ザ・グレート・展開予測ショー

#まりあん一周年記念『名前』


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 6/26)

名前を送ろう。

オマエにたったひとつの


震える指で、最後のスイッチを押す。

その音と共に微かな電子音が響く。

古びた部屋の中にあるのは、無数のチューブと、その中心にある少女いや、女性といっていいだろうか?その女性の形をした精巧な人形である。

ぼうっと、古びた薄暗い部屋にぼうっと淡い光が、人形から放たれる。

「いよいよ…か」

カオスは、口元にゆるい笑みを浮かべその様を見ている。

無機質のものに、命が宿っていく様を。

心の中に若干の、迷いはまだある。

自然のものでは、ありえない命を今自分は作ろうとしているのだ。

魂─人工魂魄の製造。

命を軽んじているわけではない。


誰もは、自分より先に死ぬ、後に生まれたものなのに。

それは誰もが選んだものだし、自分もこの生き方を選んだのだ。

それ自体を後悔することはできないし、しようとも思わない。


けれども

共に居たいと思う人が、共に生きたいと思う人に先にしなれるのは、

苦しくて。

数え切れない死を、数える事ができない死を見てきた自分に、苦しいと思わせるほど

辛い出来事であった。


それでも、その人に、一緒にいて欲しいとどんなに思っていても

その心に引かれた自分が、その生き方を邪魔することなどできなくて。





その人がいなくなったとき

もう出ないと思っていた涙が、零れた。



それと同時に

欲しいとも思ったのだ。


証が、そのひとのいた確かにいた。
自分だけの証が、欲しいと思ったのだ。



「子供でも作っておけばよかったのかのお」

くつくつと笑いながら、カオスは言う。

─きっとその子供も自分よりも先に死ぬ

(「そんな残酷で悲しいことはできない、貴方にとって」)

微笑みながら言う女性。

もう、自分よりも幾分年上の外見をした、自分よりも200以上年下だったひと。
そして、先に逝った人。


ならば、これを証としよう。

自分の最高の技術と、彼女の姿

そして何よりも無垢な魂を。

彼女のいた証と、自分が彼女を愛した証と


「多分、オマエはこの世で最初のイキモノだろう」


けれど、オマエはワタシにとって、そんなものは関係なく、ただ一つの存在だ。


うぃんっと

音がする。

『システム・作動・倫理・プログラム・異常なし・M666・起動します』

若い女性の、けれど無機質な声が朗々と当たりに響く。
柔らかい声なのに、どこか硬い印象を与える。

「M666、どこも異常はないか?」

『イエス・システム・異常・見当たりません』

「そうか、では、オマエに名前を与え様」

『ワタシの・コードネームは・M666では・ないのでしょうか?』

「ああ違う、おまえの名前は─」

一旦そこで迷うように声を切る。

瞼の裏に浮かぶのは目の前の女性とそっくりな顔で、だけど鮮やかに笑う人。

自分はその人の一生分の姿を見てきたのに、記憶にあうのはいつもこの姿だった

微かにうずく胸の痛みを堪え言う


「マリア」


と。



『イエス・ドクターカオス・ワタシの名前は・マリア・了解しました』



オマエに名前を

誰よりも、大切な名前を送ろう。


おわり


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