ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−52b


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/ 8)





ベスパが扉をくぐると、その扉は消滅して後には何も残らなかった。
一瞬、何のために手を組むことになったのかと、疑問がよぎりはしたが、少なくともパピリオはベスパが抑えてくれる。
そう決め込んで、令子は扉に書かれた定員をじっくりと眺める。

2名、2名、2名、2名。

「さて、どういうコンビにする?」

仲間を見渡す。カオスとマリアのコンビは決定だろう。
そう考えていると、雪之丞とタイガーが互いに頷いてコンビ結成を決める。

「拙者は、美神殿とお願いするでござるよ。」

能力の相性とか、戦力のバランスとか、色々と思い浮かびは消え、消えては浮かぶ。
最後には面倒になって思考放棄。
美神は黙って、シロに頷く。

「となると――――余り者同士で組むしかないか。」

西条が苦笑いしながらピートに目を向ける。
ピートは特に異論も無いかのように、無言を貫く。

「やれやれ………。」

西条が肩を竦める。

『君は何もしなかった。唐巣神父の手助けも、横島君を救うための努力も。そして唐巣神父は横島君の暴走を食い止めるために戦場に赴き、死んだ。その間、君は何をしていたんだい?何もしなかったことも又、罪だとは思わないかい?』

そう告げて、ピートを弾劾したのは西条である。
その師の訃報と、その責任の追求。
極論すれば、西条のソレは言いがかりである。
しかし、ピートの心はソレを是とした。

それ以来、ピートの口数はめっきりと減り、今のような状態になってしまった。
そのことに関して、責任を感じないわけではない。
が、決して的外れなことを言ったつもりもない。
だからこそ、ピートは衝撃を受けたのだ。

『もし………もし、この戦いに生き残ることが出来たなら。僕は全てを償おう。』

己の罪を知りつつ、それを受け入れる。
逃れることは可能かも知れない。しかし、それではあの腐ったGS協会と変わりないではないか。
今、人界では六道女史を筆頭に、GS協会の浄化が始まっている。
無論、自分もその急先鋒として直前まで動いてた。
だからこそ、彼らと同じ真似は出来ない。

それが西条の矜持であった。




そして次々と扉をくぐる一行。



扉の先に待ち受けるモノは………?









既に夜の帳は落ち、魔界特有の漆黒の闇夜が広がっている。
横島の城にある中庭。
一年中、花咲き乱れるその場所で姉妹は向き合っていた。

互いに譲れぬモノがある故に。


「パピリオ、引け。お前とアタシじゃ勝負は見えている。」

べスパが何とか戦闘を避けようと呼びかける。

「弱っているルシオラちゃんと勝負をした人とは思えない台詞でちゅ。」

「………………………。」

べスパとしては反論の余地はない。
アシュタロスのために、姉をその手にかけたのは自分なのだ。
ルシオラは横島に霊基構造を与えたために死んだ。
しかし、ルシオラの死因を横島に求めたりはしていない。
ルシオラと横島をそこまで追い込んだのは自分なのだ。
ルシオラを殺したのは自分。
彼女からその思いが生涯抜けることは無かった。

「私は、ポチもルシオラちゃんもべスパちゃんも大好きでちゅ。」

パピリオは続ける。

「最初は『ペットなんかと』って思いまちたけど、ポチは良い奴でちゅ。だから2人で幸せになって欲しかったでちゅよ。」

2人の意識はかつての逆天号時代に遡った。


馬鹿な上司のドグラ。

子供のようにはしゃぐパピリオ。

次女のくせに姐さん気取りのべスパ。

ちょっと口煩いけど優しい姉のルシオラ。

そして間抜けだけど憎めないポチ。


1年にも満たないほんの短い期間。
それでもあの頃は楽しかった。
自分達に出来ないことは無い。
そんな気さえしていた。

それを破ったのは横島とルシオラ。
好きな男と思い遂げたい。
当時、1年という寿命があった2人には共感する部分もあったのだ。



そしてべスパとルシオラの対決。

ルシオラの死。

横島の選択。

アシュ様の死。


彼女達が無邪気でいられた季節が過ぎるのは早かった。



そこでべスパが切り出す。

「確かにヨコシマの気持ちも分かる。ヨコシマに味方するお前の気持ちもな。アタシだって最初は協力したくらいだからね。」

自嘲するような表情に変わるべスパ。

「だけど………だけどこんなことしたってルシオラは戻ってこない!アシュ様が戻ってこないように!」

しかし、それを聞いてもパピリオの表情は変わらない。

「それがどうしたんでちゅか?」

「無意味なことをするなって言ってるんだよ!」

「ポチや小竜姫が言ってまちた。悪いことをしたら怒られるって。」

「そうだ!だからこんなことやっちゃいけないんだ!」

「べスパちゃんは怒られまちたか?ルシオラちゃんを殺して。」

「なっ!」

「そうでちゅよね。怒られてないでちゅよね。怒る人がいないんだから。」

「それは………。」

「ポチが言ってまちた。悪いことをした人間がいるのに怒る奴がいない。だから自分が怒るんだって。」

――――これがパピリオから………妹から離れていた結果か?

