ザ・グレート・展開予測ショー

君ともう一度出会えたら(01)


投稿者名:湖畔のスナフキン
投稿日時:(03/ 6/ 4)

『君ともう一度出会えたら』 −01−



 俺は手帳を開き、出発するための最終確認をした。
 霊力の測定、行動計画の暗記、そして身辺整理。すべて完了している。
 あとは一番世話になったあの人のところに、挨拶に行くだけだ。
 出発したら、俺のいた痕跡は完全に消える。それが惜しくはないが、一人くらいは事情を知る人を残しておきたかった。

 愛用のバンダナを額に締めると、俺は何も残っていない部屋を後にした。
 俺の名は……横島忠夫。



「あら横島クン、今日は早いじゃない」

 事務所の中にいたのは美神さんだけだ。俺もその方が都合がいい。

「ええ、美神さんに話したいことがあって。今いいですか」
「いいわよ」
「突然ですが、俺、事務所を辞めます」

 しばらく事務所の中に沈黙した空気が流れる。だが、しばらくして美神さんが口を開いた。

「そう……なんとなくわかっていたわ。あんた、仕事中もずっと上の空でいることが多かったからね。理由くらいは聞かせてくれるかしら?」
「旅にでます。おそらく二度と戻ってきません」
「ルシオラの元に行くのね!」

 いきなり核心をつかれた。付き合いは長いが、やはりこの人はあなどれない。

「よくわかりましたね」

 俺は苦笑する。

「横島クン、あんた私と何年つきあってると思うの」
「えーと俺が17の時にバイトで雇ってもらったから、ちょうど5年ですね」
「そのあんたが私のところを出て行こうだなんて、あの娘(こ)のことしかありえないじゃない」

 何もかもお見通しというわけか。俺はそんなにわかりやすい人間なのだろうか。

「他に気づいている人はいますか?」
「それは大丈夫。たぶん私だけよ。おキヌちゃんもシロもまだ気づいていなと思う」
「そうですか」
「それで横島クン、どこに行くの? ルシオラを救う手立てはあるの?」
「過去に戻って、ルシオラを救います」
「横島クンも知っているはずだけれど、過去を操作しても復元力が働くから、何でもできるというわけにはいかないのよ。時間移動は魔法の杖ではないわ」
「そのことはよく考えました。しかし、可能性はそこにしか見出せなかったんです!」

 俺はこれ以上ないくらいの真剣なまなざしで、美神さんを見つめた。

「もう決心しちゃったのね」
「はい」
「あんたもずいぶん立派になったものね。昔の横島クンの姿からは、想像もつかなかったわ」

 美神さんが戸棚からグラスを二つと年代物のスコッチを取り出した。
 スコッチの封を空け中身をグラスに注ぐと、グラスの一つを俺に差し出す。

「たいしたことはできないけれど、餞別よ」
「すみません、美神さん」

 俺はグラスの中のスコッチを、のどの奥に流し込んだ。

「横島クン、どうやって過去に戻るの?」
「文珠を使って魂だけ過去に戻ります。時空内服消滅液でもよかったんですが、あれだと霊力までも過去のレベルに戻ってしまうので、文珠で似た効果を作り出します」
「残された人たちは?」
「俺という存在がこの時空からなくなりますから、みんな俺のことを忘れてしまうでしょう」
「私も?」
「美神さんは別です。勝手な話ですが、一人くらいは覚えていて欲しいなと思って」
「本当に勝手な話ね」
「無理にとは言いません。これを渡しておきます」

 俺は『忘』という字が浮かんでいる文珠を、美神さんに渡した。

「これを使えば、俺のことは記憶からなくなります。俺の記憶が邪魔だったら、使ってください」
「そういうことじゃないんだけど──」

 美神さんは、グラスの中のスコッチを一気にあける。

「もう一つ餞別があるんだけど。ちょっと目をつぶってくれる」

 なんだろうと思ったが、俺は黙って目を閉じた。
 美神さんの手が俺の顔に添えられると、俺の唇と美神さんの唇が重ね合わされる。

「えっ……」
「本当に勝手な話よね。私の気持ちには少しも気づかないで──」

 俺は何も言うことができなかった。

「私も悪いんだけどね。ずっと自分の気持ちに素直になれなかったから。でもあんたも悪いのよ。いつまでもルシオラの影ばかり追いかけていて──」
「すいません、美神さん。でもやっぱり俺はルシオラのことが──」
「ストップ! それ以上、言わないで。でも大丈夫。あんたのことはちゃんとわかっているから」

 美神さんが、空になったグラスを片付ける。

「いつ出発するの?」
「いつでも出発できます」
「そう。じゃ、最後まで見送らせてね」

 俺と美神さんは、事務所の中庭に出た。

「いい! 過去に戻ったら絶対負けちゃだめよ。あの娘(こ)を犠牲にするような中途半端な勝ち方は、絶対許さないからね!」
「……最後まで勝ち負けにこだわるんですね、美神さん」
「私を誰だと思っているの、美神令子よ! そしてあんたは、私の一番弟子なんだからね!」

 俺はクスリと笑ってしまった。

「じゃ、行ってきます」

 俺は『時』『間』『逆』『行』の四つの文珠を生成し、発動させた。

「私……あんたのこと、絶対に忘れないからね!」
「えっ!?」
「絶対……絶対忘れないからね! そして来世まで追いかけて、今度こそ捕まえるんだから!」
「美神さん、今なんて──」
「絶対に忘れないからね──」

 美神さんの最後の言葉は、よく聞き取れなかった。
 俺の体は少しずつ透き通っていき、やがて時間を遡り逆行していった。


(続く)



 えーと昨日、某チャットでGTY向けのルシオラ救済SSのネタがお蔵入りになっているという話をしましたら、
 書けという催促が数名の人からありまして、筆をとった次第です。

 初の逆行物にチャレンジですが、まぁ先の展開がここからもほとんど見えていますね。(;;;^^)

 最初に美神との離別のシーンを入れてみようと思って書いたのですが、かなり気合が入ってしまいました。
 美神も素直になれば、けっこう可愛いですね。(^^)

 さて美神ヒロインは今回だけで、次回からのヒロインはもちろん『彼女』です。
 強くなった横島がどう活躍して『彼女』を救うか。今後の話にご期待を!

 こんなツマラン話を読みたくないって人は、遠慮なく反対票を投じてください。
 反対多数の場合は、GTYから撤収して別の場所で細々と書き綴ります。(;^^)

今までの コメント:
[ 戻る ]
管理運営:GTY+管理人
Original GTY System Copyright(c)T.Fukazawa