七夕〜悪夢エピローグ〜
投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 6/ 9)
七月七日。
今日は七夕。
天の川で織姫と彦星が出会う日。
病室でメガネをかけて書類に目を通す女性。その横に座る男性。外はじめじめとした空気と暑い日差しが青空の入道雲を作っている。
「……OKよ、このまま進めてちょうだい……って、なにやってるのよ?」
「い、いや、動くのが分かるかなぁと思って……」
彼は彼女のお腹に耳を当てる。その中で小さな生命の動く音。
「今、動いたな。」
「えぇ、お腹蹴ったみたいね。」
「予定日は何時だって?」
「13日よ。」
「そうか、もうすぐなんだな……。あいつに会えるのも……。」
「この前も話したけど、彼女と生まれてくるこの子とは別人だからね?そこんとこ、気をつけなさいよ?」
「分かってるよ、んなこと……」
「だったら、さっさと仕事に行きなさい!?私の居ない分しっかり稼ぐのよ?赤字出したらタダ済まないからね?」
「あぁ、分かってる……。それじゃ、行くよ。」
彼は彼女の頬に唇をそっと当てて、部屋から出て行く。彼が出て行った後、彼女は窓から外を眺めた。
「もうすっかり夏ね……。」
「嬉しそうですね、ご主人は……。」
彼と入れ替えでやってきた看護婦が言う。
「ま、ね。最初の子供だし、それ以外の思い入れもあって感慨深いんでしょうけど。」
「あれで私達のへのセクハラがなけりゃ、もっと良いんですけどね……。」
「…………………(あの野郎……、退院したらぶっ殺してやる………!!)、………………うっ!?」
お腹を押さえ、うずくまる彼女。看護婦は心配そうに彼女の背中を支える。
「だ、大丈夫ですか!?」
「え、えぇ………。陣痛みたい………!」
「落ち着いてくださいね?今、先生を呼んできますから!!」
数分後、彼女は分娩室へと入っていった。
その日の昼。日光はほとんど夏のそれに近かった。天気予報では例年より早い梅雨明け宣言が出されてた。彼は、いつも通りに仕事をこなしている。今日はチームでの作業だ。
「今だ、シロ!」
「ハイ!でござる!!」
彼の声に応答するように、長い髪をなびかせ、襲い掛かる悪霊を難なく霊波刀であしらう白髪の女性。
「フッ……、ざっとこんなモンでござ……、」
「! 避けろ、シロ!!」
彼は彼女を押しのけると、やって来たもう一体の悪霊を払いのけ、破魔札で処理する。
「ったく、お前は何度言ったら分かるんだ!?あれほど、悪霊の数には注意しろって言ってるだろうが!!」
「ゴメンでござる〜、先生ぇ〜!?もう二度としないでござるから、許してくだされ〜!?」
「その言葉も何度も聞いたぞ、そんなことだから一緒に試験受かったタマモに差をつけられ……、」
そこまで言いかけると、突然、ポケットの中の携帯電話が鳴る。彼はそれをポケットから取り出すと、受信ボタンを押す。出てきたのはおキヌちゃんだった。
「あぁ、やっと繋がった。横島さん?」
「あぁ、おキヌちゃんか。どうかしたの?」
「ナニ呑気なこと言ってるんですか!?美神さんが……」
「なんだって?ウン……、ウン……、分かった、今からそっちに行く。それじゃ。」
彼は電話を切ると、勢い良く啖呵を切った。
「行くぞ、シロ!!病院だ!!」
「エ、それって、まさか……?」
「何してるんだ、早く来い!!」
「ま、待ってくだされ〜、先生ぇ〜!?」
シロは急いで彼の待つ車に乗り込む。車は最高速度で病院へと向かった。
病院へ着くと、二人はすぐさま、分娩室の前へと急いだ。そこには既に美智恵、おキヌちゃん、タマモの三人が来ていた。彼は息を切らせながら、やって来る。
「横島さん!!」
「お、おキヌちゃん……、今、中は、ど、どんな感じ…?」
「大丈夫ですよ、まだ入って、三時間ぐらいだそうです。」
「そ、そうか……、良かった……。」
彼は近くの椅子にどっかりと座ると、分娩室の扉を見る。
「……どのくらいで出てきますかね…?」
