ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−48


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 6/10)



「アンタ………何か話したいこと。無いの?」

元々、クールで鳴らす九尾の狐。
約束を果たすためとは言え、ひたすらに話し手に徹するのはきついところ。
そもそも、リグレットに何か影響を与えているという実感の沸かない彼女は、リグレットを変えるのではなく、リグレット本人に変わってもらう方に戦術を変更した。

「………特にありませんが?別に連絡事項も――――」

「――――そういうんじゃなくてさ。………横島。」

「???」

「アンタ、横島のことを語りなさいよ。何でも良いからさ。」

「マスターのこと………ですか?」

「そう。アンタ、横島のこと尊敬してるんでしょ?敬愛してるんでしょ?私に横島のこと、自慢しなさいよ。聞いてやるからさ。」


この日。初めてタマモはリグレット嬢に饒舌に物を語らせることに成功する。
ただし、寝ても醒めても横島のことを考えるリグレットの自慢――――惚気と言っても良い――――が、30分やそこらで終るはずもないことを明記しておく。
ついでに、タマモは作戦の成功に喜ぶ気持ちと、後悔する気持ちが半々だったことも記しておく。













オカルトGメン内には、主の無い執務室がある。
以前のその部屋の主は、オカルトGメン内では絶対的な実力とカリスマを持って君臨していた女傑。
今、その部屋で、その女傑の愛弟子と愛娘が会合を持っていた。

「デミアン、いや、リリスの申し出は非常にメリットがある。横島君を倒すには、まず魔界へ行かねば話にならない。」

「そうね。わざわざ私達――――正確には私のために、魔界のユーチャリス直行のゲートを用意してくれるって言うんだから。」

「だが、罠という可能性も否定出来ない。もし、仮に横島君が令子ちゃんを必要としているなら………。」

「確かにね。でも逆に考えれば………私ひとりを人界から攫うくらい、横島君にとっては余裕でしょ?現在、神界は連絡が取れないし、恐らくは猛反攻の準備をしてるんだろうけど………。」

「それを待ち受けて罠にかけるという手もあるが………。」

「いつ、どこで、誰が来るか分からないのよ?」

「その通りだ。守りの態勢を取らざるを得ない我々にとって、最初で最後の攻撃のチャンスかも知れないな。」

「それに、本気で私が横島君を倒せると思っているのかしら?情だけで攻撃の手を緩めると思う?今の横島君が。」

「…………………」

言ってしまってから、美神は忌々しげに顔を歪める。
まず、何をするにせよ、横島を倒す。
それが前提条件であるくせに、その方策も決まっていない。
例えユーチャリスを強襲しようとも、返り討ちに遭う可能性が高いのだ。
罠かどうか以前の力関係に思い至ってしまったから。

だが、避けて通れる話題でもない。
西条はそう決心して、更に詳細な検討に移る。

「そもそも、魔界ということは、我々人間の霊力は下がる。それもカバーせねばなるまい?」

「………」

「アシュタロスの時は、人界が舞台だった。我々の置かれた状況は、あの時よりも深刻だ。」

「知恵と力を貸してくれる神族も居ない………か。」

「フゥ――――ッ」

「溜息なんて止めてよ。」

「すまない。だが、もはや手の打ちようがないなぁとね。決めたよ。無責任な話だが、令子ちゃんの判断に従おう。魔界へ乗り込むなら、お供しよう。待ち受けるなら、君の護衛をしよう。僕は――――主役になり得ないようだ。」

「…………なら、一緒に死んでくれる?」

「僕は構わないさ。だが、他にも頼むべき奴等が居るだろう?」





西条と令子の諦念。
ポーカーに例えれば、ツーペア程度で、ロイヤルストレートフラッシュに挑むような無謀な戦い。
カードのチェンジは一度のみ。
そんな絶望的な状況だった。

が、それをストレートくらいには変える存在が、自分達の元へと向かっていることを彼女達は知らない。







その要たる存在――――ベスパ。



そして相手の持ち札のひとつ――――小竜姫。



更に。ジョーカーたるタマモの行動が、一枚のカードを変化させる。








主役になり得ない、脇役達の反乱が始まる。











西条との会談を終え、覚悟を決めた美神は、愛車でおキヌの実家を訪れていた。
他にもやるべきことのある中、決して他人は任せられない、任せてはいけない大仕事。
無言でそれを成し遂げようとする美神に、西条はかけるべき言葉を持たなかった。



「いい加減にするべ!!!」

おキヌを尋ねていった美神に対する、怒りに満ちた早苗の声。
別にそれが理不尽なこととは美神も思わなかった。
恐らく、早苗の中では、妹を死地に誘う死神のように見えていることだろう。
早苗にしてみれば、かつての死津喪姫の一件で恩はあれど、それだけは容認出来ない。
心優しい妹のことだ。
目の前の女の誘いを断れはしまい。
きっと誰かが何とかしてくれる。妹が危険な目に遭う必要はない。
酷く傲慢な、自分勝手な考えであろうことは自分でも分かっている。
だが、それでも彼女は頑として譲ろうとはしなかった。
幸い、妹は今、家には居ない。
何も無かった。
誰も来なかった。
それで良いことにする。
そしてその考えを、両親も是とした。
早苗の背後には両親が鋭い目つきで、睨んでいる。

