ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その23(A))


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 6/ 9)





生ける屍忠志。
真紅に染まったその体をぐたぁっとさせながらもはや動かない。
ひのめはやっとすっきりしたとバッグを机の上に置き、何事もなかったようにパソコンの電源を立ち上げる。
蛍と令花も初めは驚いたものの結局は令子とひのめの違いだけで忠志が悪さしてボコられたのだろうと落ち着きを取り戻した。
しかし・・・この光景に慣れていない人物が一人。

「あ、あの・・・ひーちゃん一体何を・・・・?」

親友の恐ろしい一面を垣間見て『これは夢?』と少し現実逃避しそうになる幸恵。
しかし、ひのめは引き攣った表情の幸恵とは対称的にケラケラと笑いながら言った。

「大丈夫、大丈夫。横島家の男児は不死身、これ定説♪
 あ、ついでに紹介しておくとコレが甥っ子で小6の忠志」

「で、でも」

こんなにボコにしておいて何で明るく言ってるんだろう。
ドメスティッ●バイオレ●スを目撃したような気分の幸恵は落ち着かない様子のまま、
そっと忠志に近づきハンカチで血を拭った。

「う・・・うぅ・・・」

その感触に意識を取り戻していく忠志。

「大丈夫?」

まるで小動物を看護するかのように優しい幸恵の笑顔。
忠志はゆっくりとボヤける視界で目を移す・・・・・幸恵の手、腕、・・・・・・・・・・そして胸、顔に。
次の瞬間・・・

ガバァッ!

「一生ついていきます、おね─さま──────っ!!!」
「!!?」

あまりの一瞬の出来事に言葉を失う幸恵。
忠志はいきなり起き上がったかと思うと神速の如く幸恵の豊かな胸に飛び込み、そしてダーっと笑顔で涙を流す。
幸恵がやっと事態を把握して金きり声で叫ぼうとした瞬間。


メキっ、ドキャ!


「「何をやっとるこの変態!!!」」

ひのめと蛍が同時に忠志を蹴り上げた。

「ち、違うんや!『ありがとう見知らぬお姉ちゃん』って言おうと思ったらあまりのかわいさに我を忘れて・・・!!」

「「どういう自我構造をしてんのあんたは────────────っ!!!!?」」

ハモりながら叫ぶひのめと蛍。
ひのめは親友にいきなり手を出す甥っ子にあきれ、蛍は弟のしつけをもっとしなければと思う。
しかし、当事者の幸恵は・・・・


(初めて・・・男の子からかわいいって言われた)

と、ちょっとだけ顔を赤らめて呆けていた。














ガシャン・・・・ガシャン・・・

『トレーニングルーム』と書かれたプレートが下げられた部屋から一定のリズムで音が聞こえてくる。
いや、それだけじゃない。人の呼吸・・・・それも一定のリズムで聞こえてきた。

「京華、もうそこらへんでいいんじゃないの?」

部屋の入り口から声をかける少女・・・
橘かすみはおよそ20平方mはあるであろうかという部屋の奥で黙々とトレーニング器具を動かす京華に声をかけた。
タンクトップとスパッツにバンダナ姿・・・・・そして首にロザリオ(十字架)を下げている京華はその声に気付くと・・・

ガシャン!

重りを一気に落下させ派手な音を立てた。
京華はゆっくりと台座から立ち上がり、差し出せれたタオルで汗を拭う。

「はい、ドリンク」
「ええ・・・ありがとう」

京華は一言礼を述べてからスポーツドリンクを口に含む。
流れた水分を補うために体中に水が染み込んでいくような感覚、京華はこれがたまらなく好きだった。

「ねぇかすみ・・・・」
「ん?」

「いきなり膨れ上がった霊力を制御するのにどれくらいかかると思う?」
「・・・・・・」

京華の問いにかすみは少し真顔になる。
勘のいいかすみは京華が誰のことを言っているかもすぐわかり、
そして自分の思考を瞬時にまとめて答えた。

「あの子センスはありそうだし、その手の道場通ってるらしいからね・・・・・・
 完璧には無理でも・・・5日・・・・・霊力制御の道具使えば3、4日でそれなりには仕上げてくるんじゃない?」

「いつもながらあなたの読みは素晴らしいわね」

京華はかすみの答えに満足そうに笑いをあげた。
自分もほぼ同じ考えだったからだ。

「3日・・・・それ以上は待てそうもありませんわ・・・」

ドガンっ!!!

