ザ・グレート・展開予測ショー

幼馴染SS『あの娘俺がロングシュート決めたらどんな顔するだろう?』


投稿者名:ライス
投稿日時:(03/ 5/31)





 あと15秒でこのままじゃ、35連敗。





 小学校最後の昼休み。クラス対抗のサッカー。もうすぐチャイムが鳴る。




 
 女の子が応援する。その中にあの娘も居た。




 ……好きだった。でも、言い出せず、ちょっかい出してばかりだった。それにあの娘は……。



 

a)一年前

「銀ちゃ〜ん……!!明日引越しやろ!?餞別にオレのペガサス――――!!」

 夕焼け空が浮かぶ屋上。そこには銀ちゃんともう一人。夏子だ。状況から判断して、今、二人が何を喋っているのかは、遠くから見ても分かった。オレはすぐさま、ドアの後ろに隠れた。

「…………ま、ええわ!銀ちゃん、カッコええもんな……」



b)校庭

 うちのクラスは隣のクラスと仲が悪い、というより犬猿の仲だった。何かと突っかかり、突っかかれたりの繰り返し。昼は校庭でサッカーで対決する毎日。しかし、いつも負けるのはうち。今日も試合のペースは向こうだ。でも、ここまで奇跡的に0−0の均衡を保ったまま。……勝ちたい。いや、なんとしてでも勝たなければならないんだ……。あの娘にいい所を見せる最後のチャンスなのだから……。



c)前日。横島の自宅。

 バタン。                                         
 ドアが閉まる。廊下をどたどた駆け抜ける音。オレと母さんは居間で夕飯食べていた。足音の主は親父だった。親父は息を切らしている。会社から一目散に家に帰ってきたみたいだった。

「喜べ、母さん!!東京に戻れるぞ!!」

「え、それ、本当なの!?」

「あぁ、この間のプロジェクトが成功して栄転だ!!あの課長(当時。現部長)に一泡吹かせてやる!!」

「じゃあ、早速、引越しの準備ね!!」

「引越し……?ってことはオレも……?」

「ん、ま、そういう事になるわね……。大丈夫よ、アッチに行っても、友達なんかすぐにできるわよ?」

「なんだ、忠夫。なんか心残りがあるのか?もしかして好きな子がいるから、離れたくないとかか?」

「うっ……。そ、そんなじゃねぇよ!!ご、ごちそうさま!!」

「ククッ……、青いなぁ、アイツも……」

 ……親父の言った事もあながち嘘ではないので、否定が出来ない。小学生のオレはもどかしい気持ちで部屋へと戻っていった。

「………残り一週間か……。」

 オレは枕にうずくまり、そう思う。夜はそうして静かに深まって行った。



d)再び校庭

 オレはいつも守りのポジションだった。ミニ四駆には自信があったけど、勉強も、運動も凡庸だったので文句は無かった。むしろ順当なポジションだ。役立たずは守りに。小学生のサッカーの鉄則だ。しかし、今日は違う。

「あ、横っち!?」

 オレは友達が呼び止めるのも聞かず、前線へ出て行った。相手が巧みにドリブルしてくる。それをオレは強引に奪い、そのまま、相手のゴール目指し、一直線に駆け抜ける。



e)応援する彼女

 ウチは横っちのことが好き。一年前、銀一君にコクられたけど、ウチは横っちの方が好きやった。確かにアイツはドジでスケベでどーしよーもないけど、なんか憎みきれへんトコがあって……。また同じクラスになった時、ウチは嬉しかった。でも、ウチらは横っちのこと、忌み嫌ってると思われてるんやろうなぁ。実際、そんな態度取ってるけど、結構、クラスの中じゃ、競争率高いんやで?まぁ、なんで?
って思う人もおるけど、そういうやつに限って表面しか見てへんからなぁ……、要は中身なんやけどね。

 隣のクラスとのサッカーになると、いつも横っちは守らさせれたけど、今日は様子が違うみたいや。


 頑張れ、横っち!!そのまま、シュート決めてみぃ!!


 と、心の中でそう想いつつ、応援する女の子。



f)ゴールまでもう少し。

 ハーフラインを割り、相手側のフィールドの中ほどまで来た。オレは味方に目もくれずゴールを目指す。相手のチェックが激しい。オレからボール奪おうとするヤツらが絨毯爆撃のように襲い掛かってくる。当然、素人のオレはそれに困惑した。


 ゴールまでもう少し。


 オレは一心不乱にボールを守ろうとした。しかし、もう限界だ。こうなったら、素人がやることはただ一つ。闇雲にボールを蹴るだけ。そして、オレはゴールの方向へボールを蹴り上げた。

