ザ・グレート・展開予測ショー

きつねの生まれた場所


投稿者名:赤蛇
投稿日時:(03/ 7/ 6)

大阪、船場。

かつては「船場商人」の名で知られた問屋街であったが、最近ではスタイリッシュなショップやカフェが増え、ファッショナブルな街に変貌しつつある。
だが、通りを歩く3人には、そんなことはどうでもいいことのようだった。

「先生〜、まだでござるか〜〜? 拙者もうお腹空いて動けないでござるよ〜〜」
「ウソをつけ、ウソを。さっきタコ焼きを買い食いしてたのはどこのどいつだ?」
「あんなモンじゃ腹の足しにもならないでござる〜〜」
シロがずっとおあずけをされている犬のような目で懇願するが、青海苔のついた犬歯がチラリと見えるようでは説得力もなにもない。
「ねぇ、あの店なんかいーんじゃない?」
タマモが左の袖をひっぱって一軒のうどん屋を指し示す。
昼どきの喧騒も過ぎてゆったりとした雰囲気が漂う店内が見え、ダシのいい匂いがほのかに香ってきた。。
はやく、はやく、とねだるタマモに横島はちょっと困ったような表情を見せ、もうすぐだから、となだめる。
「え〜〜、まだ先でござるか〜〜? もう、うどんなんてどこで食べても一緒でござるよ〜〜」
「・・・ちょっと! きつねうどんをバカにする気!?」
左右の袖にしがみつきながら、二人がいつものじゃれあいを始めていた。

実際のところはこの街ならうどんに関していえばどこでも、それこそ立ち食いのうどんでもタマモは文句を言わないはずだ。
これから行こうとしているところにしたって高級店というわけじゃない、いたって普通のうどん屋にほかならないのだし。
それでもあの店に―――小学生の頃、家族で心斎橋に買い物に来ると必ず行っていたあの店に、何故か無性に連れて行きたかったのだ。



「おまちどうさま―――」
慣れた手つきで店のおばちゃんがきつねうどんを3つ運んでくる。
注文するときもさんざん文句を言ってたくせに、シロがシッポを千切れんばかりにして一番嬉しそうにしているのは、まあ、ご愛嬌か。
「いただきまーーす」
横島もタマモもさすがに腹が減ったのか、割り箸を割るやいなやに食べ始める。

昆布と鰹節でとったダシが口に拡がる、やや濃い目だが深みのあるつゆ。
太くもなく細くもなく、ふんわりとやわらかな手打ちのうどん。
醤油を使わずに塩と砂糖だけで3日かかって丁寧に炊きあげられる、まぁるくて甘いおあげ。

「どうだ? 美味いだろ?」
横島はずるずると啜りながらタマモに聞いた。が、タマモは返事をすることなく、黙々と食べている。
どうやら、気に入ってもらえたようだ。

「ここはなー、どうしてもお前を連れてきたかったんだよ」
視線の先は相変わらず丼の中だが、耳がピクッと反応したのがわかる。
「この店はなー、日本で最初に「きつねうどん」を始めたところなんだよ。だからどう、ってわけじゃないんだけどさ。
 ガキの頃によく連れて来てもらってたからな、誰かにぜひ教えたかったんだよ」
そう言いながら、横島は最後のうどんを啜り上げ、箸を置いた。

「ごちそうさま!」
結局、食べ終わるまで一言も話さずに最後の一滴まで堪能していたタマモが、丼を静かに置きながら言った。
その顔には彼女を知る者がめったにお目にかかれない、満足げで無邪気な笑顔が浮かんでいる。





―――ごちそうさまでした。

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