君ともう一度出会えたら(09)
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 7/ 5)
『君ともう一度出会えたら』 −09−
「うわあぁぁぁ!」
デイゲーム中のグラウンドに、プロ野球ピッチャーの悲鳴があがった。
「霊力9.8マイト、結晶存在せず。なんだい、またハズレ?」
デイゲーム中の野球場を襲撃したのは、俺とベスパだ。
「私は帰るわ。あと頼んだよ、ポチ!」
「はっ。おまかせを、ベスパ様!」
球場に怒号と悲鳴が飛び交う。
「大変なことになりました! 試合中に乱入した魔族が、クワガタ投手に暴行を──」
「この裏切りものーー!」
「人類の敵!」
一人現場に残った俺に向けて、観客席から罵倒する声がいっせいにあがった。
「好きでこんなことやっとるんと違うぞ!」
前もそうだったが、多くの人から悪口の限りを浴びせられるのは、なかなかツライことである。
「クワガタのカタキじゃーー!」
「やっちまえ! 乱闘じゃーー!」
「この野郎!」
ジャイアンズの選手たちがベンチから飛び出し、いっせいに俺に襲いかかってきた。
「バ、バカ、やめんか!」
バリッ! バリバリバリバリ……
「普通の人間じゃ、こいつにかなうわけないのに……」
その時、雑魚モンスター『大魔球1号』が現れ、横島に襲いかかった選手たちを一掃した。
「おのれっ!」
どこからともなく西条が現れた。霊剣ジャスティスを構えて、俺に斬りかかってくる。
俺は手にもっていた杖で、西条の一撃を受け止めた。
「おいっ! 美神さんたちはどうした? 今日はここを襲うって連絡しただろう」
「みんな、忙しくてこれないんだ」
鍔迫り合いをしながら、声をひそめて西条に話しかける。
「忙しい? 宴会の約束じゃねーんだ。おかげでまた一人犠牲者が出たじゃないか!」
「隊長には何か考えがあるんだろう。令子ちゃんもおキヌちゃんも特殊訓練中なんだ」
「特殊訓練!?」
「そーゆーことわけだ。早いとこ怪物の弱点を教えたまえ」
「……」
俺はわざと黙って答えなかった。
「みなさーーん! こいつの本名は──」
西条がマイクを構えて大声で叫ぶ。まったく、西条はこういうやつなんだよな。
「ま、待て! 雨だ。大魔球は雨に弱い!」
近くにいた消防車が呼ばれ、大魔球に放水する。
弱点をつかれた大魔球は力を失って地面に落ち、西条にとどめを刺された。
「くそぉっ! 覚えていろ、愚かなる人類ども!」
悪役らしく捨てゼリフを残して、俺は空中に浮かび上がり退散していった。
「おっ、あんなところにいた」
首輪についている誘導装置に導かれるまま、空中を飛行していた俺の前方に逆天号の姿が見えてきた。
俺は逆天号に着地すると、ハッチを通って中に入る。
「危険物感知せず。ドアロック、解除」
(まだ全然信用されてないよな。チェックを受けないと中に入れてくれないし。まぁ前もそうだったから、仕方ないけど)
「これか!」
「やっぱり──」
突然ベスパとルシオラが、俺の背後に現れた。
「わっ! な、なんです!?」
「発信機さ。あんた尾行されてたのよ」
ベスパが、俺のマントの端に付いていた発信機を取り外した。
「外を見てみな」
「く、空母ですか!」
「小賢しい。あんな玩具で我々とヤル気とはな」
土偶羅がフンと鼻を鳴らす。
「……でも、おかしいわ。飛行機がいないし、それにあの魔方陣はなに?」
逆天号の司令室から外を眺めると、はるか遠くに原子力空母が見えた。
ルシオラの言うように甲板には艦載機は一機もなく、巨大な魔方陣が空母の甲板に描かれている。
「アシュタロス一味に告げる! 無駄な抵抗はやめて、すみやかに降伏しなさい!」」
