ザ・グレート・展開予測ショー

ルシ混♪(よん)


投稿者名:パープル遼
投稿日時:(03/ 5/31)


「さあ、いくわよ!!」

先手を打ったのは、ルシオラ。だんっ、と床を蹴り、疾走する。
いかに最強時よりもかなり弱体化しているとはいえ、流石に速い。一瞬で間合いを詰める。

「サ・・・キャッ!?」

そのスピードに驚いたのか、一瞬反応が遅れた。中途半端な牽制の霊波砲を放つ。
しかしルシオラにはそれが『見えて』いた。
直撃の一瞬前に急制動をかけ、天井に向けて軽やかに飛び上がり、避ける。
そして魔力を調節して空中に浮く。その場で、麻酔を掛けるべく拳に力をため、天井を蹴って急降下。

「っこの!!」

ずがあああんっ!

強烈な一撃はしかし、横っ飛びにかわされ、むなしく床を叩く。穴が穿たれた。
アセトアルデヒド(長い)はかなわないと見たのか、たんったんっと二回、大きくバックステップで後ろに飛ぶ。
もちろん、それを見逃すルシオラではない。
今度は強烈な霊波砲を一発、追い打ちをかけるように放つ。
しかしその流れるような攻撃はそこで止まった。
横島がなぜか文珠を投げたのだ。霊波砲の射軸上に。しかも込められた文字は『盾』

ばしっ

文珠はその効果を十分に発揮し、ルシオラの霊波砲を防ぎきり、消えた。

「ちょっとヨコシマ!?何やってるのよ!!」

ルシオラが不満の声を上げる。それはそうだろう。今のは、かなりいいコースをとっていた。
うまくいけば、これで終わっていただろう。
しかし今回は(多分)ルシオラが悪かった。

「よく見ろ!!すぐ側に旦那さんが倒れてるじゃないか!!」

「・・・あ゛。」

「巻き込んでたら・・・マズイだろ!?」

「そーね・・・ごめんなさい、熱くなりすぎたわ・・・」

手を戦慄かせながらそう叫ぶ横島に、ルシオラは素直に謝った。

「そう、もし巻き込んでたら・・・慰謝料を取られるじゃないか!!」

「へ?」

「言っとくが、俺にそんな貯金なんか無いぞ。お前も無いだろ、貯金。
 美神さんに払ってもらったりしたら・・・それこそヤバイぐらい利子付けられて死ぬまで働かせられる・・・」

「あの〜、もしもし?」

なんだかヤな目つきでヤな内容の話をルシオラに聞かせている横島に、女将さんからツッコミが入った。

「あれ、何か始めようとしていますよ。」

とアセトアルデヒド(だから長いって)を指さして言う。
見ると、両手にそこに転がっていた酒瓶を持ち、なんと凄い勢いで飲み始めたではないか。
それはもう、ぐびりぐびりと見事な飲みっぷりで。
当然、酔っぱらってきたらしく、足元がふらふらと怪しくなる。
見るからに泥酔状態だ。

「・・・ヒェヘ・・・」

「な、何アレ・・・?」

ルシオラが気味悪そうに言う。
その体躯は初め青っぽかったが、酒が進むにつれて赤くなっていき、ついには真紅と言えるほどになった。

「ヒェヘヘヘッ!!」

だらしなく口を開け、焦点のあっていないうつろな目つきでこちらを眺める。
ゆらりゆらりと体を揺らし、奇妙な構えをとる。
腕を緩く上げ、両手に杯を持っているような、そんな構え。
ただ酔ってふらついているだけにも見えるが・・・不気味だ。

「・・・もしかして、『酔えば酔うほど強くなる』か・・・?」

「ふ、ふん。なんだってのよ。そんな変な・・・」

「サキャアアッ!!」

ひゅととととととっ

そいつはルシオラの台詞を最後まで聞かず、唐突に彼女に向かってきた。
なんの予備動作もなしに初歩からいきなり最高速に乗り、一気に密着状態にまで接近する。
先ほどのルシオラにも勝るスピード、完全に出遅れた。

「っ!?」

気圧されて一歩下がるが、そいつは躊躇無く追いすがり、強烈な踏み込みと共に腕を振るう。

がっ、ぱしっ・・・ごっ・だんっ!

初撃は防いだがガードした腕を捕まれ、足首を蹴られる。その衝撃と腕のひねりで体が回り、背中から床に叩き付けられた。

「ぐっ!!」

「ルシオラ!!」

ばしゅっ!

