ザ・グレート・展開予測ショー

彼女の夕陽―前編―


投稿者名:マサ
投稿日時:(03/ 6/14)

注:このお話は「ルシオラの復活は不可能である」という展開となっております。ルシオラーの方はご注意下さい。

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或る日の午後のこと―――。

「……………」
事務所の食卓で頬杖を付き、宙をぼぉーっと眺める男が一人。
「もうっ、何なのよ!イライラするわね!!」
耐え切れずに令子が事務机に平手を食らわして立ち上がる。
確かに、焦点の合ってない目は何処を見ているのかさえ疑問であるし、一方的に無視・又は無反応で通されると令子でなくとも腹は立つ。
一連のアシュタロスの事件が終焉を迎えてから暫くが経った。
しかし、別段落ち込むわけでもないながらも、横島は未だに以前の生活に戻ったとは言えない。
「……………」
「あ゛〜〜〜っ!何時までそうやって黙りこくっているのよっ!」
青筋を立てて怒鳴りつつも、令子にも理由は或る程度分かるような気もするのだ。
但、それ以上にそんな事で機嫌を悪くしている自分に何か納得したくないものがあるのが一番厄介だったりもするのだが。
しかも、現在はおキヌが買い物に行っているため、愚痴る相手さえいない。
早くこの状況を打開したい。
とにかくその言葉に尽きた。
「(私が何でイライラしなきゃいけないのよ…!)」
横島がいるとそんな自問をしてしまう。
「いーかげんにしないと自給下げるわよ。何もしないでいるバイトに給料払うなんて私のポリシーが許さないわよ」
「……………」
1オクターブ下げた声音ではなった得意技にさえ反応しない横島。
はあ、と今度は令子が一つ溜め息を吐くと椅子に腰掛けている横島の横に歩み寄る。
「あんたねぇ、気持ちは良く分かるけど、何時までも考えていてどーすんのよ。ずっとそんなんで許されると思ってるわけ?」
「……………」
「第一、あんたがそーやってると………その、荷物持ちがいなくて困るでしょう?」
途中で台詞を詰まらせ、令子は少し顔を赤くする。
「すんません」
自嘲気味にやっとそう言って俯くが、やはり何処か力がない。
「そろそろ気持ちの整理つけたら?割り切るとか、吹っ切れるとか…」
「ホントは分かってるんですけどね。今更何時までもあいつの事ばかり考えていても仕方ないって。こんなんじゃぁダメだって。分かってるんですよ?………でも、もしかしたら帰ってくるんじゃないかって…。どうしても諦められないんです」
「……………」
堰を切ったように次々に言葉が出てくるが、横島の口調は穏やかだった。
しかし、その内容に関しては令子には返す言葉が無い。
自分もそうだったから。
大切な人を失った後の何かの欠けた感覚は味わっているから…。
「可笑しいっスよね。あいつとは何時かそう遠くない未来に会えるはずなのに、今直ぐに会いたくて、それで…、それで、つい方法を考えていて…」
「霊体が足りないんでしょう?諦めが肝心よ?」
ごくあっさりと、出た台詞。
彼女としては、こんな話をされては面白くない。
少々むすっとして腰に手を当てて上から見下ろしてやる。
「すんません…」
また自嘲気味に謝りつつ、懐からその蛍の形状をした“彼女”の霊体片を取り出す。
「(そう…今、俺が持っているのはこれしか………ん?)」
再び物思いに耽るかと思われた矢先、横島はがたんっと椅子が後ろに倒れるのも気にせず立ち上がった。
「あああああ〜〜〜〜〜っ!!?」
よく響く独特の声が事務所の一室を瞬間的に音の渦の中へと変える。
突然の事にそれはもう見事なくらいにひっくり返る令子。
「な、何よ、今度は…」
飛び出すかとも思えた心臓の辺りに手を当て、ぜぇぜぇと息を荒くして起き上がった令子が事の元凶を睨む。
あの…、と横島は切り出そうとするが…
「…いや、何でもないです」
途中で止めた。
そんなことを聞いたら、目の前の人物は何と言うだろうか。
引き止めるのだろうか。
いや、何にしても自分の問題なのだ。
自分でやってのけなくてどうするのか。
そんな思いにとらわれ―止めたのだ。
「あ、俺、ちょっと散歩でもしてこよーかな…」
一目でそれと分かる演技でそれだけ言うと、明らかに別の目的がありそうな落ち着かない動きでそそくさと消えていく横島。
後に残った令子は唯それを複雑な面持ちで見送るが、やはり大体の見当はついていた。










