とら、トラ、虎!38) デッド・オア・アライブ(後編)
投稿者名:ヴァージニア
投稿日時:(03/ 6/21)
<バシィーッ> ―――洋子は茜の頬を手の平で叩いた。
雨の音だけが聞こえる、静かな病院の廊下にその音が鳴り響いた。
「 ―ってえな!! なにすんだよ!! 」
バッ「 !? 」
洋子は茜の胸元の服をつかむ。
「 あんたエエ加減にしいや! うちはあんたのこと、もうちとマシな奴やと思うとったわ!! 」
洋子は長い前髪の隙間から茜を鋭く睨んだ。
いままで見たことのなかった洋子の変貌振りに茜は驚く。
「 あんたなんで今、生きとるんや? 寅吉があんたをかばったからとちゃうんか?
なのにあんたは嘘をついた上に、それがばれたら今度は開き直りか? ふざけんな!!
あんたの嘘のせいで寅吉は生死の境をさまよってるんやで!!
もし死んだらどないしてくれるつもりやったんや!! ゆうてみい茜!!!!! 」
「 ・・・・・・! 」
「 ・・・でた、洋子のマジギレ。(汗) 」
「 2年の時、春華が怒らせた食堂の件(6話参照)以来ね。 」
・・・と、春華と仙香が洋子の姿を見て話していた。
続いて水樹が感情的になり、茜に言い放つ。
「 そ、そうよそうよ!!
いくらタイガーさんでも、初めから強敵と思って戦うのとそうでないのとじゃあ
状況が全然違ってくるわ!! お札の準備も戦い方も!!
もともとタイガーさんは精神攻撃を主体とした後方支援タイプなのに、
いきなり強い霊と直接戦って無事で済むわけないじゃない!! それぐらいわかんなかったの!? 」
更に一文字が、静かに言う。
「 あかね、中学んときはおまえも私も不良やってたけどよ、
不良は不良なりに自分に誇りを持っていたと思っていた・・・だけど違ったようだな。
むざむざ仲間を危険な目に遭わせたり、タイガーがこんな目にあったにもかかわらず
おまえは本当のことを隠そうとした。 それも自分の身可愛さに・・・・・・・・・・・・最低だな。 」
「 違ッ、あたいは―――! 」
「 どうせ目先の報酬に目がくらんで、タイガーに嘘のランクを教えたんだろ!
あいつがエミさんとの約束を破るはずないからな! 」
「 なっ・・・・・・! 」
そこでしばらく静観していたエミが言う。
「 茜に責任はないワケ。 責任はすべて所長であるタイガーにあるわ。 」
「 エミさん・・・。 」
「 それだけの高額報酬を、疑いもなしに信じたタイガーに問題があるのよ。
そしておたくらが除霊に失敗し、旅館を傷つけた被害代金もタイガーが出さないといけない。
保険があるとはいえ、何割か払わないといけないワケ。 」
「 そんな! 」
「 更にタイガーの入院代・治療費、そして今回使用したお札なんかの経費ももちろん自費。
そのあたりについてはおたくのほうが詳しいはずよ。 」
「 ・・・・・・ 」
ショックを受ける茜。
「 そしてこれは元上司である私の責任にもつながるワケ。
仙香、春華、今からその旅館に行って悪霊を退治するわ。 ついて来なさい。 」
「 あ、だったらあたいも―――! 」
「 おたくは来なくていいワケ。
役に立たないコを連れてきても足手まといなだけ、敵がSランクなら尚更ね。 」
エミは茜に背を向けたままそう言った。
すると茜はみるみる高揚(こうよう)し、顔を赤らめた。
「 ・・・・・・・・・・・・・『 あ、足手まとい・・・!! 』 クッ!! 」
ダダダダダッ
茜は何も言えないまま、走ってその場を離れ、病院から出ていった。
パシャパシャパシャパシャッ
1月中旬の寒い雨の中、茜は傘も差さずに走っている。
はあっ、はあっ、はあっ、はあっ・・・
『 ・・・・・・違うっ!
