ザ・グレート・展開予測ショー

ひのめ奮闘記(その22)


投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 6/ 7)





雨が降り続けるその日(不良3人組ぶっとばした)放課後・・・・


「ぜー、ぜー」

少女・・・江藤幸恵は肩で息を切らせながら一歩一歩足を動かす。
乳酸がたまり、筋肉は酸性となり、酵素群の活性度が低くなり、エネルギー生成力が弱くなる。
幸恵は疲労で振るえる足を手で押さえながら進む。
そして目の前にいる人物へと話しかけた。

「はぁはぁ・・・ひーちゃん待ってぇ・・・」

「ん?」

ひのめは息も絶え絶えな親友の弱弱しい声に反応し振り向くと、幸恵の肩を笑いながらポンポンと叩き言った。

「ったく、階段ダッシュしたくらいでバテるんじゃまだまだよ♪」

「そ、そんなこと言ったって・・・
 1階から15階まで帰宅部の女子高生がダッシュしたらバテるよぉ・・・」

息を整えながら自分が疲れている理由を述べる幸恵。
学校も終わりたまにはどっちかの家で遊ぼうと打ち合わせし、ひのめのマンションに来た二人。
しかし、運の悪いことにエレベーターが故障中。
普段から体力作りのためとあまりエレベーターを使わないひのめはへっちゃらだったが、
ひのめほど体力のない幸恵は15階まで上がると聞いただけでもゲンナリだった。
なのに・・・

『ほら!競争しよう競争!負けたら『エスカルゴ亭』のケーキおごりだよ!』

と、ひのめにけしかけられた幸恵。
一瞬だけ考えたが、何より人気店のケーキは捨てがたいと勝負に乗ったのが悪かった。
4、5階までは互角だが7、8階まで来ると体力の差が如実に現れ距離が開きはじめる、
最後は幸恵が13階まで来た時点でひのめが既にゴールしていた。

「へっへ〜!私の勝ちっ!あぁ〜楽しみだわ〜、何奢ってもらおうかしら♪」

手を胸の前で合わせ瞳を輝かせるひのめ。すでに頭の中ではイチゴのタルトやティラミス、チーズケーキが浮かんでいる。
幸恵はそんなひのめに『ちぇ〜』と舌打ちしつつ残り少ない今月の小遣いの出費に頭を痛める。
だが、それに助け舟を出す者がいた。

『ったく・・・幸恵は体育の授業で体力を消費たんだから勝てるに決まってるわさ、
 勝てる相手に勝って喜んでるようじゃあんたもまだまだ未熟・・・』

「う、うっさいわねぇ〜〜〜!! 
 そんなこと知ってるわよ!冗談よ冗談!」

心眼の言葉に熱くなりメンツを保とうと前言を撤回するひのめ。
そのおかげで難を逃れた幸恵はほっと息をついて心眼にウインクして感謝した。

「むぅ〜・・・ほら、じゃあ早く入ろう」

「うん♪」

久しぶりのひのめ宅への訪問に少し浮かれ気味の幸恵。
ひのめが網膜確認キーでロックを解除しようとしたとき・・・

「あれ?」

「ん?ひーちゃんどうしたの?」

ひのめの動きが止まった。
何事かと一緒に肩を並べるとひのめが口を動かした。

「い、いや・・・鍵開いてる・・・っていうか誰かいる」

「え!!?」

ひのめの言葉に表情を強張らせる幸恵。
さらに・・・

『泥棒かもしれないわさ・・・』

「!?」

幸恵は心眼の言葉に思わずひのめの背へと隠れてしまう。
実はこれ幸恵のくせで、昔いじめられっ子だったときの後遺症なのか、
恐怖が先立つと一緒にいるひのめの背後隠れ肩に手を置いてヒョコっと顔を出す。
言い方は悪いが深層心理でひのめのことを恐いものから守ってくれる壁と認識しているのだろう。

「さっちゃん?」

「あ!う、ううん何でもない!」

ひのめの声にパッっと手を上げて離れる幸恵。
性格も明るくなり、純粋な力や技は強くなった、それでも心についた傷はなかなか治るものではなかった。
幸恵はそんな自分が悔しいと顔を歪める。