京華のパンチでそばにあったウォーターバックが跳ね上がる。
霊力の大きさ、スムーズな霊流はもちろん、その筋肉のしなりと体重移動・・・
このウォーターバッグが霊波コーティングしていなければ粉砕され、そこらへん水浸しになっていただろう。

「さ、今日の練習はあがりますわよ・・・」

体を冷やさないためウインドブレーカーをはおり、専用トレーニングルームを出る京華。

「ねえ・・・京華・・・」

「何ですの?」

かすみの声にその足を止める。
そしてかすみは少しだけ悲しみを浮べて言った。

「もう・・・あなたのおじい様はいないんだし・・・・美神家にこだわるのは・・・」

かすみの言葉は最後まで言うことが出来なった・・・
急激に膨らんだ京華の霊圧がそれを許さなかったからだ。

「かすみ・・・それ以上言ったらあなたとて容赦はしませんわよ・・・」

「・・・・・・・」

冷たい睨みに沈黙するかすみはコクンと頷いてそれ以上は口を開かない。
「ふん」と鼻を鳴らしながら京華はその脇を何も言わずに通り過ぎて行った。

(許さない・・・・・・・・・・おじい様を追い詰めて・・・・)

京華は憤怒の表情、悲しみの瞳・・・震える手でロザリオを握り締める。
そして叫んだ・・・・心の中で・・・・


(お母様を殺した・・・・・美神家を!)






PM7:15

「いやぁ〜食べた食べた。やっぱさっちゃんのご飯はおいしいわ〜」

「ふふ、お粗末様でした」

ひのめはポンポンとお腹を叩きながらふぅ〜と自分のベッドに倒れこむ。
取り合えず忠志に制裁を加えた後、美智恵から電話があったのだがその内容が・・


・ ・ ・
『遅くなるかも知れないからご飯適当に食べといて』

とのこと。
「は〜い」と返事して電話を切ったのはいいが、ズバリお金がなかった。
外食、出前がダメなら自炊しかないのだが・・・

「ご飯作れる人、挙手」

ひのめの提案に誰も手をあげない。
無論ひのめ自身も料理が苦手だったりするわけで今夜は飯抜きか?と思った矢先。

「あ、あの・・・私でよかったら作るけど」

ゆっくり手を上げたのは幸恵だった。
目を輝かせるひのめと蛍、喜ぶ令花、
『さすが幸姉ちゃん、どこぞの乱暴女達とは違うや!』と言った瞬間エルボーが二つめり込む忠志。
取り合えずある食材で肉じゃが、サラダ、インスタントみそ汁に白米と一般的な夕飯にありつけた5人だった。

・ ・ ・

『あんた食ったあとに寝たら牛になるよ、牛・・・いや胸ないからブタだわさ』
「燃やしたろうか!この化学合成繊維!!!」

右腕のリストバンドとケンカをはじめる親友をまあまあとなだめる幸恵。

「それよりほら!霊力制御の特訓しよ!特訓!
 実習合宿近いんだし、ね?」

幸恵は何とか話題を変えようとするが、それが効してひのめは「うん」と頷いた。
一応ここまでの霊力開放の流れを聞いた幸恵はますますひのめに協力的になり、
その役に立ちたいと心から思った。

「特訓かぁ〜・・・・ねぇ心眼?完成までどのくらいかかる?」

右手首をみつめながら聞いてみる。
せっかく開放した霊力だ、早く使いこなしてみたいというのも人の心だろう。

『完璧に制御するならあたしのアドバイスしっかり聞いて上手くやって早くて2週間はかかるわさ』

「げっ!そ、そんなに?」

『まあ・・・暴走しない程度までの制御なら3、4日』

「取り合えずそこらへん目標で頑張りますか・・・」

2週間もこの『目』と一緒か・・・とタメ息を吐き出すひのめ。
しかし目的があるのは悪くないかと前向きに考えることにした。

『そういえば実習合宿ってなにさ?』

「ん?ああ、実習合宿っていうのは・・・」

実習合宿・・・
六女(六道女学院の略称)の年間行事の一つ。
2泊3日でザコ霊の集団を修行を兼ねて除霊を行う。
海と山の二つでローテーションを組んであり、海なら臨海学校、山なら林間学校という名目になっていた。



                                       
                                         その23(B)に続く

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