ザ・グレート・展開予測ショー

ルシ混♪(ご)


投稿者名:パープル遼
投稿日時:(03/ 5/31)


「ふう、食った食った・・・」

脇目も振らず食い続け、ようやく横島が顔を上げたのは、三十分ほど経過した頃だろうか。
その目の前には、あれだけの勢いで食ったにも関わらず、やけに綺麗にまとまっている皿の数々。
長く続いた貧乏性のおかげか、食べカス一つ残してはいなかった。

「ごちそうさま、と。あれ、ルシオラ・・・そっか、食えなかったのか?」

横島のとは対照的に、ルシオラの前に並べられた皿には、まだ料理がほとんど残っていた。

「そーよぉお?わたしはぁ、こーゆーのはあんまりあんまり好きじゃにゃいの〜〜」

・・・・・

沈黙が落ちた。

「あの、ルシオラ?なんか雰囲気違うんですけど・・・?」

「ん〜?わたしはぁ、いつもと同じよおぉお?」

きっぱりと違う。明らかに違う。
口調がおかしいだけでなく、ほんのりと頬が赤く染まっている。おまけに目の焦点もあっていない。
手には水の入ったコップを・・・水?透明の液体を水と断定して良いのか?

・・・横島は、先ほど退治した妖怪を思い出していた。そして仮定をはじき出す。
そしてその仮定を立証するべく、ルシオラの回りを見渡してみた。そしてそれはすぐに見つかった。

転がっている空きビン。

ラベルを確認する。


大吟醸・甘口『燃える思い』


「ルシオラ――――!!それ日本酒やないか――――!!
 未成年は一升瓶を開けちゃ・・・ってゆーか飲酒しちゃ駄目でしょ――――!?
 お酒は適量を守って健康的に――――――!!!」

なんかもー、パニクって訳の分からないことを口走る横島と、すっかり酔っぱらい、それを見てけらけらと笑うルシオラ。

「なぁに叫んでるのよぅ、ヨコシマ?それよりも私の話を聞きなさいよぉう。うふふふ・・・」

どうやらルシオラは笑い上戸らしい。
それにしても、ドグラマグラといい、アシュタロスの部下はみんな、酔っぱらうと絡んでくるのだろうか。

「なんかあ、二人っきりって、この前遊園地に行った時以来よねぇ?
 それに事務所に居候してるからさあ、なかなか二人っきりってのもないじゃなぁい?
 今なら、ここなら、邪魔は入らないしぃ・・・」

突然、ルシオラが横島に自分の身体を預け、押し倒してきた。
温泉から上がって少し経っているとはいえ、少し湿ったルシオラの艶やかな髪、その香り。
そして浴衣という今の服装、酒に酔っているからか、少しとろん、とした色っぽい目つき。すぐ近くに見える形の良い唇。
改めて近くで見るとやっぱり美少女なルシオラの顔。密着した柔らかな身体。
そのどれもこれもが横島の理性を洗い流そうとしているかのようで。

だが。

(いいのか?本当にいいのか?確かにルシオラから誘って来るなんてオイシイことこの上無いが、いやしかしこれは明らかに酒に酔った勢いってやつであってここで衝動に流されてヤってしまってはおそらく俺って最低なんじゃあ・・・いやっ!据え膳食わぬは男の恥とも言うしここはやはり一気にっ・・・ってやっぱ駄目だろ酒に流されてっつーのはルシオラに対しても裏切りっぽいし、ってああぁぁああぁあ一体俺はどーすればあぁ――――――!?)

横島はこんなことを考えていた。意外とまとも・・・である。多分。
ただまあ、やはりそこは横島。じりじりと腕がルシオラを抱きしめるべく動き出していた。
しかしその動きがぎしぎしと音を立てるような感じに止まる。見れば何かいっしょーけんめー耐えるような表情をしていた。

「・・・ルシオラ・・・やっぱお前酔ってるって。待ってな、今冷たい水でも持ってくるから・・・」

断腸の思いでルシオラを引き剥がし、部屋をでようと襖に手を掛けた。


きゅっ


・・・後ろから浴衣を引っ張られた。
振り向くと、未だに酔っているらしく赤い顔をしたルシオラが、俯きながら小さな手で浴衣の裾を弱々しく掴んでいた。

「よ、酔ってないもん・・・私は、真剣なんだからぁ・・・
 だって・・・だって、こんな時じゃないとこんなこと出来ないから・・・」

「ルシオラ・・・」


居心地の良い日常。
今の状態――美神事務所での生活――に不満があるワケはなく、美神達とも仲良くやっている。
しかし不意に寂しさを感じることがたまにあった。

分かっている。

いつも自分の隣にいて欲しいと思うことが、自分だけを見て欲しいと思うことが、彼を独占したいと思うことが。
それは自分勝手なことで彼を拘束することでもあることが。
しかし望めば彼ならそれを許してくれることも。

