君ともう一度出会えたら(08)
投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 7/ 5)
『君ともう一度出会えたら』 −08−
隊長がテレビ局にやってきたのは、俺がキャメロンを倒した直後であった。
キャメロンを倒したいきさつについては、適当に話をしてごまかす。
だが、ごまかせないヤツが一人だけいた。
(ちょっと、横島さん。どうしたんですか、あのパワーは)
ヒャクメが俺に小声で話しかけてきた。
(瞬間的とはいえ、五千マイト近くのパワーが出ていたじゃないですか)
そうなのだ。この技は霊力を発した瞬間に増幅させる技だから、霊力そのものは変わっていない。
しかもテンションが下がるとたちまち霊波と肉体の同期が取れなくなってしまう。
長期間持続しにくいのが、この技の欠点でもあった。
持続させるためには、またさらなるパワーを引き出すためには、もっと修行を積まなければならないが、今はもうその時間的余裕はない。
(悪い、ヒャクメ。あとで必ず説明するから)
キャメロンは動きが鈍い欠点を突いて、倒すことができた。
しかしベスパやパピリオが相手では、こううまくはいかないだろう。
パワーアップしたとはいえまだ相手の方が力が上だ。文珠でサポートしなければ、互角に戦うことは難しいかもしれない。
「今日から私もICPO付きです。本部からの指令を伝えます。ただ今からあなた方は全員私の指揮下に入ること!」
「えーっと、俺たちもですか?」
「当分の間は、令子もほかの皆さんもICPO付きです。異議は認めません」
よかった。少しずれが生じたが、大筋では狂っていないようだ。
「私はICPOと日本政府に、全権を委任されています。未熟なあなた方だけでは、アシュタロスに対抗できないからです。以後、指揮官として鍛えなおしてあげますから、覚悟なさい!」
「ママ……ひょっとして今のママって、私が中学生の時の──」
「その話は今は無しよ、令子。任務中は私情は忘れなさい。それから皆さんも、私のことは美神隊長と呼んでください」
以前はこの時、GSアシスタントから大出世したと大喜びしてたっけ。
そっとおキヌちゃんを横目で見ると、「私、女性捜査官ですか!?」とはしゃいでいた。
「さて、横島隊員」
「はっ、隊長!」
俺はもったいぶって、敬礼をする。
「オカルトGメン・対アシュタロス特捜部として、最初の作戦行動を命じます。重要な任務です!」
「なんなりと命じてください!」
逆天号の一室で、ルシオラ・ベスパ・パピリオの三姉妹が、テレビのニュース番組を見ていた。
『テレビ局が正体不明の魔族に襲撃されました。この襲撃により、歌手の奈室安美江さんが負傷して入院しています』
「あーっ、今日の事件がもうテレビで放送されているでちゅ」
『現場は一時騒然となりましたが、出動した特命捜査官の活躍により妖怪一体を退治。敵幹部は逃走しました。その映像をご覧ください』
画面が切り替わり、危ない目つきの男が画面に登場する。
『ハーッハッハッハ! おろかなる人間どもよ、いずれお前たちは我々の前にひざまづくのだ!』
画面に映し出されていたのは……俺だった。
『この男は「ポチ」と呼ばれております。今のところ、その正体はわかっておりません』
「なかなかやるじゃん!」
「愛情のたまものでちゅね♪」
「ターゲットはハズレだったけど人間たちが縮みあがって、これからの仕事がやりやすくなるかもね」
これで俺は人間の敵か……。いや、わかってやっているんだが……。
(──当分の間、敵中から情報提供してください。信用され、正体を悟られないように──)
これが隊長の下した命令であった。予定どうりとはいえ、やはり俺にとってはツライ内容である。
ティーポットをのせお盆を運びながらも、手がプルプルと震えてしまった。
(ハァ。本当にシビアだよな、あの隊長は。五年たってもあの人には、まだまだかなわない……)
俺は周囲に気づかれないよう、小さな声でボヤいた。
──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ────
それから数日後、俺はすっかり日課となってしまった洗濯に精を出していた。
洗濯といっても、洗うのはシーツやタオルの類ばかりである。
たまにパピリオのかぼちゃパンツも洗うことがあるが、色気がないことこの上ない。
「はあ〜〜、腰が痛てえーー」
腰が痛いのも当たり前である。しゃがみながら、たらいと洗濯板で洗濯をしているのだから。
以前から思っていたのだが、逆天号は家電製品が乏しい。
洗濯機や掃除機は見たことがないし、テレビもどこから拾ってきたのかわからないような古い型を使っている。
まあ単純作業はハニワ兵がこなすし、ちょっと手の込んだ家事は俺がするから、ルシオラたちは不自由していないのであろうが……
ただ今はルシオラたちの信用を勝ち取らなければいけないから、下働きとはいえ手は抜けない。
美神さんの下で積んだアシスタントという名の丁稚としての経験が、もっとも生かされている瞬間かもしれなかった。
もっとも家事の腕前ではなく、あくまで精神面の話であるが。
「お〜〜い、ポチーー♪」
「パ、パピリオ……様」
「新しい服を作ってあげたんでちゅ」
これって、確かあの服だよな?
