ザ・グレート・展開予測ショー

Kiss ×××


投稿者名:veld & Maria'sCrisis
投稿日時:(03/ 6/11)

滅多にないことだった。
私とあいつの二人で一緒に除霊活動をするなんて。
あいつ一人でとか、私と誰かでとか、そう言う事ならあったけれど・・・。

単純に、私が居ないと祓えないんだとか、あいつ一人では戦力的にイマイチであるとか、そんな理由から振り分けられたオーダーなんだろうと思っていた。

事務所を出るときに見せていた、あの娘の恨めしげな視線に少し辟易としたから・・・。
代わってやろうと言いかけたが、あいつが急かすから・・・。


「選択ミス」ってのは、こういうところから生まれるものなのかもしれない。すべては偶然の産物なのであろうけれども・・・。



―――そんなこと、ちょこっと思ったりもした。










除霊が終わって・・・。二人で歩く事務所への帰り道。

一人で帰れるって言ったのに・・・。

困った顔して『一応、お前も女の子だからな・・・』なんて。



河原に差し掛かって、ふと気付く。とっても澄んでいて綺麗な夜空。雲一つなく、きらきらと星々が瞬いている。

あ、流れ星―――。

あれ・・・?
一つ、二つ・・・数え切れない・・・。

―――そういえば、ニュースでやっていた。
今日は、何年に一度かの流星群が大地に降り注ぐ日なんだって。
 


「綺麗だなぁ・・・」
呆けた顔で空を見るあいつ。

あいつの吐息が白く空へと溶けていく。



私の吐息と、交じり合いながら―――。





流れる星々を見つめていた。
何も残してはくれない季節の中で、あいつの隣に座りながら。



二人・・・、黙っている。

何も言わない。
何も言えない。



この雰囲気・・・。

今にも滴り落ちそうな雫のように揺れていて・・・。
乾きかけた水溜りのように薄っぺらで・・・。



最初は、言葉を捜していた。でも、もうそんなこともない。
考える気も、必要もないようで・・・。



あんたの言う「愛」って何なの?そんな事を尋ねようと思っていた。
でも、答えを聞いて、どうしようとも思えなくて。
だから、聞くのを、止めた。
言葉では、意味を持たないような気がしたから。



空を見ている。

二人。

湿り気を帯びた下草に・・・。

履いていたスカートが濡れた・・・。

それさえ、気にならなくなるほど、その雰囲気の中に溶けて―――。

二人。



「・・・・・」

そろそろ、行かない?

尋ねようと、隣のあいつを見た。

あいつ、私を見てた。

何時からかは知らないけど。

目をそらして、少し、気まずそうに。

「行こうか?」

・・・そう言った。





遠目から見れば、恋人のように映るのかな?
そんな事を思って、自嘲的な苦笑いを作り、その中にその考えを紛れさせた。



夜更けの道は、足元を照らす明るい月がいささかに無粋に思えるほどに明るかった。
それに加えて、目の端から降り注ぐ街灯の輝き。
まるで昼間のようだった。

「・・・明るいわね」

「そうだな」

会話なんて、ない。

でも、あいつは私と同じ光景を見ている。
私も、あいつと同じ光景を見ている。

同じ風の色が。
見える。

暇だったから、一緒にいたんだって。


言い訳、するのかな?



「怒るかな・・・」

私は、あの娘の顔を思い浮かべて、決めた。





「ねえ、横島」

「ん、何だ?」

「ちょっと、耳貸して」

「・・・・・?」

訝しげな顔をして、膝を曲げる。
ちょうど私の顔の前にあいつの片耳が近づいて、私はあいつの頬の辺りに両手を置いた。
そして、無理矢理に私の方を向かせる。





キスをした。

そのまま、後頭部に腕を回して、抱きしめる。
 
ついさっきまでは遠くに見えてた景色の中。
私とあいつ・・・、同じ。

ねえ、ちゃんと、見てるの?





