ザ・グレート・展開予測ショー

父戻る


投稿者名:dry
投稿日時:(03/ 6/15)

   『父帰る!!』より





父と子が己のプライドを賭けて闘った翌日。
空港では、横島父子が別れの挨拶をしていた。

「それじゃあな、忠夫。元気でな!」

「もう帰って来なくていいぞ、親父!」

大樹に憎まれ口をたたく横島だが、その顔は笑っていた。
美神をめぐって色々やらかした二人だが、基本的に仲が悪い訳ではない。
大樹には大人としての余裕があるし、横島はホテルでの闘いである程度発散できたようだ。
お互いに、それほどわだかまりは無かった。
それにしても、あれだけの怪我を負ったにも関わらず既に回復している二人、やはり普通ではない。
続いて大樹は一緒に見送りに来ていた美神とおキヌの方を向いた。

「美神さん達もお元気で。こんな出来の悪い息子でよければ、今後も使ってやってください」

「いえ、こちらこそ横島クンのおかげで助かっていますわ」

美神も笑みを浮かべて答えるが、あの低賃金でこき使っていれば感謝の一つも出ようというものである。
ちなみに美神が伏せていたので、大樹は自分の息子の労働条件について詳しくは知らなかったりする。
その事を知っているおキヌは、汗を垂らし何とも言えない表情で笑っている。
大樹は三人に軽く手を振りながら搭乗ゲートに向かって行った。



空港から事務所に戻る途中、コブラを運転しながら美神は助手席の横島に話しかけた。

「ちょっと変わってるけど、結構いいお父さんだったじゃない」

「あれのどこが良いんですか?横暴だし、女たらしだし…」

『ふふっ。でも、横島さんもそんなに嫌ってないようでしたけど』

おキヌが後ろから少しからかう口調で言うと、横島は照れを隠すようにそっぽを向いた。
この年では父親が好きなどと、口が裂けてもいえまい。
その為、美神が少し複雑な表情をした事に横島は気付かなかった。
美神の場合、父とは半ば絶縁状態が続いている。
父親と気兼ね無く軽口をたたける横島が羨ましく感じたが、すぐにその思いを打ち消した。
自分は、まだあの父と和解は出来ない。それだけの意志も勇気も無い。

「ところで横島クン、一週間、時給半額ね!」

「そんなーっ!!かんにんやーーっ!!」

横島がバーテンダーを拉致監禁したり、屋上を霊体まみれにした為、ホテル側から苦情が来たのである。
雇用者としての監督責任、および危険物である使用済み吸魔護符の管理責任を追求されない為にも、美神は色々出費した。
大樹も自分の息子と自分に原因がある為、美神に協力した。
一晩で工作を終えられたのは、脱税常習者と敏腕サラリーマンの為せる業か。

「駄目よ、自分がした事を反省なさい!」

それでも時給の一週間半額で済んだのは僥倖である。
少々子供じみた嫉妬だったが、自分が他の男と食事に付き合う事に反対されたのは、案外悪い気がしなかった。
あと十年もすれば、あの父親ぐらいのいい男になるのかしら。

(ちょっと想像できないわね)

と思いつつ、車を走らせる美神だった。



夏は除霊のシーズンだが今日は依頼が入ってない。横島は事務所に戻る前に自宅に送ってもらった。
美神とおキヌの二人と挨拶を交わし、アパートの階段を上がる。
丁度自分の部屋に入ると昔懐かしい黒電話が鳴ったので、すぐに受話器を取った。

『忠夫、元気にしてるかい?』

「あっ、お袋!親父なら、もうナルニア行きの便に乗ったけど」

百合子の声を聞く事に違和感を感じた横島だが、父が既に日本を発った事を告げる。

『その事なんだけど、忠夫、父さん日本で何かしなかったかい?』

「ナ、ナンノコトデショウ?」

ホテルでの一件を連想し、声が裏返った。
父親の所業はともかく、自分が他人様に迷惑をかけた事を知られる訳にはいかない。

『父さん、ナルニアを出国する前に、こっちの電話番号を変えてったのよ』

そうだった。あの時、母親に電話をかけても繋がらなかった。しかし今、母と話している。
こちらの番号は変えていない。つまり、向こうからなら通話が可能という事である。

『「番号変えた事を教えるついでに、忠夫の様子はちゃんと見てくるから」なんて言ってたけど、どうも怪しくってねえ』

妻に対し根回しをしてから、日本に来たという事か。

『という訳で、忠夫。母さんに何か言う事は無いのかい?』

声が1オクターブ下がった。穏やかな口調なのに抗い難い圧力を感じる。
何やらゴゴゴゴゴという効果音が聞こえてくるのは気の所為か。
受話器の向こうとはいえ、こうなった母には逆らえない。

(…親父、何とか生き延びてくれ)

横島は、自分がした事はちゃっかり誤魔化しながら、空港と会社とホテルで見た事を母に話した。



「あいつも成長したもんだなあ」

大樹はナルニアに向かう機内で、父親らしい感慨に耽っていた。
面には出さなかったが、二年ぶりに会った息子が父と争う根性を持つほどに成長していた事が嬉しかった。
妻は心配していたが、一人暮しを許したのは正解だったのかもしれない。
次に会う時には一人前の男になっているのだろうか。
一抹の寂しさを感じつつ、父として息子がそうなる事を願った。

その息子に自分が売られた事を、大樹は未だ知らない。
地獄が彼を、待っている。





































ちなみに、百合子が大樹の話から息子の職場に興味を持った事が、のちの『グレート・マザー襲来!!』事件の遠因となるのだが、
それはまた、別のお話。

あと、大樹が生き残った事も付け加えておく。

「おぼえておれぇ〜〜、忠夫〜〜」

…父子の闘いは、まだまだ続くようだった。





   END

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