人の終わりの中で・・・
投稿者名:ユタ
投稿日時:(03/ 5/28)
──いつから間違ってしまったのだろう
──いつから狂ってしまったのだろう
長い銀髪に赤いメッシュの入った女性はボヤける思考と視界で考える。
女性・・・・犬塚シロは重い体を引きづるように足を動かす。
急な勾配を繰り返す山中を肩で息をする彼女の腹部は大きな傷があり、そこから血が溢れ出している。
「ハァハァ・・・妖怪用のライフル弾・・・・くっ・・・しくじった・・・」
彼女の口調はもはや昔とは違う、人間と人狼の寿命と成長が違うとはいえ90年・・・
そうあの楽しい日々から90年も経てば精神年齢もそれ相応に成長する、
それでも体は20歳前半にしか見えないというのはさすが人狼というべきか。
「開け・・・」
シロは震える腕で通行手形を持ち上げる。
すると何もない空間が震え『ビュワっ』という音ともに開いた。
そこは・・・
花が咲き乱れた丘・・・そして夕日。
およそ万人が美しいと思われる風景が広がっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・グッ」
ドサ・・・
とうとう力尽きその花園にうつ伏せに倒れこむシロ。
そして、彼女は力なく顔をあげた
視界に入る30cm程度の石、石、石・・・
その石達には何かで削られたように文字が彫ってある。
『小笠原エミ』
『西条輝彦』
『ピエトロ・ド・ブラドー』
その他にもおよそ彼女が人生で出会ったかけがいの無い友人・仲間達の名が。
「みんな・・・・どうしてこんなことになってしまった・・・・・んでござろうな・・・」
血と共に抜けていく力を感じながら過去を回想してみる。
そのせいか口調が昔のものへと戻っていた。
・
・
・
2005年。
この世界、地球を支配してきた人類に異常がおこった。
それは遺伝子の欠陥、それは突然起こり、突然発表された。
いや、それは前もって設置されていた運命だったのかもしれない。
何も今すぐ死ぬとか、病気になるというものではない。
いや、それ以上に残酷なもだったかもしれない。
遺伝子の欠陥───それは
子孫を残すことができない。
出産率は低下の一方を辿り、科学がいくら発展しようともこれを克服することは出来なかった。
しだいに減っていく人間・・・それとは対照的に溜まり膨れ上がるストレス。
このままでは各地で暴発が起こるのは必然だった。
そして・・・2070年。
某大国のオカルト調査機関が発表した。
『これは人外の者によるウイルス、または呪いである』
と。
まさに突拍子もない言葉、無責任な発言。
しかし、この時代滅びを待つ人類にまともな思考を持つものは少なかった。
ただちに行われた人外狩り。
それは容赦のないものだった・・・・それまで無害と思われていた妖怪、妖魔はことごとく心霊兵器で狩られていく。
もちろん彼らも狩られるだけではない、反撃し、人を殺す。
それが現状の激化を誘い瞬く間に戦火は世界に広がった。
シロ、タマモ、ピートも例外ではなかった。
既に頼りとなる人間の多くは寿命という運命に飲み込まれこの世からは消え、
生きていても、とても戦える状態ではなかった。
シロ、タマモ、ピートもそれを頼ろうとはしない、ただでさえ妖怪に味方してきた人間として立場が悪いのだ。
それを悪化させるようなことはしたくなかった。
そして・・・・この2090年にタマモとピートはすでにいなかった。
二人ともシロをかばってその命を散らしたのだ。
人狼の里も既に無い。
殺したのは人間・・・ならばいっそ殺してやろうか・・・・
そんな葛藤が常にシロに心にあった。
それでも・・・シロが大好きだったのも人達も人間。
シロは怒りに震えながらも今まで誰一人とて殺めたことはなかった、もちろんピートもタマモも。
今日・・・
生き残ったシロは、食料を求め人間の町へと降りた。
そこで出くわしたのは・・・
───車に轢かれそうになる子供───
シロは考えるよりも体が動いた、
深くかぶった帽子が飛び、その顔が白日の下に晒される。
それでも・・・
「くっ!」
シロは子供抱きかかえると人間離れした跳躍力であっという間に反対側の歩道路へ着地した。
そして、子供をゆっくりと降ろすとその状態を確認する。
ケガはない・・・だが、
その子には腕がなかった。
この時代、生殖行為で子供が出来ることは稀でほとんどはクローン技術によって生まれていた。
しかし、遺伝子の欠陥はここでも問題となる、生まれてくるほとんどの子が奇形児なのだ。
「ケガはない・・・?」
「う、うん」
「そう」
少しだけ笑みを浮かべその場を去ろうとしたそのとき、
タ──────ンっ!
