〜『君とワルツと星影と』〜 (4)後編
投稿者名:かぜあめ
投稿日時:(03/ 6/11)
―『her』 side ―
小丘の坂道。
川と森と家の間に、消えゆく太陽が最後の光を投げかける。
細めた視界の先には午後の残光。感じたものは黒の色彩。
あの日、彼と一緒に観た、同じ時、同じ太陽、同じ世界。
ただ傍らにやわらかな温もりがない。それだけのこと。
だからこそこれは・・別の夕景。
・・・。
・・・・・・。
(3)
無人のダンス会場で・・タマモが一人座っている。
どうせ夜には移動するのだ。
だったらここで待機しておけばいい、と・・・彼女の理屈はそんなところだ。
(パーティーか・・・。)
この町についてから・・いまいち楽しいことがない。
たしかに珍しいものは多いのだが。
彼女の気持ちを曇らせる一因は・・、この場にいない一人の青年にあるわけで・・、
ちゃんと食事はとってるだろうか? 除霊でケガをしていないだろうか?
・・ほんの少しは・・私のことを・・気にしてくれているだろうか?
・・・・などなど考えだせばキリがない。
「・・第一、誰と踊れっていうのよ・・。」
そんなことを口にして・・・しかしタマモは首をふる。
一瞬だけ浮かぶ・・、自分と・・横島の姿を打ち消した。
彼が自分と踊るとは・・まず考えられないことである。
たとえ・・この場にいたとしてもだ。
――『・・ねえ・・、横島は蛍・・好き・・?』
『ああ・・好きだったよ。』
『・・・だった?』
『いや・・今も好きかな?』
・・半月前、無数の蛍の中で交わされたあの会話。
頭について離れない。
・・・・・。
・・・・・・・・。
「どうかした?」
不意に背後から声がして・・、タマモはバッと振りかえる。
そこに居たのは・・先ほどシロとぶつかった・・あの女性。
彼女は気遣うようにこちらを向いて・・、そのまま少し微笑んだ。
「・・ごめんね。びっくりさせて。」
「・・・・・いえ・・。」
呆けたような顔になる・・・、・・次の言葉が見つからなかった。
先に口を開いたのは・・女性の方だ。
「元気・・ないみたいね。」
タマモの隣に腰掛けながら、やわらかな声で聞いてくる。
「そう・・ですか?」
「うん。そうね・・、・・デートに遅れた恋人を待ってる・・そんな顔。」
彼女は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
・・・・。
それにタマモは・・一瞬きょとんと目を見開いて・・、
「・・それを言うなら・・あなたもです。」
愉快そうな視線を向けてそんな言葉を返したのだ。
・
・
・
「ほら・・。君の分のクロワッサンだ・・」
「・・おお・・・。」
桟橋で・・、ぼろぼろの服を着た横島と西条が・・人生に疲れきったように座り込んでいる。
墜落時、財布が空へと舞い上がり・・、路銀など無いに等しいこの2人。
落ちている小銭を拾っては探し、拾っては探し・・、ようやくパン2つ分が買えるまでに金が貯まったのだ。
「やれやれ・・。」
一息つこうとタバコを取り出し・・、そこで思いついたように西条が尋ねた。
「そういえば・・君はどうするつもりだ?」
クロワッサンにかじり付きながら・・、視線を相方に向けてみる。
「どうするって?」
怪訝そうな顔の青年に、彼はためらうように顔をしかめて・・、
「ダンスパーティーの相手だよ。全く踊らないというわけにもいかないだろう?」
こんな言葉を紡いだのだ。
・・場の雰囲気が・・少し変わった。
・・・。
・・・・・。
かけられた言葉に・・横島は一瞬黙り込む。
そうして・・、
「わかんねえよ・・。」
静かに彼は首をふった。
「・・誰とも踊りたくない・・そういうことかい?」
「・・それも・・わかんねえ。」
川岸には・・ブリキのおもちゃが浮かんでいる。
ぷかぷかと・・・所在なさげに流されて・・・、
そのまま視界の先へと消えた。
