ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『ヒト』(中編)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 7/ 8)

そのヒトたちが、ゼンブ教えてくれたんだ。


怒りも、悲しみも、切なさも、そして喜びも。













カオスは、そんなマリアの言葉に少し目を見張り、そして目じりを下げる。
マリアがそんな風な事を言ったのは、初めてだったのだ。
緩みそうになる口元を、無理やり引き締める。
そして
「しかたないのぉ」

と、さも面倒だとでもいいたげな口調なのにその声音は優しい。


その日から、二人と一体の生活が始まった。

古びた─村のハズレにある廃屋を改築しつくった住まい。
どうやら時の領主の屋敷であったらしいが、五十年程前に変死し、ついでその後に移ったものたちも次々に一人残らず、尋常とは言い難い死に方をしたために、地元では『化け物屋敷』として畏れられている屋敷である。
どこにでも有りがちなものである。
事実そこには、少しばかりたちの悪い悪霊がいたが。
(言うまでも無くこれはカオスが退治している)

そのためか、村のハズレと言う事を抜きにしても、誰も寄り付かない場所であることは否めなくそれまでの彼らの生活は穏やかといえるものであった。
が、その日からは違った。
BGMは穏やかな小鳥の囀る声ではなく、あかんぼうの鳴き声。
ぺらぺらと育児書のページをめくる音。
マリアの困惑しきった声。


おぎゃあああああああああああっ


「ドクターカオス・あかんぼうが・泣き止みません」

高い高いをしつつマリア。
「前回までの・データ―・だと・たかいたかい・をすれば・95パーセント・以上の・確立で・泣き止んで・ました」

隣で、ぐるぐると、乳白色の試験管の中身を回しながらカオスが顔を上げる。
「なにっ・どこぞ悪いのかっ」

「ノー・体温・脈拍・ともに・正常・異常は・みられません」
こつんと、あかんぼうの額に自分の額を合わせマリア。

「では…眠いのじゃないのか……確かあかんぼうと言う人種は、眠くなると、機嫌がわるくなるらしいからのお」
つい最近仕入れた知識を、引っ張り出し言う。

「眠い・ですか?」

「では、子守唄を・うたわ・ないと・おかあさんは・あかんぼうに・子守唄・歌う」
こちらもどこぞから仕入れた情報をマリア。

が、しかしっ

「〜♪」
この時点で、音楽について学習のないマリアの唄がどんなんだったか考えるまでも無いだろう。
思わず耳をふさぎたくなる音程で子守唄をうたわれた日には、あかんぼうが激しく泣く事間違いない。

おぎゃああああああああああああっ


そんなこんなで数時間後。
やっとのことで、泣き止んで眠ったあかんぼうである。
マリアとカオスが飽きる事無くその様子をみている。
小さななベッドですやすやと邪気の無い寝顔を見ると、ひどく優しい気持ちになれるのだ。

「のおマリア」

「イエス・ドクターカオス」

「おぬし、この赤ん坊に名前をつけてくれんか…」
その言葉に何が含まれているかわからないが、その声音はどこか陰を帯びている。

「マリアの・名前・ミスターカオス・つけてくれた・この・赤ん坊も・つけないの・ですか?」

「ああ、ワシはもうオマエだけでいい」

「………」

「オマエの名前は、とある宗教の神の子をうんだ母親と同じ名前だ…知ってるか?」

「イエス・ドクターカオス」

「ならば、ワシのような、混沌と名づけられたものより、聖母マリアと同じ名前をもったおぬしに、この命の名前をつけてほしいのじゃ」
そしてもういない、聖母マリアと同じ名前をもったけれど、母となれなかったひとと同じ名前のものに。

「そのほうが、しあわせじゃろうて」


「イエス・ドクターカオス・マリア・名前・決めます」


「この子・の・名前は─」

つづく


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