ザ・グレート・展開予測ショー

尊う (2)


投稿者名:AS
投稿日時:(03/ 7/ 2)

その日も少女は、自分の『親友』、そう呼べる間柄の少女達と談笑しながら帰路へとついていた。
少女達は皆、同じ学校の制服姿で、下校の最中というのがうかがえる。
その制服は、女性ゴーストスイーパーやオカルトGメンなどの予備軍とも言える『六道女学院』の制服である。
当然の帰結で、彼女らもまた並はずれた霊力の持ち主ばかりであった。
「で、昨日の帰り道で宣伝してて、魔鈴さんのお店で新しいメニューが…」
「あら…いいわね。 …あの気の小さそうな大男さんでも誘ってみたら?」
頭抜けた霊力の持ち主であるとはいえ、彼女らも普通の少女であることには変わりない。
楽しく談笑?する少女達…。 しかしそんな彼女ら三人の中に独り、物思いに沈む少女がいた。
長い黒髪を束ねて、細っこく小柄な体はあまりに華奢で、それでも決してそれだけではない何かしらの強さを秘めた少女。
名前は氷室キヌ。 しかしこれは本名ではない。
数百年の昔に、山野を根城とする凶悪な妖魔を鎮めるべく、贄として命を捧げし薄幸の少女。
奇しくも、贄となったその少女の名前も、キヌ。
別人ではない。 同じ存在である少女は、数百年間の鎖を解いて現世に二度目の生を受けたのだ。
その時代にあって希有な域での力量を誇る道士の、その秘術の中核として、地脈の大妖魔を封じた時、彼女自身も自身にこんな未来が待っていようとは想像だにしなかった。
山の神として。 その妖魔が朽ちるまで封じる役目を負い、その果てにもその山の神として在り続ける宿命を負った独りの少女。
道士はその少女の命を、無為では非ずとはいえ散らすことを悔い悩み、いつか少女が再び命を取り戻せる手段を遺してはいたものの、それが実現する可能性は万に一つもありえぬ小さな可能性であった……筈だった。


