ザ・グレート・展開予測ショー

魔人Y−47


投稿者名:NAVA
投稿日時:(03/ 5/31)



「で、普段、アンタは何やってんの?」

手の空いたリグレットを連れまわしながら、まずは彼女の行動調査。

「マスターのお仕事を手伝っています。」

「そうじゃなくて、仕事が終った後よ。」

「マスターのことを考えています。」

「はいはい、アンタが横島のことを思ってるのはよ〜く分かってるからさ。他に何かしてないの?」

タマモのジト目を見て、自分の答えが要求に答えていなかったことに気付き、少々考え込む。

「………ベッドの上に座って、マスターのことを考えてます。」

「………。まあ、良いわ。趣味は無いの?」

「趣味………。」

首を傾げて、少し考え込む。

「ありません。」

「好きな食べ物は?」

「砂糖水。」

「………食べ物って言えるのかなぁ。でも、主食だろうし………。むぅ………。」

などと言う会話からタマモが把握したこと。
リグレットは確かに暇さえあれば、横島のことを考えている。
会話が途切れて沈黙が訪れ、何を考えているのかと尋ねれば、横島のこと。
実際、彼女の普段の行動を観察させてもらうと、本当に自室でベッドの上で体育座りをしながらボーッと過ごしていた。見てるタマモが飽きるほどに、変化のない生活。それがリグレットの日常だった。



今、美神は目の前の魔族に全身の神経を傾けている。
その会話の内容は、人工幽霊壱号に記録させ、西条にも聞かせるつもりだ。
右手には常に神通棍を握り、左手には幼児の拳大程の精霊石を握っている。
目の前の魔族――――デミアンは、己が警戒される様を、仕方ないと肩を竦めて咎めることもなかった。


「まず、はっきりと言っておく。俺はリリスの部下だ。」

デミアンは最初にそう口を開いた。

「リリス?」

「魔神のひとりだよ。」

「アンタ、出向したの?それとも左遷?」

美神としては、意味も無く溢れ出す殺意を抑えるのに苦労している。
その言葉の端々に刺々しさが表れてしまうのは、仕方のないところ。

「どっちでもないさ。アシュタロスを失った俺をリリスが拾ったのは、最初からスパイをさせるためさ。」

「何となく、リリスの性格が分かる話だこと。」

「かなり良い性格してる女なことは確かだ。で、俺がここに居るのはリリスの指示だ。」

「何か企みがあるってわけね。」

「具体的な内容は知らん。俺が命じられたのは、美神令子と繋ぎを持て。横島の情報を流してやれ。それだけだ。」

横島の名が出た途端、美神の顔が歪む。
それは感情と理性が乖離し、どうすべきか彼女も決めかねている証左。
そんな美神の様子を見て、デミアンはひとりほくそ笑む。
『揺さぶり甲斐のある顔をしてくれる。』


「………聞かせてもらいましょうか?横島君の情報って奴をね。」

ニヤリとしたデミアンの顔は気に食わなかったが、情報は大事だと念じる。





「実のところ、横島の目的ははっきりしない。」

デミアンの言葉は、美神にとっては拍子抜けするものだった。

「だが、確実に奴は何かをしている。大規模な呪いの類じゃないかという噂だ。もっとも、リリスはそれを信じていない様子だったが。」

「あのねぇ?そんなの情報のうちに入らないわよ?」

美神としては、ソースも明らかではない魔界の噂話など聞きたくも無い。

「まあ、最後まで聞いてくれ。ついこの間の研究所跡地での決戦な。俺達はひとつの命令を受けてた。」

「何よ?」

「お前達を出来るだけ殺すな。」

「………パピリオが言ってた奴ね。そういえば、斉天大聖も横島君が力を貸してくれてるとか言ってたような………。」

令子に頷きつつ、デミアンはさらに続ける。

「で、だ。横島が何かを企んでいることは事実。そしてリリスはひとつの推測を立てている。つまり、『計画の要のひとつが、美神令子である』と。」

「はぁ?」

言われて美神は、自分にどんな利用価値があるのかを確認する。

霊力の高い人間。
前世は元魔族。
横島の上司。
そして――――時間移動能力者。

(時間移動能力?馬鹿馬鹿しい。タイムパラドックスやパラレルワールドを生むだけ。)

「分からんだろ?俺達もさっぱりでね。普通に考えるなら、時間移動能力の線が一番濃厚なんだろうが………。」

「魔神と化した横島君なら、単体で時間移動も可能でしょうね。文珠があるんだから。」

「だろうな。だから横島がお前に何を期待しているのか分からないのさ。」

こればかりは、デミアンも本当に分かっていない様子だ。
真剣に考え込んでいる表情をしている。

「でも、横島君が私を必要としているってのは推測でしかないのでしょう?」

「状況から推測しただけだ。だが、否定出来るか?」

「………否定する要素は無いわ。でも、肯定する要素も無い。」

「その通りだ。だから、リリスは別の期待をお前に寄せている。」

「何よ?」







『お前が横島を殺すんだ。』








デミアンの声が、冷徹に響いた。







実際のところ、リリスの行動は矛盾に満ちている。
横島を魔族化し、魔神に押し上げた黒幕は彼女である。
そんな彼女が今度は横島を殺害しようとしている。
デミアンとしては、リリスに真意を問い質したいところだが、彼女は韜晦して本心を語らない。
が、実は問い質される本音らしき本音が無いというのが、本当のところであった。
彼女の策謀癖が、横島の主導権に茶々を入れたかった。
実はその程度の動機だったりする。
はっきり言えば、魔神と化した横島が美神に殺される可能性など論外。
自殺願望のあったアシュタロスとは違い、横島には何らかの目的意識がある。
それがある限り、彼は死を望まないことだろう。
今後、同じ魔神として長い付き合いになるだろう横島へ、自分に対する苦手意識を持たせたい。
そういう目論みもある。
以前、彼女が言った通り、それはゲームであった。ただし、命懸けの。