「そうね……、何しろ初めてだから、相当待つのを覚悟した方が良いと思うわ。」
美智絵は経験上からか、冷静な口調で彼に説明する。彼はそれを聞くと頷き、黙り込む。そして時間はゆっくりと静かに流れてゆく……。
一時間……、
二時間……
三時間……、
四時間……、
そこに鳴り響くのは、時計の針の音のみ。全員黙り込んだまま、座り込んだり、辺りをぐるぐると歩き回ったりするが、分娩室の扉の上の使用中を示す点灯は消えない。そして、さらに時間は流れる。
外はすっかり日が暮れ、夕日が沈みかけている。
ある女性は言った。
昼と夜の一瞬の隙間。
それは短時間しか見れないからこそ、余計に美しく見えるものだと。
彼はその言葉を何故か、そこで思い出した。そしてそれを何度も繰り返しながら、頭の中で噛み締め
た。ひどく懐かしく思える。しかし、未だに新鮮だ。その彼女はもう居ないけど、また会える気がした。
そして今、それが……、
『オギャァ、オギャア……!!』
分娩室の中から、聞こえてくる赤ん坊の泣き声。それに皆、はっとする。そして喜び合った。彼はその声を聞くと、すぐさま勢い良くその扉を開いた。
「う、産まれたのか!?は、早く見せてくれ!!」
彼は防菌手袋も着衣も着ずに、妊婦の元に駆け寄る。
「バカね、そんなに慌てなくてもちゃんと見せるわよ。ホラ……!」
彼女は隣にいる赤ん坊に視線を向けた。彼はそれを見ると、赤ん坊に近付いた。
「ほ、ホントだ……、ちゃんと産まれてる……。オレがパパだぞぉ〜〜〜っ!?」
「お父さん、抱いてみますか?赤ちゃん…」
「あぁ、もちろんだ!!」
「それじゃ…、ヨイショっと。はい、どうぞ…。元気な女の子ですよ〜?」
今度は手袋も着衣もちゃんと着て、彼は看護婦から赤ん坊を受け取る。
「………あったかい。生きてるんだな、コイツちゃんと……。」
彼は赤ん坊の暖かさを感じるとギュッと抱き寄せた。すると、横にいる彼女はヤレヤレと微笑みながら聞いた。
「で、アンタ、この子の名前………………って、聞くまでもないか。」
「あぁ、そうさ。コイツの名前はもう決まってる。コイツの名前は………………、」
「…………蛍だ……!!」
彼は赤ん坊を抱き、そのまま手を高く上げるとそう言った。その頃、空は夜空に姿を変え、天の川が夜を照らしていた。
夜。
山奥の野原。
脇には小川も流れている。
夜空は透き通り、天の川を綺麗に映し出していた。その下を男性と浴衣を着た、ショートヘアの小さい女の子が一緒に歩いていた。
「パパぁ〜!早く〜!!」
女の子が父親をせかす。彼は彼女に追いつくと抱き寄せて、肩車をしてやる。
「ホラ、上を見てみろ。天の川が綺麗だぞ?」
「ホントだぁ〜。あそこで織姫と彦星が会っているだよね?」
「あぁ……、そうだな。今頃会ってるかもな……。」
娘と一緒に空を見上げる父親。すると、彼の顔には笑顔がうっすらと込み上げて来た。
『俺たちみたいだな……』
彼は娘の顔を見やる。すると彼女は不思議そうに、
「どうしたの、パパ?……………あ、あそこで何か光ってるよ?」
彼女が指をさした方向になにやら光りながら不規則に動くものが。
蛍だ。
最近、ほとんど絶滅したかと思われたが、まだ生息していたようだ。
「………ホタルだ。」
「ホタル?じゃあ、私と一緒の名前だね!ねぇ、パパ。………パパ?」
娘の呼ぶ声も聞こえず、彼の目にはいつの間にか、涙が溢れていた。そして彼は小声で呟いた。
「(これからずっと、一緒だな、オレ達……)」
「ねぇ、パパったら!!」
彼女は強引に彼の髪の毛を引っ張る。彼はそれに気付くと、涙を拭った。
「イテテ、やめろったら……!さぁ、ママが待ってるから帰るとするか!!」
「ウン!!」
娘が見せる屈託のない笑顔。彼もそれを見てニッコリ微笑むとそこを後にした。
『そうね、ヨコシマ……。これからはずっと……』
空には星があまたに輝く天の川。
七夕。
織姫と彦星が出会う、年に一度だけの夜……
〜Fin〜
今までの
コメント:
- ハイ。エピローグですw。いかがだったでしょうか?