けれども…奇蹟は起きた。


『誰かに代わってもらえれば成仏できるかな?』

長い永い時を重ねる内、次第に薄まってゆく少女の想い。

重い重い責務を、おしつけられたものとはいえ、そんな責務を少女はやがて綺麗さっぱりに忘れてしまう。

そうして…しかしてそれを機に、気紛れな運命は少女に転機を用意する。

『あの人…あの人なら…ようし』

転機ーーそれは少女と『二人』の出会い。

『ごめんなさい! ごめんなさい! 仕方ないんです! 私のために死んで〜〜〜!!』

少女自らの命と、かつての少女の優しき願いと、それに関わる者達の想いまでもを救う、そんな奇蹟(であい)……。










「つ〜わけでさ…!」


その声に、おキヌは現実へと引き戻された。
「なんだよおキヌちゃん…突然上の空になってさ」
ほんの少し憮然とした声の色に、おキヌはあわてて自省した。
(この季節になると…思い出しちゃうなぁ)
そう思い、控え目に首を振りたくると、少女は怪訝な眼差しでこちらを見つめてる活発そうな少女に微笑んだ。
花が咲いたように、たおやかな微笑み。 と言うには、どこかあせってごまかすようなぎこちなさを印象づける笑みではあったが、それでも活発なその少女、一文字魔理はそれでごまかされることにした。
「あたし、これから草むら野球に助っ人でさぁ…ま、弟みたいなガキどもに頼まれんのも嫌ってわけじゃないんだけどね」
口調は憂鬱げだが、やはり身体を動かすことが好きな魔理は、うずうずして時間になるのを待ってるような気がする。
そんな友達の様子にクス…苦笑したおキヌは、次いでは違う事に思いを馳せた。
(弟…かぁ…)
そういう絆を考えると、やはりおキヌの心には一抹の寂しさが浮かんでくる。
かつて自分が本来、産声をあげた時代よりもはるかに時の流れた未来の世界。 今在る現代。
そこには新たな絆は在っても、血縁、旧き絆は断ち切られたも同然なのだ。
唯一、かつての時代に知る道士(厳密には本人ではなかったが)も今は無く、そういう意味ではおキヌは『独り』という気持ちをいつも持て余してしまう。
「あんたって人は…ま、精神年齢的にはちょうどですし仕方ないですわね」
「なんだとぅ!?」
ふと気付くと、いつものようにお馴染みのいさかいが始まろうとしている。
これは一種の…自然に仲裁役にまわってしまうおキヌも含めた彼女達のコミュニケーションではあるのだが…。
「い、一文字さん、弓さん!」
それを付き合いからわかっていても、おキヌはあわてて二人を押し止めようとする。
「だから…!」
「何を…!」
「まぁまぁ、二人とも…!」
おキヌが割ってはいると、二人は息もピッタリにお互い同時にそっぽを向く。
まるで自分が止めに入るのが、予定されてたかのようなある種のコンビネーションに、おキヌは内心そっと溜息をついた。
(なんだか…私のお友達ってこういう事ばかりやってるなぁ…)
いわばーーこれは一種のじゃれあい。 けれども、それでも喧嘩となると止めに入ってしまうのは、おキヌの根底にある世話焼きな一面。 それ故か。
それを考えると、彼女がこうして仲裁役に回ってしまう組み合わせ、ペアは数多い。 同様に仲裁役を買って出てしまうことが多い神父の頭髪は絶賛減量中だ。
少し怖い考えに至って、おキヌがそっと自分の前髪やら後頭部をチェックし始めた。
そんな時、孤独感など感じない自分にふと気付く。
(私には、こんなにお友達がいるもの…お姉ちゃんだっている…独りぼっちなんかじゃ…)
ピリリ、ピリ……!
突然に、おキヌの耳に聞き慣れないメロディが聴こえてきた。
(……?)
中断を余儀なくされた思考。
(いんべーだーの音みたい…どこから?)
音は近くから聴こえる。 少し時置いてそれが自分の鞄の中からということに気が付くと、おキヌはすぐに思い当たった。
携帯電話。
それまでおキヌは、あんまり好んで使おうとはしなかったが、おキヌの働く除霊事務所の所長から「緊急時の場合に連絡を取るため!」 と、強く押され、やむをえず鞄にしまいこんでいた物だ。
鞄を開けて、丁寧に揃えられた教科書の並びを崩さないように、そっと携帯を取り出す。
「はい…もしもし氷室です…」
「おキヌちゃん!?」
「は、はい!?」
不意に携帯電話の向こうから聞こえてきた声は、事務所の所長のものだった。 しかし妙に切羽詰まったその声に、おキヌはおっかなびっくりしてしまう。
「あ、わわっ」
落としかけた携帯をなんとかキャッチし、ふと近くで目を白黒させる友達二人と目が合った。
二人とも、第二ラウンドへ突入するのも忘れて、てじっとおキヌのほうを見つめている。 そこでようやくいくばくかの平常心を取り戻したおキヌは、携帯に向かい話しかけた。
「美神さん…ですよね? 何かあったんですか?」
「何かもなにも…! ああおキヌちゃん早く帰ってきて! シロ達にヒーリングを…!」
そこまで聞いてからの、おキヌの行動は迅速だった。
「一文字さん! 弓さん!」
『は、はい?』
普段はめったに見せない、おキヌの凛とした眼差しと意志のこもった声に、二人は生返事をしてしまう。
「私、急用ができちゃったみたいで…失礼しますっ!」
そう言うが早いか、事務所への見知った近道を駆け出すおキヌ。
半ば呆然と、そんなおキヌの後ろ姿を見送る魔理は、「やっぱりプロなんだなぁ」と呟いてしまった。
心持ち圧倒されてしまった自分を叱責するように、両頬を張る魔理。
そうして気持ちを奮い立たせると、同じく呆然としてるであろう『宿敵?』がいた方へと振り返り、言った。
「追いかけようぜ! あたし達でも何かの力に……!」











それから十数分。 事務所に着いたおキヌは、そこを管理する人工の霊魂への帰宅の挨拶も程々に済ませて、みんながいるであろう二階の休憩室へ駆け上がった。
「おキヌちゃん!!」
姿を見せたおキヌに、事務所の所長であり、世界でも指折りのGSでもあるその女性、美神令子が駆け寄っていく。
「こっち!」
強引におキヌの腕をとり、誰かが寝かしつけられている二つのベッドへおキヌを引っ張っていく。
近くで見たそのベッドには、おキヌもよく知る二人の少女がそれぞれ寝かしつけられていた。
(シロちゃん! タマモちゃんも…!?)
シロ、タマモ。
シロは人との共存を望む人狼族達が、その掛け橋となるよう希望としてこの事務所に預けた侍気質の少女である。
タマモはかつて殺生石に封じ込まれていた妖狐であり、紆余曲折を経て、今はこの事務所でともに暮らしている。 
そんな二人が、生気なくベッドに横たわっている。 ふと横を見ると、もう一つのベッドにはバンダナ青年が白目で仰向けに転がっていた。
「これって…一体何が!? 三人ともどうしたんですか!?」
サッと…そう詰め寄ったおキヌの姿から、美神は微かに目をそらした。
(……?)
その一瞬の挙動に対し、おキヌがいぶかしむより先に、美神はすぐにおキヌに語りかける。
「シロとタマモは…体中から相当量の霊気を抽出されているわ。 ……これでもかなり持ち直したのよ」
「横島さんは…?」
「横島君は今まで文殊で二人に霊気を注いでいたの。 今はダウンしているけど、貧血とおんなじ…すぐに目を覚ましたらまた根こそぎ注いで貰うだけ」
その美神の説明で、何故自分が呼ばれたかは理解できた。 が……。
(なんだろう…? さっきの美神さん、はぐらかした……?)
不透明な部分がある。 でも自分がしなくちゃいけないことは変わらない。
(うん…そうよね!)
そう自分に言い聞かせ…おキヌは両手を二人へとかざした……。














巫女の形へ象られた闇は、二人の少女を足下に敷いて揺らめく。


いや、二人の少女だけではない。 闇から発せられた澱みにあてられ、周囲の人々は皆倒れ伏している。





『この、わたし、を知る異力のモノ達…』


『戸惑わせ一つめ凪も…』


『眩し照らす夏至陽も…』


『深緑染めや烈し朱も…』


『舞い覆わん凍え白も…』


『春秋幾た重ねようと、癒えはしない…』















『わたし、は……わたしをさがす……………』

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