浪速恋しぐれ
投稿者名:赤蛇
投稿日時:(03/ 6/30)
大阪、娯楽の殿堂『なにわグラント華月』。
芸人ならば誰しもが憧れるその舞台にただ一人、観客の視線を一身に浴びながら横島忠夫が立っていた。
極度の緊張感と焦燥感で意識が薄れ、次第にぼやけていく彼の視界に映るのは、余すところなく席を埋め尽くした――――――霊だった。
およそ一時間前―――
美神除霊事務所のメンバーは、劇場の支配人から状況の説明を受けていた。
ようするに幽霊の団体さんが居座っているので、興行がうてなくて困っているからなんとかしてほしい、という依頼であった。
ひさしぶりにマトモな依頼かもしれない、とおキヌは思ったが、口に出すようなことはしなかった。
「お話はだいたいわかりましたわ。ところで・・・」
美神が振り向きざまに叫ぶ。
「なんでアンタたちがここにいるのよーーーーーーーーっっっ!!!」
「え〜〜〜〜〜、だってぇ〜〜〜〜〜〜」
「甲子園に行くついで、なワケ」
「わ、わたし、横島さんのいた街を見てみたかったから・・・」
「ヒャ、ヒャクメが『GSオールスター・全員集合!』だって言うから・・・」
「そんなコト一言も言ってないのねー」
「ようするに、揃いも揃ってヒマ人なわけね。。。」
半ばあきれて頭を抱える美神。
「いいじゃないですか、せっかくこうして来てくれたんですし」
「ヒマな神様ってのはやっぱり『ヒマ神』っていうんスかねー?」
「先生ーー、早く終わらせて『うまいトコ』連れてってほしいでござるーーー」
「関西風♪ 関西風♪」
「で、どうするんスか、アレ? 見たところ特に強力なのはいなさそうだけど、なんせ数が多いから大変っスよ」
舞台の袖からチラ、と覗いて横島が言った。たしかに858席分の除霊となると、シンドイかもしれない。
「そんな面倒なコトしないわよ。いい? ここにいるのは、未練があって成仏できない霊ばかりなんだから―――」
「お笑いでもやって満足させればいいってコトっスか? それだったら俺たちが出てこなくても―――」
「いいえ、横島クン」
美神が横島にすっ、と近づく。
「アンタがやるに決まってんじゃないのよーーーーーっ!!!」
強烈なケリを喰らって横島は前に押し出される。と、同時に舞台の幕があがり、スポットライトに灯がともった。
『・・・ど、ど、ど、どうしよう・・・』
なんの仕込みもなしにできるかっ!、と頭の片隅で抗議する自分の声がしたような気もするが、何の気休めにもならなかった。
『・・・は、はやくなんか言わんと・・・』
『・・・な、な、な、なんでもいいから早くーーーー!』
「の、」
「のっぴょっぴょーーーーーーーーんっっっ!!!」
「あー、ありゃそう長くは持たんわなーー」
横島の熱演(怪演とも言う)を見ながら、いつまでたってもビンボーくさい福の神がつぶやいた。
「どうして? 貧ちゃん?」
「今は力技でなんとかつかみとってるみたいやけど、そんなんがいつまでも続くほどお笑いっちゅーのは甘いモンやおまへん。
やっぱこう、ビシッとつっこんでくれる相方がおらんとアイツには厳しいやろな。
どや! 小鳩、お前相方やらんかー?」
「「「「 ! 」」」」
「そ、それって・・・」
「そうや、夫婦漫才っちゅーやつや。なーに、心配いらん。何だったらわいが入ってトリオでもええで」
「わ、わたしが・・・横島さんと・・・夫婦・・・」
「「「「 !!! 」」」」
「―――ちょっと違うけど『タイヘイトリオ』がそやったなー。ほな、わいは糸路はんか!?」
「わ、わたし・・・横島さんとなら・・・」
「―――小鳩の器量やったら、二人きりでも『かつみ・さゆり』みたいになれるでー。「ボヨヨ〜ン」ってな」
「ボ、ボヨヨ〜ン・・・」
「「「「 !!!!! 」」」」
ふたりともお互いの話なぞろくに聞かず、自分の世界に入っていて背後に沸き立つ黒いオーラに気が付いていない。
どうやら、貧ちゃんが本当の福の神になるには、まだまだ時間が必要なようである。
そのころ横島は―――限界だった。
『・・・あ、あかん、もうダメ・・・』
飛びそうな意識をなんとか抑えながら、助けを求めて舞台袖のほうへ視線を走らせる。
だが、そこに見えたのは皆が何やら口論している光景だけで、誰一人として横島に気が付く者はいなかった。
『・・・た、たすけて・・・』
混濁する意識の中で空しく懇願するも、それは叶わぬ願いに思われた。
ドンッ
もみ合いが昂じて足でももつれたのであろう、折り重なるようにして皆が舞台袖から出てきてしまった。
その瞬間、横島の煩悩が炸裂する。
「ずっと前から愛してましたっーーーーー!!!」
「あ〜〜〜〜〜れ〜〜〜〜〜」
「あーーもぉ、ぼかぁもぉっっっ!!!」
「ああん♪」
「このねーちゃんはまるごと俺のモンやーーーーー!!!」
「きゃっ!」
「ぼかぁーーーもぉ、神様と人間の禁断の恋にーーーーーー!!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
「文殊の中からコスプレ美少女がぁーーーーー!!!」
「ちがうのよねーーーーーーっ!!!」
「やーらかいなーーーっ 気持ちいーなーーーっ!!!」
「いやーーーーーっ!!!」
「しりーーーーっ!!! ちちーーーーっっ!!! ふともも〜〜〜〜〜っ!!!」
「ったく、このバカタレが―――」
神通棍を手に、仁王立ちになった美神が横島めがけて振り下ろす。
いつのまにか他の皆もまわりに集まっていた。
「「「「「「「 ええかげんにしなさいっっっ!!! 」」」」」」
一斉にどつかれ、哀れ横島は舞台の床にめり込んでいった。
一瞬の沈黙の後、観客席からすさまじいばかりの万雷の拍手が鳴り響き、呆然とする美神達をよそに、ひしめき合っていた霊達は全て浄化されていった。
「こ、これは―――」
「―――任務達成、ですか?」
「――――――」
「――――――ま、いいか」
「先生ーー、終わったでござるかーー? 早く『うまいトコ』行くでござるよーーー」
「おあげ♪ 京あげ♪ 油あげ♪」
後日。
事の一部始終を新喜劇のネタにされたことは、彼女達誰一人として知るところではなかった。
今までの
コメント:
- みなさん、はじめまして。赤蛇と申します。
以前やっさんの霊が出てきて漫才やって、という話(どこでだったかは思い出せないのですが)をヒントに書いてみました。
さすがに『やすきよ』で書く勇気はありませんでしたが。。。
なんというか、イマイチ歯切れの悪い文ではありますが、ご笑読いただければ幸いです。 (赤蛇)
- 赤蛇さん、始めまして♪
このお話を読んで、あらためてお笑いの道の厳しさを学びました(←ぇ?)
