とら、トラ、虎!34) 唐巣の教え!
投稿者名:ヴァージニア
投稿日時:(03/ 6/11)
■タイガー除霊事務所■
この日多くの友人達が祝いにやってきており、10畳前後の狭い事務所の中は人であふれていた。
そんな中タイガーは、パテーションで区切られたせまいキッチンで、雪之丞やピートと話していた。
「 タイガー知ってるか? 横島、美神の事務所辞めたんだぜ。 」
「 ・・・そうか。 」
「 なんだ、あまり驚かないんだな。 」
「 ああ、前に横島サンから聞いとったから。 」
「 ふーん・・・。 」
『 横島サン、妙神山に行ったんじゃな。 』
雪之丞に続き、ピートがタイガーに話した。
「 だから西条さんの機嫌がよかったんですよ。 ほら、西条さん、横島さんのこと嫌ってましたから。 」
「 ああそれでかー。 」
「 でも横島さん、ホントどこにいったんでしょうね。 」
「 アイツなら・・・ 」
雪之丞がそう言いかけると、ピートとタイガーの肩を持ち、2人の顔を寄せて、周りに聞こえないよう小声で話しだした。
『 ・・・横島は妙神山に修行に行ってるんだ。 タイガーは聞いてんだろ? 』
『 ああ。 』
『 でもどうして? 』
『 あいつにもいろいろあるからな。 昔のこともあるし。
妙神山に行ってることは秘密にしとけよ、あいつの頼みでもあるしな。 』
ピートとタイガーは頷いた。
とそこで、遠目からは髪の毛で気づきにくかったが、ピートが雪之丞の額に貼られているバンソウコウに気がついた。
『 雪之丞、そのケガどうしたんです? 』
『 ああ、実は俺、横島の穴埋めに美神の事務所で働くことにしたんだ。 』
『『 えっ!? 』』
『 横島にどうしてもって頼まれてよ、あいつと一緒に事務所に言って、そのこと言ったら・・・ 』
『 みなまで言わなくていいです。 』
『 たいへんじゃったノー。 』
ピートとタイガーは察した。
美神が横島をしばき、そのとばっちりを雪之丞が受けたことを。
『 シロやおキヌちゃんは・・・ 』
『 ああ、かなりショックだったようだぜ。 今日はとても祝いにこれる状況じゃなかったしな。 』
『 そうかー・・・ 』
男が3人寄って、こそこそ話してる所に、3人の少女が背後から現れた。
「 なーに男同士でコソコソ話してんだよ、タイガー。 」
「 い、一文字サン!(汗) 」
「 雪之丞、私とは話してくれないのですの? 」
「 か、かおり・・・(汗) 」
「 ピートおにーさま! お話しましょうよ〜! 」
「 あ、アンちゃん・・・!(汗) 」
3人の少女は、3人の男をキッチンから引っぱり出してきた。
その様子を見た愛子と貧は・・・
《 青春ねー。 》
《 何故にこの世界、オンナが強いんやろか? 》
一方で茜は、部屋の窓に腰掛けて、顔を外に向けながら、中の様子をちらちらとうかがっていた。
そんな一人でいる茜のところに、唐巣が近づいた。
「 キミがタイガー君の助手の白石・・・茜さんですか? 」
「 だからなんだよ、オッサン。 」 <ギロッ>
「 あなた唐巣神父に対してなんて失礼な―――! 」
唐巣を睨みながら悪態をつく茜に、唐巣の弟子の聖羅はカッとなった。
その聖羅の言葉を、唐巣は手を上げて制した。
「 どうです? あなたも一緒にみなさんとお話しませんか?