「ほら、何ボサっとしてんの?」

「え?」

「私一人で突入させる気?私とさっちゃんはパトーナーでしょ♪」

ひのめはニっと笑い幸恵の背中をポンと叩いた。
幸恵の心情を悟っての励ましだろう、それでも今の幸恵には十分な呼びかけだった。

「うん!」

力強く返事をし、幸恵もサッとドアの陰に隠れる。

「ねぇ心眼?あんたの力で中の様子とか分からない?」

『それは千里眼の能力だわさ、あたしについてる能力は・・・』

「あ〜、もう分かったわよ」

「ひーちゃん、何か武器ある?出来れば剣状のものがあれば・・・」

「い、いや・・・さっちゃんが武器持ったら犯人殺しちゃうからやめときな」

「そんなことないもん!」

ぶすっと拗ねる幸恵に苦笑いで応えるひのめ。
以前道場で対峙したときの恐怖を思い出し背筋に寒いものが走った。
なぜなら幸恵は剣状のものを持つと・・・

「ひーちゃん、突入するの?」

「あ、う、うん!行くわよ」

幸恵の声に我に返り、ドアノブを回す。
そして──

「どこだーーー!泥棒!ミンチにしてドイツの変態肉屋に売ってやる!!」

勢いよくドアを開け風のように疾駆し家へ侵入すると怒りの叫び美神邸内に轟かせる。
しかし・・・侵入者はひのめのすぐ目の前にいたのだった。







「何だぁ・・・蛍ちゃん達だったのかぁ」

ひのめは台所の椅子に座し、笑いながら紅茶をすすった。
ひのめの隣に幸恵、二人に向かいあうように蛍と令花が座っている。

「ごめんね。おばあちゃんからマスターカードーキー預かってたから・・・」

「ううん、いいのよ。それで今日はどうしたの?」

ちょっと遠慮気味の姪っ子の緊張をほぐすように聞いてみる。
その問いにオレンジジュースから口を離し蛍の代わりに答える令花。

「んとね、んとね。ママが今日は遅くなるからおばあちゃんとこでご飯食べてきなさいって」

「はぁ?・・・・ったくお姉ちゃんったら・・・作り置きくらいしなさいよね〜」

今頃何やってんだかとテーブルに肘をつきながら実姉と義兄を思い浮かべる。
おそらく仕事だろうが、それでも子供達のご飯くらい用意してあげなさいよと心で毒づいた。
ひのめも幼い頃は父は研究で南米在住、母も仕事で忙しく寂しい食卓を過ごしてきた経験がある。
もちろん、姉の令子が気をきかして一緒にみんなで食べたこともあるがそれも毎日じゃない。
だからこそ蛍達の気持ちが分かる気がした。

「ねぇひーちゃん?ひーちゃんに妹いたっけ?」

「あ、ああ!紹介するの忘れてた」

幸恵の言葉にやっと思い出すひのめ。

「えっとね・・・私の隣にいるのが学校の友達で江藤幸恵(えとう さちえ)ちゃん」

まずは幸恵を姪っ子達に紹介する。
幸恵の会釈につられて慌てておじぎする令花に少しだけ笑いがこみあげるひのめ。

「で、こっちが令子お姉ちゃんの子供で私の姪っ子・・・中1の蛍ちゃん」

「こんにちは!初めまして♪」

「うん、よろしくね♪」

幸恵は元気のいい蛍の挨拶に笑顔で返す。
そして、とても中1とは思えないスタイル(胸が大きいとかじゃなくて背が高い)とアイドルのようなかわいさに
『こういう子って本当にいるんだぁ〜』と思わず感心(?)してしまう。

「で、そっちが小・・・・・・2?3?」

「3だよぉ〜もうー」

ぶすっと顔しかめる令花に苦笑いで手を合わせるひのめ。
なにせ口調が幼いぶん余計年齢が下に見えるのだ。

「あ、ごめんごめん!小3の令花ちゃん」

「初めまして!横島令花です!え〜と・・・いつもひのめお姉ちゃんがぁお世話にぃ・・・」

「はいはい・・・令花はまだ子供なんだから、変な気ぃきかせなくていいの」

ったくぅ・・と言った表情の蛍に頭を撫でられ『ぶぅ』を頬を膨らませる令花に思わず吹き出してしまう幸恵。
自分に妹はいないが、いたらきっとこういうふうに楽しんだろうなぁと思いを馳せた。

「で、あと一人いるんだけど・・・」

ひのめは残りの甥っ子はどこだと周囲を見渡すが台所から見える居間や応接間にはいないようだった。

「あれ?忠志は?」

「ん?さっきトイレ行くとか言ってたけど」

「そっかぁ・・・まあいいや。じゃあ私とさっちゃんは自室にいるから何かあったら言って」

「「はーい」」

二重奏の返事を聞きながらひのめと幸恵は部屋に向かった。
しかし、ハっと思い出す・・・部屋が散らかっていることに・・・
何せ最近は寝てばかりで今朝は母親に叩き起こされ片付ける暇などなかった。

「あ、ちょっと待ってて!」

幸恵をドアの前に待たせて入室する。
途中心眼が『日頃からやってないからだわさ』と注意するがそれは敢えて無視した。
そして、部屋に入りふぅと一息をつく・・・・が、次の瞬間その目が尖った。

「お、ひの姉帰ってきたのか?おかえり〜」

さて問題です。
自分がいない間に勝手に部屋に入られその上ベッドで自分のマンガを読んでる甥っ子(小6)を見たときのレディーの反応は?

1、「コラ!ダメでしょ?勝手に入っちゃ」と軽く叱る
2、「もう・・・勝手に入らないでよ・・・」と悲しい表情を浮べる
3、 親に言いつける



そして・・・ひのめの取った行動は・・・
















『ぎにゃあぁぁぁぁぁああああああああああああ───────っ!!!!!!』

「!!?」

幸恵は突如聞こえる絶叫に思わず心臓が高鳴なった。
その絶叫に何事かと駆けつける蛍と令花。
幸恵と顔を合わせるが両者とも何が起こったかは分からないという。
と、いうわけで・・・

コンコン・・・

「ひーちゃん・・・入るよ?」

キィ〜と音をたてるドアをゆっくりと開ける幸恵。
それに続いてヒョコ、ヒョコっと蛍と令花が顔を覗かせた。
そして・・・3人が見た光景・・・それは・・・













「ひっ!すんま・・・げふっ!!・・・ごめ・・・あごっ!!かんべ・・・ぎにゃあぁぁぁぁ!!!!」

地べたに転がる忠志に容赦なく蹴りを入れるひのめ───

「あ、ごめんねぇ・・・今部屋片付けてるから♪」

その言葉と一緒にひのめの足元で血飛沫が舞った。
完全にグロッキーの忠志・・・そして、
ひのめの恐い笑顔にガクガクブルブルと震える幸恵と蛍と令花だった・・・・





                        その23に続く





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あとがき

結局今回は何の盛り上がりも見せない展開でした^^;
おかしいなぁ・・・もう少し書くつもりだったんですが・・・
日常というものを感じたということで納得してくだせぇ〜 (ノД`)



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