ルシオラを殺したという意識が抜けなかったべスパはパピリオに顔を合わせられず、アシュタロスの乱後は魔族軍に編入していた。
ルシオラもアシュ様もいない状況で、パピリオを導く役目は自分だったのに………。
それから逃げてしまったツケがこれなのか?
べスパの全身から力が抜ける。

「分かってるんでちゅよ………。ポチの言ってることが矛盾してるってことは。」

その台詞に希望を見出すべスパ。

「でも納得出来ないでちゅ!アシュ様は魂の牢獄から抜け出せた!べスパちゃんは生きてる!私も生きてる!でもルシオラちゃんはいない!ポチも心に傷を負ってる!どうしてあの2人だけが辛い目に遭うんでちゅか?!ルシオラちゃんは転生の可能性さえ閉ざされちゃったんでちゅよ?!人間のせいで!」

泣きながら叫ぶパピリオ。

その言葉はシンプルで、気持ちもストレートに伝わってくる。
横島が挙兵した当初、べスパも同じ気持ちで参戦したのだ。
痛いほどパピリオの気持ちが分かる。

――――でもそれは子供の理屈だ。大人の理屈じゃない。
 
「私………ルシオラちゃんに会いたいでちゅ。」

その気持ちも分かる。
分かってしまうために言葉が出せない。

――――どう説明すれば良い?どう言えば納得してくれる?

そんなジレンマに囚われたべスパに、パピリオは暗い視線を向ける。

「べスパちゃん。これは警告でちゅ。この城から消えてくだちゃい。」

そう言いながら辺りの花々が一斉に揺らめく。
揺らめいた後には空一面の蝶の群れ。

「………出来ない。」

対してべスパは蜂を使えない。
横島の元を去った時点でこの城の全ての蜂が殺されてしまった。
この城に自分の眷属はいない。

「べスパちゃん………。ルシオラちゃんがいない今、べスパちゃんはたった一人の肉親でちゅ。横島だって捕えるだけでもきっと許してくれまちゅ。」

その台詞にパピリオの本気を感じ取るべスパ。

――――結局こうなるのか………。アタシが不器用なばっかりにルシオラを失い、今、パピリオと戦わなきゃいけない。

自分に絶望しつつもべスパは魔力を膨れ上がらせる。

「分かりまちた。残念でちゅよ。でも横島の邪魔はさせない!」



こうして悲しい姉妹対決が始まった。






べスパはパピリオに余計な警戒心を抱かせないようにと、一切武器を持ってきていない。
使えるのはその身一つ。
対してパピリオは眷属である妖蝶が使える上に、きっと横島が文珠を与えているはずだ。

――――下手に動けない。しかし、後手に回れば確実にやられる!

そう判断したべスパは空中戦を選んだ。
超加速を使わずに上昇を始めるべスパ。
すぐさまパピリオが妖蝶を伴いつつ、後を追って空中に飛び上がる。
べスパの行く手を塞ぐように展開する妖蝶の群れ。
すぐ後ろにはパピリオが迫る。
空は既に夜の帳が下りている。
蝶の群れを突っ切って、べスパは一直線に上昇する。
かなり上昇したところで急停止するべスパ。

――――ここだ!一気に決める!

「技を借りるよ!ルシオラ!」

そう叫び、ほんの一瞬だけ圧倒的な光量を放つべスパ。
べスパを追って来た妖蝶とパピリオは一瞬、目が眩む。
夜の薄暗がりに慣れた瞳には強烈な効果があった。
そしてその瞬間を狙って超加速に入り、パピリオの懐に潜り込むべスパ。
パピリオの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
既に魔力を凝縮した手刀は準備済み。

――――手加減して眠らせる!!!

それを振り落とそうとした瞬間、パピリオが小声だが、はっきりとべスパに聞こえるように言った。

「ルシオラちゃんと同じように殺すんでちゅか?」

それを聞いてべスパの手刀が止まる。
一瞬の狼狽の後、目にしたのはパピリオが文珠を発動させる姿だった。

「すまん………ルシオラ………。」







「べスパちゃん………ごめんでちゅ。」

魔神お手製の文珠にはべスパとて逆らえるわけもなく、パピリオはべスパを自室へ運ぶことにした。
発動させた文珠は『凍』と『眠』。
かつて、横島を捕え続けた忌まわしいキーワード。

しかし、パピリオが自室の扉をくぐった途端、予想もしなかった事態が起きる。

ユーチャリスの各所に、横島の文珠が仕込まれているのは知っていた。
そしてそれは、自分の部屋も例外ではないことも知っていた。
パピリオの目に映ったのは、文珠の発動する光。
その光は寸分違わず、パピリオとベスパを貫いた。



薄れゆく意識の中でパピリオは呟く。

『そこまでやりまちゅか………。分かりまちた。やるなら絶対に成功させるんでちゅよ?………ポチ………。』









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