「(多分、今の俺に出来る事はこれくらいしか…)」
事務所の階段を駆け下り、外に出、隣の建物に入り、階段を駆け上る。
そして、その扉のノブに手をかけた。
『超常犯罪課』と書かれた磨りガラスのはまったその扉を暫し見つめ、ごくり、と喉を鳴らす。
がちゃっ…、という音と共に扉を開く。
はっきり言って、彼としてはこんなに緊張しつつ部屋に入るのは教師に個室に呼ばれる時だけで十分なのだが。
中へ半歩入り、一通り見回すと、ベビーカーとその横の椅子に座った女性が目に入る。
他に誰かいはしまいかともう一度見回し、それを確認すると、こんちわー、と横島は挨拶する。
「西条クンはいませんよ」
「そ、それはどーも」
美智恵は来客を一瞥し、事務的かつ狙い澄ましたかのように言い、横島は一瞬びくっとする。
しかし、この状況は横島にとっては好都合だ。
何せ、目当ての人物が目の前にいて、更にはこの世で一番弱みを握られたくない最悪のキザ男がいないのだから。
ここぞとばかりに気を引き締め、横島は切り出す。
「隊長、その、話が………」
「ダメです」
「………へ?」
一瞬だった。
横島が切り出した直ぐ後に鉄球の如き一撃が彼の発言を押しつぶす。
そんな頭ごなしの“ダメ”の言葉に、見えない壁にぶつかった時のような素っ頓狂な表情の横島。
「いや、あの……俺まだ何も…」
「…“ルシオラを甦らせる方法が見つかった”……でしょう?」
すくっと立ち上がり、そう告げた美智恵の表情は厳しい。
鋭い視線を浴びるくらいなら或る意味で慣れすぎて別にどうという事も無いが、こちらの用件を読まれたことには横島も唖然とする。
「な、なんで分かったんスか?」
「今の今までぼぉ〜っとしていた人物が慌てて現れて、しかも今までの行動の理由を知っていれば、それ以外に何がありますか?」
「うぅっ…」
流石にもはや返す言葉も無くその場で固まる。
しかし、横島も今回ばかりは何時もと場合が違うのだ。
今目的を見失うわけにはいかない。
渇いた喉を気にする余裕も無く、必死に言葉を押し出す。
「じゃ、じゃあ、なんで駄目なんスか?」
美智恵は顎に手を当て考える姿勢を取る。
「では聞きますが、あなたはどうやって彼女を助けるというの?」
そう問う美智恵の視線が真っ直ぐ横島に向けられた。
「時間移動で過去へ行ってそこの俺の持っているルシオラの霊体と、今俺の持っているものを合わせれば…」
少し引き気味ながらも、さも簡単な事のようにあっさりと、力を篭めて言う。
それに対し、美智恵は短く溜め息を吐きつつ柔らかい口調で返した。
「時間を遡るにしても危険が伴うのは知っているでしょう?私は神族から直接禁止されている上にひのめのこともあります。あなたや令子が行くにしても2人とも現状では成功確立は極めて低い………。はっきり言いましょう。例え万が一成功してもほぼ確実に片道切符になりますよ」
「…それでもいいです。俺、巧く言えないけど、あいつにいてほしいんです。あいつが助かれば、あとは元の時代に戻るまで何度でも繰り返せばその内当たるだろうし」
「…………一人で行くつもりなのね」
「ええまあ、これは俺の仕事っスから」
そう言って悪戯っぽく笑う横島を見、美智恵は愁いを浮かべた。
横島は文珠を手の平に浮かべ、言う。
「じゃ、俺行きます。後は巧くみんなに…」











































「お止めなさい!」

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