ザ・グレート・展開予測ショー

僕は君だけを傷つけない!/(1)


投稿者名:ロックハウンド
投稿日時:(03/ 6/ 4)


 「こんばんわでちゅー!」

 「お邪魔するでござるー!」

 「ちわーっす・・・・・・」


 開かれたドアからパピリオ、シロ、横島の3人が入ってきた。
 今夜は事務所の面々に加えて、パピリオを交えての外食である。
 きっかけはパピリオがやってきたことに加え、美神とおキヌが口を揃えて外食を提案したことにある。
 時刻は既に夜の7時。
 場所は、最近隠れた人気を誇る無国籍レストラン『魔鈴』。
 GSにして現代によみがえった魔法使い、魔鈴めぐみがこの店の全てを取り仕切っている。
 彼女の眼前には常連になりつつある顔が並んでいるが、そのうちの一人の様は、今日は特に異様だった。


 「いらっしゃいませ! ・・・・・・って、横島さん、どうしたんですか、そのひどい傷は?」

 「わっはっはっ・・・・・・いやー、それが、自分でも何のことかさっぱり・・・・・・」

 「は?」


 彼の風体たるや、画家のピカソも驚愕するかと思われるほどの歩く立体画であった。
 頭髪は半分アフロへと変じているし、顔面や身体のあちこちは煤だらけ。擦り傷や打撲傷まである。
 衣服も擦り切れ、所々にこびり付いているのは血痕であるようだ。

 魔鈴は呆れたようにため息をつくと、右手の人差し指を立て、楽団指揮者のように横島の眼前で楕円を描いた。
 次の瞬間に横島の傷は残らず消えうせ、血痕も消え去り、ヘア・スタイルも元通りとなった。
 心なしか身奇麗になったようにも見受けられる。


 「おおっ、すっげー! ありがとうございますっ、めぐみさん!」

 「どういたしまして。それよりもここは一応レストランなんですから、身だしなみには気をつけてください・・・・・・ね?」

 「あ、すんません。今度から気をつけるっス」

 「うん、素直でよろしい♪」


 さながら姉と弟のように、にこやかに笑いあう横島と魔鈴である。


 「うー・・・・・・」

 「むー・・・・・・」


 両人とも、パピリオとシロの白眼視に気づいていない。
 指をくわえて上目遣いであるのが、計ったように同じ様相の二人であった。ある意味こちらも姉妹のようである。
 客が他にもいることに魔鈴が気づいたのは、横島の頭が後ろから小突かれたときであった。


 「なにをボケッと突っ立ってんのよ、邪魔でしょ」

 「み、美神さんったら・・・・・・」

 「いいじゃない、ヨコシマだから。蹴っ飛ばされたってどうにかなるわけじゃなし」

 「あら、いらっしゃいませ」


 横島の後ろから出てきたのは、美神、おキヌ、タマモの3人であった。




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          僕は君だけを傷つけない!/その1



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 「相変わらず盛況ねぇ」

 「今晩は。お世話になります、魔鈴さん」

 「あ、いい匂い♪」

 「今晩は、美神さん、氷室さん、タマモちゃん―――まぁ、よくお似合いですよ、3人とも」


 美神はシックなグリーンのスーツ、おキヌは白と青を基調としたワンピースに薄手のジャケット。
 タマモはギンガムチェックのプリーツスカートに白のブラウス、ベージュのオーバーシャツを身にまとっている。
 ふと、魔鈴は目の前の三人から化粧品、香水、風呂上りのシャンプー、リンスの匂いを嗅ぎ取った。
 彼女たちの、ずいぶんと気合の入った身奇麗さに魔鈴は感心したが、同時になにやら不満げな様子も見逃さなかった。


 「皆さん、素敵ですよ。今日は何か御用でもおありだったんですか?」


 質問者は何の気無しだったが、問われた方は目に見えてマイナスの反応であった。
 美神はあからさまに不機嫌だし、おキヌはちょっと沈んだ様子、タマモは一見クールだが不機嫌な空気は隠し通せていない。


 「べ、別に何も無いけど・・・・・・まぁ、たまには気分を変えるのもいいかなって」

 「え、ええ、ちょっと、美神さんとお買い物に・・・・・・」

 「出かけるって言うからお風呂入っただけよ」


 言っていることはわかるが、ならば何故、彼女たちは横島の方を向いているのか、魔鈴には不思議だった。
 ふと、同時に先ほどの横島の怪我の様子を思い出す。
 魔鈴は口元に指を当てると一瞬だけ考え込んだ。
 

 「さぁ、立ち話もなんですから、どうぞお席のほうへ」


 6人は店の奥にある円卓に案内された。
 奥から時計回りに美神、パピリオ、横島、シロ、タマモ、おキヌという順番で着席する。
 魔鈴の使い魔である黒猫がメニューを咥えて運んで来た。


 「ご注文をお伺いしますニャー」

 「今日のお勧めディナーコース、6人分ね」


 やや不機嫌そうな声で注文する美神であった。
 ここでもやはり時折横目で横島を睨みつけている。
 見えない程度に軽く首をかしげる黒猫であったが、一礼すると軽やかな足取りで厨房へと向かった。
 厨房では既に様々なメニューに対応すべく、魔鈴が準備を整えていた。


