ザ・グレート・展開予測ショー

命を賭して


投稿者名:Kita.Q
投稿日時:(03/ 6/13)

 闇の帳がおりた街中を疾駆する影がある。
 街路灯の光を避け、目的地に向かってひた走る。一瞬、光が彼の横顔を照らし出した。

 横島である。

 やがて彼は、目指す建物にたどりついた。街路灯の光の届かないところに身を潜め、周囲の様子を伺う。自分の周りに人がいないことを確認すると、横島は建物を囲む塀を見上げた。

 その建物を囲む塀は、周囲の家のそれと比べて、ひどく高い。横島の身長では乗り越えられないかと思える。横島は“栄光の手”を右手に出現させた。原型のまま、塀の上に向けて構える。左手を右腕にそえ、低い声でつぶやいた。

 「伸・び・ろ・・・」

 ゆっくりとしたスピードで、“栄光の手”は塀の上に向かって進んだ。塀のへりにツメをひっかけると、今度は、

 「縮め・・・」

 声を発したと同時に、横島は地面を蹴った。反動をつけて跳ね上がった彼の体が、塀の上にふわりと降り立つ。そして、音を立てないように塀の内側に飛び降り、湿気を含んだ重い空気を嗅いで、横島はニヤリと笑った。

 来たときと同じように、周囲の様子を伺いながら、横島は建物に近寄っていく。そして塀をよじ登ったときと同じ要領で、横島は建物の頂上を目指し、再び登攀を開始した。

 やがて、横島は建物のいちばん上に到達した。身を低くした姿勢で天窓に取り付き、建物内の様子をじっくりと観察する。

 











 











 (ぬっふっふ・・・全国のおとーさんおかーさん、娘さんたちは健康に育ってますよ〜〜)

 そう、ここは銭湯である。
 そう、ここは銭湯である。

 うら若き乙女(おばちゃん・婆さんは対象外)が楽しそうに入浴している情景描写は、GTYの性格上割愛させていただくが、とにかく横島は、その一部始終をくまなく観察し、己の中に煩悩パワーを溜め込んでいった。



 
 しかし、銭湯側も、やられっぱなしでいるつもりは全くない。
 
 「でも銭湯ってさ、覗かれたりしないかな〜?」
 「自分の家のお風呂と違って、そこらへんが心配だよね〜」
 
 女性客の心配そうな声を聞き、番台のおかみさんが眼鏡をキラリと光らせた。

 「心配ご無用!ウチは万全の備えをしてあります。・・・運営五十年の誇りにかけて!」




 覗きに没頭している最中、横島は自分の背後で、金属が触れ合うような音を聞いた。とっさに右に転がった次の瞬間、すさまじい音とともに屋根の瓦が数枚弾けとんだ。

 横島は、銃声が聞こえた方向を見て、ギョッとした。銭湯の向かいのアパートの二階から、着物にたすきをかけ、自動小銃を構えた中年の女性が、自分に狙いをつけているのである。

 考える間もなく、横島は転がりながら襲い来る銃弾をかわしていった。横島がいた場所の瓦が銃弾に煽られ、激しく踊る。

 思い切って横島は飛び降りた。地上の闇に身を浸し、逃走しようとしたのである。

 しかし、横島が地上に降り立った瞬間、強力な光が彼を射すくめた。

 (どんな銭湯なんだ!サーチライトまで持ち出すか普通!?)

 そんなことを一瞬だけ考え、しかし横島は走り出した。動きを止めると狙い撃ちされるだけなのだ。サーチライトの光と何百発もの銃弾が激しく横島の身辺をさらってくる。走りながら銃弾を避ける横島の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 「おまわりさん、ヤツが逃げます!あっちの方向です!!」
 「よしきた!まかせなさい!!」

 角にふせていたパトカーが、火を吹くように飛び出した。派手にサイレンを鳴らして横島を追跡し始める。どうやら最初から二段構えの戦法だったらしい。

 横島は文珠に文字を込め、ポイッと後ろに放った。そのとたん、彼の背後で大爆発が起こった。爆風でパトカーが吹っ飛び、民家の塀が崩れるなか、死傷者が出なかったのは幸運なのか、ご都合主義か。

 


 後ろも見ず、横島は走り続けた。闇夜を駆けぬく彼の足は獣のように速い。




 さて、次の日の朝。

 「おっはようございまーす!!やはっ!美神さん、今日は一段とお美しい!!」
 「今日はまたハイテンションねぇ、横島クン・・・」

 やたら元気良く出勤してきた横島にあきれ声をかけた令子だったが、おや、という表情を浮かべた。

 「なんか横島さん、今日は霊力がいつもより強いような・・・」
 「どうしたんでござるか、先生?」

 先に出勤していたおキヌとシロが、不思議そうな顔で横島に尋ねた。

 「いやなに、修行の成果さ。今日の俺は一味違うぜ!」

 豪語する横島をみて、令子はうさんくささを感じた。しかし一方で、何か期待が叶ったような気もしていた。

 (やっと横島クンも、GSとしての心構えが出来てきたのかな?)

 そのとき、タマモがテレビをつけた。朝のワイドショーの時間である。これを毎朝チェックするのが彼女の日課なのだが、その番組内容に事務所メンバーは釘付けとなった。

 『疾風の覗き魔あらわる!!』というタイトルで、昨夜横島が悪行を働いた銭湯のまわりにテレビカメラと野次馬が集結して、大騒ぎになっていたのである。

 リポーター『昨晩、この銭湯を覗いていた人物がいたということで取材にやってきましたが、・・・あなたがその人物を目撃した方ですね?どんな男でしたか?』

 目撃者A『いや、顔はよく見えなかったんですが、なんかもう、すごいスピードで走ってました』
 目撃者B『なんか、手に光るグローブみたいなのをはめてました』
 目撃者C『番台のおばさんが自動小銃で撃ってたんですけど、全然当たらなかったですよ』
 目撃者D『なんか、爆弾みたいなのを持っていました。それでパトカーが、ドカーンって』


 女性陣は、いっせいに横島に視線を向けた。

 「光るグローブって、“栄光の手”のことじゃ、ないですよね・・・?」
 「爆弾って、文珠のことでござるか・・・?」
 「今日、霊力が妙に強いのって、もしかして・・・?」

 おキヌ・シロ・タマモの疑問に、あわてて横島は首を振った。

 「や、やだな〜!そんなわけないだろ!?」


 リポーター『なんと、その覗き魔の顔がビデオに映されているということで、さっそく見てみたいと思います。テレビをご覧の皆さんもご一緒にどうぞ!』

 その映像を見た瞬間、女性陣の横島への視線は絶対零度ちかくまで下がった。少なくとも、横島はそう感じた。

 針のムシロの上に正座させられているような状況を打破するため、横島は口を開いた。

 「みんな、誤解しないでくれ。これはあくまで・・・」
 「あくまで、なに?」

 底冷えのする令子の問いに、横島はガクガク震えながら答えた。

 「し、し、仕事のため、・・・です」

























 


 「これから毎日こうしておけば、たぶんバレないと思うんだけど、どうかな?」
 「う〜ん・・・難しいんじゃないでしょうか・・・」
 「ま、いざとなれば私が殺すし、なんとかなるわよ」

 拳に付着した血をぬぐいながら、美神はフッとため息をついた。その足元には、人相が全くわからなくなるまでシバき倒され、細かく痙攣する横島の哀れな姿があった。



 おしまい。

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