ザ・グレート・展開予測ショー

彼の大きさ(10−1)


投稿者名:ANDY
投稿日時:(03/ 7/ 6)

 一体どうしたというのだろうか。
 つい先ほどまでは優位、とまでは行かなくても、互角の状態だったのに。
「もうおしまいか?人形」
「もう少し骨があると思ったんだがな」
「所詮、噂は噂、か」
「ほ〜ほっほっほ。どうちたんでちゅか〜?令子ちゃん?」
「唐巣殿、美智恵殿。あなた方は強かった。誇りを持たれよ」
「ふ〜。弱すぎ」
「ふ。未熟なり」
「おやおや。もう終わっちゃったんですか?もう少し粘ってくださいよ、皆さん」
 悠然と立つ、狂乱角たち。
 狂乱角たちのほうには、これといってダメージを受けたものが見られない。
 対して、令子たちGSチームは、全員地面に倒れ伏せていた。
 最後の抵抗なのか、誰もその目に恐怖は浮かべていなかったが。
「ま、敢闘賞はそこの機械人形ちゃんだろう。殺刃の体を換えさせたんだからな。どれぐらいぶりだ?体の交換なんて」
「・・・百年ぶりだ。不覚を取った」
「ま、いいんじゃねえの。ちゃんと三倍返しはしたんだからよ」
「そうだな」
 両手、片足を失ったマリアに殺刃は目を向け、すぐに興味を失ったかのように視線をはずした。
「さて、と」
 今までただ立っていたジャッカルが声を上げた。
「う〜ん。そろそろ第二段階に行きますかねえ」
「そうか」
「って、狂乱角さ〜ん。もう少し、こう、関心を持ったように言ってくださいよう」
「・・・善処しよう」
「まあ、いいんですけどねえ。では、狂乱角さん。『虫の息』程度でお願いします♪」
「心得た」
 そう気軽に言う、ジャッカルの頼みを聞き、狂乱角はその手に禍々しいほどの魔力球を作り出した。
「安心しろ。今は殺さんからな」
 そう言い、狂乱角は魔力球を令子たちに投げた。
「く、くそ!」
「う、動けえ!!」
 動かない体を動かそうと最後まであがく姿をまるであざ笑うかのように、魔力球はゆっくりと近づいて行った。
 もう、到達まで五メートルをきったとき、誰かがつぶやいた。
「横島―」
 その言葉が呼び水となったのかどうかはわからない。
 だが、変化が起こった。
「え?」
「む?」
 突如、魔力球の前方一メートルのところの空間が揺らぎだしたかと思うと、激しく波紋を広げだした。
 そして、その波紋が最高潮を迎えると同時に、まばゆい光があふれ出した。
 その光の中から、赤いマントに身を包んだ人物があらわれ、六角形の霊波の盾を作り出し、目前の魔力球をはじき返した。
 はじき返された魔力球は、展望室の窓を壊し、空の彼方へと飛んでいった。
 敵か、味方か。
 そんなことを令子たちが思っていると、声が聞こえた。
 この一年、聞きたくて聞きたくてたまらなかった声が。
「え〜と。一体なにが起きてたんだ?」
 突然、まばゆい光の中から現れた赤いマントに身を包んだ人物は霊波の盾を消し、頬を掻きながら誰ともなく尋ねた。
「ふ、ふうぇ〜」
「ちょ!オキヌちゃん、どうしたの?!」
「この・・・バカ!」
「お、おい。タマモ」
「拙者は、拙者は・・・」
「な、なんだ?!シロ、お前までか?」
「テメエ〜、このやろう!あとで一発殴らせろ!!」
「何でじゃー!雪乃丞!!」 
「僕も」
「ワシもですノー」
「な、ピートにタイガーまで」
「お〜か〜え〜り〜。元気だった〜?」
「あ、冥子さん」
「まったく、あんたゴキブリ並みな生命力なワケ」
「エミさん」
「・・・お帰りなさい」
「隊長」
「元気そうで何よりだよ」
「はは。神父はちょっと元気そうじゃないですね」
「マリア・シンジ・テ・マシ・タ」
「小僧。あいかわらずアホそうじゃのう」
「サンキュー、マリア。カオス、久しぶりに会って言うことがそれか」
「あ、あんた・・・」
「・・・美神さん」
 光の中から現れた人物に、美神は震える指を向けて声を出そうとした。
 そして―
「こ、この。バカ横島ーーー!!一年も勝手に仕事を休むなんてあんた何様のつもり!!」
―泣きそうな顔でその人物―横島忠夫―へ怒声を浴びせた。
「ちょ、美神さん」
「無事なら無事って一言連絡入れなさいよ!しかもなにタイミングよく現れてんのよ!!・・・人がどれだけ心配したと思ってんのよ」
「・・・すいません」
「・・・バカ」
「あとで説明しますから」
「・・・ぜったいよ」
「はい。ちょっと長くなると思いますが」
「・・・うん」
 美神が頷くのを確認し、横島は自分を見ている大切な仲間達へ最高の笑みを浮べてこう言った。
「・・・みんな、ただいま」
「「「「「「「「「「「「「お帰り、横島(くん)(さん)(先生)!!」」」」」」」」」」
 それを受け皆、心からの笑顔を浮かべ、一年ぶりに再会する大切な人を迎える。
「さて、感動の再会はこの辺で一旦打ち切りにして。あんたら、誰?」
 持っていた荷物を皆のところに置き、少し離れた瞬間、皆に向けていた笑みを消し、横島は戦士の顔でジャッカルたちを視界に入れ尋ねた。
「いや〜。あなたはもしかしたらもしかして、横島忠夫さんだったりします?」
「ああ、そうだけど」
「これはこれは。初めまして。私、ジャッカルと言うしがない魔族のものでして。本日はここで私のある実験を行うことになっていまして。そのためここにおられるGSの方々にご協力をしてもらったのですよ♪」
