ザ・グレート・展開予測ショー

美神の秘密 ver.Kita.Q


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 7/ 8)

 横島は首をぐりぐりとひねった。最近、クセになりつつある。
 絶え間なく続く緊張のため、肩が凝るのだ。

 令子の様子がおかしい。口数が減り、何か考え込むことが多くなった。そして、ときおり横島にもの言いたげな視線を向ける。「どーかしたんスか?」と問いかけても、「フン!」と鼻を鳴らすだけで、それ以上しつこく話しかけるとエライ目にあいそうだし、横島も気分が悪くなる。

 
 ここ二ヶ月の間、ずっとこんな調子だった。おキヌやシロ、タマモも理由が分からないらしく、みんな対処法がつかめないらしい。


 そんななか、仕事が入った。廃ビルに出没する不成仏霊を払ってほしいということで、さっそく事務所メンバー全員で現場に出向いた。なぜか、西条もオブザーバーとして同行することになった。

 「なんで民間GSの仕事にテメーが参加してんだよ?」
 「ああ、定期的にGSたちの仕事ぶりをチェックするように上から通達がきてるんだ。令子ちゃんからも許可はとってあるよ」

 西条の爽やかな返事を聞いて、横島はムカムカした。どうせコイツのことだ、美神さんが苦戦するところを鮮やかに助けて、ポイント稼ごうって腹だろう。スタンドプレーに走るやつは大ッ嫌いだ!
 
 令子は不機嫌そうな顔つきで、目的地に向けて歩き続けている。
 梅雨の後期特有の激しい雨が降っていることも、彼女の機嫌を損ねている原因なのか・・・と横島は考えていた。




 廃ビルに入り、慎重に霊の姿を探す。ある一室の前に来ると、令子の持つ「見鬼クン」の反応が激しくなった。

 「ここね・・・」
 令子は横島を横目でにらむように見ながら、
 「横島クン、開けなさい」
 「・・・俺がですか?」
 「早く!」
 舌打ちしながら低い声で命令を下した令子を見て、西条はおキヌにヒソヒソ声で尋ねた。
 「令子ちゃん、機嫌が悪いみたいだけど、何かあったのかい?」
 「さあ・・・私たちにも分からないんです・・・」




 令子はつかつかと部屋に入り、横島のリュックからハンドスピーカーを取り出し、スイッチを入れると、甲高い声で叫んだ。

 「ネタは上がってるわよ!リストラされたとたん、貢ぎまくって付き合ってた彼女にフラレて、首くくったそうね!その彼女には別の彼氏がいたんだってさ!・・・おかげで私はドシャ降りのなか仕事をするハメになって大迷惑よ!さあ、とっとと出てらっしゃい!」

 ちょっと、いや、かなり強引だな・・・と居合わせた全員がヒヤヒヤした。

 お望みどおり、不成仏霊が姿を現した。令子の呼びかけのおかげで、完全に悪霊と化してしまっている。

 令子は神通鞭をふるった。最初からフルパワーでいくつもりらしい。こういうときは、ほかのメンバーは手の出しようがない。何か入れ込みすぎじゃないかなぁと横島は思ったが、その不幸な予感は的中してしまった。

 荒れ果てたビルだから、そこら中に瓦礫やコンクリ片などが散乱している。激しく動き回るうちに、令子のヒールが、そのコンクリ片に引っかかったのである。

 令子がヒールの感触に気を取られたのと、悪霊が霊波を放つのと、横島が飛び出したのは、ほとんど同時だった。横島は令子にタックルを浴びせるようにして悪霊の攻撃から令子を救ったが、その拍子に腰をひどく打ってしまった。

 「い、いてて・・・」

 横島は息を詰まらせながら、必死に目を開けた。と、目の前に紙袋が落ちている。リボンがついた、派手な色で、開いた袋の口から中身が見えた。

 「なんだこれ?財布か・・・?」

 さらに、メッセージカードが入っていた。なにげなく読んで、ぼーぜんとした。

 『横島クンへ。誕生日おめでとう。
  まーね、プレゼントって程じゃないけど、
―――普段、お仕事ご苦労さまってことでさ。
  ・・・こんなことで、調子に乗るんじゃないわよ!!!』

 横島は、傍らの令子に視線を向けた。令子は壁にぴったり背をつけ、ガタガタ震えていた・・・

 「み、み、見たの・・・?」
 「あ、いや、すみません。つい・・・」

 大きな目に涙を浮かべ、いやいやと首を振る令子を見て、横島の方が申し訳ないような気になってしまった。

 「これ、俺への誕生日プレゼント、・・・なんでしょうか?」
 「そ、そうよ!・・・見りゃ分かるでしょ!?」
 「そうですか。でも、俺の誕生日、先月なんですけど・・・」

 そう。横島の誕生日パーティーは、すでに先月に終わってしまっていた。『プレゼントなんていらねーから、みんなで派手に飲んで食って騒ごーぜ!』と雪之丞の企画で、魔鈴のレストランを貸し切り、取り行われたのである。
 
 一応、令子にも礼儀上、声をかけてみた。その返事は、

 『はぁ?アンタの誕生日ごときで、私に“あの”魔鈴の店に来やがれっての?バーカ!!』

 ・・・予想していた返事だったし、それっきり忘れてしまっていた。

 


 まさかこのヒト、俺の誕生日の、さらに一ヶ月前からプレゼントを用意して、しかも渡せず、それ以来フキゲンだったのか・・・?

 横島は首をひねった。何か都合の悪いことでもあったっけ、たまたま渡せなかったってことだろう。きっとそうだ。つーかそれ以上の理由を考えるなんて、怖くて出来ないよう!

 「美神さん。この財布、本当に俺に頂けるんですね?」
 「・・・フ、フン!欲しけりゃくれてやるわよ!」

 プイと横を向いた彼女を見て、性根のネジ曲がった女だと思いつつ、・・・横島は令子の顔をまっすぐ見つめ、

 
 
 「ありがとうございます。俺、本当にうれしいです」

 

 シンプルに、でも出来るだけ心を込めて。



 令子は横島の顔を見ると、表情を和らげた。そのなにかがほどけていくような令子の表情を見て、これで良かったんだなあ・・・と横島は思ったのだった。







 「あ!今は仕事中なのよ!?・・・って、あれ?」

 現実に戻った令子の声を、投げやりな声がさえぎった。

 「あ、いーよいーよ。僕が片しといたから」

 西条はやる気なさげに床に座り込み、タバコをふかしていた。おキヌとシロが口に指をくわえた同じ姿勢で、横島と令子をうらやましそうに見つめている。タマモだけは横を向き、せせら笑いを浮かべていた。







 それ以来、横島は令子にもらった財布を愛用している。茶色の革製で丈夫、なかなか重宝したが、中身の金額が増えてくれないのが悩みの種だ。

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