トドメを刺すために足を振り上げようとしたが、そこはへ横島がフォローのサイキックソーサーを投げる。
その場から飛びすさってそれを避け、少し離れたところの酒ビンを拾う。まだ飲むつもりのようだ。

「け、けほっ・・・」

「ルシオラ、大丈・夫・・か・・・?」

「ん・・・足首がいかれたみたい・・・ってどうしたのよヨコシマ?」

横島がルシオラに駆け寄り、心配そうに声を掛ける。が。
・・・ここで皆様、思い出して欲しい。今の彼らの格好を。

浴衣、だ。
そう、浴衣なのだ。

で、先ほどの激しい攻防。
浴衣という名の薄い布切れ一枚の服装。

さて、もうお分かりだろう。

開いた襟から胸元が。

すそから見える太股が。

見えそで見えないちらりずむ。

「な、なんかこお、こーゆーのもえっちくて良いなあ・・・」

「なっ、あっ、もー、見ないでよ・・・」

横島がだらしない顔でアホなことつぶやけば、ルシオラは恥ずかしそうに浴衣をたぐる。

「くっ、そーゆー仕草もまたかわいい・・・」

「もう、ヨコシマったら・・・」

それを見て、また横島がモエル。

・・・お前ら今除霊の最中だってこと忘れるなや。



「・・・サッキャアアアアアッ!!!」

ほっぽっとかれて寂しくなったワケでは無いだろうが、アセト(以下略)が奇声を上げる。
見ると体躯の赤が更に増し、もはや黒っぽくすらなっている。筋力も上がっているようで、血管まで浮き出ている。
なかなかキモチワルイ見た目だ。

が、悲しいかな、バカップルのいちゃつきに水を差すにはいささか力量不足だったらしく。

「やかましいわ――――!!」

一連の出来事で霊力量が振り切っていた横島の、瞬時に生成された文珠『浄』三個に――これだけ不純な『浄』もイヤだが――回りを取り囲まれる。しかもなんと、いつものように手のひらからではなくて、直接そいつのいる辺りの空間に生成されていた。

かっ

純白の光を発し、それがはじけた。

「サッ・・・ケエエエエエ――――――ッ!!!」

・・・哀れ、悪魔アセトアルデヒド、消滅。





「ふっ、思い知ったか。俺の邪魔をするからこういうことに・・・」

「いやあの・・・まあいいわ。」

いかにもパワーアップしたっぽい相手にアレはちょっとヒドイんじゃないかなあ、
などと思ったが、ルシオラは言わないでおく事にした。何となく。

「と、そうだ足首悪くしたんだろ、これ使えよ。」

言わなくても分かるだろうが、ルシオラに文珠『治』を渡す。

「ありがと♪」

ルシオラは礼を言い、早速それを足首に当てる。ぱあ、と光が満ち、腫れていたそこが綺麗に治る。
・・・便利だなあ文珠。

「あ、あの、有り難うございました・・・」

「ほんにもう、迷惑掛けてしまって・・・申し訳ないですだ・・・」

それを見計らったのか、女将さんと、いつの間にか目を覚ましていた旦那さんが礼を言いに来た。
どうでもよいが、よく似た夫婦である。何となくぽっちゃりしており、二人とも何となく隈が出来ているようにも見える。

「あ、いえいえ、仕事ですから・・・」

「そーですよ。むしろ奥さんに謝って下さい。」

礼を言われて悪い気はしていないらしい横島と、まだ何か怒っているルシオラ。
どうも相当、酒飲みで奥さんに迷惑かけたってことが気にくわないようだ。

「うう、すまなかったな・・・」

「・・・いいんですよ。でもこれからはお酒は控えて下さいね。」

めでたしめでたし。





ぐぐううう

「・・・あ、隣にお食事をご用意しておりますので、よろしければどうぞ。」

除霊が完了して気が抜けたのか、腹を鳴らした横島に女将さんがそう勧めた。

「あ、ホントですか?いただきます!!」

横島は遠慮なくその申し出を受け、女将さんについてルシオラと共に隣の部屋に移った。
・・・ちなみに旦那さんはそこの片づけを始めていた。当然ではあるが。



そこには山の幸をふんだんに使った、小さな旅館らしい、純日本風の料理の数々が並んでいた。
健康的な、そして食欲をそそる、いい匂いをさせている。

「あああ美味そう・・・うむ、やっぱ旅館に泊まったらこれがないと。」

「・・・ふうん、そーゆーもんなの?」

大喜びする横島と、それとは対照的になぜか冴えない表情のルシオラ。

「実はね、私って普通の人間の食事って苦手なのよ。食べられないってワケじゃないんだけど・・・どうもね。
 砂糖水とか、甘い水っぽいものは好きなんだけど。」

「そっか。そーいや、そんな感じのしか食って・・・飲んでなかったな。」

ルシオラと出会ってからの日々をつらつらと思い出してみる。なるほど、固形物を咀嚼している光景が思い浮かばない。

「どーする?何かジュースでも持ってきてもらうか?」

「んー・・・やっぱ、これ、食べてみるわ。ヨコシマと同じ物食べたいしね。」

そう言い、自分からそこに敷いてあった座布団にぽすっと座る。

「ほらヨコシマ、座って座って。食べましょ?」



がつがつがつがつ

よほど腹が減っていたのだろう。横島は脇目もふらず料理をがっついている。
だから多少は許されるべきであろう。
最初のうちは何度か皿を取っては一箸口に運び、そのたび眉をひそめていたことに気づかなかったことも。
ルシオラが何度か席を立って、隣の部屋から『何か』を持ってきていたことに気づかなかったことも。

こうして旅館での夜は更けていく。

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