#まりあん1周年記念『Who want to live forever』
投稿者名:弥三郎
投稿日時:(03/ 6/23)
1945年6月、欧州戦線が終結してから1ヶ月が過ぎた。
廃墟となったベルリンに老人と少女が歩いていた。
街角のあちこちには破壊された戦車が放置され、焼け焦げた死体が転がっている。
ところどころから建物が崩壊する音が聞こえ、悲鳴なども上がる。
砂埃が一面に広がる。ぼろをまとった人々が必死になって逃げてくる。
また、銃声が鳴り響き、略奪も横行していた。
2人は路地裏に入り込んだ。
とたんに目の前に現れたのは全裸で暴行された後が生々しい女性の死体と庇おうとしたのだろうか
頭を打ち抜かれた若い男性の死体も転がっていた。
女性は屈辱に耐えかねたのか口から血が流れていた。舌を噛み切って自決したに違いない。目には涙の跡があった。
普通の人間なら悲鳴を上げて立ちすくむであろう。しかし、2人は何事もなかったかのように
その脇を通り過ぎてゆく。
「……ここがあのベルリンなのかのう……」
「イエス、ドクターカオス。あそこに・ブランデンブルク門が・見えます」
往年の繁栄が消えうせたベルリン。町は無法地帯となっていた。
ナチスが政権をとる前はカオスはベルリンに住んでいた。
「ヨーロッパの魔王」といわれたカオスはベルリンで科学者達と相手に色々講義、実験を行ってきた。
また、協力してくれるパトロンも多く充実した生活を送ることが出来たのだ。
しかし、ナチスが政権をとった後、ナチスはカオスに協力を求めてきた。半ば脅しもかけてきて。
カオスはプライドが高かった。
プライドが高かったが故に、カオスは追われる身となった。
しかもパトロンにはフリーメンソンメンバーが多かったため、そのレッテルも貼られることとなった。
カオスがチューリヒからベルリンに戻ってきたのはナチスが崩壊した今
自宅がどうなっているのか見に来るためであった。
「ストーイ!!(止まれ!!)」
突然赤い星をつけた兵士達が左右から躍り出てきた。
「ソ連兵か。マリア、逃げ切れるか?」
「イエス・ドクターカオス。99%の確立で・逃げ切れます。」
「ちょっと待ってください先生!!」
「ん?!誰かと思えばウラジミールではないか。」
ウラジミール・スタニコフ、ロシア人。
以前ベルリンに駐在武官でいたことがあり、カオスの家に入り浸っていた若者の一人である。
結局、カオスの家はガラスが何枚か壊れただけですんでいた。奇跡的に略奪にもあっていない。
ウラジミールを室内に招き入れると、カオスはソファーに腰掛けた。
「先生がご無事で何よりでした。」
「こう見えても何度も命を狙われたわい。チューリヒでも何度か拉致されそうになった。」
「でも、マリア君がいてくれたから助かったんでしょ?」
「まぁ、そうじゃな。マリアがいなかったらわしは今ごろ総統と一緒に土の中じゃよ。」
そういうとカオスはハッハッハッと笑い声を上げた。
「しかし、何の用でここに来たのかね?」
突然真顔になるとカオスはウラジミールに問いかけた。
「い、いや、偶然だったのですが……」
「わしを侮るでない。わしの知識目当てじゃろ?そうでなければこの建物は略奪にあっていたし、崩壊していた。
違うまい?」
「……先生には参りますね。お察しの通りです。」
「それについてはお引取り願おう。」
有無言わさずの迫力でウラジミールに答えたカオス。
ナチスの使者はそこでカオスを力ずくで連れ去ろうとしてマリアに返り討ちにされている。
マリアがどういうものであるかということを熟知しているウラジミールはそういうヘマをしなかった。
それにカオスの意志の強さも知っている。
ウラジミールは溜息をついた。
「先生、わかりました。それについてはあきらめましょう。」
「……意外とあっさり引き下がるもんだな。」
「先生だからこそです。」
にっこりと笑うウラジミールに邪心がないと見抜いたカオスは体に入れていた力を抜いた。
「しかし、いつ見てもマリア君は人間と変わりないですね。アンドロイドだとは思えない。」
他愛もない話はどんどん過去の事へと遡っていった……
ウラジミールがカオスの家を引き払った後、カオスはマリアに問いかけた。