「着てみて! 着てみて!」
俺はパピリオから服を受け取ると、広げてみた。
……やっぱり、あの服だ。
「思ったとおり、よく似合うでちゅーー!」
「……」
肋骨服に肩パット付きの黒マント、そしてアヤシゲなヘルメットをかぶってみると、ヒーロー番組に登場する悪役の姿そのものである。
以前もそうだったが、俺は口をパクパクさせるのが精一杯だった。
「……気に入らないかなあ」
パピリオの口調が少し変化した。またこの娘に、気をつかわせてしまったようだ。
「そ、そんなことないッスよ! なんかこうやる気がビンビンと湧いてきました!」
サービス精神旺盛な俺は、あわてて演技に力を入れた。
「フハハハハ! 死ね、愚かななる地球人類ども! なんちって」
「えへへ、よかった♪」
パピリオがにこりと微笑んだ。
「私のこと──ずっと覚えててね!」
パピリオは、タタタタッと走り去っていった。
その時俺は、大事なことを思い出した。
そうだ。パピリオは、自分が一年しか生きられないことを知っていたのだ。
パタパタパタパタ
ロープに吊るした洗濯物が、風でこぎみよくはばたいていた。
俺はロープの端を、ポールにギュッと結びつける。
「よし、洗濯完了っと」
「ぷっ。クスクス……」
その時、近くで女の笑い声が聞こえてきた。
「なーに、そのヘンなかっこう!? どっかの古本屋のコスプレ店員みたい」
逆天号の羽根の上にいたルシオラが、ツーとすべり降りてきた。
「ちょっと涼みに出てたのよ。座標誤差修正に、通常空間へ出る時間だしね」
ゴオオォォン ゴオオォォン
逆天号の周囲で大きな音が響くと、亜空間から通常空間へと移った。
逆天号は大海原の上を飛行している。
ちょうど西の水平線に夕陽が沈もうとしており、空も海も夕陽で真っ赤に染められていた。
「ちょっといい眺めでしょ?」
「へー、ちょうど夕陽が沈むところですね」
「昼と夜の一瞬のすきま……短時間しか見れないからよけい美しいのね」
ルシオラは手すりにつかまったまま、ゆっくりと俺のほうを振り向いた。
「その服、パピリオが作ったんでしょ?」
「え!? は、はあ、そーですけど」
「あのコ、なんでペットなんか飼うか知ってる? 動物が育つのが好きなの。自分が大きくなれないの知っているのよ」
ルシオラは正面を向き、そっと目を細めた。
「魔界、神界とのアクセスを妨害できるのは、あと一年が限度。その間にアシュ様の復活を果たすのが私たちの仕事だから、土偶羅は私たちの寿命を一年に設定して作ったの」
知ってはいたが、やはりこの言葉をルシオラ本人から聞くと、胸がチクチクと痛む。
「あ、あんたち、あと一年しか生きられないわけ……!」
「寿命を短く、その分パワーを大きくしたのよ。一年後アシュ様が復活すれば私たちは用無しだし、失敗は許されないもの」
「でも──」
「人間のおまえの寿命はあと50年以上……パピリオは、きっとお気に入りのおまえに自分の思い出を残したいのね」
ルシオラは俺の正面に立つと、スッと手を出した。
「私はまだおまえを信用したわけじゃないけど──とりあえずそのバカな服を着てくれて感謝してるわ!」
ルシオラが俺の手をぎゅっと握る。その手は小さく、そして柔らかかった。
「もう行くわ。陽が沈んじゃった!」
「あ、あの……」
俺は立ち去ろうとするルシオラを呼び止めた。
「もし、一年以上生きられるとしたら、何をしたいかって考えたことはあります?」
ルシオラは、意外そうな表情を浮かべた。
「……考えたこともなかったわ。そんなことは万が一にもありえないから。今は一日一日を、悔いのないように生きていくのが精一杯ね」
ルシオラは俺に背を向けると、デッキを降りていった。
(続く)
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