ザ・グレート・展開予測ショー

とら、トラ、虎!35) ファースト・ビジネス!


投稿者名:ヴァージニア
投稿日時:(03/ 6/14)


金髪の少女、白石茜は、中学時代に一文字と幾度となくケンカしてきた不良少女であった。
・・・そして高校2年生になった彼女は、エミ以外に唯一タイガーの暴走を押さえる笛、
“獣の笛”を吹くことができることをきっかけに、タイガーの最初の助手になった。
だが除霊に関しては全くのシロウトであり、除霊仕事は今回が初めてとなる・・・


■除霊現場1件目 とあるマンション■
11月某日、タイガーと茜はマンションの管理人のおじさんに案内され、問題の部屋にやってきた。
管理人のおじさんが言うには、
去年病気で亡くなったおじいさんの霊が成仏しそこない、この場所に留まったままだという――ー

「 ・・・? 誰もいねえな。 」
「 霊が不安定で、姿が見えにくいんジャ。
  それじゃああかねサン、玄関に結界の札を、ワシは奥の扉にお札を貼るケエ。 」
「 わ、わかった。 」

タイガーは、タタミの敷かれた和室の部屋をまわりこみ、ベランダに通じる扉に結界札を貼った。

「 じゃああかねサン、さっそく笛を吹いてクレ! 」
「 ああ! 」

茜は獣の笛を取りだし、笛を構え、タイガーを制する呪文を発した。


〈 虎よ! 虎よ!

  ぬばたまの夜の森に燦爛と燃えて!!

  そも、 いかなる不死の手、

  はたは眼の造りしか、 汝がゆゆしきー・・・・・・ゆゆしき・・・・・・  〉


ちらっ・・・茜は呪文の書かれた紙(カンペ)を見た。

「 えーと、なんだっけ? 」
「 ・・・ちゃんと呪文、覚えててツカーサイ。(汗) 」


〈 汝がゆゆしき均整を・・・

  我が命により封印を開き、 再び目覚めるがいい!!  虎よ!! 虎よ!!  〉

ピュルルルルルルルルルルルルルッ

ぼんっ
「「 グルアッ!! 」」

笛の音を聞いたタイガーはトラ男になり、
精神感能で弱体の霊を目視できるよう念波を送ると、和室の中心に、おじいさんの霊がはっきりと姿を現した!

「 あ、見えた!! 」

《 オオオオオオオオオ!! 》

「 あかねサン、吸印の札を!! 」
「 あ、はいっ! 」

「 吸印!! 」 <シュポンッ>

タイガーがお札をかざすと、おじいさんの霊は特に抵抗することなく吸印された。

「 ヨッシ、あとはこの札を専門の人に成仏するよう処分してもらうだけやノー。 」

「 ・・・なあ、これで終わりなのか? 」
「 そうじゃが? 」
「 霊体攻撃は!? 」
「 悪霊じゃないし、無理に攻撃する必要もないじゃろ。 」
「 それならわざわざ結界の札を使う必要なかったんじゃねーのか!? あれだって安くねえだろ!? 」
「 あの札はもしもの時のため、逃げられんようにするためのものジャ。 」
「 それにあの程度だったら、笛を吹く必要もなかったんじゃねーのか? 」
「 精神感応は短時間でもすごく疲れるし、常に気を張ってないとだめなんジャ。
  あかねサンの笛のおかげで、ワシは楽に除霊できた。 ありがとう。 」
「 そ、そうか・・・でも今のが5万の仕事か。 赤字だけど、最初はこんなもんか。 」
「 いや、いまのが20万ジャ。 」
「 ・・・え? 今のが20万かよ! あれぐらいならあたいにだってできそうだぜ!? 」
「 じゃあ次、やって見るか? 」
「 え? 」






■除霊現場2件目 とある民家■
昼食をとった後、2人は次の除霊場所にやってきた。
そこは普通の2階建ての家で、庭には子犬の霊が吠えながら走り回っていた。
その子犬の霊は、茜にも目視できていた。

《 ワンワンワンッワン! 》

「 内容はこの子犬の除霊ジャ。
  さっきのじいさんと同じように、成仏しそこなったんジャ。
  今回は吸印札を使う必要もなし、通常の霊体攻撃で成仏可能。
  動物霊を支配する獣の笛なら簡単にやれるじゃろーて。 」
「 よし、わかった! 」

ピュルルルルルルルルルルルッ

『 大人しく成仏しな!! 』
《 ワンワンワンッワン! 》

茜は笛を吹き、成仏するよう念じたが、子犬の霊は、相変わらず元気よく庭を走り回っている。
タイガーは庭石に座ってその様子を見物していた。

「 ・・・あんまりきいてないノー。 あかねサーン、もっと念をこめてやらんと。 」
「 ぷはっ! っせえな! わあってるよ!! 」

《 カプッ! 》

「 ! ってえ! 」

子犬の霊は、茜が笛を吹くのを辞めたスキに、茜の手に噛付いた!
カッとなった茜は直接殴りにかかるが、そのコブシはむなしく、煙を殴るかのように無意味に空回りしていた。

「 あかねサーン、殴るにしても、霊気を込めんと霊体には通用せんぞー。 」

「 っせえ! 気が散る!! 」  







 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ・・・・・・30分後。

「 はあっはあっはあっはあっ・・・ 」
《 クーン クーン・・・ 》

す――――っ

子犬の霊は成仏し、消えていった。
するとさっきまで殴り疲れていてた茜が、笑みを浮かべる。

「 なあ、今あたい除霊したろ!? 」
「 あ、ああ・・・ 」

『 ていうより、子犬のほうが遊びつかれて成仏したって感じじゃったが。
  ・・・・・・まあ、いいか。 喜んどるし。 』

「 明日からもこの調子で、どんどん除霊していこうぜ!! 」



こうしてタイガーと茜の初仕事が終了した。

その後タイガーは、週に3・4回、Dランクの仕事をこなすようになった。
たいして危険な仕事でもないため、タイガー1人でも充分なのだが、
茜に除霊経験を積ませるため、簡単な仕事はなるべく茜にさせるようにした。




