ザ・グレート・展開予測ショー

インタビュー・ウィズ・ヘルハウス


投稿者名:dry
投稿日時:(03/ 6/20)

     『カモナ・マイ・ヘルハウス!!』より





唐巣神父とピートが心配そうに見守る中、やや古びた西洋風の建物から、美神除霊事務所の三人が出てきた。

「どーせ俺はただの丁稚。使い倒されてポイがお似合いなのさ…」

「ほらっ、横島クン機嫌直して!おキヌちゃん、悪いけどお願いね」

『わかりました美神さん。横島さん、行きましょう』

横島はまだ拗ねていたようである。
旧渋鯖男爵邸の権利書を手に入れた美神は、唐巣に事情を話すとピートから資料を受け取った。
そのまま、物件所有の手続きを済ませる為に役所へ行く。
一方、横島とおキヌは預けてある荷物を引き取る為に、外で待っていた二人と共に教会へ向かった。

「まあ何にせよ、新しい事務所が決まって良かったじゃないか!」

「そうですよ、横島さん!」

師弟の声は妙に明るい。
天龍童子の一件のあと、美神は様々な物を教会に持ち込んだ。
顧客名簿、依頼契約書などの書類関係が、旧事務所倒壊後の仕事のキャンセルやスケジュール調整等に必要なのは分かる。
その一方で何故か神通棍、破魔札、見鬼くんといった除霊道具一式まで、数は少ないものの用意していた。
教会を事務所にするという提案は、実は本気だったのかもしれない。
その事を考えれば、二人が安堵するのも無理はなかった。

余談だが、これらの品々は例のシェルターにバックアップとして保管されていた物である。
また、天龍童子からせしめた小判の一部は、金塊に換えてそこに貯えてあった。
美神一人でこれらの作業を行った為、他の面々はシェルターの存在を未だ知らない。



季節は冬、日が暮れるのも早い。それぞれ役目を終える頃には夜の帳が下り始めていた。
美神、横島、おキヌの三人は、ちょっとした打ち上げ会をする為に再び旧渋鯖男爵邸に集まった。

「それでは改めて、新しい事務所が手に入った事を祝して、乾杯!」

「カンパイ!」

『かんぱーい!』

シャンパンを飲み干す美神と横島。
おキヌは幽霊であるので飲む事はできないが、雰囲気を楽しむ為に他の二人と同様に中身の入ったグラスを掲げている。
ちなみにこのシャンパンとグラスは、テストが成功した時の為に人工幽霊壱号が予め用意しておいた物である。

「厄珍堂から除霊道具を補充しなきゃいけないし、本格的な引越しは明日からになるけど、とりあえず今日はみんなお疲れ様!」

情緒不安定になっていた美神だが、仕事再開の目処が立って落ち着いたようだ。

「あとで先生達にも、迷惑かけたお詫びをしないといけないわね」

荷物を引き取る時の唐巣神父とピートのホッとした顔を思い出し、横島とおキヌは苦笑いをした。
二人の表情を気にする事無く、美神はおキヌが用意したオードブルをつまみながら、美神除霊事務所の新しいメンバーに話しかける。

「人工幽霊壱号、これからよろしくね」

『こちらこそよろしくお願いします、美神オーナー』

美神に忠誠を誓った人工幽霊壱号の口調は、丁重なものになっていた。

「ところで、オーナーとして貴方の能力を把握しておきたいんだけど、質問に答えてくれるかしら?」

『何なりとお訊き下さい』

軽く首を傾げたあと、最初の質問を放つ。

「そうね、まずは私が権利書のあった部屋の椅子に座った途端に、建物が綺麗になった事だけど」

抽象的な問いに対応できるのも、人工とはいえ魂を持っているからである。
人工幽霊壱号は淡々と答えた。

『あの時も説明しましたが、私が存在を維持する為には強力な霊能者の波動が必要です。しかし渋鯖博士が亡くなって数十年、私を所有するに相応しい人と巡り会えず、霊力を節約する為に屋敷の管理状態を最低レベルにまで下げていました。』

「そこへ私の霊波を得て、節約する必要が無くなった訳か。まるでブラウニー(茶色さん)ね」

欧州の民話などに登場する、働き者好きの小人の事である。
家人が寝静まっている間に仕事を手伝ったり、家を掃除したりする。

『しかし、私一人では完全に清潔な状態を維持できませんのでご協力をお願いします。』

事務所内の物は霊波によってある程度操れるが、限界がある。

「おキヌちゃん、頼んだわよ」

『はい、頑張ります!人工幽霊壱号さんが手伝ってくれるなら、こんなに広い建物でもそれほど大変じゃないでしょうし』

とりあえず仕事を任されたおキヌは、俄然張り切った。

『よろしくお願いします』

律儀に答える人工幽霊壱号。身体があればおキヌに対し、頭を下げていただろう。
グラスにシャンパンを注ぎ足し、次の疑問をぶつける。

「それにしても霊力を節約する必要があるんだったら、今日のテストは危なかったんじゃないかしら?特にあの霊圧を発生させる玉なんかは」

あの威力は凄まじかった。
霊圧の影響をもろに受ける霊体であるおキヌはともかく、生身を持つ横島すら壁に張り付けにし続けたほどである。

『はい。私にとっても今日の事は賭けでした。しかし様々な手段で得た情報から、美神令子という霊能者には試練に打ち勝つだけの力があると信じていました。』

「ふふ、ありがと」

人工霊魂に実力を認められて、まんざらでもなさそうな美神は礼を言い、さらに質問を続けた。

「西洋甲冑の剣捌き、まるでプロのものだったけど、あれも貴方の力なの?」

運動神経抜群の美神は、神通棍を使う以上剣術を多少学びそれなりの腕を持っている。
それでもGSと本職の剣士では勝負にならない。
視野の限定という弱点が無ければ、美神でも危なかっただろう。