あたいはこれで借金が全部返せると思って・・・事務所の為になると思って・・・
でも、なにも言えなかった! だってあいつらの言ったことは全部本当のこと・・・! 』
ぱしゃっ・・・
茜は走るのをやめ、うつむいた。
『 なんであたいはこんなに半端モンなんだよ・・・ 』
とそこに、後ろからカサを差した中年の男が現れる。
「 どうしましたお嬢さん、カサも差さずに・・・おや? キミは・・・ 」
茜が振りかえると、そこには知っている顔の男がいた。
「 ・・・・・・・・・・・・オッサン。 」
ザ―――――――――――――ッ
■唐巣の教会■
「 ホットミルクでもどうぞ。 体が温まりますよ。 」
「 あ、ありがと・・・。 」
茜はタオルを頭にかけ、教会の中の一番前の席に座っていた。
隣りに唐巣神父が座る。
「 どうしました? なにかお悩みでも? 」
「 ・・・・・・。 」
茜はコップを握り締め、言葉に詰まっていた。
その様子を見た唐巣は、正面にある十字架の形をしたステンドグラスを見上げた。
「 ・・・ここは神の御前です。
全てを告白すれば、神はきっと答えを出してくれるはずですよ。 」
「 ・・・・・・あたいは 」
茜は唐巣に全てを話した。
「 あたいはバカなんだ、自分のことしか考えてなかった・・・
魔理たちが怒るのも無理ないよ。
だってGSのあいつらを差し置いて、素人のあたいなんかが助手になっちまったんだ。
ただ笛が吹けるという理由だけで・・・
それなのにやってる仕事は、あたいのレベルに合わせた簡単な除霊ばかりで、
身を守るための結界札を使いまくってるから、たいした儲けにもなりゃしねえ。
もし魔理たちが助手になってたら、今頃とっくに借金ぐらい返してるのはわかってるさ。
だからあせってたんだ、早く強くなりたいって・・・
あいつらに認めさせてやりたいって・・・・・・・・だからあたい・・・・・・あたい・・・・・・・・・。 」
ぽんっ
唐巣は茜の頭を優しく撫でる。
「 あなたは優しい子なのですね。 」
「 違うっ!! あたいは―――! 」
「 ほら、キミは自分の行ったことに、こんなにも真剣に苦しんでいる。
他人を思いやる気持ちがなければ、後悔したり悩んだりはしませんよ。 」
「 神父・・・・・・。 」
「 もう一度、彼女らに会いにいきなさい。 そこであなたの本当の気持ちを伝えるのです。 」
「 でも! 」
「 大丈夫。 真正面から向き合えば、あなたのことをきっと、受け入れてくれるはずですよ。 」
じわっ
「 ・・・・・・―――――!! 」
茜は頭を唐巣神父に寄せ、声を出さずに泣いていた。
唐巣は優しく茜の背中を押さえ、軽く叩いてあげている。
―――そしてその様子を目撃した1人の少女がいた。
ばさっ
「 唐巣神父・・・そんな! まさかあんな方と!? 」
教会に通じる扉の前で、手にした聖書を落とし、愕然とする聖羅であった。
◆
■除霊現場 旅館■
エミ、仙香、春華の3人は、Sランクの悪霊と戦っていた。
エミは霊体撃滅波の儀式を行い、一撃で祓えるよう長めに霊力チャージを行っている。
ビュウンッ
≪≪ ギィイッ!!! ≫≫
「 仙香! 結界のお札を取って!! 」
「 ダメ! 霊体触手で奴の動きを止めるので精一杯なのよ!! 」
「 私だって、キョンシーのコントロールでエミ所長のガードに手一杯なんだから!! 」
「 これでいいのか? 」
「「「 !!! 」」」
そこには結界札を持った茜がいた。
「 あたいのことは気にすんな!!
自分の身ぐらい、自分でなんとかする!! エミさん!! 所長のカタキを!! 」
エミは茜を確認すると、一瞬微笑んだ。 そして次の瞬間には悪霊に目を向ける!
「 ここはおたくのいるべき場所じゃないわ・・・もちろんこの世でもない。 」
カッ!
次の瞬間、エミは両手を広げる!
「「「「「 あの世に帰れ!! 霊体撃滅波――――――――――ッ!!!!! 」」」」」
◆
■白井総合病院前■
夜、面会時間も終わり、一文字・水樹・洋子の3人は寮に帰ろうとしていた。 そこに茜が走ってやって来る。
たったったったったっ
「 魔理―――!! 」
「 あかね! 」
「 はあっ、はあっ、はあっ、はあっ・・・・・・ 」
茜は呼吸を整え、コンクリートの床に正座し、3人に頭を下げた。
「 魔理、水樹さん、洋子さん、すまねえ!! 全部あたいのせいだ!!