・・・そして1ヵ月後、茜の最初の給料日の日が来た。

その金額は、茜の予想を大きく上回っていた。
茜はタイガーに聞くと、除霊のレクチャーを受けた時間分も含まれているとのことであったが・・・

その翌日、デパートで買い物をした茜は、服やCDの入った紙袋を両手に持って歩いていた。
いつもの表情とは違い、その日の彼女は珍しくニコニコしていた。

「 ふんふんふーん♪
  いやーこんなに買い物したの初めてだぜ!
  まともに働いて給料もらうのってこれが初めてなんだよな。
  いっつもバイトはすぐクビになっていたし・・・むいてんのかな、この職業♪ 」

茜は更に笑みをこぼした。

「 よっしゃ! まだ金も余ってるし、ゲーセンにでも行くか!! 」

と、紙袋をもったままガッツポーズをする茜の前に、タイガーの姿が見えた。

「 ん? あれ所長じゃねーか。 どこいくんだ? 」

気になった茜は、タイガーの後を追った。




■厄珍堂■
タイガーの入った店の看板には【厄珍堂】とかかれてあった。
茜は店の中の様子を覗き込むと、そこにはタイガーと厄珍がカウンター越しに話をしていた。

「 だから頼んます! 今月分のお札代、もう少し待ってツカーサイ!! 」
「 う〜ん・・・ 」

『 あのチビオヤジ、確か事務所祝いのときに来てた・・・ 』

「 まあ、事務所を構えたばかりだから、苦しいのはわかっとるアルが、
  たった100万円分のお札代も払えんほど苦しいのアルか? 」
「 ええ、まあ・・・・・・。 」
「 おまえさんの実力なら、数百万単位の仕事ぐらいこなせるアルよ。 」
「 エミさんには難易度の高い仕事は禁止されとるし、
  開いたばかりですケン、そんなにわりのいい仕事なんて入ってこんですジャ。
  車の免許もまだじゃから、遠出の仕事はできんし、
  第一あかねサンにもまだ、危険な仕事はさせられんし・・・。 」
「 まあ出世払いで待ってやってもいいアルが・・・おまえ少し痩せたアルか?
  飯ぐらいちゃんと食っとんのか? 」
「 いや、あ、それは・・・・・・カップめんとパンの耳でなんとか・・・。 」

フウーッ・・・厄珍はパイプをふかして一服した。

「 助手の女の子は役にたってるアルか? 」
「 そ、そりゃもちろん! 」
「 じゃがいくらGSの助手でも、ほとんど素人の子に時給2500円は高くないアルか?
  令子ちゃんとこのボウズの10倍アルね。 」
「 あそこは別格じゃろ。(汗) 」
「 おまえだって、私立校の学費とアパート代・光熱費とか、
  生活費を全部自分で払いながらエミちゃんとこの助手やって、それでギリギリの生活しとったろ。 」
「 そりゃまあ・・・じゃけどあかねサンも頑張ってくれとるし! 」

フウーッ・・・厄珍は再びパイプをふかすと、お札の置いてる棚へと足を運んだ。

「 ま、いいね。
  おまえなら依頼が入るようになれば バンバン稼げるようになるアルから、それまでの辛抱アルね。
  あ、お札1枚、おまけしといてやるアルね。 」
「 あんがとーございます!! 」


『 ・・・・・・ 』


茜は両手に持った買い物袋を握り締めた。
今、自分が手にしてるモノの意味を。

高額の時給。
自分に合わしてくれてた、レベルの低い仕事。
構えたばかりの事務所。
除霊の講習を受けてた時間も含まれていたこと。

全てはタイガーの、自分に対しての期待と感謝・・・

ちょっと考えればわかることなのに、茜はそのことに気づこうとしなかった自分が許せなかった・・・・・・






■夜 タイガー除霊事務所■
ぱちっ。

「 ふ〜 今日も疲れたノー・・・? 」

事務所に戻ったタイガーが電気をつけて中に入ると、
室内の中心にある来客用のテーブルの上に、4・5人前の寿司が置かれてあった。
とそこに、台所にいた茜が姿を現した。

「 おかえり。 」
「 あかねサン、これは? 」
「 どっかでさ、初めて給料を貰った時には、世話になった奴になんかあげないといけないって
  話を聞いたことがあったからよ、あんたにはモノより食い物がいいかなって思って・・・ 」
「 ・・・・・・。 」
「 そ、それとバイト代のことだけど、半分にしてくれていいぜ。
  食うもんに困るぐらい苦しいのなら、もっと先に言え、バカ・・・ 」

顔をそむけて照れながら言う茜に、タイガーの目が潤んだ。

「 あ、あのさ、あたいがんばるからよ、ちょっとぐらい危険な仕事、ガンガン引き受けてくれよ! 」
「 あかねサン・・・・・・ウッ・・・ウッ・・・ 」
「 お、おい、泣くなよ! 」
「 やっぱりあかねサンはいい子ジャ・・・ 」
「 あたいはいい子なんかじゃ・・・ああ、もういいから食えよ! 寿司が乾いちまうぜ! 」


その日の夜、久しぶりにまともな料理を味わうことができたタイガーであった。


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