ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『機身の聖女』


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(03/ 7/ 1)

 その日、マリア零式の完成披露式典が執り行われた。
 カンパをちょろまかそうという、幹事・美神令子の発案である。
 ドクターカオスとしても、この話はうってつけであった。
 なにしろ、辣腕のゴーストスイーパーを集めての初起動ともなれば、保険が利く。
 前回のように厄珍と二人っきりでは、暴走した戦闘マシンは止められない。
 もっとも、暴走しないに越したことが無いのと同様、零式が強いに越したことは無い。
 ゴーストスイーパーの総攻撃を軽くあしらうぐらいの戦闘力は望むところではあるが。
 その意味で、暴走し、仲間達の手にかかって廃棄、というのは二重に失敗である。
 ちなみに一式――つまり今までのマリアはスペアの局地作戦用ユニットで稼動中。
 従来の50%の処理速度と30%の出力という低性能ではあるものの、ひとまず動く。
 だが、カオスの保険は無用であったようだった。零式は問題なく起動した。
「……起動。機体状況確認、第三種待機コード受信。出力を25%で維持」
 マリアとまったく同じ顔貌、体躯。服装はワイルドなレザーだが腕と背中は剥き出し。
 顔と手足には解り易いビスが打ち込まれ、遠目にも人外であると判る。
 これは、日常生活が不必要と考えたカオスが人工擬態皮膚を節約した結果だった。
 間接各部位にも亀裂が見え、背中には大きな接続端子の蓋が目立っていた。
 アンテナは戦闘を考慮し、頭の上方よりも安全な、若干後方に伸びている。
「うーん……俺としては技術の発達に伴って、もっと生っぽい姉ちゃん期待したんだが」
 ぼやいたのは横島であった。その隣りではキヌも戸惑っている。
「本当に、なにかマリアっぽくないですよね。……でも、見かけで判断しちゃ……」
「まあ、どうでもいいじゃねぇか」
 気楽に言う、伊達雪之丞。
「戦闘用ってんだ。ようは強ければなんでもいいってこった」
「――ってことは」
 彼の言葉を受け、西条が神妙な顔つきで呟く。
「当然、前のマリアより強いということ。じゃあ、僕達と比べたら……?」
 禁句を言ってしまった。
「ああっ!? バカタレ!! 相手見て言葉選ばんか!!!」
「……」
 無言で、雪之丞が舞台に上がっていった。カオスがそれに気づく。
「……お主か。ま、みなまで言わんともわかるわ」
 だが彼は面倒そうに、雪之丞を止めた。
「戦技テストはいつかしなくてはならんが、一対一だと危険すぎる。
あとでメンバーを選抜するから……」
「なにが危険だ? 心配すんなよ。ほんの一発試すだけで壊れやしないって」
 その目はギラギラと闘争本能が滾っており、火がつくのに一発で十分という感じだ。
 だが逆に、この目になまじっかな説得が通用しないのも、カオスにはわかった。
「仕方ないのう……零式、出力は現状のまま、思考ルーチンを迎撃戦闘モード」
 キ
 命令を受け、零式の頭部で甲高い処理音が鳴る。
「カウンターアタックモード起動。質問します。ターゲット処理の優先行動は?」
「未処理じゃ。可能な限り破壊しないように」
 キ
「確認しました」
 日本産の人工偽脳の返答。
「気に入らねぇな。手加減される覚えはねぇぜ。こちとら戦歴は上なんだしよ」
 言葉とは裏腹に薄い笑みを浮かべ、雪之丞は言う。
「けどまあ、いいか。すぐにその気に――させてやらぁ!!」
 ヒュッ
 稲妻のような鋭さの右の正拳が、零式の頭部に迫る。零式は頭部を後方へ逃がし――。
 パァンッ、ビビビッ
 零式の出力が低い以上、そのスピードは本来のものではない。綺麗にパンチが決まる。
 同時に、零式の頭部に大きな振動が響く。
 その出来事に、場内が沸く。
「なに? なんか面白そうな余興が始まった!」
「やれやれー」
「こらぁぁぁぁぁぁ!? メカっ娘に、メカっ娘に手を上げるとは不届き千万!!」
 自分で後方へ跳ぼうとした力に、雪之丞の打撃が加わって大きく吹き飛ぶ零式。
 そして雪之丞も、この時同時に後方へ吹き飛ばされていた。
「な……!?」
 ゴッシャアアアアッ
 特大の料理皿の真上に落下する雪之丞。零式の方は片手で手をついて華麗に着地。
 雪之丞の攻撃へ、防御が間に合わないと察した瞬間、零式は雪之丞を蹴り飛ばした。
 そうすることで雪之丞の拳の前進エネルギーを相殺したのである。
 ウェイトの軽い雪之丞に対し、この効果は最大限に発揮された。
 パワーとスピードでは、素のままの雪之丞を上回ることは言うに及ばないが、それ以上
零式は雪之丞の戦闘経験にまったく引けをとらない戦術理論をその身に宿している。
 しかも零式の重量は、マリアの200kgをはるかに下回る軽量構造だった。
「ふっふっふ、ぐわはははははははっ!! この天才の最高傑作を見たか?」
 高らかに笑うカオス。
「戦闘経験なら、マリアのバックアップを使用すれば造作も無いが
特筆すべきはその軽量化! オールインワン構想を捨て、戦闘に特化するにあたり
ワシは同時に装備の外部接続による取捨選択方式を採用し、内蔵武装を一切持たせない
フレキシブル構造を考案したのじゃ!! これによって零式の重量は80kgまで下がり
戦闘に重要なレスポンス即ち反応速度の飛躍的向上に成功したばかりでなく
