ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その28)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 6/26)





カン・・・カン・・・カン

薄暗い通路に甲高い音が響いた。
地下へつながる階段の錆びた鉄の臭いが周囲に充満している。
ジジっと音を立てる切れかけた電球に照らされて階段を下りていく京介、その後ろに京華、
さらにその後ろには研究者風な白衣の男が4名ほど続いていた。

「ここから先はお前だけ行くんじゃ・・・」

「う、うん・・・」

道着姿の京華は小さく頷くと神通棍と数枚の破魔札を手渡されさらに階段を下りて行った。
すると程のなく目の前に強固な扉が眼前に現れる。

『そこの扉を開いて中へ入れ』

突然スピーカーから聞こえる祖父の声に少し驚く京華。
とにかく心臓の鼓動を整えゆっくりとその戸を押し開いた。
そこは・・・どうだろう一般の体育館と同じくらいの広さ、高さを持つコンクリートの部屋。
天井から吊らされた照明が明るく照らし、ちょっとしたパーティーくらい開けるかもしれない。

「うわぁ〜広いなぁ〜」

『いいか京華・・・』

またもやスピーカーから聞こえる祖父の声、しかし今度は姿を確認することが出来た。
京介はこの訓練所を見渡せることの出来るガラス張りの実況席のようなところにいた。
そこでは先程ついてきた白衣の男達が目の前のパソコンや機器を素早く操作し始めている。

『今からお前はワシが現役時代に捕らえた妖怪と戦ってもらう
 分かっていると思うがお前に拒否権なぞない・・・
 15鬼全て倒すまで今日の訓練は終わらんからそのつもりでいろ』

キョヒケンってなんだろうと思いつつ京華はコクンと頷いた。
捕らえた妖怪・・・・もちろんそれは非合法、京介は目ぼしい妖怪を捕らえてはその生態、構造を解読するために、
解剖、実験を繰り返しその過程で式神符を埋め込むことで自由に妖怪達を操ることができた。

「よし始めろ」

京介の指示のもと白衣の男達の手がが素早く動く。
カタカタとキーボードを叩く音が鳴り、チカチカと各所のランプが光り始める。

「no.1からno.15まで起動準備始めます」「封印解除開始・・・あと10秒です」
「第一次拘束解凍、異常なし」「『霊柩』・・・・上げれます」

無機質な白衣の男達の声に頷く京介。

「no.1からno.15、全鬼起動・・・手加減はいらん・・・・死なぬ程度にやれ」


ブー・・・ゴンゴンゴンゴン・・・・

コンクリートと思われていた床がゆっくり開いていく、
京華が何が始まったのだろう?と不思議そうに見続けているとしだいにそれが何かの棺であることが分かった。
数は15、色は黒だが、横に長いモノ縦に長いモノと様々な大きさをしている。

「おじいちゃん、これな・・・」

京華が尋ねるまでもなかった。

ガコ・・・・ガタン・・・ギィ・・・バタン

次々と開き落ちていく棺のフタの音に京華の心臓が飛び上がった。
そして、その棺から現れる・・・・異形の怪物達。

犬型の妖怪がグルルルと喉を鳴らし、鳥型、蝙蝠型の魔物がバサバサと羽を羽ばたかせ京華の上空を舞った。
他にも雑多な魔物がぞろぞろと現れ、獲物・・・・京華の様子を伺っていた。

『さぁ・・・お前の力を見せてみろ・・・』

スピーカーから聞こえる祖父の声は恐怖で震える京華の耳には届かなかった・・・











同刻・三世院家『離れ』

コンコン・・・

「おばさまぁ?いますかぁ?」

かすみは軽いノックのあとにドアのむこうにいるであろうフラウに声をかける。
最近は京華に会うことも少なくなり自然とフラウを見かけることもあまりなかった。
今日は見舞いがてらに調理実習で作ったクッキーを持ってきたわけだが・・・

「あれ?寝てるのかなぁ?」

コンコン・・・

もう一度ノックしてみるがやはり返事は返ってこない。
諦めようかと思ったが最後に少しだけそのドアノブを回してみる・・・・すると、
そのドアノブはまるでかすみを歓迎するように抵抗なく回りゆっくりとドアを開いた。

「あいちゃった・・・・あ、あのぉ〜いますかぁ・・・」

ゆっくりとドアを開け入室すると梅雨時には珍しい爽やかな風が部屋を引き抜けた。
かすみは陽に照らされる部屋を一通り見てみるが・・・ ・・・そこには誰もいなかった。

「あれ?おばさま?」

本棚、クローゼット、テーブル、椅子、ベッド、タンス、テレビ、電話・・・
その部屋はおよそ現代人が必要とするものは大抵置いてある。
しかし、今この部屋はおよそ人が生活していたと思えない雰囲気だった。
整頓された本棚、しわ一つないベッド、ほこりのない床・・・

「これは・・・」

そんな違和感に包まれながらかすみはあるものに気づいた・・・それは
円卓状テーブルの上に置かれた30cm立法メートルの箱。
ゆっくりとそれを開けてみるが中にはなにもない・・・あったのは手紙・・・・一枚の手紙だった。

京華宛の・・・







ガキィンっ!!