デミアンと美神の会見の様子を、遠見の魔力で眺めながら、リリスはデミアンの話術に不満を隠せない。

「ストレート過ぎ。もうちょっと誘導させてからの方が良いのに………。」

――――直接出向けるなら、私が行ったのにね。

横島の人界侵攻以来、魔神が直接人界に降り立つことは禁止されていた。
神界とのパワーバランス云々と理論武装していたが、実際は干渉されることを嫌ったのだろう。
横島の意図は見え透いていたのだが、実際問題として、追い詰められた神界の猛反撃もありえたために、魔神は魔界を動けないでいた。
事実、横島も作戦開始当初の魔神による総攻撃以来、魔界を、ユーチャリスを動こうとしない。
それは他の魔神を牽制、監視するためなのだが、魔神達は静観の構えを取っていた。

当初は、『新参者のくせに、デカい顔しやがって。』だったものが、作戦の成功を受けて、『新参者がどこまでやれるか見てやるさ。』に変化していた。
もし仮に、横島がハルマゲドンを引き起こそうとしているなら、遠からず横島は他の魔神を頼らざるを得ない。
だからこそ、魔神達は情報収集に専念していた。

リリスを除いて。




同時刻、ユーチャリス。
今、ベスパはひとつの決断を下そうとしている。

彼女の目から見ても、横島はおかしい。
目的と手段が入れ替わってはいないか?
姉の復活は成らなかった。
やり場のない怒りを、人間にぶつけて協力したことは認めよう。
だけれど、それはただの八つ当たり。
横島は姉の復活に見切りを付けたのか?
だから人界侵攻を続けるのか?
アシュ様を排除してまで続いた世界を終らせて良いのか?
アシュ様の居ない世界は寒い。
だけど、アシュ様の生きた証、アシュ様の存在した残滓がそこにはある。
もう会えないなら、それにすがり付いて何が悪い?
世界自体の変化なんて必要ない。

かつて、ベスパは横島の同志だった。
ルシオラを蘇らせるための。
しかし、その希望は潰え、彼女が横島に従う道理もない。
彼女がユーチャリスに残っていた理由はひとつ。
唯一の肉親パピリオの存在だ。
だが、パピリオは復讐の念に燃えている。
横島はその身に起こったことを包み隠さず、パピリオに語っている。
元々、パピリオは横島を慕っていたし、姉の男としても認めている。
だからこそ、義兄と姉を襲った不幸に心底憤慨し、人間を憎悪している。

妹を止めることはもう出来ない。
説得を試みても、

『ベスパちゃんは、ルシオラちゃんのことを何とも思ってないんでちゅか?!!!』

そのひと言の前に、反論出来なくなる。
子供に大人の理屈をぶつけても、理解してもらえない。
子供に通じるのは、子供の理屈か――――(子供にとっては)理不尽な暴力。
親の躾と言っても良い。
姉としてそれをするべきだったのに、実際にそれをしたのは、妙神山の連中と横島達。
妙神山の姉代わりである小竜姫も横島に付いた。
もはや止める存在は居ないのかも知れない。

だけど、だけれど!!!

「つくづく駄目な姉だね………。」

そしてベスパはユーチャリスを去る。
今度こそ、姉として妹を救うために。
義妹として、義兄の愚挙を止めるために。
今は感情のままに動く。
どうやってふたりを止めるのか。
手段は確保していない。
だけれど、このままでは流されてしまう。
それでは悲劇の連鎖は終らない。
そう思ったから。




そしてそれを見つめる、ふたつの視線。

「やっぱり、ベスパちゃんは行っちゃったでちゅか………。」

「………今度は上手くやるさ。あの時みたいに、どちらかが死ぬなんてことは認めない。ベスパを生かしたまま止めるために、協力してくれるか?」

「分かってまちゅ。他人には任せられまちぇん。でも………やっぱりベスパちゃんに本当のことを話してあげられないんでちゅか?」

「俺のやろうとしてることは、アシュタロスの否定に繋がるからな。」

「でも、それは………?!」

「言うな。お前だって納得して協力するんだろ?」

「分かってまちゅよ………。ポチやルシオラちゃんと同じくらい、ベスパちゃんのことも好きでちゅ。だから………。」

「姉と妹の対決。奇しくも、あの時の再現が起きている………か。」

「繰り返さないために、私が頑張りまちゅよ。だからポチも真の計画の方、頑張るでちゅよ?」

「ああ、もう美神さん待ちだ。ルシオラだけじゃなく、自分を含めて、みんなを救ってみせるさ。」


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