少しだけ間のびした乾いた音ともにシロの腹部に激痛が走る。
シロは激痛走る腹部を見るとそこには鮮血が溢れ出していた。
それを認識した直後・・・
「ごぼっ!」
ゴポリと口からも血が溢れる。
それを押さえた右手はあっという間に真紅に染まり、ツーっと腕をつたって肘から地面に垂れた。
『おい!妖怪だ!』
『何!!?至急本署に連絡!』
おそらくシロを撃ったと思われる警察官が騒ぎ出す。
それを見たシロはこれ以上長居は無用と駆け出した。
助けた少年に何か想いを馳せながら・・・・
・
・
・
・
「はっ・・・はぁはぁ・・・」
呼吸が乱れ、冷たい汗が吹き出る。
苦しい・・・苦しい・・・・
その想いだけがシロの思考を支配していく。
「でも・・・・死ぬときは・・・」
ググっと腕を立て、最後の力をもって立ち上がろうとする。
そのとき・・・もはや見えない視界に何かが見えた。
それは・・・・
『ほら、立ち上がりなさい!』
『君なら立てるはずさ』
「美智恵殿!西条殿!」
そんなバカな!と思いながらも二人に励まされ立ち上がるシロ。
美智恵と西条はそんなシロに笑顔を送るとフっ消えた。
次に現れたのは・・・
『ったく何やってるワケ!?ほらさっさと歩きなさい!』
『こっちですジャー!』
エミとタイガー。
シロはもはやこれが幻影でもいいと思った。
再び彼らに会えたなら。
「かたじけないでござる・・・」
エミとタイガーの声に導かれるように歩くシロ。
二人が消えると次は、
『シロくん、さあこっちだ』
『あと少し頑張って!』
「唐巣殿・・・ピート殿・・・・拙者まだ頑張れそうでござるよ」
二人に一礼してさらに進むシロ。
懐かしい匂い、懐かしい風景がしだいにシロの視界を覆っていく。
そこは美神除霊事務所。
『シロちゃん、頑張ったね・・・ほら、こっちにご飯用意してるから』
『ったく!あんたのために最高級の肉用意してやたんだからありがたく食べなさいよ!』
あの楽しい思い出・・・
二人はそのままの姿だった。
シロの歩みが強くなる・・・そして二人の後ろにいたのは・・・
『バカ犬!さっさと歩きなさいよ!』
少し怒った表情で文句を垂れるタマモ。
「はは・・・・お主は相変わらず口が悪いでござるな、女狐」
『お互い様でしょ!』
二人は笑顔を浮かべすれ違う。
口の悪い親友・・・その形容がピッタリなのは変わっていなかった。
タマモとの再会が終わるとカーっと周囲が白くなった。
その眩しさに目を開けていられないシロ。
そして、しだいに晴れていく視界・・・そこに立っていたのは。
『おう!シロ!』
「せ・・・先生・・・」
横島の姿を見た途端ブワっと涙が溢れ出す。
バンダナにジージャン、ジーンズ、シロの思い出にあるのとまるで変わらないその姿。
いや、横島だけじゃないシロの服装も昔のものに変わっている、そして容姿も。
世界の辛さも惨さも知らなかったあの日のままに。
「うわぁぁぁっ!!」
もはやこれが現実でも幻でもいい。
シロは感極まり横島の胸へ飛び込み嗚咽を漏らす。
そんな愛弟子に横島はそっと優しい笑みを浮かべ、抱きしめた。
『辛い・・・辛い戦いをしてきたんだよな・・・』
「う・・・ん・・・うん・・・」
シロは何も言わず返事をしながら頷く。
いざ会って何を話せばいいのか分からなかった。
「これからは先生達とずっと一緒にいるでござる!」
『ああ・・・みんな一緒だ・・・』
横島の優しい言葉に一瞬だけ目を大きく開けると・・・
・・・静かに目をつむり師を強く強く抱きしめた。
愛しい笑みを浮べながら。
・
・
・
ザ・・・ザ・・・
華に覆われる崖・・・シロの友人達が眠る丘を歩むものがいた。
それは二人・・・いや、正確には一人と一体。
「生命反応・ありません」
「そうか・・・こやつも逝ったか・・・」
『横島忠夫』と掘られた石に寄り添いながら笑顔を浮べ目を開けないシロ。
彼女を悲しみの眼で見つめる老人・・・カオス。そして、マリア。
「マリア・・・・こやつの墓を用意するぞ」
「イエス・・・デモ・時間・下さい」
「時間を?」
「ハイ・今は・胸が・苦しいです」
そう言ってギュっと胸を押さえ俯くマリアにカオスは優しい笑みで頷いた。
そしておもむろに何か紙切れを取り出す。
「マリア・・・」
「ハイ」
「ここには遺伝子異常を克服する技術とその使用法が書かれておる・・・
今の人類にこれを読む価値があると思うか?」
マリアは少し考えると静かに言った。
「・・・・・・・・・・分かりません」
「そうか・・・」
カオスはその答えに満足そうな笑みを浮かべる。
「人類の黄昏か否か・・・・こやつなら教えてくれるとおもたんじゃがな・・・」
カオスはそっとしゃがみもはや動くことはない人狼の女性の頬をそっと撫で血を拭き取った。
そして、そっとその手を見つめる。