そして同時に、美神事務所で居候するうちに、そこでの同居人達――美神とおキヌ――が確かに彼を慕っていることも。
遠慮、ではない。そんなことをするつもりなど更々ないが、彼女たちが時折見せる彼への何気ない表情。
そんな時になされる、何気ない会話。
そういったものを壊してしまうのは、何かとても悪いことのような気がして。

だから彼を独占したいという思いを押し殺す。
彼女達とあんな風に会話を『しない』彼など見たくないから。そんなのは・・・彼ではないと思うから。

しかし例えそう思っていても、やはり一抹の寂しさを感じてしまって。
そしてこの、思わず訪れた好機に気が緩んでしまったのだ。
実際のところ、ルシオラの顔が赤いのは恥ずかしさのせいだけではなく、確かに酒に酔っているのだ。
ただ、それが全くないワケもなく、そして精一杯の勇気を振り絞って言った言葉でもあって。


それは横島にも伝わっていた。その言葉が、ただ酒の勢い『だけではない』ことが。
しかしだからこそ、確かに酒の助けの勢いもある、今は。

駄目なのだ。

「ルシオラ・・・悪い。・・・お前は、酔ってるんだよ。
 つまりあの、やっぱさ・・・こーゆーことは、もっときちんとして、向き合ってないと。
 いいだろ?・・・俺達には、時間はたっぷりあるんだ。」

「・・・そ、か。そう、よね。」

ルシオラは横島の浴衣の裾を離し、一歩身体を引こうとした。
しかし横島に腕を捕まれた。そしてそのまま抱き寄せられる。

「ルシオラ・・・俺は、お前を、好き、なんだよ。」

『好き』

何ともストレートで装飾の無い、しかしそれは横島の、嘘偽りのない本物の言葉で。
そしてそのような、飾り気のない言葉の方が、今ルシオラに送るものとして適しているように思えた。



二人の間に長い沈黙が落ちる。



「・・・・・く〜・・く〜・・く〜・・・・・」

「って寝るのかよっ!?」

せっかくの良い雰囲気が台無しである。

「やれやれ。」

横島はふう、とため息を付き、自分に倒れ込むように眠ってしまったルシオラを抱えて、その部屋を出る。
さっき女将さんに寝るための部屋を用意してもらっていた。そこへ向かう。





がらり

部屋の襖を開ける。中は明かりがついておらず、当然暗い。
適当に照明のスイッチを探す。それはすぐに見つかった。

ぱちっ

そして見たものは。




布団が一つ枕は二つ♪



「・・・・・え?」

おそらくはここを準備してくれた女将さんが二人を恋人同士だと思って――事実そうなのだが――気を利かせたのだろう。
先ほどの決意(?)がスゴイ勢いで崩れていくような気がした。思わず脱力して膝を折る。
そしてマズイことにその衝撃でルシオラが目を覚ました。

「・・・ん・・・私、寝ちゃってた?・・・・・ってこれ・・・・・
 何よヨコシマ、結局そのつもりだったんじゃない♪」

「違うっ!断じて違うっ!!俺は女の子を酔わせて眠った隙に・・・なんてどっかの馬鹿親父みたいなマネはしないんだっ!!」

「もー、無理しちゃって♪」

「無理なんかしてないっ!!」

取り乱してなんだか叫んでいる横島と、いつの間にか『喋り方が元に戻っている』ルシオラ。

「あのね、ヨコシマ。ちょっと聞いて。・・・私って、酔いが醒めやすいみたいなの。」

「・・・へ?」

魔族としての体質なのだろうか。確かに、先ほどまでの強烈な酒臭さが消えていて、目つきもしっかりしている。

「だから、その・・・ええと、あの・・・」

分かった。分かってしまった。ルシオラが何を言おうとしているのか。

「いや、まあ、布団もう一組持ってきてもらうってのもあるけど・・・」

先ほどの会話に責任をとろうとしているのか、一応、簡単な解決策を提示してみる。

「もうっ、何でそんなこというのよ・・・・・一つでもいいじゃない。」

まあ、その一言で二人とも数十秒間硬直したワケで。
・・・そして結局・・・







いやだから分かってるでしょ?何も書かないってば。(^^;





ちゅん・・・ちち・・・

もうすぐ夜明けの時刻。外はまだ若干暗いが、可愛らしい鳥の鳴き声が聞こえる。
その鳴き声で目を覚ました横島は、ぬくい布団にくるまって、ぼんやりとそれを聞いていた。
そしてふと、ちょっと期待に胸躍らせながら隣を見やる。
しかし残念、ルシオラは既に起き出しており――やたら早起きだ――そこはもぬけの殻だった。

「くっ・・・夜明けのこーひー・・・」

残念そうに意味不明な呟きをもらす。

「どこいったんだろーなー」

のたのたと起き出し、浴衣を整え、ルシオラを探すために部屋から出ていった。


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