ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『ヒトを模したモノ』


投稿者名:ダテ・ザ・キラー
投稿日時:(03/ 6/30)

 ドガガガァッ
「チッ……老いたりとはいえ魔王たるこのワシが、まさかこんな迂闊な……」
 中程度のクラスの魔族による攻撃に、彼は滾るような激情と言葉を吐き捨てる。
 状況はまったく、彼にとって面白くないものだった。要約すると、こうだ。
 場所:工場地帯のとある廃墟/時間:終バスの出発から約50分程度/状況:戦闘。
(助けを呼ぼうにも、ここ2km界隈には人っ子一人居らん……クッ、愚かな!?)
 助けを乞う。魔王が――天才科学者が。有り得ない。そんな、愚かな、選択肢は。
 愚かといえば、むざむざ敵の情報の不足を甘受してのこの事件処理を引き受けたこと。
 まったく、生活の苦境で脳が疲れていたことを差し引いても、天才に有るまじきこと。
 ただ、天才ゆえの、過信。これは、認めなくてはなるまい。
 どうとでもなると思い、つい、ターゲットの確認を怠った。不可能だったが。
 少なくとも、かの強欲女率いる除霊事務所に万が一のバックアップを申請すべきだ。
 かつてのアシュタロス――魔族の大物との激戦において最後まで戦線を維持した自負。
 並の相手などに後れはとらないと、タカをくくり、結果、相手も並ではなかった。
 実にシンプルな、実に滑稽な窮地だった。彼自身をして、魔王が聞いてあきれたもの。
 唯一、幸福だったことは――いや、それはあるいは最も不幸なこと――
敵に打たれていたのは、彼、ヨーロッパの魔王ドクターカオスではない。
(クソ……動きもパワーも、ワシでは太刀打ちできん。だがヤツがワシさえ狙えば)
 カオスに勝算があった。天才に、今実現しうる最大限の攻撃力は、容易に考察できた。
(フリーになったマリアのフルパワーを、敵の側面から叩き込めれば勝機はある……)
 現在、魔族のサンドバック状態になっている、彼の最高傑作を見つめた。
 ズギョンッ
 人工皮膚はあちこち破れ、潤滑油は床にぶち撒かれ、既にそれは半壊状態。
 いや、『かろうじて動ける全壊』という方が表現は近い。奇妙だが。
「ジ……ク……」
 壊れた発声機構で、それは言葉にならない声を出す。
 それでもカオスは、魔族が自分に気移りするのを辛抱強く待った。
 彼は不死身。たとえ人間など軽くひきちぎる膂力でも、一撃にはもちこたえる。
 ゴッギャリィンッ
 響く、金属を打ち鳴らす音。マリアが背面の鉄壁に叩きつけられたのである。
 これが、最後のチャンスだ。いかな天才の最高傑作でも、あと一撃は無い。
「両腕。特に右腕は肘から下を丸ごと。そして左足は七割」
 カオスは、外から見えるマリアの大雑把な損傷を口述しながら、その姿を吟味した。
「……なんということだ……これでは、中枢が生きてても身動き一つ取れん。
マリアは、武器としては、もう完全に停止した……」
 その絶望の呟きを、満足そうな顔で、魔族が聞き惚れた。
「ああ、そうだとも」
 魔族は詩を吟じるように言った。
「お前から殺してやってもよかったが、人形は絶望などしない。希望が無いのだから。
だから、お前に絶望を見せつけて、ゆっくりその表情を味わって殺す。正解だったな」
「……ワシは不死身じゃぞ」
「不死『身』ねぇ? 身体は殺せないわけか。関係ない。私はお前の心を殺すつもりだ」
 じゃり
 ドクターカオスに向き直る、悪魔。もしも悪魔に、死後があるなら――。
 ドンッ
 背中に衝撃。次の瞬間、人の技、科学の力が暴走した。
「……ジ」
 また、ひずんだ音声が風を震わせる。
「ジ……バ、ク……」
 ゴヒュゥッ
 被害:半径100m以内の地形の消滅、マリアの汎用ユニットに致命的欠損、および
ドクターカオスの肉体の二割弱に軽度の火傷。
 もしも悪魔に、死後があるなら、彼は人生唯一の失態をさぞ悔やんだことだろう。
 カオスと同じか、あるいはそれ以上。

