ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その30)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 7/ 5)


2007年6月14日・・・

この日東京郊外の火葬場で2本の煙が天に昇った。
一つは三世院京二・・・もう一つは・・・・・・・・・・・・・・・・・────フラウのものだった。



死者6人、重傷者1名、軽傷者1名を出したあの事件から三日が経っていた。
生き残ったのは京介と京華の二名だけ・・・その二名も一人は後頭部を強打し意識不明、
外傷はない少女・・・・京華もまるで生きる屍のように虚ろな瞳で口を開かなくなってしまった。
フラウの葬式は京二に比べれはとても質素で、離れの広間を借りて最低限の知人だけ集まりしめやかに行われた。

『ちくしょー!なんでこんなことに・・・』
『あのとき日本行きを私が止めてれば』
『フラウ、フラウ!!わああぁぁぁ』

中にはイギリス王室部隊時代の同僚が何人か来ており、みな英語で泣き叫びフラウの躯(むくろ)に涙した。
一部の人しか知られていない部隊なので公に出来ないが、密かにイギリス王からも哀悼の手紙が送られている。

(・・・・・・・・・・・おかあさん)

3歳までイギリスに住んでいた京華は忘れかけていた英語を聞きながら、
みんなが何で悲しんでいるのだろうと不思議に思った。
なぜなら・・・・京華は・・・・








翌日・・・

京華の様子が気になった和江はかすみを連れて『離れ』を訪れた。
侍女たちの話ではこのところ食事も取らずにずっとフラウの部屋に引きこもっているらしい。
かすみもしばらく会っていない友達が気になり和江についてきたというわけだ。

コンコン・・・

「京華?いるの?」

手の甲でドアを叩いてみるが返事はない。
不在かな?と二人が思ったとき・・・

・・・・うん、それでね

・・・そうそう、おかしいでしょ〜

中から京華の声、いや話し声が聞こえてきた。
誰か客人がいるのかと思ったがこの屋敷で京華の話し相手になってくれる人物はそう多くない、
一体誰だろうと思い失礼と思いながらもゆっくりとその戸を開いた。

「ごめんなさい、入るわよ」
「京華ちゃーん!いる?」

二人がゆっくり入るとそれに気づいた京華がベッドのそばの椅子に腰掛けながら挨拶をした。

「あ、和江おばさんにかすみちゃん、こんにちは〜!」

「え、ええ・・・こんにちは」
「こ、こんにちは・・・」

二人は昨日と打って変わって明るい笑みを見せる京華にとまどいを隠せない。
母の死を乗り切ったのか?それともいいことがあったのだろうか、
ともあれ京華が元気を取り戻したならそれに越したことはない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と思ったとき。

「ほら、お母さん。和江おばさんとかすみちゃんが来てくれたよ」

「「っ!!!?」」

京華の言葉に驚きで目が丸くなる和江とかすみ。
死んだはずの母に呼びかける京華、霊能力のあるかすみは霊気を探ってみるがそんな気配は全くない。

「きょ、京華ちゃん・・・どうしたの・・・?」

「へ?何にもないよ、お母さんと話してだけじゃない。変なかすみちゃ〜ん」

「お母さんと・・・・」

和江はポツリとつぶやきながら京華が楽しいそうに話しかけるベッドに視線を向ける。
主亡きベッドの上に置かれているモノ・・・・それを見たとき和江の表情が固まった。

置かれていたモノ、それは・・・・・────血塗られた・・・フラウの修道服。

「京華・・・あなた・・・」


ガチャン!!

和江と同時に事態を理解したかすみがテーブルの上に置いてあった花瓶を落とした。
背中に寒いものが走り、足から力が抜け、歯がカチカチと鳴る。
京華は今・・・・

「あ〜もう、かすみちゃん何やってるの!?
 ・・・ん?お母さんはいいから寝てて、京華が片付けるから♪」

以前とさほど変わらない京華の笑顔に凍りついたように動けない和江とかすみ。
楽しいそうに見えない母と会話する京華・・・


愛しい母の壮絶な死・・・それは京華の心を傷つけ・・・いや、壊したというのが相応しいだろう。
悲しくて、哀しくて、寂しくて、淋しくて、辛くて・・・・自分を保てなかった京華・・・
そして、心の平静を保つために一つの結論、それは・・・



心の逃避。

京華の中ではあの日の出来事・・・いや、フラウの死がなかったという事になっているのだ。
だから・・・母の残り香が匂うこの部屋に引きこもり、ベッドに母の修道服を寝かせる・・・
それだけでフラウが生きてるような気がした・・・いや、京華の中では生きているのだった。


「え、うん!そうそう来週うんどう会があるんだぁ・・・え!?お母さんも来てくれるの!?やったぁぁ!!」

真っ赤に染められた修道服の袖をとり喜びの声を上げる京華。
そんな友達の姿にかすみは右手で口をおさえその瞳からは涙が溢れていた。
事の顛末は大体聞いていたがその結果がこれなの・・・と。

