』スイッチまであと1cmというところで指を止める。
この扉のむこうに祖父がいる・・・そう思うだけで心臓の鼓動が早くなった。
あの事件から7年間・・・京華は修行を欠かすことなどなかった、
むしろ今まで以上に自分の身体を精神を虐め、霊力、体力、精神力を養ってきた・・・それも全て。
(・・・・おじい様を倒すため・・・)
そう・・・全ては祖父・三世院京介を倒すため。
いや、そこまで行かなくてももう言いなりにはならないための7年間だった。
企業の三世院グループも最早京華の手の内にある・・・成長する中で自分に金と権力があることを既に理解している。
もう全てにおいて祖父に負けるものなどない!・・・決心を固めると『ポチ』と『開』ボタンを押した。
プシュー
小さな空気音と共に白く薄い扉が右へスライドする。
京華はゆっくりと足を上げ治療室へ入ると小さく深呼吸をしながら視線を動かした。
7年振りに会う祖父へ・・・
「!!!!?」
その姿を見た瞬間、京華の瞳が大きく見開いた。
「これが・・・・おじい・・・様?」
震える声でかすみに声をかける京華。
そんな友人にかすみは静かに頷くことしかできない。
ベッドに寝かされる三世院京介・・・細い腕、痩せこけた頬、虚ろな瞳、ガリガリの身体にボサボサした頭髪・・・
あまりにも自分の中にあるイメージとかけ離れたその姿に京華は二の言葉が続かなかった。
「・・・・きょ・・・う・・・か」
「!?」
力のない言葉と共に差し出せる京介の右手・・・
京華はその手を戸惑いながら握ってみた・・・・・小さく、細い・・・
とても7年前自分を投げ飛ばした同一人物のものとは思えなかった。
「きょうか・・・・」
今度は先程よりかははっきりした声で孫の名を呼ぶ京介。
その孫の思いは・・・
(さあ言いなさい、7年前と同じことを!否定してあげる!踏みにじってあげる!拒否してあげる!!
あなたに絶望を与えてあげるわ!!)
京華は忌々しいと思いながらも頬をニヤっと歪ませた。
自分の思い通りにいかないと知ったときのこの老人の表情を思い浮かべると思うと自然と笑みがこぼれるからだ。
しかし・・・・・・・・
「すまんかったのぉ・・・・」
「!!!!!?」
その口から出た言葉は京華を一瞬にして混乱に陥れた。
予想もしなかった謝罪の言葉・・・なぜ?どうして?why?そんな言葉ばかりが京華の心に浮かぶ・・・
「ワシは・・・この7ねんかん・・・自分を見つめなおしとったよ・・・・・
思えば・・・・お前にはずいぶん・・・・・・苦労をかけさせたのぉ・・・・」
「・・・・・・・・」
「あの頃のワシは・・・・・・・・・・どうか・・・・・しとっ・・・」
パシィッ!
京介の右手が乾いた音と共に弾かれた。
弾いたのは・・・肩で息をしている京華・・・、その光景に従者、医者、かすみは目を丸くする。
「し・・・・失礼しますわ!」
京華はそのまま逃げるように治療室を飛び出すと、
「あ!ちょっ・・・・・すいません、私も失礼します!」
かすみがその後を追った。
二人が去った後の病室・・・・その治療室の主がそっと涙を流したのを京華は知ることはなかった。
その31(B)へ続く
今までの
コメント:
- てめえくぉらっ!!あのクソジジイを最後にいい人っぽくするなんて、ボクは許しませんよっ!?反対だっ!!(轟爆) (紫)
- ↑私も一瞬そう思ったのですが、すぐに『藍青』ネタだと気がついたので、不問にすることにしました(笑) (湖畔のスナフキン)
- ちなみに『藍青』だとジイサンがボケ老人のままです。先の話でどう転回するかわかりませんが。こっちの話でも、そのままでよかったんですけどねー。 (湖畔のスナフキン)
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