ザ・グレート・展開予測ショー

Happiness heart!!


投稿者名:veld
投稿日時:(03/ 7/ 4)


 幸せってのがどんな形をしてんのか、知ってる人なんていやしない。
 三角だろうか、四角だろうか。平面体か立方体か、それとも全然違う形なんだろうか?どうなんだろう?
 ハート型なんてふざけた形はないと思う、思いたい。思えない。
 まぁ、どうでもいいといえばどうでもいいことではあるのである。よよよ。



 「先生、何を言ってるんでござるか?」

 ちゃぶ台で向かい合い、編物なんぞをしながらテレビを眺めていた弟子の言葉にはっとする。訝しげな表情を浮かべ、心底心配している様子。相当に病んだ姿を見せていたらしい。手にした(勿論からっぽの)財布を眺め、溜め息の一つなんぞつきつつ、彼女を見る。

 「・・・何でも無い。何となく、世の中って奴は複雑に出来てるんだろうなぁ・・・とか、そんなことを考えながら財布の中身を見て溜め息をついてただけだ」

 もう一度溜め息。それを聞いて、シロはうめき、眉をひそめ俯いた。

 「うっ・・・でも、先生。今月はもうお小遣いあげられないでござるよ」

 「・・・ふむ」

 じっと、彼女を見る。
 疑惑の眼差し、というかお前は俺に逆らうのか?愛弟子よ。愛すべき弟子よ。あぁ、もうそんなのすっ飛ばして、とりあえず無理矢理に作った偽戸籍上の関係。愛妻よ。

 「だって、もう、お金ないんでござるよ」

 俺の懇願の眼差しを流すわけにも行かず困ったように見返していた彼女は申し訳なさそうに言った。ちなみに、こいつが目で俺に返してきた言葉は『肉・散歩・たまねぎは犬にとっては毒薬なんでござるよ、先生、気をつけて欲しいでござるよ。今晩のカレーはたまねぎ抜きでござるよ、先生』だった。

 「お金がない・・・か」

 それなら、寧ろ玉葱抜きよりも肉抜きにすべきじゃないだろうか?そんなことを思いながら空を仰ぐつもりで煤けた天井を一瞥し、彼女を見た。

 「そうでござるよ。食費と家賃と光熱費で全部消えてしまうんでござるよ」

 ひいふうみぃ、と指折り数え、困った顔を見せるシロ。何となく、こいつ、ちゃんとそういうの計算とかしてるんだなぁ・・・と、思いっきり見下げた事を考えていた事をほんの少しだけ反省したような気になりながら、財布をちゃぶ台の上に放る―――ぱさっ、と何とも言えず間抜けな音をたてて、奴は動きを止めた。小銭の音さえしなかった。

 「・・・なぁ、シロ。思うんだが」

 「何でござるか?」

 おどおどと俺を見つめるシロ。出来うる限り、大人っぽい笑顔を浮かべて、彼女を見る。

 「幸せって・・・なんじゃろうね?」

 彼女の口元が引き攣っていた。笑顔と呼ぶにはいささかに躊躇いを覚える微妙な顔。
 ぱん―――と、彼女の目の前で手を合わせ、意識を取り戻させる。
 はっ、とした顔を浮かべ、照れくさそうに頭を掻き―――

 「・・・何で突然お爺さん言葉になるんでござるか?」

 俺の質問とはまるで無関係の部分に答えた、いや、突っ込んだ。
 ―――答えるべきだろうか?いや。

 「・・・いや、あえて問う!幸せって・・・何じゃろうね?」

 お爺さん言葉の方が何となく含蓄っぽいのがありそうだからだっ、とそんなことを言ったって分かってくれるどころか呆れた視線を送られかねないと判断した俺は質問を続けることにした。はっきりと無視してやった。ざまあみろ。

 「・・・幸せでござるか・・・?」

 案の定、彼女は困ったようにう〜んう〜んと腕組みをして考え出した。

 「おうっ!月2000円のお小遣いで手に入る幸せって何なのか俺は力いっぱい尋ねたい!!」

 答えられるなら、その幸せを甘受するも吉。
 答えられないのなら、幸せになるための権利を買う為のお金をふんだくるも吉。
 俺は彼女の答えを待った。今の状況からすれば―――前者の可能性は限りなく小さく、後者の可能性も同じくらいに低い。答えられないかどうかの問題でなく、我が家の貯金箱からお金を引き出すのは至難の業だった。

 「・・・幸せは・・・」

 彼女が口を開いた―――そして、目を細めて―――笑う。
 艶やかな笑み―――付き合い始めて、結構経つものの、こんな笑みを見たことはそんなにはない。

 「・・・な、何だ・・・その意味ありげな視線は・・・」

 その迫力に思わず後退る。すると、彼女もまた、ちゃぶ台の脇を通って、前かがみになって俺に近づいてくる。
 嫌な予感がした、何となく、であるが。ごくっ、と生唾を飲み下して、彼女を見つめる。唇を濡らして、俺を上目遣いに見つめる彼女―――。
 何時もは幼ささえも感じさせるというのに、今は、まるで―――。

 「幸せは・・・拙者がお傍にいる事でござるよ・・・」

 擦り寄ってくる彼女の体は温かく。
 腕に当たる滑らかな肌を包む綿のシャツの感触も心地良く。
 あまり大きくはない二つの胸の感触が―――

 「・・・くっ!!」

 いかんっ!!こんな所で篭絡されてたまるかっ!!
 今、俺の目の前にいるのは、可愛い犬系美少女なんかじゃないっ!!
 そう、誤魔化しに掛かっている―――ちょっぴり色気のある奥さん―――って、違うっ!!違わんけどっ!!
 ふぅっ・・・耳元に掛けられる生温かな吐息―――ふあぁぁぁぁぁあっっ、と思わずうめく俺に微笑みを浮かべ、彼女は囁いた。

