ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(05)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 6/18)

『君ともう一度出会えたら』 −05−



 過去に戻る前のことだ。
 アシュタロスとの戦いが終わったあと、俺は日常の生活に戻った。
 やがて俺は高校を卒業し、そのまま美神除霊事務所の正社員となった。

 仕事は面白かった。
 GSとしての能力は美神さんを越えていたから、GSアシスタントだったころに持っていたコンプレックスも次第に解消していった。
 単独でする除霊も増えた。俺一人で行う除霊は歩合制である。
 仲介料こそ美神さんにごっそり引かれたが、収入も右肩上がりで増えていった。


 だが、気がかりな思いがあった。
 以前はわからなかったが、周りの女の子が寄せる好意に、少しずつ気がついた。
 おキヌちゃんが優しいのは性格だと思っていたし、シロが俺になつくのも俺の弟子だからそうしていると思っていた。
 タマモは相変わらずクールだったが、時々色っぽい目つきをしていた。それも前世が傾国の美女だからだろうと思っていた。
 だがそれだけじゃないってことが、だんだんわかってきた。

 もともと俺は煩悩の塊のような男だったから、女の子が好意を寄せてくれることは素直にうれしかった。
 だが手を出そうとすると、どうしても引っかかる思いがあった……そう、ルシオラのことだ。

 自信があまりなかったと言えなくもない。ルシオラを除けば、女の子ときちんと付き合えたことがなかったから。
 ただそれだけではなかった。

 美神さんやおキヌちゃんは、ルシオラのことをよく知っている。シロやタマモも話くらいは聞いているはずだ。
 ……転生したルシオラが、俺の娘として生まれることに。

 話が先走り過ぎかもしれないが、誰かと付き合ってやがて結婚したとしよう。
 しかし俺は結婚した女性に、転生後とはいえ愛した女性を生ませることになる。
 それはルシオラを生ませるために、相手を利用したことにならないだろうか?
 どんなに相手を好きだと言っても、愛していると言っても、しょせんは俺の願いのために相手を利用していることにはならないのだろうか?
 相手がそのことを承知してくれればいいのかもしれないが、そう単純に割り切ることは俺にはできなかった。


 結局俺は、周囲の女の子と距離を置くしかなかった。何も気づいていないフリをして。
 その一方でルシオラとの思い出も、俺の胸からは消えることはなかった。

 娘として転生する以外のかたちで、彼女に会える方法はないのだろうか。
 考え続けていた俺は、やがて一つの可能性を見出した。
 そう、過去をやり直すことはできないかと……。




──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ──── ・ ────




 俺は逆天号の中の小部屋で目がさめた。
 俺が割り当てられた部屋は、俺のアパートよりもさらに狭く、三畳ほどのスペースしかない。
 あれからパピリオのペットとなった俺は、檻から出してはもらえたものの、掃除など下男のような仕事を割り当てられた。
 もちろん首輪は付けたままである。

 起きて着替えをすると(下着だけは支給してもらえた)、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい、なんでしょう」

 ガチャリとドアのノブを回すと、俺の目の前に立っていたのはルシオラであった。
 目の前に彼女の顔をみて、一瞬ドキリとする。

「ルシオラ……いえ、ルシオラ様。何の用でしょう?」
「起きてたのね、ポチ。シャワー室で水漏れがあって、外まで水が出てきてしまうの。見てくれない?」
「は、はい。わかりました」
「それからパピリオが、居住区の掃除をよろしくって」
「大丈夫です、はい」
「終わったら広間にきてね。そこで作業しているから」

 それだけ言うとルシオラは去っていった。だが彼女を見送った後も、俺の胸は強く鼓動しっぱなしだった。
 その姿も、声も、ほのかな匂いまで、俺が覚えている彼女の思い出とまったく同じである
 中学生の頃、好きになった女の子と廊下ですれ違う時に胸がドキドキしたようなこともあったが、今の衝動はあの頃とはとても比較にならない。
 自分の思いを周囲に気づかれないよう、感情を抑えるのに一苦労していた。



「できました! 転生計算鬼『みつけた君』です。手元にあるメフィストのデータを残さず入力。そしてボタンを押せば、あとは数分から数時間で生まれ変わりを高精度で予測するってわけ。あてずっぽうで捜すより、はるかに効率がよくなります」

 俺がシャワー室の水漏れを修理と居住区の掃除を終えて広間に入ると、ルシオラが土偶羅・ベスパ・パピリオに、計算鬼の説明をしているところであった。
 ルシオラは明るい笑顔のまま、熱心に話していた。本当に機械いじりが好きなんだなあ。

「あのー、居住区の掃除が終わりましたです、はい」

 俺はめいいっぱい愛想笑いを浮かべ、仕事が終わったことを告げた。

「よーし、えらいぞポチ」
「ありがとうございます」

 俺は頭を下げると、パピリオが背伸びをして俺の頭をなでた。

「シャワールームの水漏れも直してくれた?」
「へい、もうばっちりで!」

 俺はルシオラにむかって、ぐいっと親指を立てる。

「パピリオのペットにしては、役に立つじゃん」
「ほんと。細かいところに気がきくし、大助かりだわ」
「パピリオの愛情が通じたんでちゅ」

 以前はずいぶん腹ただしい思いをしつつも、ルシオラたちに媚びを売り相手の好意にすがって生活していた。
 いや自分でも、ずいぶん卑屈だったと思う。

「それじゃ、この部屋も片付けてくれるかしら? 急いで作ったから散らかしっぱなしなのよ」
「喜んでやらせていただきます!」

 俺はもみ手をしながら、愛想よくルシオラに返事をした。
 ……いや、卑屈なのはわかっているってば。

「じゃ、計算が終わるまで私たちは休憩しましょう」
「ポチ、あとでおやつをあげるでちゅ」

 ルシオラたち三姉妹が部屋を出ていくと、俺は通信鬼を呼び出した。

「ヒャクメから連絡は?」
「キイーーッ!」

 通信鬼は、プルプルと首を横に振った。
 何も連絡はないようだ。

「仕方ないなー。ルシオラたちが戻ってくる前に連絡が取れないと、一般人の犠牲者が増えるぞ」

 前は一発で美神さんを見つけたからな。
 計算が終了したらいつでも使えるように、『障』の文珠は既に準備している。
 やがてピーという音が鳴り、計算鬼が計算結果をディスプレイに出力した。

「計算終了シマシタ。めふぃすとノ転生先ヲ確定。名前ハ『美神令子』、確率ハ99.8%デス」

 以前と同じ結果が出た。俺は文珠を使い、計算結果を狂わせる。
 その時、俺のもつ通信鬼に連絡が入った。

「横島さん、聞こえますか?」
「ヒャクメか! よかった。やっと通じた。美神さんはいるか?」
「私もいるわよ!」
「大変です! ヤツら美神さんを──」

 その時、横島のいる部屋の外から複数の足音が聞こえてきた。

「ヤバイ! また連絡します」

 俺は急いで交信を切り、通信鬼を隠した。

「計算は終了シテイマス
「どれどれ。『奈室安美江』、職業;歌手、確率66.8%か」

 土偶羅が計算鬼の表示を確認する。

「ようし、手始めはこいつだ。魂を引きずり出して徹底的に調べろ!」


(続く)

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