「・・傲慢ととられるかもしれないが・・、君の気持ち・・分からなくはない・・。」
「・・・・・・。」
「・・ただ・・そんなに難しく考えないことだ。
この人となら踊れると・・君がそう思ったのなら・・」
踊ればいいさ・・。その時は・・・。
視線を河へと向けながら・・、西条は、そんなことをつぶやいたのだ。
・
・
・
「ソイツとの初めての思い出は・・夕焼けだったの。」
・・そう言って・・、女性はタマモを振り返る。
あたりに少し暗さが増して、まばらに人が見え始める・・、そんなころ。
2人は・・、テラスを歩いていた。
「あの時の夕焼けも・・これぐらい赤かったなあ・・・。」
夕陽をうけて彼女が言って・・、それにタマモが頷いて・・、
・・本当に・・穏やかに時間が流れていた。
「今日のダンスはその人と・・・?」
見上げるようにタマモが聞いた。
「ううん。約束もしてないし・・、来るはずないんだけど・・。」
手すりから・・、少しだけ身を乗り出して・・、彼女は風に身を任す。
「神出鬼没な奴だから・・・ちょっとだけ期待しちゃうの。」
「・・・そうですか・・・。」
黒髪を揺らし・・、満面の笑みを浮かべる彼女。
・・タマモは・・うらやましいと思った。
自分には・・とても真似できない。
「私の好きな人も・・そんな奴です。馬鹿で鈍感だけど・・、
本当に困った時は必ずどこかから現れて・・、私を助けてくれる・・。」
言いながら・・もう一度思う・・。
横島も・・こんな人になら振り向くのだろうか・・と。
ふふっ、と笑って・・、目の前の女性が手をさしのべた。
「会えるといいわね。あなたも・・私も・・。」
「・・はい。」
その手を握り返しながら・・、
タマモも・・ためらいがちに笑みを浮かべたのだった。
〜あとがき〜
後編の方が異常に長いのは気のせいでしょうか(汗
うむむ・・この2人・・シナリオ別なのでどちらかしか会えないんですよね・・。
作者として残酷なことをしている気がします・・。
さて・・次回はいよいよ分岐です。横島君のダンスの相手は誰になるのでしょう?
・・うわ・・美神とおキヌシナリオ全然書いてない・・どうしよう・・(笑
今までの
コメント:
- うわ・・送った後に気付いたんですが・・、このお話のタマモの回想・・「水と蛍と涙とキツネ」とつながっちゃってますね・・。差し替えるのを忘れてた・・。
ごめんなさい〜気になる方は上の作品をご参照ください・・(汗 (かぜあめ)
- 当然ルシオラです!
つーか彼女が生きているのに、他の女に手を出すなんて人として許されねーぜ(▼▼メ) (湖畔のスナフキン)
- 美神もおキヌも、シロもタマモもルシオラも、みんな幸せになってほしい・・・
そう思ってしまいます。 こういった時に、マルチEDって救われるんですよね♪
みんなが幸せになってくれそうですから。 次回からの分岐点、楽しみにしてます♪ (ヴァージニア)
- 来た〜。ルシオラがーー――!
タマモと令子とおキヌちゃんの心情は出てましたが、シロがちともの足りないと感じてしまいました
路銀が足りなくて、西条と一緒に落ちてる小銭を捜してるのが新鮮で面白かったです (TF)
- 私は横島×美神派ですので(どちらかというと)
美神さんと一緒にやってほしいです。
続きを楽しみにしています。 (横叉)
- こんにちは〜
みんなそれぞれにおいしいところをもっていってますね(笑)
次回の分岐も楽しみにしています。がんばってください
それでは〜 (ユッキ)
- このシリーズにコメントするのは初めてカナ?(挨拶)
こんにちは、ハルカです!!
実はこのシリーズ、大好きなんですよ〜。
すごい綺麗な文章でみんなのキャラが大好きです♪
・・・・・もちろんルシオラです。 (ハルカ)
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