ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−51


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 7/ 4)





美神除霊事務所前。
総勢10名の男女が、これから戦争でも始めるような緊迫感と共に立っていた。

「さて、準備は整ったのか?」

美神令子、西条輝彦、犬塚シロ、伊達雪乃丞、タイガー寅吉、ピート、ドクター・カオス、マリア、そして――――ベスパ。
総勢9名を前に、デミアンは口を開いた。
ベスパと顔を合わせたデミアンは、人の悪い笑顔を浮かべたが、ベスパは一向に取り合わない。
そんなベスパに一瞥して、もう一度尋ねる。

「準備は整ったのか?」

「アンタが聞きたいのは、死ぬ覚悟は出来たかってことでしょ?」

令子が興味なさげに答える。

「フン」

嘲笑を含んだような、哀れみを含んだような、微妙な笑い。
デミアンはそれ以上、口を開くことなく、魔界はユーチャリスへ通じるゲートを開き始める。
空間にポッカリと浮かんだ、黒い球。
それが次第に3mほどの高さになり、1mほどの幅にまで広がる。厚さは1ミクロンも無いのだが。

「言っておくが、片道切符だ。お前達が目的を達成したら、新しくゲートを用意してやるがな。」

それはいみじくも、撤退は許さないという身勝手な意思表示。
令子達は互いに顔を見合わせる。
誰もが、躊躇う表情を浮かべている。
が、それはデミアンを疑う躊躇いであり、ユーチャリス強襲の躊躇いではない。
そして、この面子では最も詳しそうなベスパが頷くのを見た令子は、一番最初に一歩踏み出す。

「………先に行くわ。」

そして、それに触発されて続々とゲートに飛び込む一同。

最後に残ったベスパがデミアンを見やる。

「………フン」

何か言ってやりたい気分だったが、何を言えば良いのか分からない。
とりあえず、鼻で笑っておいた。
対するデミアンは無表情。
ゲートに飛び込むベスパの後姿を見ながら、デミアンは一人ごちた。

「さて、横島の目的。確かめさせてもらうぞ。」

場合によっては、リリスから寝返ることも視野に踏まえての呟き。
結局、彼は最後まで蝙蝠であり続けた。
そして蝙蝠として、死を迎えることとなる。






そこは草原の中だった。
少し離れ場所に、まるで御伽噺に出てくるような白亜の城。
所々に花が咲き乱れ、のどかな風景が広がっている。
日向ぼっこや、ピクニックでもしたくなるような光景だ。
遥か向こうの、雷鳴轟く不気味な山さえ見えなければ。

一瞬、令子はデミアンに騙されたのかと疑心暗鬼になる。
続いて姿を現し始めた西条達も同様だ。
だが、最後に現れたベスパが宣言した。

「あの城がユーチャリス。ヨコシマの城だ。」

「………魔界にもこんなところがあったんだな。」

雪之丞が誰にとも無く呟く。

「魔界の最高指導者サタンが、堕天して最初に降り立った地がここだ。当時はまだ神気がこびり付いていたらしいから、その余波とも言えるな。」

「最高指導者ね………。」

常々、疑問だった。
何故に最高指導者達は横島の暴挙を容認するのか。
デタント体制を整えたのは彼らではないか。
にも関わらず、横島によるデタント崩壊を容認した。

令子の皮肉気な呟きを聞き流し、ベスパが問う。

「今更だが………ヨコシマの魔力は圧倒的だ。ワルキューレやジーク、そして何より、リグレット。この3名は強い。アタシはパピ「ストップ!!!」」

ベスパの問いを令子が遮る。

「正しく今更よ。もう決めたことよ。」

「そうか………そうだな。」

「でしょ?」

言って、仲間を見渡す。

「だね。」

西条はオカルトGメンの制服に、銀の銃弾を込めたサブマシンガンとジャスティスを抱え。

「当然でござる!!!」

シロはいつものように、ラフなTシャツに破けたジーンズ。そして腰には八房。

「言うまでもねぇよ。」

雪之丞は黒のスーツで見を固め、未だ魔装術を発動せず。

「ですノー。」

タイガーは、小笠原除霊事務所の制服に見を包み、精霊石銃を背中に背負い。

「……………。」

ピートは唐巣の着ていた神父服に身を包み、やはり唐巣の遺品であるロザリオを握りながら。

「さて、始まりの終わりなのか、終わりの始まりなのか。」

カオスはトレードマークの黒衣のマントを羽織り。

「ドクター・意味不明です。」

マリアは黒衣のドレスに、機関銃やら迫撃砲を背負って。

それぞれに同意を示す。

いつものボディコン服に、オカルトGメンのジャケットを羽織った令子は、満足気に頷いてから号令をかけた。

「さぁ!横島君をぶん殴りに行くわよ!!!」






――――人界最後の抵抗が始まった。








令子達がユーチャリス外壁の大扉をくぐっている頃。
ユーチャリスの玉座の間では、それを見やる男女が3人。


「本当に良かったのかい?」

横島の傍につき従うメドーサが問うた。

「別に構わんさ。」

反対側に立つワルキューレが同じく問うた。

「しかし………自ら優位性を捨てる必要はないと思うのですが。」

未だ、この段階に入って尚、横島の裏の計画を知らされぬワルキューレには合点の行かぬ布陣であった。
“敢えて、ユーチャリスに駐留していた魔族達を、ユーチャリスの敷地外の防衛に当たらせるなどとは。”

