ザ・グレート・展開予測ショー

僕は君だけを傷つけない!/(3)


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/ 6/ 4)


 店に行く前から、美神たちが何に怒っているのか横島にはさっぱりわかっていなかった。
 シロだけが楽しんでいた散歩から戻り、恐る恐る事務所のドアをくぐる横島。
 美神、おキヌ、タマモの三人が普段とはまるで違う服装で談笑していたのだ。
 加えて彼女たちが横島に気付き、にこやかな顔で迎えてくれた時には、彼の肝は震えた。


 『あ、おかえりなさい、横島さん!』

 『あら、早かったわね』

 『おかえり』


 美神、おキヌはともかく、タマモまで挨拶を返してきた。
 横島は思わずその場で平謝りしそうになったものだ。
 ピートから聞いたイタリアン・マフィアの慣習を思い出していたからである。


 『あ、あはは、みんな着替えてどうしたんスか? ひ、ひょっとしてお出かけ? じ、じゃあ、お気をつけて!』


 かろうじてそう返したものの、無言の睨みつけが彼女たちからの返答であった。
 そして二度目は店の近くで。
 たまたま店の近くを通りかかった見目麗しき女性を目にしたのが運の尽きであった。


 『おおっ、美人のねーちゃん!』


 かくして横島は殴られ燃やされる羽目となった。
 いつもより4倍ほど増しで力がこもっていたようである。

 そんな男なのだ。
 鈍くて、馬鹿で、人の気持ちに、ホントに疎くって。

 そんなヤツのはずなのに。
 今、なんと口にしたのだ、目の前の男は。

 美神は固まっている。
 おキヌは目を見開いて、口元を手で覆っている。
 タマモは仰け反って驚いている。
 パピリオとシロはあっけにとられて、発言者を見上げている。


 「あ、あ、あの、よ、横島、さん・・・・・・?」

 「よ、よ、横島クン・・・・・・?」

 「・・・・・・・・・・・・」


 怯えている様にも見える彼女たち。
 だが目の前の少年は、一向に躊躇することなく再び言い切った。
 落ち着いた雰囲気で、とびきりの柔らかな微笑を浮かべて。
 美神、おキヌ、シロ、パピリオは赤面し、タマモは見とれていたが、次の瞬間。


 「ええ、本当に3人とも、今夜は素敵でしたよ」


 彼女たちの精神は、今度こそ完全にオーバーヒートを起こした。




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          僕は君だけを傷つけない!/その3



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 「それじゃ、魔鈴ちゃんが作ったあの葡萄ジュースって、やっぱり・・・・・・?」

 「ええ、ささやかな効能だけどね。飲んだ人の視野や性格をほんの少しだけ開くお手伝い、っていう感じかしら」


 閉店後のレストラン『魔鈴』では、店主とその使い魔が後片付けをしつつ、雑談にふけっていた。
 主な話題は、魔鈴が調合していた葡萄ジュースについてである。


 「それって、あの小さいビンに入ってた透明な液体のせいかニャ?」

 「そうよ。まぁ、最後の一味ってところね。普段あまり使わないし、1,2滴で十分だから、少なめに作っておいたんだけど」

 「ふ、ふ〜ん」


 どことなく落ち着かない様子の黒猫である。
 魔鈴はそれに気付かず、くるっと指を回すと掃除用具を片付けた。


 「さぁ、終わったから家に戻りましょう。今日もお疲れ様!」

 「うニャ、お疲れさーん」


 楽しげに厨房を出ていく魔鈴の後姿を見ながら黒猫はため息を漏らしていた。


 「まっずいニャー・・・・・・1,2滴でよかったんだニャあ。20滴は入れちゃったニャ」


 手伝いのつもりで、魔鈴には聞かず、匂いの良さから調味料と思って放り込んだのだが、とんだ失態である。
 横島に出すことは聞いていたし、見た目から、まぁ、大した手間が必要な料理ではないだろうとも考えていた。
 少しの間悩んでいた黒猫だったが、次の瞬間には諦めていた。
 元来、猫の性格は忘れっぽい飽きっぽいときているのだ。
 横島のことだからなんとかなるだろう、と客に対し酷い扱いの黒猫である。

 一方の魔鈴は鼻歌交じりでえらくご機嫌であった。
 美神たちの驚く顔を想像していたのだ。悪巧みをしている様子は全く無く、純粋な好意の輝きがその笑顔には在った。
 ただ、タマモも葡萄ジュースを飲んだことを、魔鈴は知らない。


 「ふふっ、横島さん、いつもご利用してくれる御礼です♪」


 だが、事態は魔鈴の想像をはるかに、しかもまずい方向に越えつつあった。



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 美神美智恵は訝しんでいた。

 Gメンでの仕事を済ませた後、次女のひのめを引き取って、長女の事務所に顔を出したのだ。
 だが、階段を上りきったところで彼女は眼を見張った。
 壁に張り付いて、開け放ったドアから、部屋をこっそりと覗き込んでいる娘たちの姿を見出したからである。
 美神、おキヌ、シロ、パピリオの4人が後ろにいる美智恵にも気付かず、ひたすら部屋の中に視線を向けていた。


 「何をやってるの、あなたたち?」


 突然の後ろからの声に、ばね仕掛けのように反応する女性陣であった。
 4人が4人とも計ったように同一の動きをとったのは見事というしかない。
 ますますもって不可解な表情になる美智恵である。