 「ディナーコース、6人前だニャ」

 「はーい」


 食前酒、前菜の用意を始める魔鈴は、はたと気付いた様子で黒猫に尋ねた。


 「ねぇ、美神さんたちの様子は?」

 「相変わらず不機嫌そうだニャー。何かあったのかニャ?」

 「そうねぇ・・・・・・察するところ、横島さんがらみじゃないかしら? さっきからずーっと横島さんを睨みつけているし・・・・・・」


 右手をリズミカルに動かすことで、ワインやパン、バター、ワイングラス等々がワゴンへと整列していく。
 一段楽したのち、人差し指を唇に当てて思索にふける彼女の姿は、どことなく女学生の趣を見る者に感じさせた。


 「なんでそう思うニャ?」

 「お店に入ってきた時、横島さんはボロボロだったでしょ? あれって多分、美神さんとタマモちゃんのせいでしょうね」

 「んー、確かに焦げてたし、殴られた跡もあったニャ」

 「でしょう? 傷の具合から見て、お店に来るちょっと前に殴られたんだと思うの」


 会話しつつも他のお客のメニューを忘れることなく、指先一振りで料理を整えている。
 客商売に携わっているためか、なかなかの観察力をみせる魔鈴である。


 「でも、なんでニャ?」

 「ほら、美神さんたち、今日はおめかししていたでしょう」

 「だニャ」

 「そう! 横島さんってば・・・・・・本っっっ当!! に鈍感だから、気付かずに何かまずいことでも言ったのよ、きっと」


 横島の性格評をやけに自信満々で断言する魔鈴に、やや気圧され気味の黒猫であった。


 「で、でも、いくらニャンでも着替えていれば、一目でわかると思うけどニャ?」

 「うーん・・・・・・横島さんのことだから、女の子は着替えが好きってぐらいにしか考えてないんじゃないかしら?」

 「それニャら、『あ、よく似合ってるね♪』ぐらいのセリフも出そうなもんだけどニャ〜?」


 黒猫の目から見ても、平凡以外の形容が見当たらない少年である。ずば抜けた煩悩を除いては。
 だが魔鈴は異論ありげに首を横に振った。


 「ううん、それだけじゃダメ。『彼女は何の為に着替えたのか?』ってコトまで考えが及ばなきゃ」

 「へ?」

 「つまり、彼女たちは横島さんに綺麗に見られたくておしゃれしたんだと思うのよ」

 「に、ニャンですと!? あ、あんニャ男に?」


 魔鈴の推測は黒猫の予想を超えていた。驚きのあまり卓上から転げ落ちそうになる。
 仰天する黒猫に微笑みかけながら、たしなめる魔鈴。


 「こら、失礼でしょ。横島さんも男性だし、振り向かせてみたいって気持ちが女性に生まれてもおかしくないわ」

 「ふ〜ん、そういうモンなのかニャ?」

 「ええ、恋愛感情は別としてもね。私でも、男を振り向かせられる女ってカッコいいかなって、時々思うもの」

 「ニャるほど・・・・・・。他の娘たちはともかく、あの狐の娘は恋愛感情がらみとは思えニャいもんニャ〜」

 「それはわからないけど、努力に気付いてもらえないってコトには、恋愛関係じゃなくたって頭にくるわよ」


 鼻歌交じりに手ずからの調理を再開する魔鈴である。
 状況の複雑さと不可解さを感じつつ、黒猫は次のオーダーの為にフロアへと足を向けた。
 ―――が、突然、何かに気付いたように立ち止まった。
 確かに魔鈴は女性ゆえ、美神たちの心情を推し量ることは出来なくも無いだろう。
 だが、横島の事を妙に理解できていたことは一体どう考えるべきなのだろうか。
 経験をつんだ年長者ゆえの洞察力であろうことをぼんやりとは理解したが、黒猫はなにやら漠然とした不安を感じつつあった。

 魔鈴はまたも指を唇に当て、思索に耽っている。
 オーダーは了解している。しかしまだ充分ではない。
 美神ご一行のテーブルに供されるはずの料理は、すでに下準備は済んでいる。
 しかし、もう一つアクセントが欲しいのだ。
 口の中でなにか独り言をぶつぶつと唱えていた彼女だったが、次の瞬間に手を打ち鳴らした。
 瞳はきらきらと輝き、まるで新しい遊びを思いついた子供のようである。

 棚の上から様々な大きさの瓶を取り出すと、小さなすり鉢を用意し、その中へと瓶の中身を放りこみ始めた。
 刻んだ葉、黄土色の液体、干からびた虫の死骸、濃紫色のゲル状の物体、その他諸々が混ざり合っていく。
 不気味な材料の集合体を楽しげに処理していく魔鈴の様は、まさしく魔女の面目躍如といったところであった。
 数分ほど後、混ぜ終えた材料を火にかけた小鍋に移し変える。


 「うん、あと15分ってところね。あとは・・・・・・・・・そうだ!」


 先程までの材料を全て丁寧に棚にしまいこむと、今度は隣の棚から透明の液体が入った小瓶を取り出した。
 そのまま鍋の近くに歩み寄ると蓋を外し、中身を2滴ほど鍋に垂らす。
 近くの籠から葡萄ジュースを取り出すと、これも鍋になみなみと注いだ。
 鍋からの匂いを嗅ぎ、満足げにうなずいた魔鈴は他のお客のための料理を両手に持ち、危なげなく厨房を出て行った。

 ――――黒猫と入れ違いに。






        「えーと、そ、その2に、続くっ! でござるよ♪」

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