あたい力もないくせに、事務所の借金を早くなくしたくて、あせって、嘘をついて、
所長をこんな目に遭わせちまって・・・・・・・・・ホントにすまねえ!! このとおりだ!! 」
「「「 ・・・・・。 」」」
顔を見合し、茜のまさかの行動に戸惑う一文字達。 そんな中、最初に洋子が声をかけた。
「 わかればいいんや。 寅吉の奴、目えさましとるから早く行ってやり。 」
「 ヨーコさん・・・ 」
「 まあ、反省してるみたいだし、いいんじゃねーか? 」
「 茜ちゃんのこと、心配してたわよ。 」
「 魔理、水樹さん・・・・・・すまねえ!! 」
茜は病院の中に駆け込んだ。
「 ちょっとあなた、面会時間はすぎているんですよ!! 」
「 すぐに終わりますから、少しだけまってあげてください! 」
看護婦を抑える水樹。
一方で一文字はひとつ疑問に思った。
「 ・・・で、この期に及んでなんで私だけ「魔理」って呼び捨てなんだ? 」
にまっ
「 ええやん。 慕われてる証拠やんか♪ 」
■病室■
タイガーは、集中治療室から、個室へと移されていた。
がちゃっ
「 所長!! 」
「 あかねサン・・・無事ジャったか。 」
点滴をうけていたタイガーの体は、半分以上を包帯で巻かれている。
「 全治2ヶ月だそうジャ。 すまんノー、しばらくバイトは休みじゃな。 」
「 所長・・・・・・ 」
茜はうつむき、声が震える。
そしてタイガーは、茜の頬に涙が流れたのに気がついた。
「 どうしたんじゃ? なにも泣かんでも・・・・・・ 」
茜は自分がランクを書き換えたこと、嘘をついていたことをすべて話した。
タイガーは、茜が反省してくれてることを感じ、彼女を笑って許すのであった。
―――そしてタイガー除霊事務所はしばらくの間、所長負傷により休業を余儀なくされたのである・・・
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今までの
コメント:
- ■38話 後書き■
ここで茜は、初めて心から陳謝の意をこめて、他人に頭を下げました。
と同時に、今まで仲があまりよくなかった一文字達との和解も果たしたようです。
とりあえず、茜とタイガーの事務所設立の話は終了です。
次回は心機一転、原作で何回もネタにしていた、2月14日のお話です。 (ヴァージニア)
- 金欲に負けた茜。
しかし、そのせいで、タイガーが重傷を負ってしまった。
自責の念に苦しむ茜を救ったのは、唐巣神父。
いや〜、やはりいい人です。唐巣神父は。
そして茜のした罪を全て許したタイガー。
いや〜、いい話でした。
次回は、あの惨劇があった日ですか。(笑)
楽しみにしております。
>「唐巣神父・・・そんな! まさかあんな方と!?」
聖羅が言った、この言葉の意味はなんなんでしょう?(笑) (TAITAN)
- 一人で好き勝手にやってきた茜も、責任という言葉の意味をようやく知ったのですね。
ところで仙香、春華の二人、エミをしっかりガードしてますね(Sランク相手では少々危なかったようですが)。
やはり六女のエリートは、ただの肉の壁三人組とは一味違うという事ですか。(^^;
バレンタイン・デイ、聖羅の台詞…次回は唐巣神父の修羅場(笑)? (dry)
- △TAITANさんへ
さあ・・・なんなのでしょうね。(笑) ショックを受けてたのは確かですけど。
この辺りの話も、次回以降に明らかになる・・・・・・のか?
△dryさんへ
そういえば肉の壁三人組(ヘンリー、ジョー、ボビー)は今頃どうしてるんでしょう?
クニに帰ったのか!? ・・・まあそれはともかく、次回は修羅場をご希望ですか?
ん〜〜〜とことん修羅場にしたのほうがいいのか、相手を限定したほうがいいのか、
もしくは別パターンで惨劇状態にしたほうがいいのか、現在作成中(修正中)です。
2〜3話ぐらいになりそうですので、ご希望の展開を知らせていただけると参考になります。 (ヴァージニア)
- 笑って許してあげられる優しさがタイガーのいいところなんですね。
いやはや・・しかし・・唐巣神父が渋いです〜
あったかいお話でした〜
まだ先を読んでいないので気になるのですが
聖羅のあの台詞は伏線なのでしょうか?それでは次のお話にいきますね。 (かぜあめ)
- >かぜあめさんへ
こういった大男って、意外と優しかったりするんですよね。
なんだかここ最近の唐巣神父は、この物語の第2の主人公になってるかも。(笑)
続きはすでに読まれてるでしょうからわかると思いますが、聖羅の言葉は伏線です。 (ヴァージニア)
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