だが、美神の態度は儚げで優しかった。
顔を合わせた期間は短く、妹から聞く彼女の印象とは酷くかけ離れていた。
彼女は首を力なく振って、愛車からひとりの赤ん坊を連れてくる。


「私の妹で、美神ひのめよ。」

「め、めんこい娘だなぁ………。」

美神の意図が見えない早苗は、間抜けな感想を述べる。
力みかえった身体から力が抜ける。

「一週間後。私は魔界へ行くわ。そして恐らく――――死ぬ。」

「え?!!」

「横島君……覚えてるかしら?あのバンダナを巻いた男の子よ。事情は聞いてるでしょ?彼を殺しに行くの。」

「……………。」

早苗や両親には、話が唐突過ぎて理解出来ない。

「ママも………この娘の母親も死んだわ。父はいるけど、GSとは何の関係も無い職業の人なの。この娘には恐ろしいほどの才能があるわ。GSとしてのね。だから……世界でたった数人しか居ないネクロマンサーの笛の使い手。私や、ママや、横島君を知る、心優しい彼女に育ててやって欲しいの。負け戦に行く私から唯一のお願い。次世代の希望とするために。」

「し、死ぬなんて………。」

「冷静な判断に基いた、純粋な予測よ。私達は全滅する。」

「そ、そんなこと言われても………。」

「勘違いしないで。おキヌちゃんが戦場に来たって何も変わらない。おキヌちゃんを誘いに来たわけじゃないわ。その代わり………ひのめを預けるの。」

「…………………。」

強気や自信という言葉に満ち溢れた女性の諦念。
それが早苗の心を揺さぶる。
美神達が全滅するという。
それなら、次世代の育成も何も無いのでは無いか?

「………横島君が何かをしようとしている。そしてその計画の重要な位置に、私は居るらしいわ。だから………いざとなったら、私は死ぬ。死んで、邪魔をしてやるわ。気に食わないのよ。横島君の癖に、私を利用しようなんてね。」









『最高の嫌がらせでしょ?』
アシュタロスの時ですら、人類の方こそ滅べと嘯いた彼女の顔は、寂しげだった。











美神の愛車コブラの後姿を、慌てながらおキヌは追いかける。
浮かない顔で買い物に出かけた彼女は、偶然、それを見つけてしまった。
買い物袋を放り投げ、懸命に走りながら声を張り上げる。

それをバックミラーで見ながら、美神は少しばかり考える。


走って追いかけながら、おキヌは美神が自分を迎えに来たのだと思った。
やっと横島を救う方策が出来たのかと。
何も出来ない自分に歯がゆく思う日々。
自分を気遣って、町から出そうとしない家族。
それはありがたかったが、やはり彼女にとって、家族とは美神除霊事務所の面子なのだ。

家族が迎えに来てくれた!!!

他力本願な考えではある。
だが、受身の性格である彼女としては、いつでも出れるようにと密かに準備しておくことが関の山。


そして少し離れた場所で、美神の車が停まる。
心臓が破裂しそうなくらいに、激しく鼓動しているが、おキヌは走るのを止めない。
コブラのドアが開く。
そこから最初に見えたのは、美神自慢の美脚。
次に見えたのは、亜麻色の長い髪。
最後に見えた顔には、信じられないほどに優しい表情。
そして美神は両手を開いて、抱きつくおキヌを受け止める。

「……………!!!!」

百万の言でも言い表せない気持ちがある。
おキヌは何を言って良いのか。何を言うべきなのか。すぐには思い浮かばない。
そんなおキヌの頭を優しく撫でながら、美神は優しく言う。

「ごめんね。おキヌちゃんに、大事な仕事を任せることにしちゃったの。」

その言葉に、美神の胸に埋めていた顔を上げる。

「何ですか?!!何でもします!!!」

おキヌのその様子に苦笑しながら、美神は微妙にずれた言葉を口にする。

「私の大事なものを。人界の宝を貴女に預けるわ。それを大事に守って欲しいの。何があっても。」

「………連れて行って………くれないんですか?」

「………ごめんなさい。」

「私が役立たずだからですか?!!それでも良いって言ってくれたじゃないですか?!!!」

「………ごめんなさい。」

「お願いします!!!お願――――」

トンッ

美神の手刀が、おキヌの首に軽い衝撃を与える。
そしてくずおれるおキヌ。
それを受け止めながら、美神は呟いた。

「本当に、大事な仕事なのよ。おキヌちゃん以外には任せられないね。」











目覚めた時には、自分の部屋。
そして、自分の隣にはひとりの赤ん坊――――ひのめ。
ベビーベッドの脇には、一枚のキャッシュカードと通帳と印鑑。
名義は美神令子になっている。
その反対側には、おキヌが知る由もないが、美智恵愛用の神通棍。







それを見て、おキヌは泣いた。





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