「のう、マリア。お前生まれてよかったと思うか?」
「イエス、ドクターカオス。ドクターカオスのそばに・いることが出来るから。」
「永遠とは長いものじゃよ。いやでも人間の悪い部分を見てしまう。いっそのこと早く死にたいと
思ってしまうこともあった。」
カオスは頭を抱え込んでいる。
床には黒いしみが出来つつあった。
実は、この戦争ではカオスが理論立てたことが戦争で悪用されてしまったのである。
それによって多くの無実の市民が死ぬことになったのだ。無差別爆撃によって。
さる3月には遠く日本で10万人の人が死亡する爆撃があった。
「マリア。不老不死の研究はやってもよかったのかのう……」
「ドクターカオス。いつか・ドクターカオスは・言っていました。
『人間は希望があってこそ生きていけるのじゃよ』と。」
「そうか、マリア。ありがとな……。」
今まで科学への探究心と錬金術師としてのプライドがあってこそ、カオスが生きてきた意味がある。
その意味を失わせるのは好奇心の喪失、プライドをズタズタにされることである。
完膚なきまでプライドをズタズタにされ、そして無辜の市民を間接的ながらも殺してしまった罪悪感。
しかし、マリアの言葉が救いの手のようであった。
未来には希望がある。それを信じるからこそ人間は生きていける。
カオスの肩にマリアの手がやさしく置かれたのは夕暮れ時であった。
今までの
コメント:
- 弥三郎です。
斑駒さんに捧げるSSです。
申し訳ありません、難しくて訳のわからないSSになってしまいました(汗)
1周年おめでとうございます。 (弥三郎)
- 不死というのが必ずにも幸せとは限らないんですね・・・
これからカオスは罪悪感と共に生きていくのでしょう、
それを支えていくマリア・・・・・・・ええお話でした^^
えと一つだけつまらないツッコミ(笑)
99%の確『立』で→99%の確『率』で
です♪ (ユタ)
- ユタさんどうもです。
題名の「Who want to live forever」が「不死というのが必ずにも幸せとは限らない」と言うことを示しています。
あ゛返還ミス(汗)
フォローすみません(汗) (弥三郎)
- 不老不死ゆえ苦悩するカオス・・・支えてくれるマリア・・・
元気を出せカオス! 希望を持てカオス!
半世紀後の未来には、かけがえのないGSの友人たちと大家のばーさんが待ってるぞ!
・・・カオスへの応援メッセージです、一応。(汗) (ヴァージニア)
- チャットでも言った事ですけれど、この話の背景に無数のエピソードの存在を感じてしまいます。
化学兵器が飛び交いつつも、まだオカルトが市民権を得ていたギリギリの時代。そして戦争と云う非常時下に措ける、カオス達のような“非常的個人”が活躍出来る余地を持った空間。
いっそ、短編連作にでも? (黒犬)
- ・ヴァージニアさんへ
コメント有難うございます。
半世紀後には愉快なメンバー達が現れることになりますが、この戦争終結直後はカオスにとって
自己嫌悪に悩んだ時期であったことでしょう。
・黒犬さん
ええ、あの後短編連作、もしくは長編を検討しました。
橋姫連載終了後にルシオラ中篇1本やった後、これを数回に分けて1932年当時のカオスを書くことにしました。
エピソードがすべてこの時期に集まっていますので。
頑張って書きます。 (弥三郎)
- 反応が遅くなって申し訳ありません。…いえ、決してコメントを書くのを忘れていたなんてことは……(滝汗)
委細についてはチャットでお話した通りではありますが、おおまかなところでは非常に興味深い内容でした。
先の大戦の中で歴史的事実とカオスとを上手く関わらせ、命の重みというものを苦悩するカオスを通して伝える。カオスやマリアの個性がいまいち発揮されなかった印象もありますが、逆に「誰もが同じ普遍的な反応を示すものだ」ということが強調されたようにも思いました。
史実とカオスを組み合わせた連作短編モノはライスさんが何か画策しているようですので、一口乗らせてもらうのも一興かもしれません。
ともあれ、一周年お祝い、ありがとうございました(深々) (斑駒)
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