ぼくをさがしに
投稿者名:逢川 桐至
投稿日時:(03/ 6/ 9)
久しぶりの一人での仕事は、うらぶれたゲームセンター跡の除霊作業だった。
一番厄介なクレーンゲームの魔物は、色々なGSの手を煩わせながら、点々と所在を変えていてここには居ない。
だから、恨みの気に惹かれた雑霊を祓うだけの簡単な仕事である。
「つうてもなぁ…」
腕を捲り上げて、ぶつぶつ呟きながら横島は、寂れた室内へと足を踏み入れた。
簡単とは言え、おキヌちゃんではないのだ。
横島に出来る事と言ったら、一体々々を各個撃破する事だけ。 交渉出来る程の自我が残っている奴も居ない上、かなりの数が居るのだ。 手間は掛かるが仕方ない。
栄光の手で斬り付けまくって、どうにか一通りの悪霊を駆除し終えたのは3時間近く経ってからの事だった。
「お?
おいおいマジかよ… 平城京え〜りやんなんか置いてあんじゃねぇか…」
古臭い箇体に目を留めれば、余程の鄙びた温泉地にでも行くか、それ系のマニアの所とかでもないとお目に掛かれない、かつては一世を風靡した古いゲーム。
「って、ちょっと待てよ。 こっちはムンクレか? って、ルピャンはいくらなんでもあんまりだろ。
たいむぱいろっとに実費レース、おぉそっちにあんのは、ワールドプロレズリングじゃねぇか。
こんな品揃えじゃ、クレーンゲームが上手く行ってても潰れたんじゃねぇか、ここ?」
思わず苦笑が漏れる。
まぁ、これはこれでウリになったかも知れないが…
ふと腰を下ろしていた台を見て見れば、それも往年の名機だった。
「こいつは、ぱっくみゃんじゃないか… ガキの頃、結構遊んだんだよな…」
近くの駄菓子屋で、1ゲーム10円で出来たのだ。
これを見て、色々な思い出がぱぁっと目の前に蘇る。 暫し、ノスタルジーに身を委ねた。
「ちょっと、何やってんのよ?」
掛けられた声に振り向けば、金のナインテールが出口から覗いている。
「タマモじゃないか、どうしたんだ?」
「あんたが遅いから、様子を見に来たのよ。
肉を焼きながら、シロがまだかまだかって五月蠅いから」
「あぁ、今日はあいつが作るっつってたっけな」
出しなの様子を思い出して、横島は苦笑いを浮かべた。
慕われる事自体は悪い気分でもないし、僅かでもしてやれる事なら応えてやりたいとも思う。
ただ、何につけ彼女は一生懸命で。 思わず苦笑を浮かべずに居られない事態も、ちょくちょく引き起こしてくれるのだ。
今日の肉尽くしも、きっと美神の文句を誘うだろう。 …無論、シロに対してではなく、横島に対しての行動……八つ当たりとも言う……を、だが。
「何やってたのよ? やる事、済んでるみたいなのに」
「ちょっとな… 懐かしくてさ」
その時の表情には、タマモの興を惹くだけの物が有った。
懐かしそうな、普段目に出来ない含羞んだ様な微笑み。
「ソレ?」
彼の見ていた箇体を、指差して尋ねる。
「うん? あぁ。 コレとかな…」
覗き込む様な視線が、話せとばかりに輝いていた。
「生きてっかな?
…おぉ、生きてんじゃん」
コードを繋ぐと騒霊の為に出来なかったのか、配線が切られず残っていたらしく、BGMが鳴り始める。
「何よ、コレ?」
「この黄色いのを縦横に動かしてな、落ちてる点々を食い尽すんだよ。 この赤いのとかは敵だから、そいつらに捕まんない様にして」
「ふぅ〜ん」
ゲーム類もかなり好んで遊んでいる彼女だが、最近のゲームを見慣れてるだけにイマイチにしか映らないらしい。
「ガキの頃にさ、良く遊んだんだよ」
「それだけ?」
「その頃に来た教生……先生の卵って言えばいいかな……がさ、結構くだけた人で一緒に遊んだりもしたんだ。
思えば、あれが初恋だったんかな… その人がさ、コレ見てある絵本を見せてくれたんだよ。 なんかソレとか思い出しちゃったんだよ」
「絵本? どんな?」
余程絵本と横島とが、頭の中で結び付かなかったのだろう。
興味は完全にそちらに移っていた。
「うろ覚えなんだけどさ、この黄色のコレみたいなのが主人公なんだよ。 しろくろの線だけだったけどな。
そいつは、欠けた丸だから転がってるとがたがたしちまう。 本来の自分から欠けた部分を探して旅をするんだ。 …がたんがたん転がりながら」
「それで?」
「色々な所へ行き、色々なモノと出会って、長い旅の果てに自分の欠け片を見付けるんだ。
完全な丸になって、きれいに転がれるようになるんだけど、そうなってから考え始めるんだ。 これで良かったのかなって」
そこまで聞いて首を傾げる。
「何でよ、それが目的だったんでしょ?」
「欠け片を見付けるまでの経験とかさ、それらは欠けた状態の自分だったからで。
だから折角見付けた欠け片をはずして、またがたんがたんと転がりながら旅を始めちゃうんだ」
「ふぅ〜ん…」
タマモは、納得行かないと言う顔をする。
途中で目覚めてしまったから。 本来持ってる筈だった物を持っていないと自覚しているから、それは彼女には納得行かない展開だった。
横島もそれと気付いて、言葉を続ける。
「おまえで言えばさ。 半端に目覚めたから、今、美神さんのトコに居る訳だろ?