 俺のキック力が弱いのか、ボールはフラフラと高く舞い上がった。

 誰もそれがゴールに入るなんて思わなかった。もちろんオレも無理だと思っていた。しかしボールはそれほど速くないスピードでゴールの方向へと近付く。困ったのは入らないだろうとタカをくくっていた相手のキーパー。時既に遅し。ボールはポストバーに当たるか当たらないかのギリギリのラインで、キーパーの上をすり抜けていった。


 ザシュッ。


 ボールはネットに突き刺さる。そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 オレにとって、それが小学校での最初で最後のゴールだった。仲間がオレに駆け寄り、喜びを分かち合った。応援していた女の子達にも笑顔がこぼれる、そしてあの娘にも。

 それが誰に対しての笑顔(多分ウチのクラスが勝ったからだろうけど)なのか、そんなことどうでも良かった。あの娘の笑顔が見れればそれで良かった。


 良かったんだ……。



g)彼女のキモチ

 横っちが走る、走る、走る。ゴールまでもう少し。でも、相手に囲まれた横っち、苦し紛れに横っちがボールを蹴った瞬間、みんな、溜息をついた。でも、ボールはするするとゴールに吸い込まれていく。

 そしてボールは飲み込まれた。

 皆、驚いた。そして歓喜の声を上げ、嬉しがる。ウチも嬉しかった。ウチはその場から横っちに駆け寄って、「ナイスシュート!!」って、言ってやりたかったやけど、なんか、ハズくて出来んかった。それにいつでも出来ると思ったんや。

 でも、まさかあんなことになるやなんて……。



h)教室

 数日後の学級の時間。先生が入ってきた。横っちはなんだか暗い顔をしている。どうしたんやろ?

「ヨシ、全員いるな?あ〜、今日はみんなに残念なことを言わなければならない。横島!」

「ハイ。」

 横っちは先生に呼ばれると席を立つ。

「横島は親御さんの仕事の事情で引っ越すことになった。時期が時期だから、卒業式を終わるまで、こ

っちにいるそうだが、春からは東京だそうだ。急に決まったので、何もしてやれないが今日は送別会を

したいと思う。」

 エ?横っち、引っ越しちゃうの?じゃあ、一緒の中学に行けないわけ?そんな……。

 ウチはそれを聞いた途端、自分の中で何かが砕け散る音がした。周りの声は男子の残念そうな声と女子の喜ぶ声が半々だった。そのあと、横っちの送別会(お遊び)が行われたけど、ウチはそんな気分になれんかった……。


 もうこれでお別れなんやろか……?ウチはそれで頭が一杯だった。



i)新大阪駅



 あと15分でこの街ともお別れ。



 卒業式を終えた次の日、オレは親と一緒に新大阪の駅に居た。何人かの友達が、見送りに来てくれた。当然だけど、女子の姿は一人も見なかった。当たり前か……。

「それじゃあ、行くぞ、忠夫。」

 親父に呼ばれる。俺は友達と名残惜しい別れをする。「また会えるよな?」「いつか遊びに来いよ?」と別れの言葉を交わすと、改札の方へと向かう。


 
 アカン、寝坊した!



 ウチは朝起きた時、そう思った。今日は横っちが東京に行ってしまう日。そして今、新大阪の連絡通路を走っている。聞いた所によれば、お昼の新幹線で出発するらしい。もう時間もそんなに無い。それでも、ウチは改札目指して目一杯走った。改札に着くと、横っち達はまだ居た。けど、改札を通ろうとする瞬間だった。

「えぇい、もう、どうにでもなれ!!」

 ウチは大声で横っちの名前を叫んだ。


「横島ぁ〜っ!!」


 背後で俺を呼ぶ女の子の声。聞き間違うはずが無い、夏子だ。彼女は改札口手前まで来てこう言った。

「6年女子全員を代表して言ったる!!もう二度と帰ってくんなぁ〜〜〜っ!!」

 オレは苦笑いを浮かべて、こう言い返した。

「ウルセェ!!誰が戻ってくるか!!お前こそ、付いてくんなよ〜〜!?」

 何気ない、いつも通りのあの娘とのやりとり。
 何気ない、いつも通りのあのアホとのやりとり。

 なのに、なんでだろう?
 なのに、なんでやろう?


 



 こんなに涙が溢れて来るのは。




 そしてウチは涙を溢しながら家路に着いた。もう一度、会えることを心に想って。



「残っていいんだぞ、忠夫……」

 東京に向かう新幹線の中、一部始終を見てた親父がニヤニヤしながら、そう言った。

「いいんだよ、あんなヤツのことなんか……!」

 涙は何度拭っても流れ落ちる。


 オレは自分が泣き止むまで、外の景色を見ることにした。

 
 外には富士山。オレはあの時の夏子の笑顔を思い浮かべながら、東京に着いたのだった。


 あれ以来、彼女とは一度も会っていない。でも、今でもはっきり覚えている。


 オレがゴールを決めた時、見せたあの屈託の無い笑顔を。 


 〜The End〜

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