ザ・グレート・展開予測ショー

彼女の夕陽―後編―


投稿者名:マサ
投稿日時:(03/ 6/14)

「お止めなさい!」
「へ?」
突然の美智恵の静止の言葉に横島は思わずたじろぐ。
「い、いや、そのー……隊長?」
「ごめんなさい。やはり、何があろうと行くつもりなのね」
美智恵は椅子にゆっくりと座り直し、俯いてまた表情を曇らせた。
ここまで来ると流石の横島も怪訝に感じる。
「隊長…俺、熟年の趣味は」

 ばきっずがっぐきょっがしゃんっぐしゃっ

「ほ、ほりはひょうはんほひへれふえ… <そ、それは冗談としてですね…>」
「ん?」
床に横たわっている意味不明な真っ赤な生命体らしきもの(謎)に冷ややかな視線を送る真っ黒な棒を携えた鬼神(汗)。
「あの〜、何なんですか?さっきから渋ってばかり…」
「横島クン?」
「は、はい?!」
美智恵から返って来た声に横島はまたしても反応して“気をつけ”の姿勢を取ってしまう。
「冷静に聞いて」
「何をですか?」
「今、あなたの霊体の中にある二種類の霊基構造は少しずつ同化を続けているの。あなたの霊基が機能をほぼ失っている彼女の霊基を取り込む形で」
「同化ですか…」
「そう。そして、今もし彼女が復活し、彼女の霊基構造がその影響で活性化した場合、二つの霊基の接点では一部霊波の完全なシンクロが起こり、二つの霊力の数千倍のエネルギーが発生する………ということが予測されます。しかも、間違いない事実として」
「……………」
「実際にやったあなたなら分かるでしょう。高シンクロした霊力が人体にとってどれほど強大すぎる力か…」
言い終えたところで美智恵は口をつぐむ。
横島にとってこの事実はあまりにも辛すぎる。
止めるには言うしかなかった。
しかし、後悔の念は拭えない。

「……………」
「……………」
暫しの沈黙。
そして、先に再び口を開いたのは美智恵だった。
「あ、えーと、ごめんね。こうでもしないと諦めないと思って…。でも、転生した場合には波長も変わるし、大丈夫だから…」
「有難うございました。何か、もうスッキリしました。転生する方法だけって絞られるともう考える必要もないですから」
なかなか止まらない涙を拭う横島の表情は実に晴れ晴れとしていて、美智恵はほっと安堵する。
この少年は強いのだと。
「そう。話はそれだけかしら?」
「あ、はい。それから、このことは…」
「ええ、誰にも言わないわ」
にっこりと笑顔が美智恵は応える。
「じゃ、俺はこれで」

ばたんっ

横島が扉の向こうに消え、階段を下りる音がだんだんと遠退いていく。
「…これで良かったのかしら?西条クン?」
「ええ、この件に関しては流石に僕も下手なちょっかいを出す気はしませんよ」
物陰から現れつつ、扉の方を見つめる西条。
「ただ…」
「ただ?」
「令子ちゃんを渡したりはしません」
「ふふっ、ご自由に♪」
楽しげに笑う美智恵。
「…辛い役を押し付けたようですいませんでした」
「いえいえ、これで正解なのよ。きっと」
そんな会話を交わし、二人は窓からビルの前に立つその人物を見ているのであった。









「あれ?美神さん、どうしてここに?」
「……………」
「どうしたんスか?」
「………いい顔してるわね///」
顔をほんのり赤らめ、目を細めて令子はぼそっと呟く。
「そうっスか?…あ、えーと、その…まともに仕事してなくてすいませんでしたっ!給料ドロボーなどと言われそうですいませんでしたっ!最近ずっとすいませんでしたっ!その分ちゃんと働くんで、折檻だけはカンニンしてぇ〜〜〜!!」
「………っ!/// バカなんだからっ!/////」
土下座する横島に背を向け、足早に事務所へ戻ろうとする令子。
「ちょ、ちょっと美神さ〜ん!怒らないでぇ〜〜〜!事務所から巨大ハンマーやら棘吐き鉄球やら持って来るんや〜!きっとそうなんや〜!」
「もうっ!公衆の面前でみっともない!いいから今日からまたちゃんと働いてちょーだい」
「美神さん…。はい!俺、やります!」
「さ、おキヌちゃんが帰ってきたら仕事の準備だからね (ったく、何でいきなり現れるのよ!何で爽やかな顔で現れるのよ〜!/////)」
この時、令子の顔が真っ赤になっていたことに背後にいた横島は気付くことは無かった。











少しして、おキヌが帰った頃には空は茜色へと染まり始めていた。
「ただいまー」
「おー、おかえりー」
こうやって改めて今の心境で聞いてみると、心持ち、彼女の声が沈んで聞こえていたことに今になって気付く。
「横島さん…」
「ん…?」
「……………」(じわぁぁ...)
「え!?どしたの!?」
おキヌのいきなりの涙に動揺する横島。

がしっ

「横島さん…元気になってるぅ…」
おキヌが買い物袋を床に落として、横島に抱きつく。
あぁそうか、と横島は思う。
これほどまでに自分は思われていたのだと。
自分のいるべき所はここで、離れたりしようとは思えないくらい幸せなのだと。
「ごめん」
「はい」
横島が謝ると、目にうっすら涙を溜めておキヌが満面の笑みでそう言った。
「/////」
照れくさくて頭の後ろを掻きつつ窓を見ると、茜色の空と燃えている太陽が見えた。
彼にとっては、あの時から彼女を思い出す存在だった夕陽。
何故毎日見えるのか、走っても走っても同じ場所で輝いている鬱陶しい存在だった。
消えて欲しかった時もあった。
しかし、今はどうだろうか。
何処となく、優しい印象がある。
じっと見てしまう。
「(ルシオラ…)」
ふと、彼女の姿が彼の頭の中をよぎる。
また、あぁそうか、と横島は思った。
夕陽は彼を苦しめる物ではなかったのだ。
何時も彼女はそこにいるのだ。
「(ルシオラ…ルシオラ…ルシオラ…ルシオラぁっ!………おまえが俺にくれたもの全て“ありがとう”…!)」





  ― 副題〜失ったひとは胸の中で生きてるんだよっ!〜 『 完 』 ―

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