ザ・グレート・展開予測ショー

尊う


投稿者名:AS
投稿日時:(03/ 7/ 2)

それは降るように、零れるように。 

一滴の水滴が心の海へと引かれ落ちる。

落ちた滴は海に溶け込み、色を変えた。

悲しみから…憎しみへと…。







季節により降り続ける雨に、土はぬかるみ、その山には人気がなかった。
その山の空虚な寂しさを払拭するかのように、やがて灰色の厚い雲間から陽光が照り出す。
雲間から覗いた太陽は、惜しむことなく光を撒いた。 それは取り残された山を世界が、暖かく迎えるかのように。
しかし。
山の一部。 ゴポ、と、ぬかるんだ土の一部が盛り上がる。
その周囲には淀んだ空気が溢れ覆い尽くすと、暖かな陽光を全く拒む闇が産まれた。
闇の中で、盛り上がった土は不安定に蠢く。蠢いてはいたが、やがて己の姿を思い出したかのように、一つの形を作っていく。
「…キ………い」
その山より産声を上げた闇の形は、呻き声ともとれる音を発した……。




山育ちの少女は上機嫌であった。
最近ではいつものように、彼女は互いに『認めてはいない相棒』である妖狐の少女と散歩と称して勝負をしている。
勝負の内容は簡単。 散歩の帰り道に、どちらがより早く二人ともに働いてる事務所まで辿り着けるか、だ。
結果は今までのところ…。

「タマモ…足遅いでござるなぁ……!」

にんまりと。
それはもうとことん嬉しそうに、タマモの相棒…シロは笑顔を絶やさないでいた。
そろそろ付き合いも長い。シロは優越感に浸って敗者を愚弄するような女じゃないということはタマモとて、いやタマモが一番わかっている。
わかっているのだが……それでもプライドの高いタマモに、勝ち誇ったこの顔はあまりにも勘に障るものと言えた。
(一瞬のスピードなら私のほうが速いのに…!)
シロとタマモ。
同じ犬科の妖怪である。
とはいえ、元々は何ら接点のない二人。 ふとした経緯から、お互いに美神除霊事務所の面々と関わることとなり、その縁で出会ってからの付き合いである。
(だいたい…こいつのスタミナは異常すぎるのよね…横島のやつ、人間のくせによく今までこいつと散歩を…)
もはや完全にスタミナも尽きたタマモ。 そんなタマモの前を行くシロは、速度を落として余裕の風体であった。
「どうしたでござるか!? ……早く帰らないとタマモの油揚げまで拙者が…」
「シロっ! 前っ!」


昼と夜を分けるかのような、夕暮れの風が吹く中で、その事件は幕を開けた……。


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