ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その27(B))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 6/23)






・・・・半年後。

深雪が解け、春が過ぎ新緑が輝く6月。
京華は小学二年生に進学していた・・・しかし、普通の2年生ではない。
学校以外はいつも訓練修行の毎日、新しい友達も出来ず唯一の遊び相手であるかすみとすら滅多に会えなくなっていた。

6月8日(金)PM6:14
三世院邸道場



バキィっ!

「きゃあっ!」

短い悲鳴と共に少女が畳に叩きつけられた。
背中に走る鈍痛が脊髄を通じて全身を麻痺させ、呼吸を止めた。
それでも対戦者・・・・身長180はあろう老人は手を止めない。

「どうした!京華!そんなザマで三世院流術式をマスター出来るとでも思ってるのか!!」

「うっ・・・ケホケホ」

京華は震える体で立ち上がるとゆっくりと両手を持ち上げて構える。
その瞬間道着の右襟首と左肘が掴まれ強烈な力が加わる。
7歳の少女は非力ながらもそれに必死にあがないながら力の流れを読んでみた。

(ここだ!!)

と思った瞬間、京華の体が宙を待った。
そして再び背中を畳に叩きつけられることになる。

「あ・・・か・・・はっ」

気を失いそうになりそうでなれない。
ただ襲ってくるのは痛みと息苦しさだけだった・・・・

「力を読んでから行動するまでに時間がかかりすぎじゃ!もう一本!!」

京介は倒れてる京華の胸倉を掴んで強引に立ち上がらせる。
そのとき・・・

「お義父さま!!やり過ぎです!!」

突如道場に女の声が響いた。
紫色の清楚な着物に身を包み髪を頭の頂点でまとめた女性・・・和江だった。

「邪魔をする気か・・・」

「学校から帰ってきてもう2時間もやってるじゃないですか・・・それに今日は母親と会わせる日ですよ!」

「ふん・・・」

和江は息も絶え絶えな京華を介抱しながらきっと京介を睨んだ。
京介から見ればそんな目つきなどどうでもいいのだが、
母親と会わせろと後でごねられる面倒なのでここは引くことにした。

「ほら・・・京華しっかりしなさい。お母さんがお部屋で待ってるわよ」

「う・・・ううん・・・おかあ・・・さん?」

京華はまだハッキリしない視界の中で和江を母と勘違いして呼んだようだった。
しかし、その何気ない一言に驚きと悲しみと愛しい表情が和江の顔に浮かぶ。
だが、ハっとして首を横に振ると京華に笑顔で話しかけた。

「くす、違うわよ。お母さんはいつもの『離れ』にいるから行ってきなさい」

「あ・・・・かずえおばさん・・・。・・・!!?・・・お母さんに会える日!?」

母に会える・・・その言葉が京華の拡散していた意識を集束させ、体を動かした。
よいしょと起き上がると和江に一言だけ挨拶を交わし、風のように駆けて行く、
母親に会える・・・子供らしいその純粋な気持ちが今の京華の瞳を輝かせるのだった・・・

和江ははしゃいで道場を出て行くその背を見えなくなるまで見送ると、
やがて少しだけ顔を上げて天井を見つめた。

(・・・・・・京華に・・・・・ ・・・・生まれてこなかったあの子を重ねるなんて・・・・・・・
 ・・・・・私ってバカかしら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ・・・あなた・・・・)


天井を・・・いやその先の空を虚空を見上げながら心でつぶやいた・・・
子宮のない自分の体をさすりながら・・・今は亡き夫へ・・・・





「お母さん!!!」

「京華・・・・」

母の部屋の戸を勢いよく開ける。
ホップ、ステップ、ジャンプ!テンポよく駆けるとベッドの上で上体を起こしているフラウの胸に飛び込んだ。

「えへへ、お母さんお母さん♪」

ゴロゴロと猫のように母の腕の中でじゃれつく京華。
一週間ぶりの母の温もりを存分に味わおうと7歳の少女はギュっと抱きついたまま離さなかった。
フラウはそんな娘の頭をそっと撫でる。
そして気づいた・・・・体のいたるところに生傷がついていることに・・・

「京華・・・」

「ん?なぁに?」

京華は悲しみで顔歪めるフラウとは対照的にニコニコと笑顔で尋ねた。
無数の生傷・・・どういう原因かは京華は言わないし、フラウ自身も聞くことはない、
修行は京華が自主的に行っている・・・そう答えるに決まっているからだ。
母の治療と引き換えなどと決して言うはずがなかった・・・
何も言われずともそんな娘の気持ちが痛すぎるほどフラウは理解できた。
フラウは娘を抱く腕にギュっと力を入れると・・・

