ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−49


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 6/23)


人は、自分の好きなものを称えられると、共感を示されると、その相手に段々と心を開いていくものである。
それは魔族であったり、神族であったり、妖怪であっても同じこと。

横島を話題にするという、タマモのアプローチは正解だった。

リグレットは徐々にタマモに対して口数が増え、愚痴らしき物まで零すようになった。


「マスターに、もうちょっと構って欲しい。」

「私にルシオラを見るのは止めて欲しい。」

「ベスパが裏切ったことに、何の感情も見せなかった。私が裏切ったらどんな顔をするのだろう?」

「メドーサやワルキューレよりも、私の方が役に立つ?」


口数が少ないからと言って、何も考えないわけではない。
むしろ思索に耽る分、彼女の思考領域は広かった。
中にはタマモが驚愕する内容もある。

リグレットは思考と自分に与えられた仕事の内容だけで、横島が一般的に語っている計画がまやかしであることも見抜いていた。

リグレットは強い。
恐らく、ベスパやパピリオ以上の強さだ。
さもあらん。
通常以上の時間をかけて、念入りに、横島の意図とは別の意味になったが、念入りに作られた彼女だ。
誰よりも色濃く、横島の力の影響を受け、魔力のキャパシティも半端ではない。
一対一では、ベスパやパピリオ、小竜姫やワルキューレやメドーサよりも強い。
無論、タマモや美神よりも強いことも確実だ。

『駄目元でやってみる価値はあるかな?』

タマモの策略が裏で静かに進行し始める。
それはタマモにとっても、思わぬ方向へ進むことになるのだが。




いつものように、リグレットとの交流を終えてから、自分の部屋へ戻ったタマモ。
そこで意外な、というより、すっかり忘れていた存在が彼女を待ち構えていた。

「最近、どこへ行ってるんですか?」

問い掛ける小竜姫の言葉には、非難の色が見え隠れする。
『知ったことか。』
問い掛けられたタマモは、正直、そう思うのだが、さすがに口に出すようなことはしない。

「この城を調べてるに決まってるじゃない?」

小竜姫とタマモは同志のはずであった。両者は横島の暴走を食い止めるという目的で一致していたはずであった。
だが、真相に触れたタマモはそれを諦め、触れることの出来ない小竜姫は、未だに地道に調査を続けている。
タマモにしてみれば、小竜姫はピエロに見えて仕方がない。
横島のためと称して、バレないように調べているが、ユーチャリスの中に居る限り、その動きは横島に筒抜けである。
横島のためと称して行動するように、彼女は横島のことを案じているが、実は逆に横島の庇護下にあることで居場所を保っている、イコール、心配する身分ではなく、心配される身分である。
そして直接問い質したタマモはあっさりと真相を知り、偏った使命感からそれが出来ない彼女は真相に辿り付けない。
これをピエロと言わずに何と言うのだろうか。

「あのルシオラの生まれ変わりと仲が良いようですけど………。」

「そう?そう見える?」

タマモの軽い口調が癇に障る。
かつての横島とルシオラを知る小竜姫としては、中々にリグレットという存在は受け入れ難いのだ。
リグレットが悪いわけではない。悪いのは、そういう印象を持つ自分の方であろう。
分かっていても、ままならないものだ。心というものは。

「見えますよ。彼女から情報収集してるんですか?」

「まぁね。でも彼女はあまり情報を持ってないみたい。計画に疑問も持ってるみたいだしね。」

嘘ではない。前述した通り、リグレットは計画自体がフェイクであることを見抜いている。つまり、疑問を持っている。他の計画があるのだろうなと。
そして、タマモは真相を知っているが、それを知らないとも言っていない。
だが、タマモのそんな胸中を知る由もない小竜姫は、『だったら何故に彼女とつるんでいるのか?もっとやることがあるだろう。』そんな視線を送ってくる。
そんな小竜姫の視線に気付きつつも、そしらぬ顔でタマモは横島から齎された情報を伝える。

「そういえば………人界が慌しくなってるみたいよ?」

「?!!!………第二次の侵攻がもう?!!!」

「違う、違う。逆よ。人界側が攻めて来るってことよ。」

「どうやって?」

「デミアンやリリスが何かやってるみたいよ?多分、あいつらが魔界に招待するんでしょ。」

「…………………………」

小竜姫の沈黙は、躊躇いの沈黙。
今、人界が攻めてくるとすれば、それは間違いなく令子達であろう。だが、横島を彼女達が倒せるとは思えない。
来れば敗北は決まっている。
それを防ぐには、自分には力が足りない。自分ひとりが参戦したところで、戦局に与える影響は少なかろう。
しかし、ここでデミアンを始末すればどうなるか。いずれはリリスが再び何か手を打つだろうが、当面は延期出来る。
だが、実際問題として、彼女は魔界で行動する術を知らない。不自由なく生活出来るのは、ユーチャリスの中だからである。
それが彼女の決心を躊躇わせる。
何故なら、デミアンをユーチャリス内で誰にも知られずに暗殺するなど不可能だ。
半神半魔である彼女の力の発動は、闇夜で光るライトくらいに、他者にははっきりと感じられる。
ならばと、ユーチャリス城外で始末しようとしても、彼女は上記の通り、魔界というものを知らない。外に出ることは、自殺行為であった。
例えデミアンを始末しても、横島の暴走(小竜姫主観)は止まらないのだから。
そんな小竜姫の心の動きを見透かしたように、タマモは冷めた眼で見据えていた。
計画を知る彼女としては、結末の見えた本を読んでいるに等しい。
美神令子は“勝利出来なくも無い”。それは横島にとって、どうでも良いこと。
そして、“計画は発動する”。それは横島にとって、予定通り。

