ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(11)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 7/ 5)

『君ともう一度出会えたら』 −11−



 俺のカンは当たった。その道は崖の上まで続いており、一番上は小さな展望台になっていた。
 そこから、ちょうど山の彼方に沈んでいく夕陽を見ることができた。

「……」
「……」

 俺とルシオラは無言のまま、沈んでいく夕陽を眺めつづけていた。
 やがて夕陽が完全に沈んだとき、ルシオラが口を開いた。

「沈んじゃったね、夕陽」
「ああ」
「私、あと何回、夕陽を見れるのかしら……」

 ルシオラは、今のままでは一年しか生きることができない。
 重く、そして切ない言葉であった。

「ル……ルシオラ!」
「なに?」
「いっ、一緒に逃げないか? いや、一緒に逃げよう!」

 俺はルシオラに正面から向き合うと、ルシオラの華奢な肩をがっしりと掴んだ。

「アシュタロスの手下なんて、やってることないさ! あいつは、ルシオラたちを使い捨てにするつもりなんだろ? だったら──」
「な、何を言うのよ!」
「神族と魔族に伝手があるから、寿命だって何とかなるさ! 夕焼けなんか百回だって二百回だって一緒に──」
「ヨコシマ──」

 ルシオラが驚いたような表情で、俺の顔をみつめた。

「本気で言ってくれてるの?」
「マジだよ、マジ!」

 ルシオラの目が、ふわっとゆるんだ。

「おまえ……優し過ぎるよ」

 ルシオラは俺の首に手をまわすと、顔をギュッと俺の肩にうずめた。

「でも……ダメ。それだけはできないの」
「えっ? なんで……」
「私にも事情があるのよ」

 ルシオラが俺の胸から、すっと離れた。

「でも、ありがと。一緒には行けないけど、あとでこっそり逃がしてあげるから安心して」

 ルシオラは俺の正面に立つと、両手を後ろにまわし胸を軽く突き出す。

「少しだけ、ワガママにつきあって」
「……いいけど?」
「今日、電車の中で読んでいた小説で、こんなシーンがあったの」

 ルシオラが両手を胸の上で軽く組んだ。

「主人公とヒロインがね、二人で夕陽を見たあとこうやって向き合うの。そしてヒロインの女の子が手を組んで軽く目を閉じると、主人公の男の子が女の子の肩に手を回して、そして──」

 ルシオラがそこですっと目を閉じた。
 あとは言葉は不要だった。
 俺は彼女の肩に手をあてると、ぐっと抱き寄せて唇と唇を重ねあわせた。




「だからなー、わしゃアシュタロス様に申し上げたのだ。『短気を起こしてはなりません』とな」

 日が暮れてから別荘に戻った俺は、放射性物質の入った水を飲んで酔っている土偶羅につかまり、延々とグチを聞かされていた。

「『その女が未来からきたメフィストの生まれ変わりなら、まだ捕まえることはできます』とな──。おい、きーとんのかポチ!」
「聞いてますって! 放射能くさい息を吹きかけんでください!」

 俺は人のグチを聞かされるのが、非常に苦手だったりする。おまけに俺の前のテーブルには、水の入ったコップすら置かれていない。

「思えばあれから千年、野望がかなうまで、まもなくだ」
「そーですねー」
「テケレッツのパー、ハッパフミフミ」
「そーですねー」
「きーとらんじゃないか!」
「同じ話を何回したら気が済むんです!」

 その時、ガチャリと俺と土偶羅のいた部屋の扉が開いた。

「お風呂空いたわよー」

 パジャマを着たルシオラが部屋に入ってきた。
 風呂から上がったばかりらしく、水気を含んだ髪はいつもよりつややかで、わずかに湯気がたちのぼっている。

「先に休みます。土偶羅様」
「んー、お疲れさん」
「お前も早く部屋にね、ポチ」

 俺は別荘に戻る直前のことを思い出した。
 車から出るとき、ルシオラが俺の耳元で「今晩、部屋にいくわ」と、そっとつぶやいたのである。
 俺の心臓はドキドキを通り越して、バクバクと波打っていた。

「こらっ。ちゃんと頭をふきな、パピリオ」
「ポチー、ゲームステーションやろっ!」

 ゲームステーションを抱えたパピリオと、バスタオルを手にしてパピリオの後を追いかけてきたベスパが部屋に入ってきたが──

「どしたの?」
「い、いえ。ちょっと疲れてるだけです──」

 とうとう鼻の粘膜が耐えきれなくなり、俺は大量の鼻血を噴き出してしまった。

「悪かったなー。もう寝ろ」

 やっと土偶羅が、俺を解放してくれた。




 俺は頭を冷やすため、風呂場にいって水をかぶった。
 頭ではわかっている。今、ルシオラを抱けば、霊体ゲノムに組み込まれた監視ウィルスが作動して、ルシオラが消滅してしまう。
 ルシオラには悪いが、今晩アイツを抱くわけにはいかない。
 ただ風呂上りで色っぽくなったところで流し目を向けられると、理性はともかく煩悩の抑えが効かなくなってしまった。