「ごめんね・・・・京華ごめんね・・・・」

「お母さん?どうしたの・・・?何で泣いてるの?何であやまるの?」

体を震わせる母に心配そうに声をかける京華。
フラウはこれ以上心配かけてはいけないと涙を拭うと「大丈夫よ」と優しく笑って見せた。

「あ!そうだ!京華ね、お母さんに見せたいものがあるんだ!!」

「あら、なにかしら」

「え〜と・・・」

京華はゴソゴソとランドセルをさぐると4、5枚の白い紙を取り出した。
それは白い答案用紙、そこにはいくつも赤丸つけられ全て『100点』と書かれている、
京華はその答案用紙をニカっと笑みを浮かべ母に手渡した。

「見て見て!!京華ね!『こくご』と『さんすう』と『えいご』で100てんとったんだよ!!」

「へ〜、凄いじゃない京華!頑張ってるのね〜」

「でしょでしょ?さんすうの100てんなんて京華ひとりだったんだよ!」

「さすが京華だわぁ、これからも頑張りなさ・・・ ・・・あら」

娘を褒めようと手を差し出したときだった。
答案用紙の間から一枚のわら半紙スルっとフラウの膝に落ちた、
何だろうと拾うとした瞬間、フラウの手より早く京華がそれを素早く奪った。

「京華どうしたの?学校からの連絡でしょ?お母さんに見せなさい?」

「で、でも・・・なんでもないよ」

「何でもないなら見せなさい・・・」

フラウは少し強めの口調でそのわら半紙を受け取った。
たまにしか会えぬ娘、ならばなるべく同じ情報を共有しておきたいからだ。
親として娘の学校で何があるくらいかは知っておきたいのだ、
フラウはそのわら半紙に目を通す・・・そこには・・・・


『授業参観のお知らせ』



と、書かれていた。

その文字を見てから京華のほうへ振り向く。
京華は不安と期待・・・が入り混じった表情でうつむいていた。
その瞬間娘の気持ちが瞬時に理解出来た・・・
自分は重い心臓病・・・・外出などすれば発作が起こった場合処置が遅れることもある・・
なるべく負担をかけたくない・・・・それが京華の気持ちだった・・・・・・・・・・
いや、それだけじゃない・・ホントは来てほしい・・・・それが小学2年生の少女の本当の気持ちだろう。

(バカ・・・・まだ小さいのに気なんて使って・・・・)

幼い娘の心遣いに思わず泣きそうになるのをこらえて笑顔で言った。

「ねぇ、京華・・・お母さん授業参観に行ってもいい?」

「えっ!?ほ、ホントに!!?・・・・あっ・・・・・でも・・・」

京華はフラウの言葉に一瞬歓喜の笑みを見せるがすぐに落胆した表情に変わる。
心臓病なのに無理してこさせていいものかと・・・

「大丈夫よ、ここのところ調子がいいし・・・当日は車出してもらうから」

「そ、それじゃあ!?」

「ええ、京華の頑張ってるところお母さん見てみたいわ」

パーと京華の瞳が輝く。

「うん!がんばる!京華がんばっていっぱいお母さんにいいとこ見せるね♪」

「うふふ、楽しみだわ」

今まで娘の学校行事を見に行ってやれることはなかった。
だから・・・おそらく最初に最後なるであろうこの機会はフラウにとってもとても喜ばしいものだった。
腕の中ではしゃぐ娘・・・・・・・この幸せの刻がいつまでも・・・いつまでも続きますように・・・

叶わぬ願いを心で何度も唱えるのだった・・・・







それから三日後・・・

「ふぅ、京華の授業参観は明日だったわね・・・何を着ていこうかしら」

久しぶりの外出に心弾むフラウ。
娘の授業参観も楽しみだが、たまにはおしゃれをして外出するのは女性にとっては喜ばしいものだ。
さっそくクローゼットを開きどんな洋服を着ていこうかと鼻歌交じりで選んでいるとき、
何やら、廊下から侍女達の噂話が聞こえてきた・・・



『ねぇ聞いた?京華様ったら今日から特殊心霊の修行に入るらしいわよぉ』
『え?それって屋敷の地下で実際に妖怪と戦う訓練じゃないの?』
『そうよぉ・・・まだ7歳なのに・・・可哀想にねぇ・・・』



パサ・・・・・・・


侍女達の声に・・・
フラウの手から洋服がゆっくりと床に落ちた───






                                        その28に続く

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あとがき

いいのか・・・オリキャラで丸々一話やっちまって・・・・こんばんは不安いっぱいなユタです^^;

これもひの記の大事な過程だと思って見逃していただけないしょうか(;´Д`)
何かひのめより京華のほうが辛い過去になったらどうしよう・・・
まあ僕の作品に出てくるキャラはみんな一度酷い目にあってもらいますがね(ニヤリ)

違う!違うぞ!・・・決して変な趣味があるわけじゃないぞ! (ノД`)


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