―――あの娘のこと。





目を瞑っているから・・・、私にはあんたが見えない。
きっと、この瞬間のあんたの顔は・・・、あの娘のものだから。

私には見ることができない・・・。


だから・・・、見せてあげて欲しい。
あの娘のために。



あいつの両腕が私の腰に回される・・・。

その瞬間。

私はあいつを突き飛ばした・・・。

乱暴に、離される体。

「ふぅっ・・・」

怒っているのか、照れているのか?―――顔を赤らめて、恨めしげにあいつは私をにらみつけた。

私も負けじ、とにらみ返す。



「何すんだよっ!?いきなりっ・・・」

「キス」

「な・・・あ、あのなっ!?」

「キス、しただけ」

「はぁっ!?」

「好きじゃなくても・・・、キスはできるのね」



口を拭う。
何も感じなかった。
心の動悸は途切れなかったけど。
落ち着いてることは・・・、感じている。
まるで、冷水でも浴びせ掛けられたかのように。
私の頭は、はっきりとしていた。


「・・・好きか、嫌いか。はっきりしなさいよ」

「何言ってんだ・・・?お前・・・」

「キスなんかじゃ・・・分からないでしょ?」

「・・・は?」

「あんたが、好きか嫌いかどうかなんて、私には分からない」

「・・・俺は」

「誰でも良いの?好きなら?好きでも?」

あんたの答えなんかに、期待はしないわ。
今の私の行動にだって、大した意味なんてない。
ただ、思い知らせてやりたいだけ。

「少なくとも、あの娘は違う。・・・なら、早く、打ち明けなさいよ」

「何なんだよ!?一体っ!」

「他の女にモーション掛けてる暇があるなら・・・、近場にいる良い女に目を向けてやれってことよ」

「・・・近場にいる?・・・良い女?」


見てると、焦れるのよ。
どうせ気づいているんだから、はっきりと、言ってあげなさいよ。
私は、見てるから。

あんたが、どうなるのか。

あの娘が、どうなるのか。



あの娘が、あんたにふられたなら―――。



・・・何言ってんだか・・・。

私・・・。

あの娘が・・・あいつにふられる筈なんてないのに・・・。

あんなにいい娘なんだもの・・・。
きっと、そうよね。


「え〜と・・・お前のこと?」

「バカ」



誤魔化し笑いを浮かべながらあいつ。苦笑い。こんな冗談、するような奴じゃなかったはずなのに。
気に食わない。何で、あの娘、あいつを見てるんだろ?

「―――バカ」

気のきかない捨て台詞。





私は事務所へと・・・、まだ、灯りの点いている屋根裏部屋に走って駆けていった。





「お帰り、タマモ」

「・・・ただいま」

「遅かったでござるな」

「うん、除霊、長引いちゃってね」

「大変、だったんでござるな」

「・・・ん」



なんか・・・、まともに顔を見合わせることができなかった。私はそのままうつむく。
恥ずかしくて、情けなくて・・・。



視界の隅に映るのは―――。

窓から夜空を眺めているあの娘の姿。

そして、数多の想いを運んで尾を引く流星群。



「それなら、おやすみでござる・・・」

「うん、おやすみ」



見てたのかな?

見てなかったのかな?

どっちでも良い。

けど、分かって欲しい。





この娘がいつの日か、綺麗に恋を成就させて―――。

私はこの娘とは離れた日々を余儀なくされて。



でも、良かった・・・って、素直にそう思えるから。



だから、その時は優しく微笑むの。

私の大事な親友に・・・。










流れる星々を見つめていた。
何も残してはくれない季節の中で、この娘の隣に座りながら。





何も残してはくれない季節の中で、この娘はどんどん綺麗になっていって・・・。










流れる星々を見つめている。
何も残してくれない季節の中で、この娘はいつまでも―――。



   完



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 composed by Maria's Crisis

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