彼女が流した血・・・それは誰のためだったのかカオスは知らない。
ギュっと握り締めたその手は・・・
───夕日と血に紅く照らされるのだった。
fin
今までの
コメント:
- このお話実は元ネタというか、元SSっていうのがあります^^;
救いようの無いダークSS・・・
多分気を悪くした方がいると思います。
もしかしたらGTYの空気にあわんかったかも知れません。
遅いかもしれませんが謝ります、ごめんなさいm(__)m (ユタ)
- ダークSSってけっこう好きです(爆)
それはさておき、後半のカオスとマリアのシーンが、よいと思いました。たぶんこれがなかったら、GTYの空気にあわなかったんじゃないかしら。 (アフロマシーン改)
- GSである限りこういう展開もあってもおかしくないですよね。
私も最後のカオスとマリアのシーンは好きでしたし、一人で取り残されたシロの最後の瞬間と言うのもこちらに映像が伝わってくるような、そんな風に書かれていて良いと思いました。
シロの回想シーン(走馬灯)も雰囲気を出していました。
ダークな展開ですが、感動したので賛成です。 (K.H. Fan)
- シロがっ!? シロがぁーっ!?(絶叫)
ユタさんの悪魔! 鬼畜!! 外道!!! 性犯罪者!!!!
駅のホームに立つ時ゃ柱の影にしておけや、虎羅ァ!!!
……と、シロニストとしての怒りはここまでにして。
人類の醜さと弱さを描いた、見事なダークSSです。
まさに絶望の具現された世界。
カオスの治療法が効を奏したとしても、人類に明るい明日は決して無いでしょう。
シロの走馬灯から見て、神界からも最高指導者からも、とっくに縁を切られていそうですしね。
――さて。
俺は宴の準備がありますので、この辺で。
膝を潰せ、逃がさないために。肘を潰せ、抵抗を許すな。目を潰せ、闇の恐怖を教えてやろう。けれど喉だけは潰すな。苦鳴は虐げられた世界への供物だからだ。願わくは今宵、生贄の絶叫が我が心を潤わさん事を。さあ、パーティーの始まりだ!! (黒犬)
- ↑↑↑いったい何が始まるのでしょーか?
ふう。
正直、「まったく救いのない話」というのは苦手でして。しかし、すでに皆さんが指摘されている、後半のシロの走馬灯、カオス・マリアのシーン描写の見事さに賛成票を入れたいと思います。投稿お疲れ様でした。 (Kita.Q)
- 救いのない物語と、その水先案内人として登場した人狼の少女の終焉が、なんとも切なく響きました。
彼女を看取った不死の2人が手向けた思いは、決して人類には向けられることがないのかもしれません。
投稿お疲れ様でした。
(矢塚)
- ひとこと。とっても悲しいッス(T_T)
でも最後まで引き付けられるように、ぐいぐい読ませられました。 (湖畔のスナフキン)
- シロニスト心も含めて反対です(笑)
救いのないお話として、絶望や無力感。何かが永遠に途切れてしまう・・そんな気持ちを感じさせるお話としては、物凄い破壊力を持っていました。
でもやっぱりこんな事になる前にきっと何とかできるはずだ、という気持ちが強いです。
願望でもありますが、シロやタマモやピート、他の妖怪・・・人外の者達と人間の関係を見ていると、きっと違う道へ進む事ができるのだろうと思います。
とりあえずこのお話を感情抜きにして受け入れて読むと・・・・・・・・・・゚・(ノД`)・゚・
人間が助かるにしても助からないにしても、そこに贖罪の気持ちが・・せめて罪悪感が生まれる事を。人間が皆シロ達を排除しようとした訳ではない事を祈ります。
それじゃ私も宴の準備に加わりに行きますので、この辺で。 (志狗)
- さすがユタさん。どんなジャンルでもきっちりステキな小説を・・(笑
自分もダークSSは好きな方ですよ〜(いつも変な話ばかり書いてますが(笑))
カオスの最後の言葉が悲しいですね。
マリアの言葉もせつないです〜(泣)
投稿お疲れ様でした〜。とっても感動しました〜 (かぜあめ)
- シロニストとしての心と、お話の凄さとで差し引き中立表とさせてもらいますm(_ _)m
・・・それにしても、人間って醜いですねえ・・・自分たち・・・人間以外の者を原因だと断定して、自分勝手な理由で滅ぼそうとして・・・目の前で子どもを助けているのを見ても、殺そうとする・・・こんな救いようのない人間たち・・・こんな人間たちを相手にしても・・・ひょっとしたら・・・シロならカオスの問いに・・・まだ黄昏の時じゃないと言ってくれるんじゃないか・・・そう思ってしまいます・・・
そして、せめて・・・死んでいったシロたちが、今度はこんな事のない世界で幸せに暮らせるように祈ります・・・
さて、それでは俺も宴の準備に・・・ (ゲン)
- 悲しいです!悲しすぎまッス!!
