ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『ナギナタと鋼鉄の乙女!!』


投稿者名:紫
投稿日時:(03/ 7/ 6)


暗闇の中に。

彼らは潜んでいた。正確に言えば彼と『それ』なのかもしれないが。
いや、そうではない。むしろ彼と『彼女』と言った方が、正しいのかもしれない。
たとえその体が魔法超金属で出来ていようが、疑いようもなく彼女には魂が――人工のそれだとしてもだ――宿っているのだ。

まあそんなことは当人達には分かり切ったことであり、今更気にすることではないだろうが。
それよりも今は、この絶体絶命と形容されるべき状況の方が問題であろう。

息を立てず。

身じろぎすらできず。

己の心臓の音すら恐ろしい。

己らでは絶対に太刀打ちできぬほどの強敵が、すぐそばにいる。気づかずに通り過ぎるのを待つしかない。
ヨーロッパの魔王とその鋼の従者は、暗闇の中でうずくまっていた。



どれぐらい経っただろうか。気づけば、敵の気配は消えていた。どうやら立ち去ったらしい。
ふう、と安堵の吐息をもらす。命が――不死者が考える事ではないが――繋がったと。

「・・・行ったか。・・・生体反応は?」

「――イエス・スキャン・します・・・ありません。」

「よし、今のうちだ。ゆくぞ、マリア。」

「イエス・ドクター・カオス。」

暗がりに慣れた目に、光が眩しい。思わず右手で目を覆う。
そしてそれを外したとき、彼は恐怖した。





「・・・まさか逃げられると思ってるんじゃないだろうね?ええ?」

アパートの大家がナギナタを構えて待ち伏せていた。

「なっ!?・・・ま、まさかマリアのセンサーを欺いたというのか!?」

「ふぇっふぇっふぇ。長く生きてりゃそれぐらい造作もないわ!
 さあて、溜まりに溜まった家賃、きりきり払ってもらうよ!!」

驚愕するカオスに対しさらりととんでもない事を言い、妙に楽しそうに取り立てを始める。
すなわち、大上段にナギナタを振りかぶり、目にも留まらぬ速さでカオスに向かって振り下ろす。
しかしここはヨーロッパの魔王。空気を切り裂いて迫り来るナギナタをギリギリでかわす。
そして老人と思えないほどの素早さで窓に駆け寄り、叫んだ。

「マリア!!少しでもいい、くい止めてくれ!!ワシはその間に金策をする!!」

言われたマリアは大家とカオスの間に立ち、その命令を自らの能――超高性能論理演算処理装置――で計算し始める。

(――――目標の戦闘能力を過去のデータから推定――戦術プログラム『T』の介入申請を確認――メインプログラム『M』は戦術プログラム『T』の介入を許可――戦術プログラム『T』は撤退を要請――自己防衛プログラム『D』の起動を確認――マスターオーダーに矛盾――審議――――)

「インポッシブル!!ドクター・カオス、マリアは・撤退を・申請します!!」

「くっ・・・頼む、十分だけもたせてくれ!!」

そう言い残し、カオスはひらりと窓から飛び出し、自転車にまたがり走り去る。

「ドクター!?」

「・・・」

「・・・」

ひゅうー、とか。風が吹いた音がしたかもしれない。

「・・・で、どうするんだい?やる気かい?」

びくっ

「・・・ノー!!」

両手を肩の辺りに上げて、首をぷるぷると振ってみせる。

「それが賢明だね。」

大家はニヤリ、と笑ってナギナタを下げた。

「さて・・・追いかけるのはちと無理があるかね。まあいい、そのうち帰ってくるだろうからね。で、お嬢ちゃん。」

「・・・?」

「ヒマなんだろ?買い物に付き合っとくれ。」

「・・・イエス・大家さん!!」





「いや悪いね。この年になると重い物を運ぶのがつらくてね。」

「ノー・プロブレム。マリア・大家さんの・手伝いします。」

「ありがとよ。そんなこと言っても家賃は下げないがね。」

手ぶらの大家と、大量の荷物を持ったマリアが会話している。二人は『中武百貨店』に来ていた。
少し前にマネキン騒ぎがあった店である。そんな事があったにも関わらず、繁盛していた。
イメージの回復に、相当苦労したことであろう。

