ザ・グレート・展開予測ショー

魔人−52a


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/ 8)




「やはり裏切るか………。」



ワルキューレとしてはやはりという気持ちが強いが、小竜姫の性格を考えれば、よく今まで我慢したもんだとさえ思っている。

「………貴女にはお見通しだったようですね。それとなく監視していたのは気付いていました。」

逆に小竜姫の表情は冴えない。
色々な戦場を共に渡り歩いた仲なのだ。ワルキューレは。
そしてそれ以上に感情を曇らせるのは、自分が横島に造反しようとしていることだ。
ある意味、最初からそのつもりだった。
横島を変えてしまったあの事件。
ルシオラを永遠に失い、魔族化させられた彼は何をやらかすか分からない。
その監視役と指導役を勤めようとした彼女にとって、結局何一つ出来なかった。
彼女にとっては痛恨の極み。

「貴女には………か………。大きな勘違いをしているな。お前の裏切りを私に示唆したのは横島だ。」

「なっ?!」

「しかもかなり初期の段階でだ。」

その言葉を信じるなら、自分は全く横島の信頼を受けていなかったことになる。

――――そこまで横島さんは変わってしまったのか………。

それを把握出来ていなかった自分が彼を元に戻せるはずもなかった。
そのことに思い至ると、小竜姫はガラリと表情を変えた。
全身から神気が迸る。
それに呼応してワルキューレもまた、己が魔力を一気に充実させ始めた。
空間の広さは20m×20m。2人の距離は10mほど。
近距離戦闘の小竜姫に、中・遠距離のワルキューレ。
小竜姫は間合いを図る。
ワルキューレは今の間合いを保とうとする。中距離ならば小竜姫は決め手に欠ける。
そしてここは横島の城。
人界環境になっていようとも、各所に埋め込まれた文珠がその眷属に力を与える、言わばワルキューレのホームだ。
例え近距離戦闘になっても、そうそう小竜姫に遅れは取らないだろう。

「………どうした?横島を止めるのだろう?私を倒さねば美神達の加勢には行けないぞ?」

「言われずともそのつもり。神界・人界・魔界。3つの世界の平和のためにも押し通ります!!」

言うや否や、小竜姫が一気に間合いを詰める。
振るうは無銘ながらも抜群の威力を誇る神刀。
ワルキューレは冷静に魔銃で迎撃する。
その的確な射撃に間合いを詰めきれず、元の立ち位置に押し戻されてしまう。

「………何故超加速を使わない?私を舐めてるのか?」

ワルキューレに嘲りの表情が浮かぶ。
超加速を使わない、使えない理由は分かっている。

「…………………。」

一方、小竜姫は何パターンもの攻撃方法を計算する。

「分が悪いな小竜姫。極論すれば私はお前一人を倒せば良い。しかし、お前は横島の元まで駆け抜けねばならない。」

小竜姫としては最小限の損失で最大限の効果を挙げ、倒せるようなら倒してしまうし、それが無理でも、たった一撃で良いから、美神達のために横島を弱らせておかねばならない。
しかし、彼女の明晰な頭脳は判断する。

――――お互いに手の内を知り尽くしている。ならば全力を出す以外に勝つ道は無し!

「良いでしょう。時間もなければ手の打ち様もないこの状況。ならば!」

そう言って、一気に超加速に入る。
見ればワルキューレもまた、超加速に入っている。

――――ああ、やはりワルキューレも使えるのか。

そんなことを考えながらも、ほんの一瞬、小竜姫の方が超加速に入るのが早かった。
そしてその一瞬があれば、小竜姫が己の間合いに持ち込むのは容易なことだった。
神刀を振るう小竜姫。
対してワルキューレもまた、横島から授けられた剣を抜き、何とか振るう。

ギンッ!

ガギンッ!

ギンッ!!!!!!

何合目かで2人は鍔迫り合いになだれ込む。

「フンッ!迷いを持つ戦士など戦場には不要!」

ワルキューレが断じると同時に、その手に握られた剣が一気に発光する。
『剣』と刻印された珠に戻り、すぐさま『爆』という刻印が浮かぶ。

「まさか?!」

小竜姫が剣の正体に気付いた時には、圧倒的な魔力塊が彼女の全身を打ちのめす。






カラーンッ!