もし、もっと何年も後に完全な状態で目覚めたとしたら、今みたいにしてない筈じゃんか」
「そうかも知れないけど…」
少し不満げながらも、言いたい事が解って頷いた。
「欠けちまった何かも含めて、それでもそれが自分なんだよな」
聞き慣れない声音に、タマモは彼の顔をまじまじと見詰めた。
まるで自分に言い聞かせている様な、そんな姿があまりに見慣れたモノと違っていたから。
彼女の向け続ける視線に気付いたのだろう。
「はは… 似合わねぇ事、言っちまったな。
そいじゃ、とっとと帰るか」
苦笑いを浮かべて立ち上がると、出口へ歩き出す。
「あ、ちょっと待ちなさいよ」
その後を、タマモは慌てて追いかけた。
「ちょっと、ヨコシマっ!?」
この時の横島が何を思っていたか、彼女がソレを知るのは、随分先になってからの事。
いつでも一緒に過ごす様になる切っ掛けになった、とある事件を越えてからの事だった。
【おわり】
────────────────────
……ぽすとすくりぷつ……
『雪』でも『狐』でも、お好きなトコに繋げて下さい。 …とか、言ってみる(笑)
荷物の整理をしていたら、日焼けして黄ばんだ『ぼくを探しに』が出て来まして。 より一層パック○ンに見えるそれを眺めてたら、ふと思い付いて手が勝手に…(笑)
現物を目の前にして、それでも読んで書いた訳じゃなかったりするのだけど(爆)
ファンの方には申し訳ないんだけど… 私ってば、ルシオラを失ってるから横島になってる、みたいに感じてる部分が強くて(^^;
原作通りの時系列でタマモを出すのなら、まぁ、そう言う事にしかなんない訳なんだけど。 『GSモノを書く』ってのが、ほぼ『タマモを出す』と一致しているんですよね(爆)
何て言うかね… 改めてメインで書こうとすると、おキヌちゃんって難しいんですよ(苦笑)
自分で思っていた以上に私ん中でイメージが固まってなくて、動いてくれないんですよ、これが(^^;
書き掛けとは言え、データを失ったのも痛かったし…(^^;
今までの
コメント:
- 初めまして ユッキと申します〜
横島のあのいつもと違う切ない感じがすごく好きです〜
私もタマモ好きなので 何となくうれしかったり(笑)
(ユッキ)
- せつないですね〜、かけた破片を取り戻しても、また旅をするパック○ン・・・(違う?)
「ぼくを探しに」は一度テレビで紹介されたのを見たことがあるのですが、
単純に見えて、すごく奥の深い話でもあるんですよね。次回も楽しみにしてます♪ (ヴァージニア)
- こういう雰囲気好きですよ〜♪
ゲームにかけて自分の気持ちを吐露する横島・・・
いずれタマモがそれに気付く日。
次回作も期待してます♪ (ユタ)
- うわあああ・・こんなステキな作品をありがとうございます逢川さん(笑
最後にぽつりともらした横島君のセリフが切ないです。
しかしなんといってもタマモ好きの自分としてはタマモが・・(笑
投稿お疲れ様でした〜本当にありがとうございました〜
>GSモノを書くのとタマモを出すのが一致
自分もです(爆)
そうなんですよね〜。「君とワルツと・・・」を書いてても無意識的に彼女のシナリオに力を入っちゃって(笑)おキヌちゃんシナリオはほとんど出来てないという・・(泣 (かぜあめ)
- ユッキさん
はじめまして。 横島は、「以前を装ってる」より「ふとした弾みで後悔が出て来る」の方が、話として好みなもんで(^^;
ヴァージニアさん
奥が深いと言うか、読み手次第で深くなると言った方がいいのかも… これ書き上げてから読み直して、以前と違う印象を持ったり(^^;
ユタさん
まぁ、横島にとっては取り戻したい、だけど元の様には取り戻せない大事な存在で。 タマモは知らないから、口の端に乗せられた部分もあるかなと。 そこでタマモなのは、完全に趣味ですが(爆)
かぜあめさん
これの段階では可もなく不可もなくなんですが、それでも出さずには居られないのですよ。 と言うか、そのつもりが無くても出てきちゃうし…(苦笑) (逢川 桐至)
- 弱いから、幼いから、未熟だから、不完全だから。でも、だからこそ巡り会えるものや、手にできるものって、ありますよね♪
でも…横島君の欠けたピースは、永遠に無くなったままで、望んでも追いかけても、埋ることは無いんですね。ちょっとだけ、悲しいです…。 (猫姫)
- 猫姫さん
欠けた物を自覚して、完全に取り戻せなくても、それでも横島は望み続けると思います。 その時、支え続ける誰かが、きっと彼の傍らに居るでしょうし。
それがタマモなら、文句なしです、私(笑) (逢川 桐至)
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