「きょう・・・かちゃん・・・・」

目じりに涙を浮かべながらかすみが京華に声をかけようとしたその時。

「京華」

和江がフラウの遺児の肩を強く掴み強引に振り向かせた。
そして、肩を掴む手に力をさらにこめて、目を合わせながら言った。

「京華・・・・フラウさんは・・・お母さんは死んだのよ」

その言葉に京華は一瞬だけ顔を強張らせるがすぐにニコっと微笑んで言った。

「和江おばさん、お母さんならここにいるよ・・・・ねぇお母さん?」

和江と目を逸らすように誰もいないベッドに話しかける京華。
しかし、和江はその顔に両手を添え強引にこちらを向かせる。
そして・・・

「現実を受け止めなさい!いい?お母さんは死んだの!
 妖怪と戦って!あなたを守って!そして死んだの!!」

「ウソだよ・・・・そんなの・・・・」

そう言いつつも京華の表情には明らかに動揺が見られる。

「京華・・・悲しいけど・・・辛いけど、これが現実なの!!あなたのお母さんは死んだのよ!!」
「ウソだぁ!!!お母さんが死ぬわけないもん!!
 いやだぁぁ!!そんなの嫌だぁぁ!!!」
「京華!泣きたいなら泣けばいい、いくらでも悲しんでいい!
 でもね・・・・お母さんの死を受け入れないというのはダメ。あなたの人生はまだこれからなのよ・・・
 フラウさんが守ってくれたあなたの人生は・・・・」
「ちがうもん!!お母さんは死んでなぁぁい!!」
「だったら!!あなた首に下げているこのロザリオは何なのっ!!!?」
「!!?」

和江に掴まれた朱のロザリオを見たとたん京華の動きが止まった。
そして・・・肩を震わせて・・・ポロポロと涙を流して・・・俯きながら口を動かす。

「なんで・・・なんで・・・そんなひどいこと言うの・・・うぐっ・・・言ってよ・・・お母さんは生きてるって言ってよぉ・・・」

ひっくひっくと泣きながらフラウの遺品であるロザリオをぎゅっと握り締める。
辛い・・・母の死を受け止めるとは7歳の少女にとっては凄まじく辛いことだ・・・
そして、それを怒鳴りながら認めさせる和江も辛かった、身を切り裂くような思いだった・・・
実の娘のように可愛がっている京華の姿に和江の瞳にも涙が浮かぶ。

「京華・・・・あなたのお母さんから手紙があるの・・・・かすみ」

「・・・・ぐす・・・はい」

和江に呼ばれ泣いていたかすみが一枚の便箋を懐から取り出した。
フラウが死んだあの日、偶然かすみがこの部屋で発見した手紙、
京華は鼻をすすりながら、ゆっくりとその便せんを広げ読んでみる・・・・
もう何年も見てないような懐かしさに思われる母の字・・・、





『 愛する娘京華へ・・・

あなたがこの手紙を読んでいるということはお母さんはもうこの世にいないのでしょうね。
ごめんなさい・・・・お母さん・・・母親らしいこと何もしてあげられなかった・・・
うんどう会も、学げき会も一度も行ってあげられなかった・・・本当にごめんなさい。

京華は今とっても泣いてるんだと思います・・・でも、心ぞう病で死んだならそんなに悲しまないでね、
あなたを助けたことはお母さんのほこりなんだから・・・・それからイギリスにちりょう法があるというのはウソ、
こうでも言わないとあなたはおじいちゃんのクンレンをやめないから。

もし・・・あなたを守って死んだなら・・・お母さんは後かいしてないわよ。
だって、京華が生きてるんですもの。それが・・・何よりも幸せだから・・・

これからはあなたは自由に生きて。三世院家を出てもイギリスに行けばお母さんの仲間があなたの世話をしてくれるわ。
もし・・・三世院家に残るなら・・・和江おばさんを母親だと思いなさい・・・そしてかすみちゃんを姉妹だと思いなさい。
この二人はきっとあなたのかけがいのない人になるから。

お母さんは・・・・・幸せな人生だったよ・・・・・・・・・・・だって京華がお母さんの娘に生まれてきてくれたんだもの。
だから・・・あなたが・・・・お母さんになったとき・・・・この幸せがあなたにも分かりますように・・・
そして、あなたが幸せな人生を送れますように・・・・
 
                           あなたを世界の誰よりも愛してるお母さんより 』








ポタ・・・ポタ・・・

一粒・・・二粒・・・数え切れないほどの水滴が手紙に落ちてくる、京華の瞳から。
和江の言葉と真紅のロザリオと・・・この手紙が・・・・母の死を嫌が応にも知らしめた。
京華の身体の振るえが手紙にも伝わり手紙をカサカサと鳴らす・・・

「京華・・・」

その姿に和江がたまらず手を差し伸べようとしたとき

「わかんないよぉ・・・」

「え・・・」

「わかんないよ・・・、なんで!どうしてお母さんは幸せなの!!?
 死んじゃったのになんで幸せなの!!?京華は、京華はもっとお母さんといっしょにいたいのにぃ!
 お母さんに生きててほしかったのに!どうして・・・ねぇどうしてぇおばさん!かすみちゃん!
 こたえてよぉ、ねぇ!?神さまでも誰でもいいから答えてよぉ!!」

支離滅裂な京華の叫び・・・母の死を理解しても納得は出来ない・・・
涙を流し、叫び、身体を振るわせる・・・・そんな少女に対し・・・

・・・・・・・・・───和江はそっと優しくきつく抱きめることしか出来なかった。

















そして・・・・・・・・・7年の年月が流れ・・・・
2014年4月16日・・・・・・・・・・・・・・・三世院京華は14歳になっていた。






                          
                                  その31に続く






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