「ふ〜ん。何の実験だ?」
「それは、ヒ・ミ・ツですよ♪」
「秘密ねえ。で、あんたの他にいるその人相の悪い奴らは?」
「ああ。彼らですか。え〜と。あそこでマントを羽織っているのが、この戦闘部隊の隊長である狂乱角さんです。強いですよ〜♪で、他の方々は狂乱角さんの愉快な仲間達です。いや〜、狂乱角さんほどではありませんがこちらの方々もこれまた強い。現に、そちらのGSの方々も勝てなかったようですしねえ」
 その言葉を聞き、唸るGSのメンバー。
 だが、現に誰の身体も満足に動く状態ではなく、意識をつなぐので精一杯の状態だった。
「ふ〜ん。で?」
 だが、横島はジャッカルの言葉を聞いてもなんらあわてなかった。
 このことに驚いたのは、ジャッカルではなく、GSのメンバーのほうだった。
 皆が知っている横島忠夫は、臆病で、度胸がなく、どんな時も逃げることを考えている、だけど、やるときはやる、そんな男と認識していたからだ。
 だが、ここにいる横島忠夫は違った。
 なにか、上手く言い表せないのだが、大きく成長していた。
「・・・もう一度お尋ねします。あなた本当に横島忠夫さん?」
「そうだ。っていっただろう?なに尋ねなおしてんだか」
「いえいえ。私が資料の上で知っているあなたとはちょっと、いえ、かなり違っていますもので。確認の意味でですよ」
「そんなに変わってるか?まあ、『男子三日あわざれば克目して見よ』って言う言葉があるんだ。まして三年も経てばなあ」
「三年?」
「ま、それはいいだろう?で、俺に対するご用件は?」
「ふ〜。用件。用件、それはですねえ・・・」
  パチン!
 ジャッカルが指を鳴らすと同時に、狂乱角の部下六名が横島を中心に円陣を組んだ。
「なんだこりゃ?」
 六人には注意を払わず、横島はジャッカルにのみ視線を向けて尋ねた。
「な〜に。あなたにも私の実験に協力をしてもらいたくて。どうです?」
「い・や・だ」
 ジャッカルの問いかけに横島は即断した。
「・・・あっさりと断りますねえ」
「普通だろ?」
「いや、そうですけど。こう、なんです?もう少しこう、思い悩むとかしないんです?」
「しない」
「・・・ただとはいいませんけど?」
「今ならリンチのフルコースでも付いてくるか?」
「・・・そちらにいる、女性わかります?」
「ああ」
「今なら、そちらのフレアさんとの甘く情熱的な夜を提供いたしますけど」
 ジャッカルの言葉を聞き、フレアは自らの豊かな胸を強調して見せた。
 その様子を見て、GSの全員が「堕ちたな」と思った。
 が、結果は違った。
「別にいらん」
「「「「「「「「「「「なに〜〜?!!!!」」」」」」」」」」」
 横島の拒否の言葉を聞き、GSメンバーから驚愕の声が響いた。
「・・・あんたら、元気なんじゃないのか?」
 頬を引きつらせながら、横島はそう言った。
 が、GSサイドではそんな言葉は聞こえていなく、
「よ、横島さんが横島さんが・・・」
「ちょ、ちょっと、まさか偽者?」
「で、でも臭いは・・・」
「お、終わりだ!世界は終わりだ!!」
と、見事に混乱していた。
「お、俺って一体・・・」
 そんな言葉を聞き、横島は涙をルルーと流していた。
 そんなオチャラケムードのところに―
「滅」
―狂乱角の低く凍る声が響いた。
 声が響くと同時に、横島へと向けて六人の戦士は攻撃を仕掛けた。
 まさにその動きは黒い狂風。
 一瞬で横島忠夫をこの世から存在自体を消し去ることが出来るほどの。
「よ、よこ―」
 だが、それは風をその身に一身に受けた場合だ。
 もし、その風を避けることが出来れば?
 もし、その風を防げたら?
 そして、もし、自身を風へと変えることが出来れば?
「―しまく―」
 横島忠夫を飲み込もうとした黒い狂風は、横島忠夫より発生した力強く、それでいて美しい風に喰われ、吹き飛ばされた。
「―ん?」
 美神が見た現実は、自分が想像したものとはまったく異なっていた。
 横島は血まみれで倒れておらず、悠然と元の位置に立っていた。いや、何時の間にか両手に二本の刀を下げながら。
 そして、その横島の周りには、自分達が全力を出しても倒れ伏せられなかった六人が倒れていた。
 それを見て、誰も言葉を出せなかった。
 圧倒的だった。
 多分、今横島が何をやったのかさえ完璧にはわからなかっただろう。
 そう。六人を同時に撃退した、としか。
「・・・見事なり。横島忠夫」
「そりゃどうも」
 狂乱角からの賛辞の言葉を耳にしても、横島は気だるげに、だが、微塵の隙も見せずに立っていた。
「だが、なぜ殺さなんだ?お主にとってはなんら苦痛にはなるまい。なぜだ?」
 そう。狂乱角の言葉通り、六人とも全員滅んではいなかった。
 それぞれ傷を負ってはいるが、かろうじて致命傷には到達していないようで、呻き声が聞こえていた。
「なんとなく。理由を挙げるとしたら、殺したらめんどくさい事になりそうな予感がしたからだな」
 二刀を床に刺し、指なしの黒いグローブを手にはめながら横島は答えた。

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