TVの若手芸人さんたちも、この横島君みたいな苦労を重ねて一人前になっていくんですね(←違います)
でもでも。横島君も最後にちょっぴり美味しい目にあってましたし、シロタマちゃんも美味しいものを食べに行けたみたいですし、結果おーらいでしょうか?(笑) (猫姫)
- 猫姫さん、コメントありがとうございます。
創作の道もなかなかに厳しいので、日々精進していこうと思います。
余談ですが、文中に出てきた『かつみ・さゆり』というコンビは、数々の伝説とバカップルぶりで要注目の夫婦漫才師です。
(なんせ、一日のうち22時間は半径1メートル以内にいるとか、お風呂でネタ合わせしてのぼせるとか、レギュラー番組のタイトルが『魔法のレストラン』だったりとか、「何か」を感じさせるふたりです)
機会がありましたら、ぜひご覧になってください。 (赤蛇)
- はじめまして。ふちこまと申します。
なにやらものものしい幕切れの直後、『観客席を埋め尽くした霊』のくだりで、イッキに腰が砕けました(笑)
漫才で除霊というネタは新鮮でしたし、オールスター揃ってバカ騒ぎをする原作の雰囲気も出ていたと思います。
一部、知らない人には通じないネタ(漫才コンビの名前)や、誰のものか分からないセリフなどもありましたが、全体的に良い雰囲気でした。
もう少しセリフに対して地の文の量を増やすと、読みやすくなるかもしれません。
個人的に。関西風の味に心惹かれるタマモに彼女『らしさ』を感じました(笑) (斑駒)
- ふちこまさん、コメントありがとうございます。
>知らない人には通じないネタ(漫才コンビの名前)
漫才コンビのネタは「マニアックそうな貧ちゃん」のために、あえてメジャーでないのを探してみたのですが、ちょっとやりすぎでしたね。実は私もよく知りません。
>誰のものか分からないセリフ
これはもう、完全に私の力量のなさですね。なかなか気の利いた文章が出て来ないので、どうもくどくなってしまったり。。。
「バランスっちうのは難しいなぁ」(笑) (赤蛇)
- 漫才ネタはぜんぜん詳しくないのですが、ひとこと「これはおもしれえっ!」
オチがいいですね。横島が色ボケしてセクハラに走って、最後に美神がシバキ倒すと。
いや、GSの王道をゆく見事なオチでした(^^) (湖畔のスナフキン)
- お笑いは好きですが詳しくはないです(笑)
初めまして、赤蛇さん。志狗(しく)と申します(^^)
お笑いは演目で笑わせるのと、演じる人で笑わせる(人自体がネタ?)のがあったりするのかなぁと思いました。
GSの皆は当然後者で(笑)
さあ任務完了です。横島、早くシロを『うまいトコ』に連れて行ってあげるんだ!(笑) (志狗)
- 初めまして、赤蛇さん。マサなどと在り来たりのネームしか思いつかずに現在に至ってる者です(笑)。
さて、皆様も既に仰られておりますが、漫才というのは斬新で好感触でした。ちらりとヒャクメの悪戯(いたずら)っぽさや、横島を取り巻く数名の胸中が微笑ましい(?)ものがありますね。横島の過去の数々の女性に対する発言が波のように押し寄せて、これもまた良いです♪ ただ、欲を言えば「その瞬間、横島の煩悩が炸裂する。」の辺りの理由がはっきりして頂けると嬉しいです。あと、女性陣が横島を叩くシーンの後に「小鳩ちゃんなどの穏健派が汗たらり」とかするとらしくなるような気がします。多分(弱気)。とゆーことで、オールスター総出演で楽しめるお話でした。投稿お疲れ様です。 (マサ)
- 横島の数々の口説き文句(?)・・・・・・・・・・・・懐かしい。
コメント遅めですが、はじめまして赤蛇さん。
私も関西系のお笑いはあまり詳しくありませんが、横島の暴走っぷりは面白かったです〜♪
女性陣1人1人のツッコミでもかなり強烈なのに、1度に全員からくらうとは・・・(汗)
横島もこの面々に1度につっこまれたことは今までないでしょうね。無事だといいんですけど・・・ (ヴァージニア)
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa