ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その29(B))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 7/ 1)

ピッ・・・・ピピッ・・・・ピチャッ

何かの液体がコンクリートの床と京華の頬についた。
生温かく・・・・鉄の臭いがするソレを京華はゆっくりと右手で拭ってみた。

「・・・・・血」

右手を小さく染めたソレの名を言ってみる。
そして次にソレを流した人の名を呼んだ・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・お母さん?」

ドサ・・・・

はじめは何が起こったのか分からなかった・・・・しかししだに状況を理解していく京華の脳。
突き刺さった触手が抜かれる・・・倒れる母・・・冷たい床に広がる血の水溜り・・・

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!!」

京華の絶叫が訓練館に響く。
半狂乱になりながら母を揺すってみるがそれがフラウの出血をさらに促すと分かり、
何とか落ち着いて話しかけてみる。

「ごほっ!!・・・かはっ」

上体を抱き起こしただけでも口から血を母にヒーリングを施してみる。
霊力は使い果たした・・・・でも・・・・少しでもいい、少しでもいいからフラウの傷を治したかった。

「お母さん!お母さん!!」

泣き叫ぶ京華・・・そのとき

『くくく!あははははは!!!子をかばう母・・・傷ついた母を想う子・・・
 なかなかいい絵だ俺には興味がないのでね・・・そろそろ死んでくれ』

京二がコントロールルームでパチンと指を鳴らすと大ムカデはゆっくりと巨体を動かし京華達に迫った。
新たに得た鎌を持ち上げフラウに覆い被さるように抱きつく京華に振り下ろした・・・瞬間。

『ぐ・・・・ギュアギャギャギャギャ・・・・・!!!』

大ムカデは奇怪な悲鳴と共に苦しみその身体を歪めるとズズンと音をたて地面に倒れた。
いや、倒れるだけではない。その身体はまるで何かと拒否反応を起こしながら凹凸を作りながらもがき苦しむ。

(・・・ちっ・・・一度にたくさん能力を喰ったせいで暴走しやがった)

京二の言ってることは正しかった。
大ムカデは訓練用妖怪を食い確かに強くなった、しかしそれは凄まじいまで拒否反応を呼び起こし、
すでに原型をとどめてはいない。

「こいつは破棄する所詮出来損ないだ。
 まあいい、ここはお前達にまかせる・・・・あいつらを処分したら報告に来い」

椅子をキィとしならせ白衣の男達に指示を出した瞬間だった。


パリイイイィィィィィン!!!!!!!


「なっ!!」

突如聞こえるガラスの砕ける音。
砕けたのは・・・・コントロールルームの防弾防霊ガラスの窓・・・
砕いたのは・・・・暴走した大ムカデの触手。
妖怪の攻撃で砕けるような強度ではないガラス・・・・しかし・・・フラウの撃った銃弾のヒビが誤算だった。

『ギョボギョボギョボギョボギョボギョボッ!!!!』

ニュルニュルとした触感であろうその先にはまるで肉食獣を思わせる牙と口がついている触手は獲物を捕えると。

ザシュ!!

「ぎゃあぁぁ!!」

ドジュ!!ゴシュ!!

「ぐほぉ!!」「ぎぃやぁ!!」

白衣の男達を一瞬にして肉の塊に切り裂いた。
京二はその光景に嘔吐感を覚えながら決して広くはないコントロールルームを尻餅をつきながら後ずさる。

「ひぃ!!近づくな!!近づくな!!!この化け物!!!
 それ以上近づいてみろ!この俺が作った特製の除霊薬で・・・・」

胸元からこんなときのために作ったとっておきを取り出す・・・・・・・・・・ことは出来なかった。
なぜなら・・・・

「あれ?右腕がない?」

肘から下がない自分の右腕を京二が見た瞬間・・・・

ガバビュっ!

触手の先端にある口が京二の頭蓋を噛み砕いた。















「お母さん!逃げなきゃ・・・・逃げなきゃ」

(・・・・京華・・・・)

必死に自分を支えて脱出しようとする娘を見つめるフラウ。
護ってあげたい、声をかけてあげたい・・・しかしもう駄目だった・・・

フラウが刺された箇所は7箇所・・・・うち三つは内臓を傷つけている。
出血は止まらない、霊力も上手く制御出来ない、気管を伝って血がのどをふさいで声も出ない。
おそらく・・・もうすぐ自分に訪れるもの・・・それを理解したときフラウの覚悟が決まった。

(京華・・・・・あなたのためなら私は命だろうと、禁術だろうと使っても平気・・・)

フラウはそっと微笑みながら京華の咽喉(のど)に血で赤くなった右手を添えた。

(だから・・・・少しの間声を貸して)

「あっ・・・」

母の手が添えられた瞬間京華の身体が動かなくなる。
突然の異変に何事かと思ったが母から伝わってくるナニかですぐに理解できた。

「rupalala tu dihauto lo kisuretollbaruha li・・・・・」

自分の意志とは関係なく口から出てくる覚えのない呪文。
そうフラウは京華の声を借りて魔導プログラムを組み立てているのだ、
これなら自分の声が出なくても術が発動できる・・・・が、

京華はそんな母の行動にポロポロと涙を流した。
声にして言いたい・・・しかし声どころか首も動かせない京華の必死の呼び声が涙となっていた。

(ダメ・・・駄目だよ!お母さん!!!)

言霊を送り込み魔導プログラムを立てるフラウの思念波がかすかに京華に流れている今・・・
京華は母の思いが痛いほど分かった・・・・・・なぜなら・・・・今唱詠しているのは発動者の命を削る禁術なのだから。

(今、こんなことしたらお母さんが死んじゃう!!お願いだからやめてぇ!!)