 俺は部屋へ戻ると、服を着て荷物の整理をはじめた。後はルシオラに話をするだけだが……

 コンコン

 その時、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
 あれ? ちょっと時間が早いような気がするが……

 ガチャ

「ポチ、ちょっと顔を貸してくんない?」

 部屋の入り口に立っていたのは、ベスパであった。


 俺とベスパは外に出ると、別荘を離れて林の中に入っていった。

「な、なんの用でしょうか?」

 林の中の小さな空き地でベスパが立ち止まった時、俺はベスパに話しかけた。
 以前と異なる状況の展開に、少しばかり焦っていた。

「単刀直入にきくよ。ルシオラとできているんじゃないの?」
「いっ!? いや、その……」
「隠したって、無駄だよ。全部わかっているんだ」

 俺は何も言い返せなかった。額から冷や汗が一筋・二筋と流れ落ちていくのが、自分でもはっきりとわかる。

「図星ってわけ。まさか今晩、夜這いでもしようっていうんじゃないだろうね?」

 やっぱり気づかれてたか。でも何でルシオラじゃなくて、俺なんだ!?
 こんなところで以前と違う流れになるとは、思ってもみなかった。

「……やっぱりそうか。少しだけカマかけたんだけど、あんたって本当にわかりやすいヤツだね」

 しまった、カマをかけられてたのか。考えがすぐ顔に出てしまう自分の性格がうらめしい。

「ルシオラの様子がおかしいのは、数日前から気づいていたさ。やたら機嫌がいいかと思えば、突然深刻な顔をしたり、そのくせポチの前に出ると妙にすました顔をしているし……。これで何もないと思う方がおかしいわね」

 そうだよなあ。俺の目からみてもルシオラはずいぶん変わった印象があるのに、身近にいるベスパが気づかないわけがない。

「ポチ、はっきり言う。ルシオラと別れてくれ」
「別れろって──」
「わけは言えない。ただこのままでは、ルシオラの為にならないんだ」

 理由はもちろん知っている。おそらくルシオラたちの霊体に組み込まれた監視ゲノムについては、機密事項なので話せないのだろう。

「ただでとは言わない。この前の借りもあるし、お前をこの場で逃がしてやってもいい」

 俺は一瞬迷った。ルシオラにせまられても抱くわけにはいかないから、遅かれ早かれここを退去しなくてはならない。
 だがルシオラに何も話さないまま、逃げてしまうわけにもいかないだろう。

「い、いえ。あいつ、いやルシオラに何も言わないまま、逃げるわけにはいかないです」
「そうかい。それじゃポチ、お前には悪いが──」

 ベスパが右手を脇に引き寄せた。右の拳に魔力が集中する。

「死んでもらうよ!」

 ズドン!

 ベスパの右手から霊波砲が発射された。俺は右サイドに跳躍し、その攻撃をかわす。

「会えば、お前も姉さんも未練がつのるんじゃないのか!? 今なら姉さんも目を覚ましてくれるさ!」

 ベスパはベスパなりにルシオラのことを大切に思っている。だが今はベスパの言うことを聞くわけにはいかない。

「これでも食らいなっ!」

 ズダッ! ズダダダダ……

 ベスパが連続霊波砲を撃ってきた。かわす隙間もないほど、密度の濃い弾幕が俺に迫る。

「サイキック・ソーサー!」

 俺はサイキック・ソーサーを出して、ベスパの攻撃を受け止めた。
 攻撃が分散していたから、何とかベスパの攻撃を支えきることができた。

「普段のボケっぷりは演技だったってわけかい!? 久しぶりに血が沸いてきたよ!」

 やばい。いくら前より強くなったとはいえ、本気になったベスパが相手となると、かなり分が悪い。

「そらっ!」

 ベスパが霊波砲を撃ってきた。サイキック・ソーサーで受け流したが、攻撃が重い。そのまま数メートルほど後ろに弾き飛ばされた。
 すかさずベスパが跳躍し、俺に右の拳を打ち込んでくる。俺は体を捻ってかわすと、起きあがりざまに至近距離で霊波砲を撃った。
 ベスパは10メートルほど吹き飛ばされたが、そのままむくりと起きあがる。

「やるじゃないか。あの空母の女といい、ポチといい、人間もバカにできたものじゃないね。だがこれはどうだ!」

 ベスパが突き出した両手に、魔力がどんどん充填されていった。かわすか、受け流すか。俺がサイキック・ソーサーを構えたとき──

「ベスパ! それだけはさせないわ!」

 その場に突然、ルシオラが現れた。素早い動きでベスパの背後にまわると、ベスパの首筋に電撃を放つ。
 ベスパはガクリと膝を崩すと、その場に倒れこんだ。


(続く)

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