「きゃあぁっ!!」

悲鳴と共に神通棍が弾かれカランカランと床に転がった。
いや、神通棍だけじゃない、悲鳴を上げた少女・・・京華もコンクリートの床を転がっている。
2、3mほどその体を転がすとその場で力尽きたかのように動かなくなってしまった。

「はっ・・・はぁはぁ・・・ごほごほっ」

倒れたまま肩で息をしながらボヤける視界で残りの敵を数えてみる・・・・残り8体。
疲れで震える足、上がらない腕、使い果たした霊力・・・京華の限界はもうそこまできていた。

『何をしておる!!』

京介は苛立った、普段の修行通りならこの程度の魔物などとっくに調伏してるはずだと。
しかし、人間の精神状態というのはコンディションへの影響は大きい、
今京華は生まれて初めて自分に対する殺気を持つ相手と戦い、
その体力、霊力の消耗は普段の比ではなかった。

(・・・・・もう・・・・ダメ・・・・・・もう・・・つかれちゃった・・・・・
 ・・・・・死にたくないよ・・・死にたくないよぉ・・・)

ツーと涙が溢れる・・・・死の恐怖・・・そして明日は楽しみにしていた授業参観なのにと。
だが、そんな少女の心情などしらずにグールは牙をたて無抵抗な京華へと近づいてくる。

『ガルアァァァ!!!!!』

グールが京華にその凶刃の牙を突きたてようとしたそのとき!


ドゴォン!!

グールの体は爆破音と爆煙と共に粉砕された。

「貴様は・・・・・・・・!!?」

コントロールルームにいた京介達の表情が驚きに変わる・・・グールを吹き飛ばしたのは・・・
金髪の三編みにつなぎの寝巻きと肩にかける地味なショール、そして首から垂れる白銀のロザリオ・・・
そう今・・・グールに破魔札を投げつけた人物は・・・・

「・・・・お・・・かあ・・・さん・・・」

そう、離れにいるはずの京華の母フラウだった。
フラウは倒れたままの愛娘にそばにかけつけると心配そうな表情で右手をかざす。

「・・・・・・・・・・・京華・・・こんなにケガをして・・・・」

かざした右手から輝く青白い光は全治何週間と思われるケガを瞬時にふさいでいく。
柔らかで暖かい母のぬくもりに京華の心から不安と恐怖を取り除いていくと、
ゆっくりと起き上がり・・・───母の胸へと抱きついた。

「うっ・・・うええぇぇっ!!京華・・京華がん・・・がんばったんだけど・・・ぐす・・・ううぅあああああ!!」

「うん・・・頑張ったね・・・もういいのよ・・・我慢しなくて。
 お母さんのために京華は今まで頑張ってたの・・・・お母さん知ってるから・・・・」

腕の中で泣きじゃくる娘の背をポンポンと軽く叩きながらあやしながら思う。
小さい・・・こんなにも小さな体で今まで戦って来て・・・・傷ついて・・・いろんなものを一人で背負って・・・
そして自分はこんな小さな娘に全て負わせて・・・・たくさんの想いがフラウの心に流れ込み涙が溢れて止まらなかった。
フラウは鼻をすすり涙を拭うと静かに口を動かした。

「お義父さん・・・・・・・・・私達はイギリスへ帰らせてもらいます・・・・心臓病はむこうで治療法が見つかりましたから」

『何じゃと!!?』

スピーカーから流れる驚愕の声、ガラス越しに見える京介の表情を見つめながらフラウは続けた。

「私の父は日本人・・・愛した人も日本人・・・
 だから私自身日本へ憧れがあったし、娘には日本を好きになって欲しかった・・・
 ・・・・・・・・・・・・・でも!」

フラウは右手で寝巻きを剥ぎ、左手で髪をまとめていたリボンをほどくとサラっとした金色の長い髪がきれいバラける・・・
そして、寝巻きの下に来ていたのは・・・・修道服・・・・・血のように真っ赤な真紅に染められた修道服だった。
さらに、腰に巻いているのはおよそシスターとは無縁と思えるガン(銃)ホルダーにその白い足には皮のブーツ。
これがフラウが現役時代の正装とも言えるべき姿である。

「これ以上京華を傷つけるのは誰だろうと許しません!」

啖呵を切りながらそっと京華を抱き寄せるフラウ。
7歳の少女は初めて見る母の雄雄しい姿に格好いいとつぶやくのだった。

『ぬぅ・・・貴様、後悔することになるぞ!』

「後悔?後悔ならもうしてますよ・・・・・・・・・もっと早く決断するべきだったと」

『貴様までワシに逆らうというか・・・・。恩を仇で返しおって
 おのれおのれぇ!!構わん死なん程度に痛めつけろ!!』

義父の怒号・・・・それを聞くとフラウは怒りどころか・・・哀れみと悲しみを覚えるのだった。
昔は・・・初めて会ったときはこんな人じゃなかったと・・・。
復讐に取り付かれた老人に少しだけ同情を覚えると・・・・静かに目を閉じながら呟く。

「元イギリス王室霊能機動隊13番隊隊員『天眼のフラウ』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・推(お)して参る」

素早く白銀の霊銃を抜き取るとスッと眼前の敵に銃口を向けゆっくりと目蓋をあげる。
開眼したその眼(まなこ)は・・・・・・・透き通る蒼い瞳ではなく・・・・────黄金に輝く瞳だった。





・・・ここからは・・・
少女の心・・・京華の目から見た物語・・・この物語の側面。













強かった・・・・








お母さんはとっても強かったの・・・・










でも・・・・













あの日・・・・













あのとき・・・・・





























しんでしまったの・・・・・・・・


                                         その29に続く

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