心で叫ぶ京華の絶叫・・・・しかしフラウは微笑むだけでだった。

「・・・・・・・・・・・・・・ratahoba lu bilotihuirara ruura
 生命の息吹は万物に訪れ また等しく滅びの詩も万物に訪れん・・・ 
 今我血の冥約を交わし 我が眼前の敵を討たん 
 その呪われた力をもって 全てを滅せ・・・・・・・・・・・・・・」

そこで京華の声は止まり身体の自由を取り戻した瞬間。
術の発動を止めようと母の口を塞ごうとするが・・・・それはフラウ自身の腕に阻まれ出来なかった。

(・・・・・・京華・・・・)

1秒にも満たない時間だけ・・・・フラウは愛娘を見つめ・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・斬死血界陣<ブラッディ・デスペラード>」 

術を発動させた。


ビュ・・・ビュ・・・

まずは
血・・・変色を起こした。
赤き血は漆黒に染まり始める、床に付着した血も、フラウから流れる血も、京二達の死体から流れる血も。
次はその黒い血が地を走り大ムカデにまるで生き物のように巻きついていく。

そしてその黒血が・・・・

ザシュ!!

大ムカデを真っ二つにした、いや、それで止まらない。
4分割、8分割、16分割、32分割・・・・・・・・・・・・・・・・最後は16384分割まで細かく切り裂くと・・・

ドシュウ!!!

その血と交わった『元』大ムカデ破片が爆散した。





破壊された訓練室・・・

生きているのは『かろうじて』を合わせてたったの三人・・・

そして・・・破壊から逃れた唯一の天井の照明が暗い闇の中・・・・一組の母娘を照らした
娘・・・・京華は静かに目を閉じたまま仰向けで横たわる母の傍でじっと正座をしながら目を開けるのを待っている。
そして・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・ケガはない?」

「お母さん!!」

京華の瞳に歓喜の色が浮かぶ・・・・が。

「京華・・・どこにいるの・・・・・何も見えないの・・・・」

「!?」

虚ろな瞳は焦点が合わずに泳ぎ生命の欠片さえ感じさせない。
出血多量と霊力の消耗・・・・それがフラウの視力を奪ってしまったのだ。
京華は一瞬泣き出しそうになるが何とかこらえそっと手を握った。

「ここだよ!?京華はここにいるよ!ケガなんてないから!
 待っててね!今、ヒーリングかけるから!!」

ヒーリングをかけるために両手かざそうとするが・・・それはフラウに止められた。

「やめなさい・・・あなたの今の霊力じゃ疲れるだけだから・・・」
「何言ってるの!?だって、だってこのままじゃお母さん死んじゃ・・・・・──」

言えない・・・・それから先は言えなかった・・・。
この先の言葉を言えば嫌が応でも母の『死』を認めてしまうことになる・・・・そんな衝動にかられる京華。

「ごめんね京華・・・お母さん・・・・授業参観行けそうにもない・・・・」
「!!?」

確かに明日は楽しみにしてた授業参観。
しかし、今まで京華自身忘れていたのにこの状態でも覚えていてくれた母の言葉に涙が浮かぶ。

「いいから・・・じゅぎょう参観なんていいから・・・。そうだ!お母さんのケガが治ったらピクニックに行こうよ!
 京華ね、かすみちゃんといい公園知ってるんだ!この近所なんだけどすごい見晴らしがよくて大きいの!
 だから、お弁当作ってさ、かすみちゃんも誘って一緒に行こ!花かんむり作ったりさ、キャッチボールしたり、
 それから・・・・それからぁ・・・・・・・それからぁぁ・・・・ぐすっ・・・うぅ」

ポタ・・・・ポタ・・・

温かい雫がフラウの顔に落ちてくる。
その雫・・・・涙はやがて雨のようにボロボロとフラウを顔を湿らせ凝固した血を溶かした。

「京華・・・・」

フラウは優しく娘の涙を人差し指で拭うと胸のロザリオをスっと外した。
血に塗れたロザリオ・・・・フラウはそのロザリオをギュと握ると残りの霊力を全て込めた。

「京華・・・お母さんはもうあなたと一緒にいることは出来ないの・・・・だから・・・・
 この十字架があなたを護ってくれるわ・・・・きれいでしょ?・・・・銀色」

もう銀色じゃなかった・・・・フラウの血・・・
それに覆われていたところに霊力を込めたせいでまるでメッキのように十字架は紅くなっていた。
でも・・・

「うん・・・・とっても・・・とってもきれいだよ」

京華にとって色など関係ない・・・母の想いがこもったロザリアは至高の宝物だ。

「そう、よかっ・・・・・・・・・・げほっ!!!」

「お母さん!」

最後の霊力を使い果たしたで応急処置の止血効果が消え再びフラウの口から血がこぼれた。
白い襟も袖も、修道服と同じように紅く染まっていく・・・血の『ように』赤くではない・・・血で紅く。

「お母さん!死んじゃやだぁ!!」

母の手を頬に当てながら泣きじゃくる京華・・・フラウは最期の力を振り絞って声を出した。

「きょう・・・・か・・・・あなた・・かはっ・・・・はぁはぁ・・・だけはしあわ・・・・せに・・・ハッハッはぁはぁ・・・・なって
 ・・・・・・だって・・・・・・・・─────あなたはこんなにも優しい子なんだから」

笑み。
力なく落ちる手。

「・・・・・お・・・・かあ・・・・・・さん?」


フラウが京華の声に応えることは二度となかった。
                                     
                                  その30に続く

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