 「・・・拙者のお小遣いは・・・0円でござる」

 「・・・ぐっ・・・!!」

 そういえば―――!!
 二人で一緒に買い物をしているときに物欲しげにドッグフードを見つめている事があったような―――んで、駄目でござる、駄目でござるぅとか頭を振りながら言って必死で打ち消そうとして―――んで、涎を垂れ流しながら家まで歩いて―――
 あ、こいつ、ちゃんと財布の紐を締めてんだな・・・俺も見習わなくちゃ・・・とか思ったりして・・・。

 「でも、幸せでござるよ?」

 極上のすまいる―――目の前にあるだけに、破壊力もいつも以上で―――。
 そこで―――俺は気づく。
 彼女の口の端に僅かに浮かぶ―――してやったりと言った意思に。(←被害妄想です)

 「なっ・・・しまったっ!!」

 「何がしまったんでござるか?」

 潤んだ瞳で、微笑みを浮かべたまま。そんな器用なきょとんとした表情で俺を見るシロ。
 騙された―――そう、こんなことを言われてまだ「2000円でどうやって暮らしていけっつーんじゃ・・・」なんてほざこうものなら―――

 「先生!・・・拙者・・・拙者・・・」

 じっと、泣きそうな顔をして俺を見るシロ。

 「・・・はっ、しまった、思いっきり声に出しとったっ!!(愕然)」

 がーん―――と言った擬音でも似合いそうなほどのショックを受けている彼女に手を伸ばしかけ、戻す。何かを言おうとして、口を噤む―――。

 何故なら―――

 彼女は笑っていたから。

 「横暴な夫に虐げられる妻―――「お前は俺の言う事を聞いとったら良いんじゃ!」と、お金を出すのを渋る拙者を殴る先生―――「あぁ、駄目でござるよ、先生!それがなくなったら拙者達、明日から御飯が食べられないでござるよ!」「はっ!明日の事なんか知ったことか!今日も本屋で(ぴー)な本を(ぴー)て(ぴー)」あぁ、そんなこと、駄目でござるよ、先生!」

 妄想に浸りながら。
 ってか、ぴーってなんだ。ぴーって?

 「おい、アホ犬」

 思いっきり冷たい目で彼女を見つめながら―――

 「・・・拙者、狼でござるよ!!」

 いつものように、本当にいつもどおりの台詞をのたまう彼女の頭を、いつものようにはたく俺なのだった。



 金は本当になかったらしい。
 エンゲル係数の以上に高い我が家。
 しかし、驚く事に、収入は一般家庭の二分の一以下だった。
 家計簿に頻繁に現れる牛肉500グラム―――という字を見ないことにすれば、意外と善戦してた。でも、金はほんっとうになかった。以上。









 軋んだ音を立てながら開くドア。
 その先で、クスンクスンと泣く狼娘。
 出掛けにお金がないのはお前のせいだ、と言われたのが堪えたらしい。
 もっと肉の割合を減らせ!といったところそれだけは嫌でござると。
 あぁ、やっぱり肉食獣。とか、訳の分からない事を思いつつ。出かけたあの時を思い出して溜め息をつく。
 苦しげで悲しげなこいつの顔が浮かんできて遊ぶような気持ちになれなかった。
 ったく―――。
 俺は紙袋の中のものをちゃぶ台に放った。



 「・・・先生」

 「何だよ」

 「・・・何で?」

 ちゃぶ台の上に置かれた無造作に置かれたドッグフード。

 「何が?」

 「・・・だって・・・本屋で(ぴー)な本を(ぴー)」

 信じられない―――とでもいいたげな顔。
 失礼な・・・俺は憮然とした顔を浮かべて、そっぽ向いた。

 「・・・何を言ってんだかわからねえけど・・・」

 ぷれぜんとだ。言う間もなく、彼女は抱きついて来た。
 そして、鼻を首筋に擦りつけてくる。むず痒く、照れくさい。

 「何すんだよ・・・」

 「・・・先生」

 彼女は照れくさそうに微笑んで―――。



 「・・・ありがと」

 そして、頬に、そっと、口付けた。

 「で、ござる♪」








 幸せに形はないんだろう。
 じゃなければ、形なんて作る必要も無いのだ。
 不変―――そう、いつだって、幸せの形は決まってはいない。
 時には、お札みたいな無粋な形もあるんだろう―――でも。


 円柱形の形だってあるに違いない。
 人形だってあるだろう。
 だとするなら、俺が今、ちゃぶ台に頬杖つきながら見てるのは『幸せ』なんだろう。

 嬉しそうに、美味しそうに幸せそうに、笑いながら『幸せ』を貪り食ってる『幸せ』。
 そして、俺も幸せをお裾わけをしてもらおうと思い―――幸せの手から幸せとスプーンを取って。
 円柱形の幸せの中身を掬って口に含む―――。








 不味っ。














 追記。

 口直しに腕の中に抱きしめた『幸せ』は―――何というか―――ほんっとうに幸せだった。
 しあわせもしあわせそうだった。しっぽなんていつもの三倍の速さで機嫌良さげに振っていた。


 とりあえず、終わり

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