 「マ、ママっ!?」

 「こ、ここ、こんばんはっ!」

 「み、みっ、美智恵どのっ!?」

 「こ、こ、こんばんわでちゅっ!」


 あからさまに慌てふためく面々である。
 よく見ると全員の頬がうっすらと赤く染まっている。
 夕食の席で酒でも飲んだのだろうか、と美智恵は首を捻った。


 「何をそんなに慌てているの、みんな。・・・・・・・・・そういえば、横島君とタマモちゃんは? 姿が見えないようだけど」


 美智恵の疑問への返答は、困ったような、躊躇っているような、あいまいな表情であった。
 どう説明したものか迷っているふうにも見受けられる。
 だが真っ先に部屋の中を指差したのは、やはり美神令子であった。
 表情が硬い。仏頂面なのだが、落ち込んでいるように見えないことも無い。

 わけのわからぬままに、美智恵は部屋の中をそっと覗きこんだ。
 次の瞬間、ぎょっとして先程以上に眼を見張ることとなった。
 驚愕のあまり、年甲斐も無く、思わず『えええっ!?』と声を上げそうになったくらいだ。


 「わかっていて、ヨコシマ? 全部、貴方のせいなのよ、ア・ナ・タ・の」

 「だから何の事だとさっきから聞いているんだがな、タマモ」


 部屋の中には確かに二人がいた。どうも口ほどには喧嘩腰というわけでもなさそうである。
 ソファーに横島、その目の前のテーブルにタマモが腰掛けている。
 二人の視線は交差し合い、互いに楽しげに心情を探り合っているような印象を受ける。

 横島はソファーに深々と腰掛けており、足を組んでいる。
 一見いつもと変わらない。
 だが気配、そして先程の声音たるや、普段のお気楽な脳天気さとはまったくの正反対、ダンディズム100%であった。

 一方、タマモ。
 同じく足を組み、左手の肘を膝の上に乗せ、さらに左手の甲に顎を乗せると言う姿で、魅惑的淑女といった風情である。
 いつものクールな印象というか、他人を寄せ付けない冷たい雰囲気が、より研ぎ澄まされたものとなっている。
 だが、それがマイナスになっているかと言えば、けっしてそうではない。
 その証拠に彼女の瞳は潤んでおり、キツイほどではないが全体的に艶めかしいと言うか、色気が醸し出されているのだ。


 「ちょっとちょっと、令子! あれっていったい何事? ほとんど映画の世界じゃないの!」

 「静かにしてよ、ママっ。聞こえないじゃない!」

 「ああああ・・・・・・な、なにがどうなっているのかわかんないんですよぉ、隊長さぁん・・・・・・」

 「お、お、おの、おのれ、女狐め・・・・・・せ、せ、拙者の、せ、先生を、た、たぶ、誑かそうとするとはぁっ!!」

 「ふふふふ・・・・・・・・・こ、この、わたちの目の前で、いい度胸でちゅよ・・・・・・ええ、そうでちゅ・・・・・・おしおきでちゅね」


 小声で話してはいるが、どうにも皆が皆、まともでない。 

 とりあえず美智恵は聞こえてくる会話に、耳をそばだてることにした。
 いつのまにか、他の事務所の面々と頭をそろえてしまっている美智恵である。
 腕の中ではひのめが不思議そうに母の顔を見上げている。


 「ヨコシマ・・・・・・」

 「ん、なんだ・・・・・・?」


 横島、タマモの口調はとても年相応のものではなかった。
 背中がむずがゆくなる盗み聞きの一同である。


 「ふふっ・・・・・・まぁ、いいわ。とりあえず何か飲む?」

 「ウィスキーをストレートで。銘柄はまかせる」

 「あら、私の眼を信頼してくれているの?」

 「いや、何でもいいだけさ」

 「イヤな男!」


 ドアの向こうの一同は思いきりずっこけた。

 口ではつんけんしていても、そこはかとなく楽しそうなタマモである。
 何処から酒を調達するのかと思えば、なんと美神の机からウィスキーの瓶とグラスを2つ取り出した。


 「タ、タマモちゃぁん! み、未成年はお酒飲んじゃいけないのよぉっ!」

 「ひ、人の秘蔵の酒をぉぉっ! それってば高いのよっ!」


 おキヌの注意も、美神の文句も小声ゆえ届くわけがなく、かつ酒を気にした美神は母親の一睨みで沈黙させられてしまった。
 パピリオ、シロに至ってはもはや理性的な反応は望めそうに無かった。

 タマモはグラスに3分の1ほど琥珀色の液体を満たすと、一つを横島へと手渡そうとする。
 が、途中でグラスを持った手が止まった。


 「ねぇ、ヨコシマ」

 「ん・・・・・・?」


 口元にほんの少しだけ微笑を浮かべつつ、優しげに見上げる横島である。
 そんな彼を魅惑的、かつ不敵な笑みを浮かべ見下ろすタマモ。
 グラスに軽く接吻しつつ、告げた一言はまさしく魅惑の具象化だった。


 「口移しなんて、いかが?」


 美神たちは爆散した。






           「そ、その4に続きますっ!・・・・・・って、ふえ〜ん、み、美神さぁ〜ん!」

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