「言っただろ?他の魔神達の干渉を防ぐためさ。」

「しかし………相手は美神令子ですよ?どんな行動を取ってくるか………。」

「あの人は案外、弱いところがあってな。追い詰められると自棄になる傾向がある。今がその状況さ。」

かつて、アシュタロス戦において、ルシオラ達との力の差に自棄になったことがある。
その時は、美智恵の登場で心理的再建を果たしたのだが、今はもう傍に美智恵は居ない。
そのことを差しているのだが、強気な令子しか知らないワルキューレやメドーサは疑問を捨てきれない。
そんなふたりの気持ちを察した横島は、安心させるように言った。

「あのなぁ。俺はある意味、美神令子専門家だぞ?お前等よりもずっと美神さんを知ってる。」

俺を信頼しろ。横島はそう言っているのだが、メドーサとワルキューレでは温度差がある。
ワルキューレは素直に頷くのだが、メドーサとしては、裏の計画を平気で進めている横島の酷薄さを知る以上、素直には信用出来ない。

「ま、どちらにせよ、アタシはアタシの仕事をするだけさ。ワルキューレ、アンタもだよ?」

皮肉気な口調で呟くメドーサの視線の先には、小竜姫が監視されていることも気付かずに武装を始めている姿があった。

「分かっているさ………今から行って来る。」

そう言って、ワルキューレは玉座の間から姿を消した。







「………何で誰も居ないのでござるか?」

シロの呟きに答える者は居ない。
配置は特に考え抜かれたわけではないが、人狼の持つ超感覚によって、異変を察知。すぐさま八房で迎撃する。
阿吽の呼吸で行われた突入は完全に不発。
ユーチャリスの外壁の大扉は、最初から開かれていた。
そして罠を警戒しながら、大扉をくぐったわけだが、大扉から続く広場にも誰も居なかった。
ただ、噴水だけが精一杯に自己主張をしている。

「外壁が開いていた。そして誰も居ない。もぬけの殻なんて落ちはないだろうね?」

西条が事情通そうなベスパに問い掛けるも、彼女にも答えは分からない。

「普段なら、五月蝿いくらいに賑わってた場所だよ。」

ベスパがそう答えると同時に、ユーチャリス本城の城門が激しい音を立てて開いた。

「「「「「「「「「「?!!!」」」」」」」」」」

誰もが一斉にそちらの方向を向き、一斉に溜息を吐く。

「………奇襲は失敗。待ち受けられてるってことか。」

雪之丞が苦々しげに呟く。
「クソッ!舐めやがって!!」吐き捨てながら、道端の石ころを蹴飛ばす。






「安心するでちゅ。別に罠なんて無いでちゅよ。」






唐突に声がする。
何時の間にか、ユーチャリスの城門の脇にひとりの少女――――パピリオが佇んでいた。

「折角、私がこの門を開けてあげたんでちゅから、感謝するでちゅ。」

南極の時のことを思い出させる、クールな表情。
人間達が気を引き締める中、唯一、ベスパだけは喜びの表情を浮かべた。

「パピリオ?!分かってくれたのか?!!!」

今にも抱きつきそうな様子で話し掛けるベスパ。
だが、パピリオの表情は冷たいまま。

「勘違いしないで欲しいでちゅ。私はポチと一緒に行動しまちゅ。ベスパちゃんが、アシュさまと最後まで行動したように。」

殊更、アシュタロスを思い出す演出を始めるパピリオ。
それはベスパを揺さぶるための小さなテクニックだったが、同時に他の人間達へのプレッシャーともなった。

『あの時とは違う。』

殊にそれを思い知らせるためなのだ。
二の句が継げないベスパに向かって、更にパピリオは続ける。

「ベスパちゃんが、美神達を頼った理由は何となく分かるでちゅ。アシュさまの時の再現を願っているんでちゅよね?」

「そ、それは………。」

別に返事を求めぬパピリオは、ベスパの言葉など待たない。

「別に良いんでちゅよ?でも、今度はポチもルシオラちゃんもいまちぇんよ?」

その上、美智恵や唐巣やエミや冥子も居ない。
その事実を思い出させられる。

「あの時はベスパちゃんがこちら側で、私とルシオラちゃんがそちら側でちた。皮肉なもんでちゅね。」

一瞬、パピリオの表情が寂しげな様子に変わるも、すぐさまクールなソレに戻る。

「私は一番右端の扉の奥にいまちゅ。ユーチャリスの中庭に通じる扉でちゅ。そこで待ってるでちゅよ。」

そう告げて、パピリオはユーチャリスの中へ姿を消して行った。
蒼白な表情のベスパを残して。







同時刻、ユーチャリス城内。
美神達とパピリオが相対していた頃。
ユーチャリスの中でも、ふたりの女が相対していた。
部屋と言っても扉が繋がっているだけで、実際は亜空間に通じている一室。

そこで、さきほど横島達の前から姿を消したワルキューレが、小竜姫と対峙していた。
ワルキューレは感慨深げに口を開いた。



「やはり裏切るか、小竜姫。」









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