横島にとって、勝敗などどうでも良いのだ。
その時の気分で決めることだろう。

冷静に考えてみても、魔界という人間にとっては致命的な土地にあって、ユーチャリス城内だけは人間が存分に力を振るえる場所である。
本来、魔界では、魔族達が全力を出せるはずである。
そして人間は体力や霊力の回復もままならない死地である。
しかし、横島は半魔半人である。
つまり彼は魔界だろうが人界だろうが、同じように活動出来る。
その点が他の魔神達とは違う強みであった。
ユーチャリス城内を人界と同じ環境にすることで、他の魔神は、ユーチャリス城内においては、戦闘しながらの回復は不可能である。
それは、他の魔神達が攻めてきた時のことを考えての状況設定であった。
今回、それが令子達に味方する。
ユーチャリス城内限定ではあるが、人界と同じような環境で戦えるのだ。
地の利はある。






美神と西条の指揮の下。魔界へ攻め込む準備を整え始めた人界サイド。
とは言っても、研究所跡地での決戦において、既に集められるだけのGSはほとんどが集められており、周知のように、創世の炎によってほぼ全滅の憂き目となっていたこともあり、その人員は美神令子縁の面々となっていた。言い換えれば、横島忠夫縁の面子とも言えるが。
普段はお茶らけた連中であり、危険な状況を楽しむような顔ぶれではあるのだが、それは飽くまで切り抜ける自信があるからである。
決して、自殺願望者の集団ではない。
『空元気も元気は元気』という言葉がある。
正にそれが示す通り、一同は割りと明るい雰囲気で和んでいた。内心の焦燥を押し隠してた。
一部、ダークモードが発動している奴もいるが、それはそれ、これはこれ。開き直った彼女達は、ある意味怖い物知らず。
そして準備と記述したが、己の霊能力を使って戦う彼等にとって、準備とは要するにコンディションを整えること。最高級の精霊石や精霊石銃などを取り寄せてしまうと、やることが無くなってしまう。
仕方なく、最後のお茶会と称したティータイムを何度となく開き、思い出話に華を咲かせていた。
一方、世間の方はどうなっているのか。
例によって、無駄にパニックを起こさせる必要はないとのことで、世間は人界に訪れた危機を全く知らずに日々の生活を送っている。
しかし、少しでも事情を知る者達にとっては、令子達は希望の星。
アシュタロス戦役を退けた彼女達ならば、今度も何とかしてくれるに違いない。
そんな期待を持った、激励の手紙や電話が殺到し、キレた西条がその一切をシャットアウトしてしまった。
そんな中でも、お茶を飲みつつ談笑する姿は知られるところとなり、それは彼女達の余裕の表れと受け取られていた。


「あと数日か………。」

事務所の窓を開け、眩しそうに太陽を眺めつつ、令子は呟いた。

「先延ばしは出来るがね。遅かれ早かれやってくる日だ。遣り残したことはないのかい?」

西条がそんな令子の呟きに答える。
別に誰かの返事が欲しかったわけではないが、どこかぽっかりと空いた胸の穴が人との接触を求める。

「あり過ぎてどれから手を付けたら良いのやら………。面倒だから、何にもやんない。」

令子の答えに苦笑いしつつ、西条は更に言葉を紡ぐ。

「雪之丞君や、タイガー君は彼女とデートだよ。」

「あいつ等も横島君と同じでしょ。きっと、童貞のままじゃ死ねないって感じ?」

「僕はそんな気にもなれないよ。」

「若くない証拠よ?」

「かも知れないな。」

「シロは何やってんの?」

「八房を使いこなすために訓練してるよ。ピート君が付き合ってるようだが。」

その組み合わせでどんな特訓をするのだろう。
ふと、そんな疑問が浮かぶ。
西条は令子のそんな疑問を見透かしたように、また苦笑しつつ答えた。

「ピート君にはお相手がいないからね。余り者の法則さ。」

「………そういうことか。」

「「??!!!!!!」」

令子が相槌を打った瞬間、ふたりに緊張が走る!
誰か、高位な魔族の波動。抑えてはいるものの、明らかにこちらに向かって来ている。
恐らくは飛んで来ているのだろう。その凄まじいスピードは、すぐにでも美神除霊事務所に到達しそうな勢いだ。
ふたりはすぐさま戦闘態勢を整え、仲間達に召集をかけ――――ようとしたが間に合わなかった。
空いた窓から、ソレは一気に突入して来た!



「久しぶり………ってほどでもないか。」

高位の魔族。
その名をベスパと言った。



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