ここにいるのはほとんどGSですから、ためになると思いますよ。 」
「 っせえなー! ひっこんでろジジイ!! 」
ぴたっ・・・事務所内がシーンと静まる。
「 あ、あかねサン! 」 「 てめえまた―――! 」
唐巣は再度手をあげて、タイガーや一文字の言葉を止めた。
唐巣は動じることなく、茜に話し続けた。
「 そうとんがらないでくださいよ。 私達はあなた達をお祝いしにきたんですから。 」
「 ・・・・・・ 」
「 みんなあなたのことはよく知らないし、あなたも私たちのことをよく知らない。
だから会話をするんです。 会話をする前から人を避けていては、何も始まりませんよ。 」
「 センコーみたいなこと言ってんじゃねえ!! あたいのことはほっといてくれ!! 」 <バッ>
「「「 あっ!! 」」」
茜は2階の窓の横にある雨どいに掴みながら軽々と降り、そのまま走ってどこかにいってしまった。
「 あんのバカ、とことんひねくれてやがるな! 」
「 唐巣神父ほっときましょう! ああいうタチの悪い女と関わる必要はありませんわ! 」
「 いやいや、ここは年長者の私にまかせてください。 そんなに悪い子ではないはずですから。 」
一文字と聖羅が言うと、唐巣はそう言って事務所を出ていった。
「 唐巣先生、あれで結構世話好きですから。 」
と、ピート。
「 唐巣神父・・・ 」
聖羅は窓から唐巣の背中を目で追っていた・・・
◆
■河原■
日が傾きかけた頃、茜は川に向かって石をなげていた。
「 ちくしょー! あ〜ムカツク! なんかわかんねえけどムカツク〜〜〜!! 」
そこに唐巣がやってくる。
「 いやー 青春ですねー、石を投げてうさをはらすなんて。 」
「 おっさんまだいたのか!? 」
「 健全でいいじゃないですか。 探しましたよ。 」
「 っせえな、ほっとけよ! 」
「 そう言われるとますますほっとけなくなりますねえ。 ジュース飲みます? 」
「 ・・・・・・。 」
茜と唐巣は土手に座り、夕日や川を見ながら缶ジュースを飲んでいた。
周りでは子供たちが遊んでいたり、ランニングをしている青年もみかけられた。
「 ・・・茜君、キミは“獣の笛”が吹けるそうだね。 」
「 それがどうしたよ。 」
「 その笛がなぜ、キミだけが吹けるのか、エミ君に聞いた事はないかい? 」
「 ・・・いや。 」
「 そうか、やはりな。 」
「 な、なんだってんだよいったい!? 」
「 一般的には、動物の心のわかる者が吹けると仮説が立てられているが、実際は少し違うらしい。 」
「 え? 」
「 以前エミ君が妙神山へ修行に行く前に聞いたことがある。
獣の笛は獣を操るための魔道具、それを吹くには寂しさや悲しみといった、
1匹であるが故の“孤独感”を知り、それに立ち向かう者にしか吹けないんだ。
もちろんある程度の霊力や才能を必要とするけどね。 」
『 じゃあエミさんはあたいと同じ・・・ 』
「 おそらくエミ君も、昔は茜君と同じ考え方をしていたのだろう。
誰も信じない、誰も寄せつけない、親も友達もいらない・・・
でも自分の誇りは捨てない・・・そんな心の持ち主だったんだ。 でも今は違う。
エミ君にもたくさんの友達や弟子がいて、そのエミ君は今でもその笛を吹くことができるんだ。
だからたとえ茜君がかわっても、1度でも吹けたキミならまた吹くことができる。 」
「 ・・・・・・。 」
「 だから信じてみないか? 人を、私達を。 茜君さえ心を開けば、みんな優しくむかえてくれるはずさ。 」
「 ・・・・・・。 」
唐巣は立ち上がり、川に背を向けた。
「 そのことをエミ君が言わなかったのは、茜君を信じてのことでしょう。
だが私はあえて知ってもらいたかった。
茜君ならそのことを知った上で、変われることを私は信じているからね。 」
「 ・・・・・・。 」
「 まあ、なにか相談があったら私の教会に来なさい。 オッサンでよければいつでも力になりますよ。 」
そう言うと唐巣はその場を離れた。
茜はしばらくの間、夕日を見ながらじっと黙って考えこんでいた。
■夜 タイガー除霊事務所■
がちゃっ・・・茜は事務所に戻ってきた。
一文字たちの姿はそこにはなく、タイガーが1人で書類の整理をしていた。
時計の針は夜7時を回っている。
「 おかえり、あかねサン。 じゃがもう帰ってええぞ。 親御サン心配するジャロー。 」
「 心配するかよあんな・・・ 」
「 ? 」
「 それよりもさ、除霊のこと教えてくれんだろ? いまから教えろよ! なあ! 」
「 それはいいが、親御サンに電話いれてからな。 」
「 ・・・わ、わかったよ。 」
タイガーはその日から、事務所の準備をしながら茜に除霊の知識や役割を教えていった。
お札の扱い方、笛を吹くタイミング、結界の張り方・・・・・
更にタイガーは、どの現場に行くにも自動車がないと不便ということがあり、時間の合間をぬって自動車講習所にも通っていた。
・・・そして2週間後、11月上旬、タイガー除霊事務所の初仕事の日がやってきた。
タイガーと茜は除霊道具をもって、現場に歩いて向かっており、この日の茜は朝から上機嫌だった。
「 うっしゃー やるぞー!! 」
「 気合はいっとるノー、あかねサン! 」
「 いやーなんかワクワクすんなー! なんたって初仕事だからよ!