空母から隊長が呼びかけてきた。たしか、この次って……
「横島くーん! 無駄な抵抗はやめてー」
「似てると思ったら、やっぱりお前だったのかーっ!」
「この裏切り者!」
俺のクラスメートが、いっせいに呼びかけてきた。やっぱりこれか。
「コラーーッ! おばはん! 全部俺の関係者じゃないか! 何考えとるんじゃーー!」
「……ってことは?」
「もしかして、人質?」
ベスパとルシオラが額をつきあわせて、ひそひそと話す。
「な、なんという卑怯なことを! でも気にせず主砲発射ーー」
土偶羅が発射ボタンに指をかける。
「どちくしょうおおおーーー!」
俺は司令室を駆け出していった。
「もしもしっ! こちら横島」
俺は通信鬼を呼び出し、連絡を入れた。わかっているが、ひとこと言わずにはいられない。
「横島クンか!? こちら西条」
「なんなんだよ、あれは! 作戦なら俺にもきちんと説明してくれ!」
「ぼ、ボクにもわからんのだ!」
「わからんですむかああああ! それに無断で発信機つけたろ! 俺の身もヤバイじゃないか!」
「よく聞け、横島クン。隊長が何を考えているのか全くわからん。こっちから連絡するまでは、君は独自の判断で行動しろ!」
ブツッ! ツー・ツー・ツー
そこで通信が切れた。
「もしもしっ! 西条!」
コンコン
そこにドアをノックする音が聞こえた。俺はあわてて通信鬼を隠す。
「ポチ、いる?」
ドアの外から声をかけてきたのは、パピリオだった。俺はトイレの水を流し、外に出た。
「は、はい。すいません、急に。ちょっと腹の具合が──」
「もう心配いらないでちゅよ。土偶羅様が攻撃をちょっと待ってくれるでちゅ」
「お、俺のために──」
俺はパピリオと一緒に司令室に戻った。
「あ、あの──」
「早かったね」
「ちゃんと手は洗った?」
ベスパとルシオラが、俺に声をかけた。
「……悪かったな。向こうの出方がわかるまで、手は出さんから心配するな」
「えっ!? 土偶羅……様」
「気にしなくていいよ」
「別におまえのためだけって、わけでもないから」
すまなそうな口調の土偶羅と、優しさのこもったベスパとルシオラの言葉に、俺はじわーっときてしまった。
本当に温かいんだよな、こっちの方が。
「飛行物体、多数接近!」
前方から多数の艦載機が接近してきた。そして逆天号とすれ違いざまに、多量の煙幕を発生させる。
「あれだけの飛行機を、煙幕を張るためだけに?」
「ただの煙じゃないわ。霊波を帯びてる。視界ゼロよ!」
霊波レーダーを見ていたルシオラが、警告を発する。
「何かの罠にはちがいないが、視界を奪ってどうする? 我々の優位はかわらんぞ」
「正面に逆天号と同じ大きさの飛行物体! 高エネルギー反応を検知。撃ってくるわ!」
ギュワアアァァァーーー!
前方の飛行物体から発射された高出力のエネルギー波が、逆天号に襲いかかってきた。
ガクッ ガクガクガク
ギリギリのタイミングでかわしたが、余波による衝撃で逆天号が激しく揺さぶられた。
「うわあぁぁぁ」
「応戦しろ! こっちも撃て!」
逆天号が断末魔砲を発射した。
その一撃は前方の飛行物体を捉えたかに見えたが、命中寸前にフッとその姿が消えてしまう。
「かわされた!? なんだあの相手は!」
「それにあっちの主砲も、断末魔砲と同じ音が──」
「ま、まさか人間ども、我々と同じ威力の魔法兵鬼を!? 信じられん!」
「空母も人質も、魔法兵鬼から注意をそらすためのオトリだったのよ! 異空間に退避を──」
その時、逆天号のすぐ前面に先ほどの飛行物体が姿を現した。
「ダメだ、進路を塞がれた。撃て!」
カッ!
