ザ・グレート・展開予測ショー

かたおもひそのさん(前編)


投稿者名:hazuki
投稿日時:(03/ 5/28)

東の空に、太陽が昇り始めようやく、濃紺の空が白み始めた時間帯─
都内にある、一つのおんぼろアパートから軽やかな包丁を動かす音と、上手とは、いえないが楽しそうな女性の鼻歌が聞こえてきていた。

とんとんとん
トマト手際よく切りながら、小鳩は調子外れな鼻歌を歌っている。
なにやら、ものすごく上機嫌そうだ。

「るるる〜♪」

なんの歌かはきっと、本人だけしかわからないだろうが。

まあ、さも、ありなん。

今日は横島が、朝食を食べにくるのだ。

なにやら、最近仕事がハードで日に日にやつれていっているのを見かねて、まあその迷惑かなあ?などと思いつつ誘ってみたら。

『うわっまじで、助かるっありがとー』

との言葉。
満面の笑みでくると約束してくれたのだ。
学年も違えば、お互いバイトもしている、しかもそのバイトの時間帯がまったく違う。
いくらアパートが隣同士とはいえ、あって話すということ自体が少ないのだ。

こんな風にあえる機会が嬉しくないわけがない。
しかもその上嬉しそうに言ってもらえたのだ。

これで上機嫌にならないほうが、無理というものだろう。

それが、まあ純粋に食事のほうだったとしても。
嬉しい事には変わりない。

『どないした〜なんや今日は、えっらい機嫌ええなあ小鳩』
ふよふよと、瞳をこすりながら、貧乏神(今は福の神だが)の貧ちゃん。
「ん?だって今日は横島さんがくるんだもんっ♪」

くるっと貧乏神のほうを回り小鳩。
ワンテンポ遅れてふわっとお下げ髪が揺れる。
ふわふわと嬉しそうに笑うその姿はまるで子供のようにあどけない。
人並み以上に苦労しているのに、ひどく幸福そうな笑みを見せる。
まるで十二分に全てをもらった、いや貰いすぎているひとのような満ち足りた笑顔で小鳩は笑う。

こちらまで嬉しくなるような、顔で。

『ほうか〜よかったな〜』

思わず貧乏神もへらっと、笑う。

「うん!ありがとう」

と、小鳩が笑顔を返した瞬間、こんこんと、ドアをノックする音が聞こえた。

ぱっと、顔を輝かせ小鳩。
たたたっと軽やかな足音を立てて、がっとタオルと掴み相手も確かめずにドアの鍵を空ける。
そして、ドアを開けた先には思うとおりの相手、横島がいたのだ。

「おはよ〜」
爽やかな朝に不似合いな、不景気そうなツラである。
が、そんな横島とは正反対な明るい表情で、小鳩。
「おはようございます」
はいっと、蒸しタオルを差し出し小鳩。
「ん?」
これなに?
と横島。
「あ、ずっとお仕事だったんでしょ?すこしはすっきりするかな?と思って」
にこにこと、小鳩。
なんだか、とっても嬉しい心使いである。
疲れた心にこれは、効く。
じーんっとすこしばかり感動し、蒸しタオルで顔を拭くと一心地ついたのかふうっと息を吐き、タオルを渡す。
「じゃあ、直ぐ作りますのでチョッと待っててくださいね。今日はバイト先のスーパーの店長さんに、ライ麦パンをもらったのでパンですけど」
ぽんぽんと、横島の位置に座布団を敷き小鳩。
はしゃいでいるといっても過言ではない、小鳩の姿に貧ちゃんは微笑ましいものを感じふよふよと漂いながら
『ほれ、はよう座らんかい』
と言う。

「ありがとう」

それでも眠いのか横島は、こしこしと目をこすりながら大人しく座る。
『ん?』
よく見ると、このオトコ目のしたには隈はできてるは全体的に憔悴している感じがある。
身体のいたるところには、小さな怪我ああるし、今にも倒れこみそうである。
本来ならきっと今すぐにでも自分の部屋に帰り眠りたいだろうに。
小鳩との約束してるとは言え、なぜこのオトコここにいるんだろう?

『なあ?横島はん』
「ん?」
『なんで、あんさんここにおるんや?』
「なんでって、約束したからに決まってるだろ−が」
余計な体力使わせるなといわんばかりの声で横島。
『いや、そーゆうわけやないって』
言外に、普通そんなに疲れたら断るだろう?という意味を含ませて言う。
すると、横島はすこしばかり逡巡したように、目を彷徨わせ
「そんなん、小鳩ちゃん悲しむだろ?せっかく朝食つくってくれてたのに」
と事も無げに言った。
怒るではなく、悲しむと。
その手間をかけた面倒を嫌がるのではなく、ただこれるひとがこれないことに悲しむのだと。
それは、きっと小鳩が何回も、何年も感じてきたこと。
貧乏神といっしょにいる(取り付かれている)ということでずっと阻害されてきたから
そのせいで、当たりさわりの理由をつけて合おうとするのを拒まれてきたのだから。
だからだろうか?
このオトコがココにいるのは。

小鳩が、悲しむ、から。
何よりも、あえないといわれるのを悲しむから。

『なんや………あんさん、鈍いのかなんなのか…わからへんなあ』
貧ちゃんはなんだか、変なものをみるよーな目で横島を見ながらそう呟いた。

つづく

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