『その通りです。本来私には実体がありません。器物に宿らせ人間をサポートさせる為に、渋鯖博士によって私は創造されました。しかし、当時の日本軍の一部が博士の研究を軍事利用しようと動き出したのです。博士は自分の研究成果を戦争目的に使用するつもりは無く、自衛手段の一つとして、私に剣術を教えました。結局は軍部に捕まる前に終戦となり、事無きを得ましたが』

戦中の日本男児の嗜みとして渋鯖博士は剣術を学んでいた。腕はそれほどでもないが、教えるのが上手かったらしい。
さらに戦後のどさくさに紛れて、軍が所持していた博士と人工霊魂に関する資料のほとんどを渋鯖博士本人が破棄した事も、人工幽霊壱号は付け加える。

「貴方も苦労してきたのね」

人工幽霊壱号の声が、渋鯖博士について語る時だけ微妙に温かみのあるものになっている事に、美神は気付いていた。
権利を合法なものにする為とはいえ、屋敷の所有者の名前に息子として登録したほどだ。
人間嫌いの研究者は人工霊魂を我が子同然に扱っていたのかもしれない。
しかし、被造物だが意思を持つ存在である人工幽霊壱号には、当然プライバシーもある。
そう考えた美神は、それ以上立ち入った事は訊かない事にした。
会話が途切れる。
そこへこれまで黙々と料理を食べていた横島が、頃合いを見計らっていたのか真剣な面持ちで口を挟んだ。

「俺も質問していいかな?」

『どうぞ』

オーナーが頷いたので、人工幽霊壱号は答える。
横島は緊張の為かゴクリと咽喉を鳴らすと、おもむろに口を開いた。

「俺は…





































 …将来ハゲるのかっっっ!??」





































美神とおキヌはすっ転んだ。さすがに人工幽霊壱号も返答に詰まったようだ。

「どうなんだ!!頼む、教えてくれっ!!」

最後の部屋では一歩歩くごとに五年ずつ歳を取るようになっており、権利書を手に入れた時には横島は確かにつるっパゲになっていた。
何とか立ち直った二人はその事を思い出し、気の毒そうな目で横島の頭を見る。
さらに横島は力説する。

「ウチの家系にハゲは一人もいないはずなんだ!現に親父もまだフサフサだ!これは男にとって、将来モテる為にも死活問題なんだ!!」

現在の横島の年齢と要した歩数を計算すると、大体60代になっていたはずだ。
その歳なら禿げててもおかしくないのに、と女性陣は思ったが男には切実な問題であるらしい。
ようやく人工幽霊壱号が口を開いた。

『…私には人の年齢を操る能力はありません。あの部屋で見たものは、あくまで私が創り出した幻覚です。頭髪の感触が無かったと思いますがそれは催眠効果によるものでして、一見して共通項の無い試練が続いた為、本当に年齢を操るだけの力があるのだと思いこんでしまい、私はそれを霊波で助長したのです。精神感応の一種ですね。』

ちなみにあの部屋では、どんな事態をも恐れない勇気が試されたのだと言う。
美神の裏技の所為で成功したとは言い難かったが。

『補足しますと、あの時過度のストレスを感じていたようなので、それを考慮してあの様な姿にしました』

つまり、将来禿げると決まった訳ではないという事だ。
不安そうだった横島の顔が歓喜に輝く。心の中で快哉を叫んだ。

(よっしゃーーっ!!たとえ顔がナイスミドルな中年になっても、頭がハゲていればただのオッサン!これでネーちゃんを口説きまくって、ウハウハな人生を送る事が出来るっ!!…いやっ、落ち着け横島忠夫。それよりも重大な事がある。なんか納得できんが、美神さんの好みは俺の親父だった。俺の顔はどちらかと言えば親父似だ。即ち、将来この女を俺のものにする事も十分可能という事にっっ!!!」←

おキヌは呆気にとられている。
あの部屋で利用した事に多少罪悪感を感じていたが、付き合いきれない美神はガッツポーズをとる横島を張り倒した。

「いい加減にせんかっ!!」

「ああっ!!また声に出してしまった!!」

『よ、横島さん…』

どちらにしても美神に身代わりにされたり暴力を振るわれたりしていては、いずれストレスで禿げるのではないだろうか。
この職場に居続けるなら、彼の頭髪の運命は、如何にして美神令子をモノにするかにかかっているのかもしれない。

『………』

これまでの光景を分析した人工幽霊壱号はそう判断したが、懸命にもその事は指摘しなかった。
自分に相応しい霊能者とようやく巡り会えたのだ。彼女らとは、良好な関係を築きたい。



こうして、新しい事務所での一日目の夜は更けていった。





     了

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