しかし相手の方が早かった。逆天号はその攻撃を回避できず、右の翼に命中してしまう。
「やられた!」
「異空間潜行装置大破! 異空間に脱出できなくなりました!」
そろそろヤバイな。この頃の隊長は目的のためには手段をまったく選ばなかったから、うかうかしているとこのまま撃沈されてしまいそうだ。
「ポチ、バルブを閉めて。あ、違う。その横」
俺はルシオラと一緒に、船外に出て逆天号の修理をしていた。
「これッスか!?」
「オーケー。そのまま。何とか予備回線だけでも修理して、煙幕の中から逃げなくちゃ……」
ルシオラはバイザーを深くかぶり、回線の修理に没頭していた。
一つのことに極端に集中できるのがルシオラの性格のようだが、そうなってしまうと他のことに目が届かなくなってしまうらしい。
俺は少し離れたところで、ルシオラの作業を見守っていた。
ブォン
逆天号の前面に飛行物体が出現した。逆天号が慌てて、回避行動に移る。
バリバリバリバリ!
正面の飛行物体からエネルギー波が発射された。
ガクン!
逆天号が激しく振動した。その衝撃でルシオラが船体から振り落とされてしまう。
「あっ!」
逆天号から振り落とされたルシオラが、エネルギー波の中に飲み込まれようとした時──
ガシッ!
目の前を通り過ぎるルシオラの足首を、俺はがっちりと掴んだ。
「ポチ──」
ルシオラが一瞬、おびえたような目で俺を見つめた。
だが、俺は迷わなかった。手の力をゆるめず、船体の上に一気に引っ張り上げる。
「……」
船体に引き上げた俺を、ルシオラは不可解というような目つきでみた。
「あんた、もしかしてバカなの? 私を見捨てれば、そのまま逃げられたのに──」
俺はルシオラの目をじっと見つめた。
「……夕焼けが好きだっていっただろ?」
「えっ?」
「一緒に見ちまったから……あれが最後じゃ悲しいよ」
「おまえ……」
ギュワアアァァァーーー!
再度、正面の飛行物体から攻撃された。今度は余裕をもって回避できたが、このまま放っておくと撃沈されかねない。
「と、とにかく、ここは逃げないと!」
「逃げると言っても、うかつに敵に背を向けたら背後から攻撃を受けてしまうわ」
「後で説明しますから、土偶羅様のところへ向かいましょう」
俺はルシオラの手を取ると、船内に入り司令室へと向かった。
(続く)
今までの
コメント:
- あー、その、横島が最低人間に見えます。
設定上、横島は自分の台詞に対してで相手がどう答えるか分かっている・・・つまり自分の行動がルシオラに与える影響力を分かっているわけで、その上でこういう風に振る舞うってのは、嫌な表現をすればガイドブックを片手に恋愛系ゲームをするように見えて、どうも・・・まあ、本人は真剣なんでしょうけれども。
あと、チャットでも言いましたが、(これも設定上仕方がないのかもしれませんが)原作をそのまま文章化している部分が多いです。ログを流す以上、ある程度は控えた方がよろしいかと。まあ、これでも結構端折ってるのかもしれませんが。 (紫)
- 騙してる・・・そんな風に感じます。 (だみぃ)
- 私も原作とまったく同じセリフをはいている横島君がちょっと・・・ (柿の種)
- 追加で
魔族とか妖怪は視覚などの表面的なものに対して人間ほどとらわれたりしないので、前回の真似では表面的には同じでも決して心を開いてくれないと思います。 (柿の種)
- (08)・(09)については、オリジナルの要素を付加したかったのですが、いろいろ
考えてもストーリーをいじる余地がほとんどなく、原作をそのまま文章化したような感じ
になってしまいました。
それから逆行後の横島の行動については、ある面計算ずくで行動しています。
はっきり言えば、この段階ではルシオラを騙しているわけですね。
ナンパがうまい男が、喋る言葉一つ一つを計算しながら、引っ掛けた女の子の気持ちを揺さぶって
いるようなものです。 (湖畔のスナフキン)
- ただそれもルシオラを騙すことが目的ではなく、結果として救いたいわけですから、心の底
では深い愛情を抱いているわけです。
ただアシュタロス編の美智恵がそうなんですが、令子を救うためとはいえ横島を使い捨て
の道具のように扱ったり、令子もボロボロになるまで訓練させてますよね。
非情で実にイヤな女を演じたわけですが、それも何とか令子を救おうとする親の愛情から
でた行動だったわけです。
もちろんそういうことがわかっても、アシュ編の美智恵を好きになれない人はけっこういる
と思います。逆行後の横島の計算ずくの行動にしても、反発する人がでてきても仕方がない
とは思っています。 (湖畔のスナフキン)
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