多少不安定な足場でも沈没することなく踏破可能という、二足歩行の革命に到った!!
結果、零式は一式(マリア)と比べて運動性能と格闘能力がずば抜けて優っており
今までのように無為に弾薬や燃料を消耗してオーバーコストになる心配も解消した」
「素晴らしいですっ!」
 感動して泣く、アン・ヘルシング。(彼女まで列席していたのか……)
「是非そのノウハウで、私のおじいさんの作品も強化してください!!」
「ふははははははっ♪やらいでか!」
「やめてください!!」
 ピートが泣きつくが、その言葉は誰にも届かない。
「面白ぇ!! 格闘戦なら、絶対譲れねぇ。やってやるぜ!!!」
 魔装術を行使し始める雪之丞。ここまでくると、もう余興では済まされなくなる。
「次! 次、拙者も挑戦していいでござるかっ!?」
「ふははははっ! 次といわず一斉に挑んでも構わんぞ。零式、出力40%まで解禁!」
 ……どうやら彼らには余興らしい。
「しゃらくせぇ!! ワン公は左から寄せろ! 挟むぞ」
「な……初対面の相手にいきなりワン公呼ばわりは無礼……」
 しかし二人が掛け合いをやっている間に、零式は自ら二人の中間に踏み込む。
 ドンッ
 零式が最初にしかけた相手は、シロ。霊波刀を組むと同時、間合いも詰まる。
「このッ!!」
 ズガバババッ
 霊波刀が、唸りを上げて零式を捉え――あろうことか、零式の方からも手を突き出す。
 零式の掌の中でスパークしながらも、完全に抑え込まれる霊波刀。
「そんな……!?」
 霊波刀に打ち負けた、妖刀八房がマリアの腕を寸断している光景を知っている者達から
驚愕の声が漏れる。
「甘いわい。前回の課題を全て克服して初めて改良という。
零式の装甲材は、常に霊波拡散粒子を展開して霊なるモノの威力を分散させる。
物理攻撃か、さもなくば分散による霊気薄膜化に打ち勝てるだけの霊力でなくては
零式の装甲を破ることはできんというわけじゃ」
「本当に素晴らしい……」
 そうこう言う内に、零式はシロを持ち上げ、雪之丞に投げつけて彼の動きを止める。
 もっとも、そこは二人とも体術に関してはエキスパートであり、容易に立て直す。
 だが今度の零式の速度とパワーは向上しており、一対二でも圧倒している。
「しかもここに、武装を後載せできるんでしょ? これは……」
 瞬間。格闘している三人――正確には一人と一匹と一機――の上の影が揺れた。
 ズッシャンッ
 電灯が落下して、零式の頭をすっぽり覆った。そのケーブルには焼き切った痕跡。
 タマモの搦め手である。
 視界が閉ざされている零式に、雪之丞とシロの猛攻。
「む……いよいよこれは、戦闘モジュールの出番か」
「砲撃パーツ『ガンサーバント』コンタクト」
 ゴンゴンゴゴゴゴゴゴッ
 爆音をたなびかせて、黒い塊が接近する。それは重火器の集合だった。
 零式の背中にドッキングし、左肩にミサイルポッド、右肩に戦車砲が固定される。
 右腕には樽のような太さの長大なパーツが被さり、左腕には太い大砲も装着される。
 電灯の笠を潰して、頭部には多目的スコープバイザーも填まった。
「うおおおおぅ!?」
 さすがにこのフルアーマー形態には、雪之丞も面食らう。
「ふふふ。他にも突撃用ブースター付きドリル『ツイスタージャベリン』やら
決戦用スラスター付き巨大剣『大鉄斬』やらツボつきオプションが目白押しじゃ」
「ファイア」
 一斉砲撃が炸裂し、それによってパーティ会場が地獄絵図と化し
さらにそれで六道女史が錯乱して零式の基部に大打撃を与え、いつもの騒動になる。
 ちなみに右腕はビームガトリングガンで左腕は巨大レンズ集束レーザー砲だった。
 その中で。
「……」
 一式(マリア)はエプロンドレスで掃除の支度だけを黙々と続けていた。
 自分の居場所を、そこと定めて。
「マリアの――ノー」
 今は、ただのマリアではない。
 自分は、マリア・ファースト。新たにできたミドルネーム。マリアは今や二人。
「でも・居場所は……」
 彼女は機械である。思考はプログラムである。だから、感情があるとすれば――
それは、その偶発のものは、一般には『バグ』と呼ばれるモノのはず。
 そんな彼女が、あってはいけないことだが、その時は、思った。
 懐かしいあの頃に、帰りたいと。懐かしいといえるほど経っていないが。
 それになにより、感情などバグなのだが。カオスに意見するなど、あってはならない。
 零式が今いるあの場所が、恋しいと、思ってはいけなかったのだが。
 それでも彼女は、初めて、
「ファーストは・狂って・います」
 間違ったことを、考えた。黒い感情を。なにかを傷つける思いを。それが自覚できる。
 傷つけたい感情ともいえる。
 零式がいるから、零式がいなくなれば、いっそこの手で――それは、狂おしい嫉妬?
 居場所を奪われたから、トモダチを奪われたから、かけがえないモノを奪われたから。
 彼女には新しい存在意義がある。そして誰も、彼女を見捨てはしない。
 テレサの時は考える余地すらなかった。なぜならテレサは間違いを犯したから。
 しかし現実に、彼女がいた、あの騒動の中心にある零式は、非の打ち所がなかった。


次回『0と1のアンビバレンス』で完結できるはずです。なんでこう、長くなるかな?

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