読んでいるうち・・こう・・・目頭が熱くね・・・ホロリと・・・・・・・・ね。
特に、横島とシロの邂逅は、凄まじいものがありました。
シロは、きっとみんなに会えたんでしょうね。
さて・・・・・宴の席はこっち・・・・かな? (まさのりん)
- いや、滅茶苦茶上手いなぁ・・・と。
でも、やっぱり、悲しいなぁ、と。
幸せか否か、考えるのはいささかに酷ですが。
彼女は幸せな中で逝った、そう信じて。
中立票・・・。
たとえ幻でも、覚めないのなら。
幸せ。
そう、思ったりします。思わなかったりもします。 (veld)
- はじめまして。たぶん感想ばかりになってしまう・・・・うぅ、
と自己紹介(?)はこの辺にして。
やっぱり僕もマリアとカオスに一票!!
かなりダークですが、こういうのも感動です!と思いました。
ではでは (現在流浪中)
- 私の変な主張その三。
『ダークなだけのダークはつまらんっ!』
つまりこれにはダークなだけでなくて、何かしら訴えるものがあるなあとね。
面白い(ある意味病んだ感覚かもしれないけど)賛成なのさっ!
カオスも格好良いしね。(笑) (紫)
- あとがき
親愛なるシロニストの皆さんと読者様へ
この作品は決してシロニストの皆さんにケンカ売ったり、ヘコませようと思って書いたわけではありません^^;
ええ、決して、
「veldさんのシロ甘SSに悶えてるシロニスト共を駆逐したる」
なんて思ってませんYO(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル
と、まあ冗談は置いといて。
今回はとにかく暗く行こうと、救いなんて一切ない、夢オチとか実は映画撮影とかそんなオチはいらない!
もう黒く、暗く・・・元ネタSSより泣けるように・・・ということを目標にしました。 (ユタ)
- シロの死に目にカオスとマリアが間に合わなかったというのはちと考えがありまして、
ゲンさんも言ってたんですがシロって優しいからどんな仕打ちしても、人を許しそうですよね?
だから死ぬ寸前でシロがカオスに会ったらカオスの問いに、
「人類を救って欲しい」という言葉を言いそうじゃないですか?(いやきっと言う)
もし、それを言っちゃったら希望が残ってしまうわけで・・・今回の目標からズレてしまうわけで・・・
今後カオスはどうすればいいのか迷っていく・・・まあダークとまで言わなくても、灰色EDに仕上げたかったんです♪
今回こんな展開に賛成してくれた皆さん、泣いて反対票を入れてくれた志狗さん(名指し)
悩んで中立票にした皆さん・・・本当にありがとうござました、ごめんなさいm(__)m (ユタ)
- 追伸 投稿した直後に某シロニスト達から恐怖の復讐(ツッコミ)を喰らったのはここだけの話(ノД`) (ユタ)
- コメント自主規制中ですがお話があまりに面白かったのでコメントします。
近未来・・・人間はかつてのように再び妖怪に牙を向ける・・・まるで自分達の過ちを忘れてしまったかのように・・・。
シュールと言うか、“いかにも”人間が送りそうな未来だなぁ。人間ってどれだけ月日を経ても馬鹿だけは治らないもんなんだよなぁ。と、改めて実感しました。それで迷惑をかけられるのはいつも動物だったり、自然だったり・・・。
と、ところで疑問点が一つ。
2090年と言うと90年経ってるんですよね?となると果たしてドクターカオスはその遺伝子のなんたらかんたら(おい)の治し方を発見する事はできるのだろうか?と思いました(最後の最後で雰囲気ブチ壊してスマンです)。 (ゆうすけ(にゃんまげ))
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