え〜、本作は本当にエピローグで主役が変わっちゃってますね、えぇ。まぁ、ラストが書きたかったわけで。そこのところはご了承の程をw。ラストの山奥は何処でしょう?シロの隠れ里なのか、はたまた人骨温泉郷の山奥なのか、書いた本人でも分かりません。ご想像にお任せいたします(爆)。 (ライス)
- 〜あとがき〜
と言っても書くことあんまりないんですがね!!(w。
まぁ、発端から書きましょうか。私がC-WWWに来て、間もない頃です。私はある作者さん(あえて伏せさていただきます)のSS群に没頭しとりまして、それを読みふけってました。で、その作者さんのある作品のあとがきで、「美神さんはルシオラの生まれ変わりを性格上、産むことが出来ないのでは?」というのがありました。それに私は違和感を抱いたんでしょうねぇ。 (ライス)
- で、そんなわだかまり(?)が残ったまま、私はここ、GTYでSSを書いてきたわけです。そんなある日、天啓が舞い降りましたw。それが今回の悪夢の原型なのですが、最初に思い浮かんだのが、「描く男」のアイディアだったわけです。ま、それだけじゃ、話が続かないので、考えてみました。んで、思いつきました。上記の違和感から妊娠ネタにつなげようと思ったわけです。こうしてテーマが決まり、ラストが思いつき、トントン拍子で話が出来上がったのでした。まぁ、裏テーマは、
美神さんをどのくらいいじめられるか?
だったんですけどね!!(w (ライス)
- 最後に前の最終回のコメント返し。
>なばさん
>まあ、それでも面白けりゃ良いんだけどサッ!(笑)
ま、そうですねぇ、ただいま思い返してみれば確かに蛇足な部分もありますねぇ、2話目と3話目は一番最後に思いついたのでとってつけたような漢字ではあります。
>ヴァージニアさん
こちらこそ初めまして。いや、誤られることはないです、読み方には色々とありますし。とりあえず、経緯はあとがきに書かせていただいたので、そちらをご覧になられると嬉しいです。 (ライス)
- >矢塚さん
意表を突かせようと狙っておりましたw。期待通りの反応をどうもありがとうございます(爆)私にしては異例のスピードで書けた連載で充実してたと自負しております。
>志狗さん
>美神とルシオラの気持ちの整理だったのでしょうか?
う〜ん、そう言われるとそうかもしれません。私はルシオラが「ヨコシマに何かあったら、ただじゃおかないんだから!!」というメッセージと「これ以上、ヨコシマを悲しませたくない」と言うメッセージを込めたつもりなのですが……、うまくいってないかも(汗) (ライス)
- >かぜあめさん
いえいえ、コメントいただけるだけで嬉しい限りです。とりあえず今作はハッピー・エンドで決めるつもりでしたので、喜んでいただけて嬉しい限りです。
>紫さん
んまぁ、人の感じ方はそれぞれですし、それを否定するつもりは毛頭ございません。ま、言葉にならない違和感なんてざらにあることですし、こちらも何がいけなかったか、考える材料にもなりますし。貴重なコメントをありがとうございます。 (ライス)
- さてさて、次回作ですが、いよいよアレやります。
………そうです、ほとんど一年ぶりなアレです。
「やかま椎やつら」です。
中途半端なところで休止してたのでいよいよ完結に向けて、頑張る所存でございます。まぁ、一年ぶりなので特別編と続きの二本立てで行きたいと思います。それでは次回まで。 (ライス)
- 文句なしに賛成です!!!