その場に残ったのは、根元から折れた神刀の切っ先だった。




「ゲホゲホッ………。」

吹き飛んで床に倒れ伏す小竜姫。全身ズタボロで、明らかに重傷。
そして、新たに剣を作り出して近づくワルキューレ。

「そう………だったんですね。まさか………陰陽文珠で作り出した剣だなんて………。」

「ああ。ここ一番の時のために横島から貰ったモノだ。常に腰に差していたのは”実体のある本物の剣”を装うためだ。」

「クッ………私に対する対策というわけですか。」

「お互い、手の内を知り尽くしているからな。」

「それは光栄………ですね。でも………負けられません!3界の平和のためにも!」

 そう言って、気力で立ち上がる小竜姫。

「………素直に言ったらどうだ?気に入っている男の暴走を許せないと。」

「貴女に………横島さんを暴走させているだけの貴女に言われたくはありません!!!」

「それは主観の相違だ。お前は………お前達は今の横島を否定したいだけだ。例え魔族になろうともその本質は変わらないというのに。」

「リリスに操られて魔族化させた貴女が、言って良い台詞じゃありません!」


沈黙が2人の間によぎる。


「私はルシオラが妬ましかった。女として、或いは軍人としてでも良い。あれくらい他人に必要とされてみたかった。」

「だから横島さんを魔族化させた?」

「ああ、確かにリリスの支配を受けたことは事実。しかし、心のどこかでリリスの支配から抜け出そうとしなかったのも事実だ。」

「それでも………私は貴女を憎めません!同じ思いを抱いた仲間だから!」

「………そうか。ならばそのまま死んでくれ。横島にお前を殺させるのは忍びない。」

そう言いながら、ワルキューレは剣を小竜姫に振りかざす。

「そういえば、貴女にも言ってませんでしたね。私の神刀の原材料を!!!」

そう言った瞬間、小竜姫の瞳が赤く光る。




ズシャッ!!!×2



ワルキューレの剣が小竜姫の左肩から一気に心臓を切り裂いた。
と同時に、”折れた神刀”の切っ先がワルキューレの心臓を正確に後ろから貫いていた。


 ケホッ


血を吐きながら小竜姫は微笑む。

「その剣は、私が竜神化した際の牙から作り出したものなんです。」

同じく血を吐きながらもワルキューレが応える。

「油断したか………。迷いがあったのは私も同じ………か。」














同時に倒れた二人。
しばらくして、部屋の四方に仕込まれた文珠が輝きだし、小竜姫とワルキューレの身体を光で包み始める。






そしてふたりの身体から“何か”が抜けた。








ユーチャリスの城門をくぐり。
エントランスを抜けて大広間に面する通路を歩く。
令子達は辺りを警戒しつつ、ただひたすらに前へ進んでいた。


「それにしても………随分、小奇麗な城ですのー?」

タイガーが沈黙に耐え切れなくなったかのように、呟く。
無論、誰かの反応を期待してのことなのだが、普段は底抜けに明るいシロですら、緊張して反応していない。

「…………………………」

そもそも、こういう場合の解説役は、詳しいベスパなのだが、先ほどのパピリオとのやり取りが彼女を一層無口にさせているようだ。
令子の視線にも気付かずに、黙々と歩を進めている。

「…………ベスパ。」

令子が立ち止まる。
自分の名前が呼ばれたことにも気付かず、ベスパは暫く歩く。

「ベスパ!!!!」

「ん?ああ、何だ?」

やっと気付いて立ち止まったベスパに向かって、令子は問い質す。

「さっきのお誘いは受けるつもり?」

「………………。」

一同の視線がベスパに集まる。

「アンタ、パピリオと戦えるの?」

「戦う前に説得する!戦う以外の方法だってあるはずだ。………あるはずなんだ。」

「………タワーの前で、ルシオラと戦った時のアンタはそう思ったかしら?ルシオラだって、似たようなことを考えてたわよ?」

「…………!!!!!!」

絶句するベスパ。
悪夢から覚めたら、現実の方が残酷だった。
そんなことを、今更ながらに認識する。

「………ま、私も他人のことは言えないんだけどさ。」

令子が魔界へ赴くことを決めるまでに、考え抜いた結論。

『横島に翻意を促すことは不可能。』

事態がそれをかなり前から指し示していた。
だけれど、自分の願望が、感情がそれを拒否していた。
だが、それも限界だった。
リアリストとしての自分が、事態の打開策を導き出してくれない。
そして令子は、“諦めた”。

ベスパを詰問するのは、彼女の姿に自己投影しているせいかも知れない。
大切な存在と戦わなければならない自分と彼女。
似ていると思う。
似ているからこそ、彼女には頑張ってパピリオを取り戻して欲しい気持ちがある。
そして同時に、自分と同じように絶望して欲しいという暗い願望がある。

「…………………チッ!」

自分のそんな心の動きに、忌々しさを感じ、令子は再び歩き始める。
それにつられて、黙ったまま歩き始める一同。
ベスパの足取りは重く、歩みは遅い。

だが、それでも歩けば目的地へは近づく。

令子たちが目にした大広間は、ベスパが知る大広間とは大きく違っていた。

「パピリオが言ってたのは、こういうことだったのね………。」

令子が納得するように呟く。
目の前には、扉が五つ。
扉の表面には、『〜名迄』と書かれており、パピリオが言った一番右端の扉には、『ベスパちゃん専用』と書かれている。

「戦力の分散は愚策だが………。相手も分散していてくれると言うことか。」

西条がそう呟く合間にも、ベスパはふらふらとパピリオの下へと繋がる扉の前へ歩いて行く。
『罠かも知れない。危険だ。』とは、誰も言わない。
姉妹の問題は、姉妹で解決するべきだ。
そこに口を出すことほど、差し出がましいこともない。








52bに続きます。

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