「いや、死ぬかと思ったわい……」
 話し終えたカオスは、図々しくお茶のおかわりなど要求しつつ、ソファに寄りかかる。
「そら、そーでしょーとも」
 やる気なく返事する、美神令子。
「対消滅リアクターの爆散を魔族の責任にして賠償を逃れられなければ、今ごろは」
「死ぬかと思ったのは家計の方なの? ……なんか、私がこうツッコむのも嫌だけど」
「はー……それにしても、これからマリアを復旧せんとなあ……」
 美神の渋面などまるで気にすることなく、カオスは空中を見つめた。
「結局、死ぬほど赤字じゃ……」
「だったら自爆装置なんか載せるのやめなさいよ。うちの子達が聞いたら大騒ぎするわ」
 美神はともかく、彼女の部下はかなりナーバスにできている。
 マリアを粉微塵に吹き飛ばしました、などと言えばなんと応えてくることやら。
「使うつもりなんかビタイチ無かったでな」
「じゃ、なんで?」
「そりゃお主、ロボットにはロケットパンチと自爆装置は必需品じゃろが。
これに不安定な動力を組み合わせればまさしくロボット三大神器」
 さらりと言ってくれるドクターカオス。
「はあ? ……あんたって、なんでそうナンセンスなの。
使うつもりが無いのに、様式美ってだけでそんな高価そうなシロモノ組み込んで……。
っていうかそもそも、マリアってあんなゴテゴテ装備造る必要ないはずじゃない」
 迫り来る眩暈に額を押さえ、美神は苦々しくうめく。
「侮るなよ美神令子! このドクターカオス、ヨーロッパの魔王と呼ばれて幾星霜
王と称されたからには、お約束イコール『王道』などから退くつもりは毛頭ないッ!
たとえ明日飢えて朽ちようとも、ワシは今この時に王に相応しい生き様を体現せり!!」
「だからって限度ってもんがあんでしょーが! あんたのせいで何人失業したのよ!?」
「フッ! 青いぞ美神令子!! 『魔』王たるこのワシ、弱者の立場など一顧だにせぬわ」
「ずいぶん都合がいい肩書きじゃないのよ、えぇ!?
そんじゃあ軽ぅく、勇者に退治されてみる……?」
 不吉な――としか形容しようが無い――笑みを浮かべ、指を鳴らす美神。
「ちょ、ちょっと待て! お主のその邪悪な性根の何処が勇――」
「オノレに言われたかないわーッ!!!」
 哀れ。せっかく奇跡の生還を遂げたカオスであったのに。
 常人なら十二回死ねるくらいのいい蹴りをもらった。
 ……美神が指を鳴らす理由は、潔いほどに皆無だったわけであるが。
「ま、なんにしろこの機会に考え直した方がいいわよ?
戦闘と家事を単機でやらせるメリットなんかゼロでしょうに。
マリアから武装をオミットして、純粋なメイドロボにしたらいいじゃない。
その上で強力で安価な兵器をちょちょいと造って――」
「いや、しかしテレサの件も――」
「だから、メタソウルとかじゃなくて、完全機械のロボットを作ればいいのよ。
バロンはうまくいってたんだし」
「ふうむ……」
 カオス。大天才錬金術師ドクターカオスは考え、悩みに悩み抜いた。
 時間にして数十秒だったが、天才の脳はその驚異的スピードで常人の二年分は考えた。
「……その手があったか」
 ぽむ。カオスが手を叩き合わせた音である。
「ていうか、この手しかないじゃない。
この程度の結論弾き出すのになに時間かけてんのよ」
 常人の二年分の脳活性ができても、常人の五秒に劣る場合がある。
 天才に自覚は無かったが。
「うむ。そういうことなら、昔メタソウルの憑依に失敗したユニットがあるでな。
中枢部分を総機械仕掛けにすれば、マリア零式として蘇るかも知れん」
「渡りに船ね。今のあんたが造るより、数百年前のあんたの作の方が信頼できるし」
 こうして、ここにプロジェクト『ZERO』が発動した。
 この作戦が成功すれば、カオスの生活能率が向上、某軍はあと十年戦えるはずである。
「某軍ってのはどこの誰で、誰と戦うってぇのよ……?」
「まあまあ。景気づけじゃろ。細かいことにツッコむのは、野暮というものじゃぞ」


ごめんなさい。もぉ少し続いちゃったりします。『機身の聖女』でまた会いましょう。

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