ダークっぽい雰囲気で話が続く中、どうやって完結させるのか気になっていましたが、うまくハッピーエンドで終わりました。
横島と美神をくっつける時は、いかにして美神を素直にさせるかがポイントではないかと私は思っているのですが、そのテーマがよく書けていたと思います。
次作の「やかま椎やつら」についてですが、タイトルに見覚えがあるもののほとんど読んだ記憶がありません(;^^)。
過去ログ広場で探しつつ、続きを期待します。 (湖畔のスナフキン)
- しかし・・ルシオラの転生が「蛍」と言う名前もマンネリ化してきましたね〜
別に悪いと言ってるんじゃありませんよ、ただ・・・・・いままで多くのGSのSSを見てきて、あまりにも多いので・・・他に無いかな〜と思いましてね・・・・
いういや煩悩の部屋の「ひかり」てのもあったな〜〜 (てて)
- 七夕で冒頭に織姫と彦星が出てきたから、てっきりその2人の話しかと思ったら・・・エピローグだったのですね!
みんな幸せそうでよかったです〜、美神もいい感じでしたね。
そして次回作の「やかま椎やつら」、タイトルからして面白そうです。
私も過去ログの中を探索してきますね! (ヴァージニア)
- 誕生というテーマは『BIRTH』で私も使いましたが、やっぱり創作する人が違うと、ここまで希望にあふれるラストにする事ができるんですね!(ややヤケクソ気味の挨拶)
まぁ、何はともあれ完結、おめでとうございます。
美神令子、そして横島忠夫というキャラクターの内面を掘り下げ、さらにそれにエンターテイメント性を加え、尚且つしみじみとさせる感動を読者に残してくれる――と。やはりこういった所は技量を感じますねぇ。彼らにはこれからも幸せに暮らして欲しい物です。
やかま椎やつら……かぁ。懐かしい(爆)。……で、『月の裏』の方は……?(再爆) (ロックンロール)
- では、悪夢最後のコメント返し。
>湖畔のスナフキンさん
まぁ、ハッピーエンドは決定事項でした、この作品に関しては(w。美神を素直にさせた点ですが、あれは書いていると自然にアッチが勝手に動いてくれた感じです(ちなみに4話の所ですね)。まぁ、結果的に美神が折れたとも考えられるかもしれませんねw。
>ててさん
初めましてでよろしいのでしょうか?(w まぁ、確かにマンネリですねぇ、ルシオラの転生後の名前は(爆) 私は他の名前が考えるのが面倒くさかったので、一番馴染みのあるものさせていただきました(←ダメ) (ライス)
- >ヴァージニアさん
そうですよねぇ、七夕って言ったら、原作のあの二人を思い出してしまいますよねぇ……(汗)。この前、ある人に指摘されたました。すみません、なるべくアノ二人は思い浮かべないで読んでいただけると………、手遅れかw
>ロックンロールさん
いえいえ、『BIRTH』面白かったですよ?(フォロー)
えと、コメントどうもです。なんかべた褒めされてるようで、本当に恐縮です……。てか、ロックさんも私より十分に上手いような気がするんですが……w
>やかま椎やつら……かぁ。懐かしい(爆)。……で、『月の裏』の方は……?(再爆)
ガフッ(吐血)え、えっとぉ、つ、『月の裏』に関しては問題が山積みなので、もう暫くお待ちいただけるとありがたいのですが…… (ライス)
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