もー事務所でちまちました除霊の勉強はうんざりだったからな! 」
「 ・・・ちゃんと理解してくれとるんカイノー。 」
「 も、ばっちり! で、どんな仕事なんだ? 」
「 今日はいきなり2件もあるからノー。
GS協会からもらったDランクの除霊仕事2つ、5万と20万の仕事がな。 」
それを聞いた茜の顔から、笑みが消えた。
「 ・・・なんかみみっちいな。
もっと報酬多いもんと思ってたけど。 それになんだ? GS協会って? 」
「 ワシみたいに事務所を開いたばかりのトコとか、仕事のない所に仕事をリークしてくれる所ジャ。
まあ3割ほど斡旋料取られるけどな。 」
「 3割ってーと、25万でえーと・・・ 」
「 7万5000円ジャ。
そいで税金とかお札とかの諸経費がかかるから、実際の報酬は2・3万ってとこカイノー。 」
がくっ・・・肩を落とす茜。
「 なんだよ〜それじゃほとんど儲けがねえじゃんかよ〜! 」
「 まー最初じゃからの。
近所で危険のない仕事をわざわざ選んだんジャ。 いきなりビビられたら困るしノー。 」
「 だ、誰がビビるってー!! 」
「 ははは、ま、除霊に失敗せんようにして、名が売れるまでの辛抱ジャ。
そしたら自然と依頼が増えていくじゃろうて。 」
「 でも所長、おめえ試験の首席だったんだろ。
そいつをウリにすれば、依頼なんてじゃんじゃんくるんじゃねーのか? 」
「 ていってもワシ2度も落ちとるし、そういう経歴をウリにするのはあまり好かん。
それにエミさんとの約束で、どのみち難易度の高い依頼は受けられんケンノー。 」
「 ふーん・・・。 」
そして2人は、最初の除霊現場にたどりついた。
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今までの
コメント:
- ■34話 後書き■
唐巣神父がもし、学校の先生になってくれたら、実にいい先生になってくれるでしょう。
そんな気がして、茜との2ショットの会話をもってきました。
そして横島はしばらくお休みです。 今頃は妙神山の門でも叩いている頃でしょう。 (ヴァージニア)
- いいですね〜、唐巣神父。
伊達に胃を痛めるようなストレス人生を送っていないですね。(笑)
どんなにタチの悪い人でも、優しく諭す唐巣神父に感動しました。
そして、ついにタイガー除霊事務所の初仕事!
果たして、どんな危険が待っているのか?
次回も楽しみにしております。 (TAITAN)
- これでモテナイ神父が不思議だよ。
あんたはえらい、
唐巣神父! (トンプソン)
- 唐巣神父が神父らしい仕事をしてると子見るとすがすがしいですね〜
実際の報酬は2・3万<こんな仕事ばかりでは事務所が維持できないと思ったのは私だけでしょうか(汗 (せいが)
- △TAITANさんへ
唐巣神父って、なんとなく損な役回りが多かったですから。
逆にそれがおいしかったりもするんですけどね。
初仕事・・・危険・・・になるカナ?
△トンプソンさんへ
唐巣神父は偉大です。
原作ではあまり目立つ行動はしてませんが、実力は充分にありますしね。
まだ結婚してないみたいですし、神父に新たな恋はアリなのでしょうか?
△せいがさんへ
こんな仕事ばっかりやってたら、維持できないでしょうね〜
まあ今回は最初ですしね。 そのあたりのお金にからむ話も、今後のテーマになります。 (ヴァージニア)
- うわ〜唐巣神父渋い〜かっこいい・・・。
さすが最年長者ですね・・・。
ナイスミドル(ミドルか?)ここにあり!って感じですね。
少しずつ成長し始めた茜ちゃん・・これからも面白くなりそうです。
次回もがんばってくださいね。 (かぜあめ)
- △かぜあめさんへ
若い頃はもっとかっこよかったんですけどね〜 若い頃の写真を見た横島たち泣いてるし。(悲)
もちろん今の唐巣も渋くてかっこいいですし、そんな神父をもっと書きたくなりました。
神父の出番も、ここだけでは終わらせられないですね。 (ヴァージニア)
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