「さて、買う物も買ったし、帰るかね。行くよ。」

「イエス・大家さん。」

しかし不幸かな、霊障の起こりやすい場所や人というものが存在する。例として、横島などはその典型であろう。
そしてこの店もまた、(横島ほど極端ではないが)そういった所であった。

「きゃああぁ――――――っ!!」

「ぎぇへひひひぎゃはは――――っ!!」

唐突に、誰かの悲鳴と悪霊のわめき声が聞こえた。かなり近い。

(――――警告!!霊体センサーに反応!!霊力レベルC+・・・自我崩壊タイプ・・・接近中!!)

「大家さん、危ない!!」

咄嗟に大家を突き飛ばし、荷物を――壊さない程度に――放り投げる。

(対魔フィールド、前方集中展開!!)

そして腕をクロスさせ、接触に備える。しかし、

ひゅっ、ひゅぅんっ・・・どがぁんっ

「っ・・・!!」

自我崩壊タイプと見て油断した。展開した対魔フィールドを避け、回り込むようにして体当たりを喰らわせてきた。
防御機能を前方に集中していたため、もろにダメージを受けてしまう。

「・・・左膝関節動力部破損・・・修復中・・・!!」

幸い、この程度の破損ならマリアに備わっている事故修復機能の範囲内である。
しかし今は交戦中であり、こちらを敵と認識した――自我が壊れていてもその程度の能はあるらしい――悪霊が、再び突っ込んできた。

(――――戦術プログラム『T』は第一級戦闘レベル・機銃の使用を――――)

許可出来るワケがない。回りにはまだ人間がいるのだ。

(――――戦術プログラム『T』は第二級戦闘レベル・・・)

「ロケット・ア・・・!!」

打てなかった。目の前に、大家が立ちふさがったのだ。

「まったく・・・わたしゃもう、現役じゃないってのに・・・」

マリアにしか聞こえない程度の小声でつぶやくと、『どこから取り出したのか』ナギナタを構える。
そして突っ込んできた悪霊と交差するようにして

ひゅぱあんっ

と真っ二つに切り裂いた。

「ぐぎゃあああ――――っ!!」

悲鳴をあげて、消滅する。
マリアは呆然とするしかなかった。





「大丈夫かい?」

大家が声を掛けてきた。

「・・・イエス・これぐらいなら・すぐ治ります。」

「そうかい。それなら、早く起きあがって荷物をもっとくれ。・・・わたしゃもう疲れたよ。」





それからまもなく、アパートに帰ってきた。カオスはまだ帰っていない。
そろそろ夜になるからと、マリアは探しに行こうとしたが止められた。

「・・・ああ、そうそう、上手いね。」

「サンキュー・大家さん。」

・・・肩を揉まされていた。大家はご満悦である。

「もうそろそろいいよ、ありがとう。ああ、だいぶ楽になった・・・」

「イエス・大家さん。」

肩を回しながら立ち上がり、マリアに労いの言葉をかける。

「ふむ・・・さて、あのジジイは家賃をつくれたかねえ・・・」

「・・・」

その呟きに、マリアは沈黙してしまう。

「・・・心配かい?」

「イエス。」

即答する。

「そうかい・・・なら探しに行っておいで。」

「でも・・・」

「ああ、家賃なら一週間ぐらいまってあげるよ。今日は荷物持ちしてくれたし・・・助けてくれたしね。」

「イエス!!」

嬉しそうに叫んで、アパートを飛び出す。
そして夜の街を走っていった。

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